GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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まさかの更新。
いやあ、感想の多さにびっくり。また誤字報告をしてくれる方、いつも有難うございます。
おかげさまでかなり助かっています。

では三十話です。楽しんで頂ければ幸いです。


第三章 扶桑編
第30話


 

 あの本位総理の会見から二週間後。

 ようやく日本国使節団が扶桑国へと行く日がやって来た。

 

 その出発式は盛大なものだった。日本の銀座の<門>前で行われたが、そこには報道関係者が流した情報を元に多くの民衆が詰めかけたのだ。この式に特に人気の高い守人や太郎、はたまたロゥリィら三人娘も出るんじゃないかと予想が出ていたが、どちらも収拾がつかなくなるからと出席はしなかった。

 

 それでも扶桑国使節団が来た時のような多くの人で溢れかえり、多くの出席者達は慣れない状況に辟易しつつも式を執り行った。

 そして、本位首相ら閣僚に民衆からの歓声に見送られ、日本国使節団は特地入りしたのだった。

 

 

 アルヌスの街東部 飛空船発着場

 

 嘉納外務大臣を団長とする日本国使節団は既に特地入りし、発着場の待合室で待機していた。待合室にスーツを着た役人や使節団員や野戦服姿の自衛隊員が忙しく待合室を出入りし、第三偵察隊の面々が鋭い視線を周りに放っている。

 

 扶桑国に行くのは嘉納ら政府関係者二十名ほどに伊丹ら幹部自衛官数名が護衛としてついていく事になる。

 

 伊丹は第三偵察隊の任務があったが、日本・扶桑国側の希望もあって一旦隊長職を解かれ、今回の扶桑国行きに同行する事になった。

 またこの人数になったのは既に外務省の官僚や自衛官などが現地入りしているのと、飛空船で移動しなければならないため、これ以上の人を乗せる余裕が無かったのだ。

 

「しかし、こうやって見ると思ったよりでけぇな」

 

 ゆったりと椅子に座る嘉納の目の前には、扶桑国が誇る高速飛空船<伊吹>が係留されていた。

 全長は海上自衛隊の護衛艦より二回りも小さいものの、木造船体に気嚢部とプロペラがくっ付いた姿は嘉納からすれば奇妙で、これが本当に飛ぶのかと思う。

 

 護衛兼話し相手にと傍にいた伊丹は苦笑しながら答えた。

 

「まあ、特地はファンタジーですし。造ったのはあの(・・)扶桑国ですし」

 

 大抵これで説明がつく。ついてしまうのだ。

 

「……それで納得しちまうのがなぁ」

 

 夢の空飛ぶパワードスーツである劒冑。高馬力高効率低燃費の三つが揃った熱量変換型推進器。貼るだけで防音防諜が可能な魔法の御札。怪我の治癒を促進する回復薬。………、エトセトラ。

 今までに見てきたこれらを思い出せば、船が空を飛ぶことなんておかしい事ではないだろう。

 

「私からすればどっちもどっちよぉ」

 

 出されたジュースを飲みながらロゥリィは言った。レレイとテュカも菓子を食べながらうんうんと頷く。

 特地の面々から見れば「いや、日本も色々とおかしいから」と言われているのだ。そして日本と扶桑国は源流は同じと聞いて「ああ、だからか」「同類なんだ」と納得するのが今のアルヌス住民の一般的な考えであった。

 

ここ(・・)と全く常識が違うものぉ。驚きすぎて疲れちゃったわぁ」

「やっぱり、ついてくるの?」伊丹が言った。

「勿論、ついていくわぁ。だってわたしぃ、一度も扶桑国に行ったことないものぉ」

「あれ、行ったことなかったの?」

 

 意外そうな表情で伊丹は言った。

 

「船は危険だから出てないしぃ、行きたいと思っても行ける国じゃないものぉ」

「ああ、そっか。レレイは? 確か導師だっけ、試験を受けるって言ってなかった?」

「確かに導師号は欲しいが、別に来年でも構わない」

 

 レレイには導師号を一度で受かる自信があった。レレイが開発した爆轟魔法を見た師匠のカトーや太郎からも太鼓判を押されており、先の竜種の襲撃騒ぎでその凄まじい威力を発揮している。

 来年も受けられる導師号よりも恐らく今回限りの、伝説とまで言われる扶桑国へ行く方の好奇心が強かったのだ。

 

「私は、二人が行くなら行ってみたいし、それに、その……」

 

