GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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第6話

 

 自衛隊が拠点を置くアルヌスの丘には、<門>を中心に巨大な稜堡式城郭が築かれていた。

 

 上空から見れば綺麗な六芒星になっており、函館の五稜郭や魔法陣みたいだとか、そんな風に考えるだろう。

 

 当初は鉄条網と塹壕線による防御網だったのを更に前時代の要塞を構築したのは、自衛隊が隊員の安全を重視している為であった。

 

 敵の戦術や装備は想定よりも低く、数に任せて押し寄せてくるだけであり、また防衛の態勢が整った為、自衛隊の持つ火力と射程の長さを最大限に生かす為だ。

 

 また守るべきは本土へと繋がる<門>一点であり、物理的に相手を遮断することで不測の事態を極力減らす狙いがあった。あと壁一つあるだけで敵の軍勢から身を守っている、という安心感があった。

 

 

 この要塞内の一角にある建物。

 

 この日、<特地>方面派遣部隊指揮官の狭間陸将は、幕僚の柳田二尉から帰還した偵察部隊からの一次報告を受けていた。

 

 まだめぼしい情報は余りない。

 尤も、狭間ら派遣部隊の面々は一回だけの調査で得られた情報では確度が低い為、暫くは地道にやっていくしかないと考えていた。

 だが、現場の事なんぞ知らない政府からすれば、早く情報が欲しいとせっついていた。

 

 なので、第三偵察隊がドラゴンに追われる避難民を護送していると聞き、彼らを難民として保護してそこから情報を得ようと考えていたのだが……。

 

「は、入ります……」

 

 狭間の執務室に入って来たのは、檜垣三等陸佐であった。妙に顔色が悪かった。

 

「どうした? 顔色が悪いようだが」

「はい。いえ、その、陸将、そ、外に……」

「なんだ、はっきり言わないか」

 

 歯切れの悪い言葉に狭間が眉を顰めると、数瞬したのち、檜垣は意を決した表情になった。

 

「報告します。伊丹達第三偵察隊が戻って来たのですが、その、この世界の神と名乗る龍がやってきました」

「は?」

「伊丹からの報告によれば、この世界において、風と水を司る龍神だそうです……」

 

 なんだそれは。

 

 この報告を聞いた狭間と柳田は、思わず真顔でお互いに顔を見合わせた。

 

 

    ***

 

 

 報告によれば、第三偵察隊が避難民を護送している際にドラゴンの襲撃を受け、交戦。途中、龍神が現れ、第三偵察隊と共にドラゴンを討伐。そして龍神がこの駐屯地のトップと話がしたいとのことで、ここまでやってきたそうだ。

 

「とりあえず、神がやって来て話がしたいというなら、まず会わなければならんだろ」

 

 そして狭間は、駐屯地外にいる龍神へ会いに行った。

 万が一に備え、傍には小銃を携えた隊員と、駐屯地では火砲がいつでも撃てるよう準備されていた。

 

 駐屯地外には、龍神こと太郎がとぐろを巻いた姿勢で待ち受けていた。

 

 一言、デカい。

 

 龍と言えば翼竜や飛龍しか知らない狭間達は、まさかこういう存在も居るのかと内心驚愕した。

 その脇には小山のような赤いドラゴンの遺骸があった。全身ズタボロになっていたが、それでも見るからに強そうな印象を受ける。

 

(……これが、報告にあったドラゴン、か? 直ぐに対策を立てなければ拙いな)

 

 そこまで考えたが、とりあえずは目の前のことに集中するべく前へ進む。

 

 狭間は太郎に近づき敬礼。太郎も頭を下げることで返礼した。

 

「特地方面派遣部隊指揮官の狭間浩一郎陸将です」

『狭間陸将殿、初めまして。私は扶桑国に住む正神、姓は一目連、名は太郎と申します。この世界の者からは風と水を司る神、または龍神と呼ばれる存在です』

 

 目的の人物らしい、と分かった太郎は顔を綻ばせながら言った。

 狭間達は、頭の中で響いた声に驚く。

 

「これは……」

『ああ、私ども天龍は発声器官の構造が違いますので、ヒトの言語は喋れないのです。ですので、念話、魔法の一種ですね。これで語りかけているのです』

 

 こういった反応に慣れている太郎は、嫌な顔をせずに説明した。

 

「なるほど……、有難うございます、龍神様」

『一目連で構いません、陸将殿。私はあなた方と仲良くしたいと思っております』

「……はい、私も狭間で構いません、一目連殿。私も、仲良くしたいと思っております」

 

 しばし見つめ合ったのち、互いに笑いあった。

 そして、失礼しました、とお互いに言い合う。

 

 もし太郎をよく知る守人が居れば、「珍しいこともあるもんだ」と思う事だろう。

 

 神となると寿命が無くなる為、定命の者とは付き合いが薄くなる。仲良くなっても直ぐに別れが来てしまい、辛い思いをしてしまうからだ。

 

