オラリオにドラマを求めるのは間違っているだろうか   作:龍神王聖人

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第十二話 とある村での戦い 後編

「天照(アマテラス)!!」

 

次の瞬間、黒竜の腕の鱗に黒い炎が燃え盛る。

 

『グオオッオオオーーーーーー!!』

 

苦しげに咆哮(ほうこう)をあげる黒竜。

 手札の一つを切った義人は血涙を流す左目をボロボロの右袖で拭うと須佐能乎の左腕で黒炎と反対側の黒竜の太い首元を殴りつける。

 

『グオオッオオオオオ!!』   

 

しかし、黒炎の痛みに比べてその攻撃は微々たるもののようで、見向きもされず、受けた首元の鱗には掠り傷もついていなかった。

 それを確認する暇もなく、千裏家に代々伝わる忍術書にあった瞬身の術で一気に距離を稼いで、苦渋の表情を浮かべる。

 

「クソッ、硬すぎる。」

 

須佐能乎で黒竜の首元に叩きつけた感想だった。

 

 あまりにも硬すぎる鱗に義人は辟易していた。

 

 リキトを逃がしてそろそろ一時間は刻んだであろうその戦闘は、常に黒竜が圧倒的火力で圧倒されている。

 もはや、須佐能乎の影響でチャクラは枯渇寸前で、チャクラを回復させる丸薬も底を尽き、義人の身体もあちこち負傷していて満身創痍とも言える状態だった。

 

 一方黒竜は黒炎による攻撃以外で負傷はしておらず、その黒炎も規模が小さく、黒竜が咆哮(ハウル)を黒炎がついた腕に放ち、黒炎を削るように削ぎ落とすという器用な真似をして、黒炎を腕の一部ごと消し飛ばした。

 削り取られた腕は徐々に自然回復を始め、徐々に傷が塞がっていった。

 

 その状況に義人は衝撃を受けてしまった。

 ただでさえあの硬さに加え、一分の半分にも満たない三十秒以内に修復しきる自己再生能力の高さの事実に世界三大冒険者依頼の難易度の高さを理解せざるおえなかった。

 

 そんな絶望の中であっても、隙は与えてはいけなかった。

 例えそれが、驚きによる衝撃で硬直したとしても。

「ハッ!!しまったっ!!」

 

直後、黒竜の硬い鱗で覆われた尻尾が横薙に振るわれ、とっさに須佐能乎の左腕を盾にしてガードするが、尻尾が直撃したとたんに、須佐能乎の鎧ごと吹き飛ばされた。

 

「ガハッ・・・ごほっごほっ、ぐぇ」

 

義人は吹き飛ばされた衝撃で森の木を数十本薙倒し、須佐能乎を展開し直して何とか止まった。

 須佐能乎の負担に加え、あまりの衝撃の痛みに大量の血を吐き出す義人はゆらゆらと何とか立ち上がるーーー須佐能乎を展開して代わりにしたーーーと、

 

「ーーーなっ!!」

 

驚愕の表情を浮べた。

 

 

 そこには、

 

 

 黒竜が

 

 

 目の前に大き漆黒の翼を羽ばたかせながら接近をしていたためであった。

 

(これが、伝説の隻眼の黒竜。)

 

落下がてらに振り下ろされる太い爪を見ながら義人は思う。

 

(あまりにも、強く、)

 

(あまりにも、タフで、)

 

(あまりにも、硬く、)

 

(あまりにも、速い、)

 

(そしてあまりにも、賢い。)

 

目的を見破り、現在の須佐能乎の欠点を見破り、そして天照を消えない炎と直感で判断し己の生命力と身体と力をもって攻略してみせたその賢さは竜という名の人間を相手に(・・・・・・・・・・・・)しているようなものだと、義人は感じ思っていた。

 

 やがて、黒竜の爪が義人に迫る。

 蘇るは姉弟と妻ーーー冴姫との思い出だった。

 次々と走馬灯のように走る記憶を朦朧とした瞳で眺め、目が閉じかける義人。

 ふと、濃密に冴姫の微笑みが浮かぶ。

 それは、冴姫と死別する時の感謝の言葉に添えられた微笑みだった。

 

【私ね、貴方に物凄く感謝してるの。一族で落ちこぼれだった私を貴方が救ってくれた事、神格者のアマツマラ様や礼儀正しい鈴鹿に会わせてくれた事、こんな私を愛し娶ってくれた事、私に本音を打ち明けてくれた事、そして何よりも、貴方と家族を作れたこと。みんな、感謝してるの。だから、泣かないで、笑って?ね?私、とっても幸せだったから】

 

冴姫の言葉と微笑みが瞬間的に蘇ると不思議と、背中が熱く力が湧いて来る気がした。

 

『追憶のうちは』

 