 顔を赤らめ、チラチラと伊丹の顔を見やる。病院での好みはテュカと聞かされ、なんやかんやで伊丹の事が少し気になるようになったらしい。

 

「(これが、ハーレム野郎という奴か……)」

 

 察した嘉納は内心呟いた。そして周りの男どもが少しばかり嫉妬と羨望の入り混じった目で伊丹を見ていることに気づく。

 

「(こいつそのうち刺されんじゃねぇか?)まあ、ウチとしちゃぁ今まで散々世話になってるしよ。あちらも女性用に一室空けるってぇ言ったから大丈夫だろ」

 

 そうすると、一人の政府関係者がやって来た。準備が整ったようだ。

 

「じゃ、行くとするかね」

 

 嘉納は椅子から立ち上がると、秘書が持ってきたお気に入りの帽子とロングコートを羽織り、他の使節団員と護衛を引き連れて歩き出した。

 伊丹も動き出す。

 

「隊長、お気をつけて」と富田。

「いいなータイチョーは。扶桑国にバカンスなんて」と栗林。

「俺もついていきたかったっス」と倉田。

「隊長、お土産楽しみにしてるっす」と勝本。

「あ、俺には扶桑国の風景写真を」と笹川。

「何か珍しい調味料や食材があればお願いします」と古田。

 

「いや、仕事だからね。それともう隊長じゃないからね」

 

 伊丹は苦笑交じりに言った。そして最後はそれっぽくしようと、ピンと背筋を伸ばす。

 隊員たちも居住まいを正す。

 

「前にも言ったが、これから<帝国>との交渉も本格化し、任務の重要度も増していく。偵察隊本来の仕事じゃないが、最善を尽くしてくれ。あ、ヤバくなったら逃げろよ。――以上」

 

 お互いに敬礼。

  

「すみません、おやっさん。あいつらを頼みます」

「任せておいてください」

 

 伊丹と桑原はがっちりと握手した。そして伊丹は、待っているロゥリィ・レレイ・テュカの三人と共に飛空船へと歩き出した。

 

 

「よう伊丹、お疲れさん」

 

 最後尾を歩く伊丹たちの下へ、柳田がやって来た。先程まで扶桑国に持っていく荷物の確認をしていたのだが、それが丁度終わったらしい。

 

「ほら、やるよ」

 

 言うや、柳田はジャラジャラと重そうな絹袋を投げ渡した。中身は扶桑国の大量の金貨に銀貨だった。

 

「扶桑国から購入した貨幣の一部だ。活動資金として好きに使え」

「良いんですか?」 

「活動資金と言ったろ? それで何か有用なものがあればお前の裁量で好きに買え。どんどん買って来い。あとは前に言ったことは忘れてないよな?」

「忘れてませんよ。ただ、あんまり期待しないでくださいよ。国と交渉するのは俺じゃなくて大臣なんですから」

 

 そこで柳田は嫌な笑みを浮かべた。

 

「だからって私的流用はするなよ? 具体的には誰かに贈り物を買ったりとか、しけこむのに使ったりな」 

「いや、するわけ無いでしょうが」

 

 伊丹は呆れた表情で答えると、柳田はどうだか、と鼻を鳴らした。

 

「ま、そこら辺は帰ってきたら内容を精査するさ。ああ、領収書はちゃんと貰って来いよ?」

 

 扶桑国に領収書あるのか、と伊丹は思いつつ、重たい絹袋を懐に入れた。

 

 

 日本国使節団は自衛隊員や扶桑国の兵、またアルヌスの住民ら大勢の人々に見送られ、飛空船のタラップを登っていく。

 甲板には扶桑国の黒い軍礼装と白手袋に身を包んだ乗組員がずらりと二列に並んでいた。

 

「日本国使節団に、敬礼!」

 

 号笛と共に整列した兵が一糸乱れぬ動きで敬礼する。ただ義務でやっているのではなく、その表情には明らかな敬意がありありと浮かんでいた。

 自衛隊広報班が撮影している中、伊丹は敬礼を返しつつ、ちらりと周りを見やった。

 

 甲板は段差の無い全通平甲板で、艶やかな飴色の板が張られていた。中央には鉄管やらガラスを張った箱のようなものが備え付けられており、天窓後部には掘っ立て小屋のような露天艦橋があった。

 

