GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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新年あけましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いいたします。

書き直しで投稿になります。楽しんで頂ければ幸いです。


第26話

 アルヌス駐屯地の一角にある、診療施設。

 

「あっ」

「ん?」

 

 診察を終えた伊丹が病室に戻ろうとした時、ばったりと柳田に出会った。

 柳田は殊勝にも見舞いに来た、という訳では無く。

 

 彼自身も、過労で入院しているのだ。

 

 柳田は周りに振り回され続けても頑張り続けて、だけど行きつけの酒場の給仕長(デリラ)が頭を見て「ヤナギダの旦那も生え変わりかい?」と言われて絶望し、更に今回の一件で速やかな燃料や弾薬補給が必要となり、掛る費用に嫌味を言われ、そして上への報告書をせっつかれて如何にかやり遂げて自室に戻った瞬間、気が抜けたのかそのまま崩れ落ちたのだ。

 たまたま通りかかった者が異変に気付いて迅速な救急医療を行ったからいいものの、結構危なかったらしい。

 

「伊丹ィ、丁度良かったなぁ。ちょっと付き合えよぉ」

 

 その黒く濁りきった眼を見て、嫌な予感がした伊丹は直ぐに逃げ出そうとしたのだが、柳田が逃がすまいと伊丹の両肩をがっちりと掴む。

 

「まあ、つきあえよ? なっ?」

 

 と、柳田の黒い笑みをどアップで見せられては、流石の伊丹も引き攣った顔で頷くしかなかった。

 

 

 伊丹は引き摺られるように病院の屋上へと行くと、そのままベンチに腰掛ける。柳田は何も言わず、懐から絹袋とライターを取り出した。

 

「あれ、柳田二尉、煙草変えたんですか?」

「ああ、扶桑国の細巻だ。貰い物だが、疲れを抜くには良いんだ。どっかの誰かの所為で体調悪くなったからな」

 

 何時もの陰気な笑みを浮かべて「一本いるか?」と、伊丹に勧める。

 伊丹は気味が悪そうな顔を浮かべながら受け取った。はっきり言って珍しい。しかも、この男が何の意味も無く貰い物とはいえ、高そうな細巻を進める筈が無いと思っていた。

 

「……へぇ」

 

 早速火を付けてみたが、悪くない。煙草を吸わない伊丹でも旨いと感じる。本当に良い物なんだろう。紫煙をくゆらせると徐々に気分が安らいでいく。

 暫く、二人して煙草を吸っていると、ようやく柳田が話し始めた。大きく紫煙を吐き出す。

 

「ちょっとお前、扶桑国行ってこい。そんで劔冑の製造技術と再生医療技術を手に入れてこい」

 

 やっぱり面倒事だった。

 伊丹は思いっきり嫌そうな声で言い返す。

 

「はあ? どうして俺がです?」

「適任だからだ。お前が一番扶桑国の権力者と仲が良いし、しかも契約までした。まあ、上の連中は、お前の扱いに困っているというのもあるがな」

「厄介払いっすか……」伊丹は嘆息する。「アルヌス(ここ)には本職の外交官だっていますし、その人達に任せた方が良くないですか?」

「既にやってみたよ。どんな条件を出しても取り付く島も無しだ」

「じゃ、無理じゃないですかね?」

「それで諦めればこっちだって苦労しねぇよ。こっちにも込み入った事情があんだよ」

「……分からないね。なんでまた、そんなことを?」

 

 伊丹は「国産の劔冑でも生産する気なのか」と、一瞬考えたが、それは無理だろう。製造技術はあっても人権の問題がある。再生医療技術についてはてんで聞いた事が無いが、恐らくはアニメやゲームなんかに出てくるような奴で間違いないだろう。

 何より、柳田が何故そこまでこだわるのか、よく分からないのだ。伊丹は陰険な性格である柳田は好きでは無いが、その性格はよく知っている。無駄な事はしない筈なのだ。

 

「実際に劔冑を使用してみたお前ならわかるんじゃねーか?」

 

 柳田はすっかり短くなった細巻を捨てて潰し、新しい細巻を取り出す。

 伊丹から返答はない。理由がいまいち思いつかないようだ。

 柳田は口に銜え、ライターで火を点けようとする。カチン、カチン、と音が鳴るだけで中々うまくいかない。

 

「チッ、なんでお前はこういう時には頭が働かねぇんだよ……」

 

 ようやく火がつく。紫煙を吐き出し、頭をガリガリと掻きながら柳田は言った。

 

「良いか? 劔冑ってのは戦車と戦闘機を足した様な存在だ。だが、おかしいと思わないか? 戦車並みの装甲を持つ存在が、人の持つエネルギーだけで、亜音速で自由に飛び回れるんだぞ?