 その経験も多い太郎が仲良くしたいと言ったのだから、この陸将の事をそれなりに気に入ったのかもしれない。

 

「ところで、その、そちらのドラゴンは?」

 

 狭間が目線を向けた先には、太郎が持ってきた炎龍の亡骸があった。

 

『ああ、これですか?』太郎は言った。『炎龍というデカいだけの蜥蜴ですよ。まあ、この大陸では災害の一つとして扱われる存在ですが、彼らの活躍によって討伐できたのです』

 

 太郎はそう告げると、伊丹たち第三偵察隊に目を向ける。

 

『彼らはまさしく英雄ですよ、狭間殿。良い部下を持たれましたな』

「は、有難く存じます」

 

 そう言いながら、狭間は伊丹に「あとで詳しい報告を寄越せ」と目線で送る。

 伊丹は分からない振りをしたかったが後が怖いので、分かりました、とこれも目線で送る。

 

『では、本題と参りましょう』

 

 狭間達は背筋を伸ばす。

 

『貴官ら、というよりも、所属する国に対して望みがあります。それは、私の故国である扶桑国と日本国での友好関係を結びたいのです』

 

 言われたのは、予想外の事であった。

 

「……失礼ながら、よろしいですか? 我々自衛隊はまだこの地に来たばかりで、様々なことがよく分かっておりません。扶桑国とは、一体どのような国なのでしょうか?」

 

 内心の動揺を隠しながら狭間が言った。

 

 神と名乗る存在がやって来て、その頼みが国と国での友好関係を結びたいという。

 誰がそんな事を思いつくのだろうか。

 

 太郎は軽く頷きながら、扶桑国について語り始めた。

 

『はい、まず扶桑国は――』

 

 そして、狭間たちは扶桑国について詳しい説明を受けることになった。

 

 

 この大陸から東へ行った先にある四つの島からなる島峡国家であること。

 この国には神道という国教があり、太郎と同じ正神が多く居ること。

 その中でも有名なのが扶桑国最古の神で、国の原型を造り上げた「守人」という神であること。

 ヒト種である帝を頂点とし、補佐に武家と公家が在る封建制国家であり、多種多様な人種が住んでいること。

 言語は日本語によく似た「扶桑語」であり、文字はひらがな・カタカナ・漢字を使うこと。

 

 太郎が話したのは、このような内容である。 

 

 

「いや、これは……」 

 

 これには狭間も思わず唸ってしまう。

 現在の調査結果では、<特地>は中世欧州に似た文化圏だと考えていた為、日本と同じような国があるとは全く思ってもいなかったのだ。

 

『如何されましたか?』

「いえ、我々の所属する日本国と、貴国がかなり似通っておりまして……」

『ああ、それはそうでしょう。現在の扶桑国に多いヒト種は、先祖が日本からやって来た者達ですから』

「え?」

 

 何気なく言った太郎の言葉に、全員が凍り付いた。

 

『今から三千年ほど前でしたか。その時に黒髪黒目のヒト種がやってきたのですよ。それから偶に神隠しにあったという人を保護し、守人が造った都市に住まわせたのです。これが扶桑国の始まりです』

 

 

 この世界に<門>を通って人がやって来たのは、今から一~二万年前ほど前。

 最初は精霊種エルフがやって来た。それから<門>を通ってドワーフ、ダークエルフ、キュクロプス、キャットピープル、ワーウルフといった種族がやってくるようになった。

 

 ただ、彼らは島には現れなかった。

 そもそも<門>を造れるのはハーディのみで、アルヌスの丘だけにしか出ない。

 更に島の周りは荒れ狂う海と海獣の所為で渡航など出来るはずもなかった。 

 

 それでも諦めきれず、守人は何度か島で独自に<門>を開いた事があった。

 といっても、ハーディのものと比べれば稚拙極まりないもの。無理やりこじ開けた穴から何かを引っ張り込むというものだったが、守人は何が来るか楽しみに待っていた。

 

 一度目は<てばさき>という、馬ほどの大きさをした青い走鳥。現在は馬の代わりに使用されている騎獣である。

 

 二度目は多数の植物。ある病気の特効薬や怪我によく効くものもあったが、中には既存の植物を駆逐し、異常な繁殖力で広がる危険植物もあった。

 しかもこの植物は枯れる、もしくは地面から引き抜かれると種を辺りにまき散らし、僅か数時間で成長するという凶悪さ。

 その為、駆除するのにえらく手間取ってしまった。 

 

 三度目。これが一番最悪だった。

 

 やって来たのは異形の生物。

 具体的にはBから始まる「人類に敵対的な地球外起源異形の生物」によく似ていた。

 お蔭で守人ら正神達が駆除してもいくらでも出てくるわ、<門>を閉めた後もまだ小さかった巣の駆除をしたり、破壊された都市や自然の回復をしたりと忙しい日々を送る羽目になった。

 

 これ以降、守人は<門>を開くのを止め、他にもハーディが起こした騒動に巻き込まれるなど色々とあったが、気が付いたら数千年経っていたのだ。

 