 舷縁には対物ライフルに似た、鈍色の長大な鉄砲が備え付けられてあり、上の気嚢部に伸びる大綱には扶桑国の国旗が掲げられていた。片隅で、信号係が信号掲揚索を威勢よく手繰っていた。黒い球が滑車にたどり着くと、ぐっ、と手を捻る。

 黒い球がパカッと割れ、中から白地に赤い日の丸、日本国旗が現れた。

 

 同時に、船首の方からダーンと砲声と白煙が上がった。歓迎の礼砲だ。それが19回。国賓待遇だった。

 礼砲が終わり、列の奥から現れた船長は豊かな白い髭を持つ、老年の軍人であった。背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで嘉納に近づき、敬礼を行った。

 

「ようこそ、飛空船[伊吹]へ。本船の船長を務める沖田と申します」

「初めまして、沖田船長」

 

 嘉納は得意の満面の笑みを見せ、軽く首を縦に振り、会釈で応じる。

 沖田も嘉納の笑みにつられたのか、ニコリと笑い、そしてお互いに固く握手を結ぶ。

 

 ピーピーと号笛が吹きながされ、式が終わった事を知らせた。整列していた乗組員が整然と動き始め、それぞれの持ち場に戻っていく。

 

「嘉納大臣閣下、差し支えなければ、ただちに出港したいと思います」

 

 秘書に積み込みが完了した事を確認し、嘉納は頷く。そして乗組員の一人が船内へ案内しようとするが、嘉納は小さく手を振って制した。

 

「よろしければ、このまま甲板で離陸する瞬間を見ても構いませんかな?」

「構いませんとも。ただ離陸時は揺れますゆえ、舷縁からあまり身を乗り出さないようお願いします」

 

 柔らかい笑みを浮かべた沖田はそのまま露天艦橋の上に立ち、矢継ぎ早に指揮を飛ばす。

 

「気嚢部、気体注入完了」

「機関部、準備完了!」

「もやい外せ!」

「船長、出港準備が整いました」

「よろしい」

 

 沖田は大音声で命じた。

 

「機関始動ッ! 錨上げ!」

 

 両舷の機関が唸り声を上げ、プロペラが勢いよく回転を始める。同時にギャリギャリと鎖が巻かれ、錨が船内に収納される。

 同時に、アルヌスの自衛隊有志による音楽隊が楽器を構えた。「宇宙戦艦ヤマト」の演奏が始まった。

 船首が上向き、ゆっくりと空に飛び始める。

  

「進路98、速力40!」

 

 グン、と一気に速力と高度が増す。地上の人々も、アルヌスの街もどんどん小さくなっていく。

 伊丹たちは地上がはっきりと見えなくなるまで見続けた。

 そして地上に残った人々もまた、飛空船が見えなくなるまで空を見上げていた。

 

 

「こりゃ凄い。飛行機で見るのとはまた違うな」

 

 使節団員は舷縁にひっつくように、下に流れる光景を眺めていた。すると、アルヌスから猛烈な勢いで三つの飛行物体がやって来た。

 一つは白く輝く鬣を揺らす巨大な天龍、太郎だった。飛空船に近づくと一旦速度を緩め、使節団員にニコリと笑って『良き船旅を』と手を振る。そして一気に速度を上げ、先行するために針路先へと飛んでいった。

 

 残りの二つは、轟音をまき散らす航空自衛隊の戦闘機。F4EJ改だった。飛空船にすれ違う際に敬礼。沖田船長らも答礼する。二機のF4EJ改はそのまま直進し、見せるように編隊を維持したまま様々な戦闘機動を行う。

 

「これは、見事なものですなぁ」思わず魅入っていた沖田が呟く。「信号係。あの戦闘機に[見送リ感謝スル]と打て」

「了解」

 

 自衛隊から教わった発光信号を送る。それが届いたのかどうかは分からないが、二機の戦闘機は大きく旋回し、ひと際大きな爆音を立てて基地へと戻っていった。

 

 

「そろそろ冷えますゆえ、中に入るようお願いします」

 

 流石に肌寒くなってくると、案内係が告げた。どうも小人種らしく、見た目は少年のようで若々しかった。前部甲板の取っ手のある蓋を動かすと、階段が現れた。

 一人ずつゆっくりと階段を降りていく。

 