 お偉方は、それを可能にしているエンジンが欲しいんだよ。しかも、扶桑国の飛空船のエンジンだって劔冑の合当理の仕組みを流用しているそうだ。これの製造に人命は必要無く、そして有り得ないほどにエネルギー交換効率が高いって話だ」

 

 現在、先進国で研究されているパワードスーツは、動作を補助するパワーアシスト機器として開発が進められている。人が持てない様な重い荷物を軽々と運び、車両が入れない様な悪路でも重装備で動けるようにしよう。そういった機械だ。

 これの問題点は、載せる動力をどうするか、である。

 今のパワードスーツには圧縮空気、油圧駆動など様々な形態があるが、内臓バッテリーでは稼働時間が短すぎるのだ。かといって、バッテリーを大きく重くすればそれだけ負担は掛かってしまうし、汎用人型決戦兵器の様に紐付きでは行動範囲が狭い。実用化までまだまだ時間が掛かる、そう思われていた。

 

 だが、扶桑国の劔冑はどうか? 戦車並みの装甲を持つ存在が、人の持つエネルギーだけで、亜音速以上で自由に飛び回れるのだ。

 これを可能にするのが、熱量変換型推進器である。仕手から供給された熱量を変換し、増幅、そして圧縮し放出する機構である。

 これが有ればバッテリーの問題で悩まずに済み、今の実験レベルでしかないパワードスーツを実用レベルにまで高める事ができる、そう考えたのだ。

 

 もし日本でパワードスーツが生産されれば兵の損耗を防げるし、重機が入れない様な場所での災害救助だってこなせるようになるだろう。

 もし、この技術が応用できれば現在開発中の戦闘機のエンジンの改良に繋がるかもしれないし、ロスの多い電力発電の効率も大幅に上げられる。自動車の燃費がホンダのカブ以上の燃費になるかもしれない。

 派生した技術で大儲けも出来る。世界に技術国家という姿を見せつけられる。

 

 今後の状況を変えるかもしれない、正に夢の様な技術なのだ。

 

「はぁー、成程ねぇ」伊丹は言った。「だけど柳田二尉、そうすると各国が黙っていないんじゃないの?」

 

 それこそ、中国はいつもの報道官のオバハンが会見して「特地で手に入れたものは全て各国にあまねく提供するべきだ」と嫌味たっぷりに言ったり、ロシアは通常弾頭のICBMを撃ちこむ準備でもしているんじゃないかと伊丹は答えた。

 

「なんだ、遂にニュースを見る様になったのか? その通りになったよ。ICBMはまだ準備されてないようだがな」

 

 中東でドンパチやっていて忙しい世界の警察を名乗るアメリカ。ロシアからの圧力を減らしたいがいまいち纏まりの無いEU。強硬な資源外交を行い、影響力の低下を恐れるロシア。そして、遅れてきた覇権主義を掲げる中国。他にはインド、南米各国など経済発展の著しい諸外国。

 

 これらの国は今の政権が頑張っている所為か、表から特地問題には中々首が突っ込めない。

 となると、裏しかない。

 使節団が日本に滞在していた時は大人しかった各国は再び動き始めたのだ。

 

 米国や中国は相変わらず傲慢でド派手に動いていた。まるで競い合うように自分の影響下にある者達を動かしたり、汚職政治家や官僚を恫喝して好き勝手にやっているのだ。脅された面々は要求をこなせなければ身の破滅なので、主義主張関係無く徒党を組んで他国の為に仕事している訳である。

 

 EUの活動はまだ情報集めが中心で、美味しい所だけに現れて貰う気なんだろう。ただ加盟国が独自に動いていていまいち纏まりが欠けており、足の引っ張り合い(主にイギリス・フランス・ドイツ)も起きていた。

 

 ロシアは逆にその技術を手に入れさせまいと米国と中国、特にEUの妨害を行っている。資源外交の影響力を失いたくないのだ。ただ大国とはいえ、一国では手が回らないのだろう。表面上は日本に強硬姿勢を見せているものの、裏では手に入れた情報を日本側に横流ししたりするなど一時的な協力関係にあるという。

 

 要するに、日本の裏側はみんな好き勝手やっているお陰でしっちゃかめっちゃか、カオスな状況になっているのだ。

 

「うへぇ……」

 

 聞かされた伊丹はドン引きしていた。休日、日本に戻った際に嘉納から中は掃除しても綺麗にならない埃まみれで、外は五月蠅すぎると現状を愚痴交じりに言っていたが、そこまで酷いとは思わなかったのだ。

 

「まあ、これが政治ってもんなんだろうよ。それに政治するには金がかかるからな。綺麗な政治家や官僚なんて居ねーよ」

 

 柳田は続けて言った。

 

「ただ、扶桑国もこれを問題視しているようでな。こっちに協力を申し入れて来たよ。そんで、厩衆とかいう忍者部隊がおいた(・・・)が過ぎる連中を相手にしている。お陰で公安が随分と喜んでいるよ。