妻、冴姫を看取ったあとに黒竜との戦闘前に神アマツマラにステイタスを更新してもらい発現したスキルである。

 効果の一つに瞬間的にステイタスの基本と発展アビリティに思い入れの丈、次第の補正がかかるというものだった。

 義人はこの力を妻がくれた力と受け取った。

 

(冴姫・・・力を貸してくれるのか?俺達の息子の為に・・・)

 

次の瞬間、爪は須佐能乎の両腕に阻まれた。

 しかも、ただの須佐能乎ではない。

 身体には厚めの皮ができており、その姿は第二形態をすっ飛ばし、第三形態へと変化を遂げていた。

 

 本来、須佐能乎は使いこなしていくうちに形態変化を遂げていくものであり、万華鏡写輪眼を開眼してすぐに初期形態から第二形態や完全体になったりはしないとされている。

 

 しかし、今回の場合、千裏義人が何よりも代え難い妻、冴姫を失って、万華鏡写輪眼を開眼し、両目にそれぞれの能力を発現させ、それによって須佐能乎を発現させた。それにうちは一族特有の情愛の深さとスキルが、須佐能乎に影響を及ぼしたことによって、現在の状況に至った訳である。

 

「ふんっ!!」

 

思い切り須佐能乎で爪と前足を掴みながらなげた。

 

『グオオオオオオオオオーーーーーー!!』

 

黒竜は空中で上手く立ち直ると咆哮をあげ、ハウルを放つ。

 

 義人は須佐能乎の腕をクロスさせガードの構えで防御体勢を取るが、

 

「ぐああぁぁぁーーーっ!!」

 

須佐能乎のガードごと吹き飛ばされた。

吹き飛ばされながら空中で翻弄された体勢で、悪あがきとばかりに左目から血涙を流す。

 

「くっ、【天照】!!」

 

そう叫びながら万華鏡写輪眼が展開された眼が黒竜を捉える。

 次の瞬間、黒竜の脇腹付近に黒炎が燃え広がる。

 

『グオオッグオオオオオーーーッ!!』

 

苦しげに天照の黒炎の熱さと痛みにのたうち回る。そして空中で体勢を維持することができず、地面にその巨体が叩きつけられ、さらに激しくのたうち回る。

 

 この隙を好機と見て攻撃態勢に入り須佐能乎を展開する。

 

 しかし、黒竜は

 

『グオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

一際大きな咆哮を上げると、黒炎が燃え盛る脇腹付近の部分だけ(・・・・・・・・・)鱗が一気に気持ちよく(見ている側から)生え替わり、黒炎を古い鱗ごと落とした(・・・・・・・・・)。

 

『グオオオオオーーーッ!!』

 

黒竜がお返しとばかりに前脚の太い爪を振り下ろす。

 

 再び爪が迫る中、遠くからヒュンと風を切る音が聞こえた。

 

「うおおおおおーーーッ!」

 

次の瞬間、そんな叫び声と共に、いつの間にか黒竜に接近した黒い陰が大太刀を新しく生え替わったばかりの鱗に振り下ろされる。

 

 すると、古い鱗に比べて硬くなかったのか、それとも大太刀の威力が高かったからかは解らないが、火炎のオーラを纏った大太刀が黒竜の鱗が生え替わったばかりの脇腹に切り傷と火傷を残した。

 

『グオオオオオッオオオオーーーーーーッ!?』

 

黒竜は一瞬だけのけぞり、狙いがズレて爪は義人の右にそれた。

だが、それだけでも、衝撃で義人は吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。

 

「大丈夫かい!?義人さん。」

 

超人的速さで義人に近づいたのは

 

「ガーレさんか。」

 

ガーレ・グランディアその人だった。

 ガーレは苦笑を浮かべながら武器を黒竜へと構えた。

 それは暗に彼女も戦う事を示唆していた。この死戦で。

 

「リキトは・・・ごほっ、リキトはっ?ーーーごほっ」

 

満身創痍の身体に構わず自分の息子の安否を気にする義人にガーレは呆れた様子で溜め息を吐いた。

 

「はぁ、大丈夫だよ。アマツマラ様に預けた。」

 

義人はそれを聞くとホッと息をついた。

 

「しかし、なぜガーレさんがここに?」

 

ふと、浮かんだ疑問をガーレに投げかける。

ガーレはその問いに対し、「居場所や弟子の笑顔を奪った報復だよ。」と笑みを漏らし、ブランクと古傷を抱えながらも、高いレベルを保ったままの戦士として立ち向かっていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 それからしばらく戦闘が続いた。

 

 義人が【天照】で消えぬ黒炎を生み出し、黒竜の生え替わりを誘い(鱗は生え替わって十分程で生え替わる前の状態に戻った。)、その新しい鱗にガーレが神アマツマラから授かった【恩恵】の力や火系付属魔法(エンチャント)をもって、攻撃をするといった事を繰り返していた。

 

 そうした戦術的硬直は三十分程続き、やがて唐突にその硬直は解ける。

 

「グハッ・・・」

 