 飛空船の中は、意外にも広かった。階段を降りてすぐは広間になっており、中央には太い支柱が等間隔に立ち並んでいた。床には花柄の深紅の絨毯が敷かれており、椅子と白いテーブルクロスのかかる机が並んでいる。甲板にあったガラスの箱は天窓のようだ。そこから陽光が差し込んでおり、壁掛けの照明もあって室内は十分に明るかった。

 

「……ホテルだな、こりゃ」嘉納が感嘆した様子で呟く。

「この<伊吹>は要人用の高速船じゃからな。武装は最低限しかないが、代わりに長期滞在も可能なようになっておる」

 

 ひょっこりと、奥から守人が現れた。傍には剣歯虎の不破が寄り添っていた。

 式典中に顔を出していると両方から気を遣われ、主役である日本使節団の印象も薄くなってしまうので中に篭っていたのだ。

 

 嘉納が笑みを浮かべて守人と握手し、軽く会話を楽しむ。

 そして守人がちらりと案内係を見ると小さく頷き、「では、今から本船について説明します」と言った。

 

「本船は上甲板・中甲板・船倉の三層に分かれています。

 

 上甲板は先程式典を行った場所です。船長の許可さえ出れば、昼間は自由に往来しても構いません。ただ、飛行中は寒いですので貸し出される防寒着を着用し、また落ちないよう気を付けてください。

 

 中甲板が主要な居住空間となっており、広間に食堂、調理室、浴室とトイレ、客室と乗組員の部屋になっています。

 食堂と浴室は日に三回、決まった時間にあるので遅れないようお願いします。

 また広間にある書物は好きに読んでもらって構いません。また茶や果汁飲料に菓子、酒やつまみなども用意できます。

 

 船倉は水や食料、武器弾薬、燃料の貯蔵庫となっていますので、勝手に立ち入らないようお願いします」

 

「風呂もあるんですか、ここ」伊丹が尋ねる。

「はい。ですが日本国のものと違い、防水布を張った大桶に沸かした湯を入れただけになります」

 

 申し訳なさそうな顔で案内係は答えた。それでも何人かは毎日風呂に入れることにほっとした表情を浮かべていた。

 

 流石に豪華客船や現代の軍艦と同レベルとまでいかないが、この世界では劣悪な環境の代名詞とも言える帆船やガレー船が主流の中、船の中でもホテルと殆ど変わらない待遇を受けられるのだ。

 これがどんなに凄い事なのか、分かっているのは極僅かであった。

 

 一通りの説明が終わると、それぞれの部屋に案内された。

 

 本来、船で個室を与えられるのは船長ただ一人であり、<伊吹>は客室を増やしているとはいえ、使節団員全員に個室を与えるのは無理だった。

 しかし、慣れない者が狭い船の中でプライバシーの欠片も無い所には居られない。また飛行中に体調を崩す可能性を減らすために兵や乗組員が雑魚寝する大部屋に間仕切りを入れ、扉を付けて小さいながらも個室を造ったのだ。

 

 伊丹が入った部屋もその一つだった。

 船尾側にある個室は狭く、絨毯の上に収納棚付きベッドに小さな机と椅子があるだけだった。外板側には小さな丸い窓と日本で買ったらしい電池式照明が。間仕切りには精緻な模様が描かれており、扶桑国様式の装飾がかけられている。

 程々にこじんまりとしており、伊丹にしてみれば居心地が良さそうな部屋だった。

 

 伊丹はベッドに荷物を下ろし、腰をおろすとずっと張り詰めていた気が溜息と一緒に出ていく感じがした。

 思っていたよりも疲れているらしい。それも仕方ないか、と思った。

 あのドラゴン襲撃事件以来、扶桑国側の様子が変わったのだ。自衛官らは妙に敬意を払われるようになったのだ。

 

 扶桑国の武人は共通して高潔で自尊心が高い。一方で「勝てば正義」という現実主義者の考えを持っている。

 つまり、腰は低いがモラルが高く、また新生龍と尋常では無い数の竜種を討伐できるだけの力を持った自衛隊は敬意を払うのに十分な存在だったのだ。

 今までも文章や絵で自衛隊の凄さを知ってはいたが、実際に生でその姿を目で見るのとは違うのだろう。

 

 戦車や自走砲、対空機関砲やらLAMがあったから、と答える者もいるが、扶桑国からすればこれを開発し運用できるのも「力」であり、謙遜にしか思えなかったのだ。これがまた「力をむやみに誇示しない」と、敬意を払う理由にもなっていた。

 