 ……後でどれくらい請求されるのかが怖ぇーけどな」

 

 ため息交じりに柳田は言った。

 表向き居ない事になっている為、機密を守るべく後で協力の対価を協議するのはアルヌスにいる裏方だ。つまり、柳田にも仕事が回って来る。

 

 しかし、赴任した外交官の中には楽観的な意見が多い。「北風と太陽」に例えて「今まで日本の周りには北風しかいなかったが、ようやく太陽(扶桑国)が現れた」なんて事を言う者もいる。

 が、いくら扶桑国がお人好しな者が多いからって今回の協力の対価が安いとは柳田は全く考えていない。それに、今までだって裏方の支援や研究素材の提供など、随分と善意の協力を受けている。 

 確かに、今まで日本は東西南北と北風どころかブリザードしかしない連中に囲まれていたから太陽が嬉しいとはいえ、腑抜けすぎだと思っていた。

 

 タダより怖いものはない。国が何の理由も無く善意を示すとこは信用できない。柳田はそう信じていた。

 外交官が自分でその代償を払うだけなら良いが、自分も巻き込まれて評価を下げかねないのだ。上昇志向の柳田にとって、それは避けたい事だった。

 

「……ともかくだ、事情は分かっただろう? 大人しく行って来い」

「それだけ拒否してるって事は無理でしょ。俺にスパイなんて出来ませんよ」

 

 それでもなお、嫌そうな顔を浮かべる伊丹。

 だが、柳田には秘策があった。

 

「最悪、合当理の詳しい製法だけで良い。暇になったら高級温泉旅館でごろ寝してても同人誌を読み漁ってても構わん。これでも嫌なら、特地の資源状況調査隊の隊長になってドサ回りだ」

「命令なら仕方ないですね、二尉」

 

 伊丹は直ぐに態度を改め、「是非、扶桑国に行かせてください」とまで言い始めた。

 ぐーたら出来る温泉か、ドサ回りのどっちが良いかなんて決まっている。

 

 資源状況調査隊とは、特地にどの様な地下資源があるか調べる部隊である。扶桑国から提供された分布図があるとはいえ細かい所は実際に現地で調査しなければならないし、レアメタルやレアアースなどは書かれていなかったのだ。

 そこで幹部自衛官を1人、扶桑国兵と現地の傭兵などを雇って4,5人からなる調査隊を創り、各地へ派遣しているのだ。

 ただ、<帝国>内のみが限界だった。諸外国は未だごたついており、特に地下資源が豊富にあるとされるエルベ藩王国での調査は難しかったのだ。

 しかし、状況が変わる。

 竜種の襲撃の際に傭兵らを纏め、指揮を執った老人がなんとエルベ藩王国王デュランだったのだ。エルベ藩王国に雇われていた傭兵からの聞き取りや、アルヌスに研修に来ている薔薇騎士団のメンバーの中に実際に会った事がある者が居たのだ。間違いなく本人だという。

 そして自衛隊はデュランと交渉し、王太子に奪われた国の実権を取り戻すのに協力する代わりに、貨幣に使う貴金属以外の地下資源の採掘権と免税特権をもぎ取ったのだ。

 そこで追加で調査隊が必要になっている、という訳だ。

 

「ああ、頼むよ」

 

 にやぁ、と実に良い笑顔で柳田は告げた。

 

「あと行くときは政府の外交団も一緒だから、頑張ってくれ」

「…………へっ?」

 

 もしかして、嵌められた?

 

「これはオフレコだ。実はな、先日扶桑国の帝から直筆の親書が政府に届いていてな、ぜひ訪問してほしいと書かれていたそうだ。ここまでされちゃあ、政府としても使節団を出さなきゃいかん。その時に武官として自衛官を派遣したいんだが、いや、龍神様と仲が良くて守人さんと契約したお前が行ってくれるなら安心だな」

 

 扶桑国訪問は、扶桑国使節団が日本に滞在していた頃から話し合われていたのだ。今まで外交官や自衛官が飛空船に乗って扶桑国へ行っていたのは、この為である。

 先日、扶桑国もようやく受け入れ態勢が整ったため、親書が届けられたのである。

 

「……えーと、拒否権は」

 

 いくら温泉旅館があっても、そんなもんに付き合っていたら暇な時間なぞ無い。朝から晩まで腹黒いおっさん共と視察やら接待やらで連れ回されるに決まっているのだ。

 

「な・い」

 

 答えは柳田のとびっきりの笑顔だった。

 伊丹は気分が悪くなった。

 

 柳田は短くなった細巻を投げ捨ててちらり、と時間を確認する。もう診察の時間になっていた。

 

「じゃあ、準備だけはしておけよ。あと数日で出発になるからな。それと、彼女らにも声を掛けておけよ」

 

 まあ、俺が言わんでも勝手について行くんだろうけどな、と柳田は小さく呟いて屋上を後にした。

 


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