ーーードサリ

 

と、ガーレのとなりから誰かが倒れた。

 

「義人!!」

 

思わず倒れた義人に叫ぶ。

 スキルの効果で保っていたとはいえ、須佐能乎による膨大なチャクラの消費によって、枯渇に等しい状態に陥って、須佐能乎も倒れると同時に消え去ってしまった。

 そして、ピンチはまだ終わらない。ガーレが視線を外した隙に黒竜の接近を許してしまった。

 

「ーーーしまっ!!」

 

思わず、苦い表情になる。

しかし、黒竜の行動は攻撃ではなく、飛行による逃げ?であった。

 これには流石のガーレ・グランディアも苦い表情から唖然としてしまう。

 突如として、黒竜は攻撃から一転、翼を広げて飛去っていってしまったのだ。

 

 

 

 唖然としたまま、見送るしかないガーレはやがて正気にもどり、慌てて義人を肩に乗せると、レベル7のステイタスで山や海水に満たされていた大地を掛けていく。

 移動していくにつれて段々と義人の息が弱々しくなっていくのを感じ、義人がもう長くない事を悟り、駆ける足を急がせた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 東の山の向こうが白み始めている。

 

 ガーレさんがアマツマラ様から【恩恵】を授けてもらい、父助ける為に向かってから一時間程経過しようとしていた。

 十分程前に黒い黒竜が漆黒の翼を広げて上空を通り、漆黒の鱗がいくつか落下してきて、黒竜はそのまま飛去ってしまった。

 幸いにも鱗の落下による怪我人や死人は出なかったが、騒ぎに駆けつけてくれた狐人の一族の人々は腰を抜かしながら自然同化の結界を張っていて、狐人で修業仲間の少女も俺の腕に抱きついていた。

 彼女の名前はテンジョウノ・愛咲姫(あさひ)と言って、俺がここへ避難した後、ここへ真っ先に駆けつけ、俺に勢い良く抱きついて来た少女だ。

 まあ、愛咲姫がいろいろと励ましてくれたおかげで気持ち的に楽になって、その後も俺から離れないで年相応の会話を交えていた。

 そんな中、

 

「ッ!!アマツマラ様!!帰ってきました!!」

 

「む、来たか。」

 

今回の魔物災害で唯一無事だった灯台の展望台で黒竜との戦闘を見ていた鈴鹿さんがガーレさんの帰還をアマツマラ様に知らせると、アマツマラ様も一つ頷くと、座っていた煉瓦(レンガ)の階段から立ち上がり、遠くを見据えていた。

 

 しばらくすると、疾風の如き速さをもって駆けるガーレさんが見えて、やがて一分も経たないうちにガーレさんがアマツマラ様の前に現れた。

 ガーレさんの肩には父が抱えられていた。

 

「とうさん!!」

 

思わず肉体年齢に引っ張られたーーーという言い訳ーーーために出た声だと思いながら、ガーレさんに背負われた父の元へ駆け寄ると、父はグッタリとしていた。

 

「ーーーツッッ!!」

 

と後ろから追いついてきた愛咲姫が息を飲む様子が聞こえたが、俺にはそれにかまう余裕は勿論無く、両目の目元から透明な何かが頬を這って流れて行くのを感じ、やがて地面に落ちたのを確認して、涙だとわかった。

 俺は涙を流しながらも、ゆっくりと現実と向き合う為に父の元へ歩き出した。

 

「・・・うっ、」

 

俺の接近に気づき、ゆっくりと瞼を開け、虚ろな左眼には光が宿っておらず、失明していた。

 右目で何とか俺を捉えると片手で撫でながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「・・・リキト、・・・最後に会えて・・・嬉しいよ。

・・・これ・・から・・・嬉しい・・こと、や、・・・悲しいこと・・・が、ある・・かもしれ・・・ないが、・・・強く、・・・逞しく・・・生き、自身・・の幸せ・・・を、か・・み・・しめ・・・て・・・くれ。・・・」

 

父はそう言い残すと、撫でていた手が俺の手元に落ち、段々と冷えていった。

 

 朝日が登る中、父、千裏義人は、おそらく先に旅立った母を追って、深い眠りについた。

 

 ガーレさんは目を瞑り、共に戦った戦友にドワーフ流の死者への祈りと黙祷を捧げ、アマツマラ様と鈴鹿さんは前世の日本と同じ、両手を合わせて祈りを捧げ、愛咲姫はたった今、目の前で起きた人の死に茫然として立ち尽くしていた。

 そして、俺は茫然としながら、涙が止まらず、声を上げて泣き、拳を地面に叩きつけてた。

 そんな中、俺は頭の中のチャクラが段々と変化していくのを感じ、眼が普段泣くときよりも熱いことと、それが何なのかを密かに気づいていた。

 

 




義人が黒竜に何をしたかは次回明らかになります。
・・・察しが良い人はわかったかも知れませんが。
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