 特に伊丹は亜神ロゥリィの眷属になり、守人と契約し、武者になった。有名人二人に気に入られる自衛官、という注目を集める存在になってしまったのだ。

 ただ伊丹自身は万事が怠け者というか、普通に生活する人である。そのため一般の自衛官として接してください、と言えば大体は頷き、止めてくれるが、それでも畏まられる時もあるので少し気疲れしてしまったのだ。

 

 どうすっかねー、と思案する。

 これから扶桑国に着くまで殆どする事は無い。このまま暫く漫画でも見てようかな、と早速ベッドに寝そべって読み始めると、ノック音が響く。

 

「どちらさん?」

「儂だ。ちょいと構わんか?」

 

 身体を起こし扉を開ける。部屋に入ってきた守人は一人だった。心なしか、いつもより硬い表情であった。

 

「すまんの、休憩中だったか」

「ああいえ、どうぞお構いなく」

 

 伊丹は椅子を勧め、自分はベッドに腰かけた。

 

「なにかあったんですか?」伊丹が言った。

「まあ、ちょいと話をと思ってな」

「場所を移した方が?」

「いや、間仕切りには防音対策をしてある。会話する程度なら外には響かんよ」

 

 どうりで周りから音が殆ど聞こえないと思った、と伊丹は関心した。

 

「恨まんのか? おんしは」守人が言った。

「何をです?」

「武者になったことだ。はっきり言えば、おんしはこれから面倒事に巻き込まれるぞ」

 

 言われて、「あー、そういえば武者になったんでしたっけ」と告げた。確かに注目を集めるようになったが、今までと余り生活が変わなかったのですっかり忘れてたのだ。

 

「……おんしらしいの。で、どうなんだ?」

 

 呆れた表情で守人が言うと、伊丹はポリポリと頭を掻きながら答えた。

 

「んー、どうなんでしょうねぇ。あの時はロゥリィと逃げられて助かりましたし。ただ、あんなおっかない経験はしたくありませんね」

 

 それこそ大量の竜種と戦うのも、空を飛ぶのも御免である。

 だらだらとしながら給料を貰って、漫画や小説、同人誌を読んで遊んで楽しく生きていければ良いのだ。

 

「つまり、だ」守人が言った。「武者になったことはどうでも良いと?」

「思うところは無い、って言えば嘘ですけどね。まあ、なっちゃったもんはしょうがないですし、いま先の事を考えても疲れるだけです。それよりも、この船にいる間ぐらいのんびりとしていたいですし」

「……儂はこれでも武者が羨む名甲だというのにのぉ」

 

 自信無くすわ、と守人は言った。ただ顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「御堂はもう少し真面目にした方が良いな」

 

 まあ、今のままの方が良いのだと答える者もいるのだが。ギャップ萌えという奴だろう。暫くの間、ロゥリィが伊丹に庇われた時の事を思い出し、いきなりニヤけるので気味悪がられていた。

 

「んー、真面目にねぇ」それなら、という感じで伊丹は言った。「でしたら、何か技術くれません? 劒冑とか推進器の作り方とか」

「無理」にべもない口調で守人は言った。

「……まあ、御堂なら答えても良いか。劒冑も再生医療も扶桑国の重要機密であるが、アレは技術があっても日本でも間違いなく造れんぞ」

「アルヌスでも無理ですかね?」

「無理じゃの。例え日本が全力で再現しようとしても百年単位は掛かる」

 

 と言う事は、扶桑国でしか取れない、何か特殊なものが必要なんだろうか。

 

「それなら輸入は? ブラックボックス化すれば出来ませんか?」

「ああ、外から見えない様にするわけか。そこら辺は分からんな。帝と閣僚次第じゃの」

 

 ならそっちで交渉進むのかな、と伊丹は漠然と思った。

 いや、本職の役人ならこのぐらい考えているか。それでも「技術が欲しい」と言うのは色々と応用が効き、莫大な特許料が見込めるからだろう。また日本という技術でのし上がった国だからこそ、という自負もあるのかも。事実、扶桑国から送られたもののうち、一部は再現できたという話も聞くし。

 

「ま、なんにせよ。交渉するのは国同士じゃからな」

「そうですねぇ」

 

 邪魔したの、と守人は椅子から立ち上がる。

 

「そうそう、暫くしたら浴室が解放される。それまでゆっくりすると良いよ」

「ええ、ではまた後で」

「またの」

 

 互いに笑みを浮かべて、崩した形で敬礼。

 




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