 そしてやっと落ち着いた頃に守人が見かけたのが、黒髪黒目のヒト種。彫の深い顔立ちに毛皮の衣服、そして石器の槍を持っていたことからして、恐らくは縄文人だろう。

 

 それでも、数千年ぶりにようやく人と出会えたのだ。これは荒んだ心を癒す材料になった。

 守人はさっそく接触し、自身が造り上げた都市に住まわせた。

 それだけでなく、段階的に技術や知識を与え、これらを扱う為の道徳心を教えていった。

 この、守人の暴走とも言える事をし続けた結果、僅か百年程で部族社会から都市国家となり、大陸で見つけた流浪の民を受け入れ、現在の扶桑国の原型となった。

 

 その後、理由は分からないが神隠しにあった、というヒトが来るようになった。

 この神隠しにあった人は扶桑国の発展に寄与し、また、故郷である「日本」という国について良く語っていたのだ。

 

『――そういう訳でして、守人だけでなく私自身も、彼らから聞いた日本という国。それをこの眼で見てみたいのです』

「は、はあ、なんというか……」

 

 言葉がない、とはこのことだろうか。狭間はそう思った。

 この世界に日本と似た国がある、と龍神から聞かされ、しかも先祖が日本人であるという。

 そして日本を見てみたいのだという。

 

 これを政府の報告書に書いて送ったら、一体どうなることやら。

 

『守人も飛空船に乗って此方に向かっております。もし、これに同意していただけるのであれば、我々は協力を惜しみません。どうかご検討頂ければと存じます』

「……質問を、よろしいですか? 一目連殿」

『ええ、どうぞ』

「有難うございます。もし、我々が、協力しないと言った場合、貴人方はどうされるおつもりですか?」

 

 狭間の言葉に、周りの自衛官らは狼狽し、ざわめきだした。

 ただ太郎だけが、目を瞑り、熟考し始めた。

 そして、顎を何度か擦ったのち、

 

『ふむ……、断られた場合、我々は貴官らに二度と近づかないことを約束します。そして扶桑国で元の生活を送るだけです」

「では、協力した場合、我々のメリット、利点は何でしょうか?」

『―――この世界の情報、例えば、資源の所在地はどうでしょうか?』 

 

 ニヤリ、と笑う太郎にさしもの狭間も絶句した。

 

『あの蜥蜴との戦闘の際、貴君らの使っていた武器や乗り物を見ました。どうやら、かなり高精度の金属を大量に使用しているようですね。ならば、この大陸の殆ど手つかずのまま残っている資源は貴重なのでは? と思った次第』

 

 もっと言えば、太郎は念話の応用で自衛官らの心を読んだのだ。だが、霊体の状態と比べて精度が悪く、よく分からない単語ばかりだったが、その中に<情報>・<資源>という単語があったのだ。

 それで感づいたのである。

 

「なるほど、分かりました」狭間は言った。「一目連殿、申し訳ありませんが、私はこの地域の一部隊の隊長に過ぎません。ですので、我が国の重要なことになる扶桑国との友好関係に関することは一度、政府と会合させて頂けないでしょうか?」

『おお、確かに。私も性急過ぎましたな。分かりました、狭間殿。どうか貴国の方によろしくお伝え下さい。私達は何時までも待ちますゆえ』

 

 

 以上で、龍神・太郎と狭間陸将との会談が終わったのだが。

 

(……とりあえず、ありのままの事を急いで報告しよう)

 

 執務室に戻った狭間は気が遠くなるのを堪えながら本土への報告書を書き始めた。

 

 

 その後、伊丹からの報告書で炎龍は携行兵器だとパンツァーファウストでどうにか。太郎が竜巻を発生させ、炎龍を撃破したことが判明して「ファンタジー怖え」と漏らした自衛官が居たとか、なんとか。

 更に太郎の協力の下、能力である<気象操作>の凄まじさに「現行の戦力では対抗不可能」と判明して、派遣部隊の上層部はその対策に阿鼻叫喚。

 

 特地から緊急連絡を受けた政府も、扶桑国のことを知らされて半分歓喜、半分驚愕を持ってどうにか受け入れたが、特地の自衛隊戦力では対抗不可能と判断された存在が一柱に、それと同格と思われるの二柱が「日本に行きたい」と知らされ、卒倒する者が多数。

 

 命令を拡大解釈して難民を連れ帰ってきた伊丹も、認める代わりに諸手続きは全部お前が面倒見ろと言われ、その煩雑さと柳田の嫌味をこなしていって。

 終わったと思ったら太郎の話し相手をしろと命令されて、更には太郎の自主的な協力を漕ぎ着けたことから上層部にこき使われることが確定してしまい。

 

 三者ともに扶桑国について振り回されながら、どうにかならないかと頭を捻り続けていった。

 

 

 そして、その会談から数日後。

 

 アルヌスの丘駐屯地に、扶桑国の飛空船が到着した。

 


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