ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第59話 海を目指して~邂逅編~

 

 さて、(くだん)のカミラ王女───の、直属の臣下であるルーナはミシェイル、ネネと無事に合流出来ていたワケだが、その相方であるベルカはと言えば、飛竜に騎乗して空中からはぐれたルーナ及び、ここに居るであろうスサノオやその一行を捜索していた。

 

「……………、」

 

 普段から寡黙な彼女は、傍らに話しかけてくる相手が居ない今、黙々とターゲットを見つける事に集中している。

 と言うのも、カミラは地上で聞き込みをし、ベルカはカミラの指示で上空から街中を見て回っていた。故に今は単独行動なのである。

 

「……………フゥ」

 

 空から探し始めてどれほど経ったか、集中しきっていた故にベルカはそれを把握してはいなかったが、その捜索時間は実に1時間。

 殺し屋として、暗殺者として、長時間にわたる獲物の追跡には仕事柄慣れていたが、殺害対象以外をこうして探し出すというのは彼女にとっても初めての事。

 まして、この広い街中に居るであろう人物を空から探し出すのはかなりの重労働であるのは想像に難くない。

 

 暗殺には程遠い作業に、さしものベルカも疲労の溜まり具合が比較的大きく、意図せず溜め息が零れ落ちる。

 が、彼女は自分が息を漏らした事にさえ気付いていないだろう。それだけ凄まじい集中力とも言い換えられるが、果たしてそれは殺し屋に必要なものであろうか……?

 

「……ん。あれは……」

 

 長らく進展の無かった捜索に、ようやく変化の兆しが表れる。見た事のあるような格好に目を付け、彼女はじっと観察する。

 すると、やはり見知った顔が二つ。そのまま見ていると、彼らはとある建物に入って行った。

 何かの店だろうか。せっかく見つけた知り合いだが、飛竜を街の往来の中に着陸させる訳にもいかない。

 

「面倒だけど、一度戻るべきね……」

 

 手綱を引き、飛竜に旋回の指示を送る。主人の合図に、飛竜も軽やかに身を翻えし、街の郊外へと飛んでいく。

 カミラの魔竜──飛竜とは似て非なる、死した飛竜に死霊術を用いて強化、作り出した擬似的生命体──もそこに待機させているので、ベルカもまたそれに倣う事にしたのだ。

 場所については記憶している。あとは、彼らがその何らかの店から出て来る前に辿り着ければ問題ない。

 

「スサノオ様の居所、掴めるとカミラ様も喜ぶ。依頼主の要望は、可能な限り希望される形に沿って任務を遂行する」

 

 無事に飛竜を待機場所に降ろさせ、待ての命令を告げてその頭を撫でるベルカ。

 仕事人間なところのある彼女らしいと言えば彼女らしい台詞を呟きながら、彼女は再度街へと、今度は自らの足で進み行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? オレと一緒にイく理由は何だったんだ?」

 

 とある酒場にて、意地の悪い笑みを浮かべながら問い掛ける一人の男。その熱い視線は、彼と共にこの店にやってきた者へと一身に注がれていた。

 

「やめてください。慣れてはいますが、2人だけでその言葉遣いは未だに背筋がゾッとしますから。別に知らぬ仲でも無いのです。その貴方の線引きの外への人間への接し方を、わざわざ僕にもする必要はないでしょう」

 

 男の視線と言葉を手で遮るように否定した、彼の連れ───ライルはわざとらしく疲れたようにため息をつく。

 男───もはや語るまでもなく、ゼロその人であったのだが、彼は余裕を崩す事なく笑ってみせた。

 

「フッ。別にそんなつもりは無いんだがな。お前やオーディンは身元不明ではあるが、オレと同じくレオン様の臣下。それにお前らの事はオレも認めているぜ? その実力と人間性を、な……」

 

「その含みのある笑い、もはや癖になっているようですね。せめてこれからする事の邪魔にはならないように頼みますよ」

 

「ソレだ。結局お前はナニが目的だったんだ? わざわざオレを酒場まで連れ出したんだ。十中八九は情報収集が目当てなんだろうが……」

 

 席に腰掛けながら、ゼロはチラリと周囲の様子を窺う。昼間の酒場であるため、やはり客も(まば)らだ。というか、むしろ昼間から酒場に来ている者は何なんだろうか。

 ニート、という言葉をライルは思い出す。かつて昔馴染みのカタリナが行ったらしいとある異界で覚えた言葉であるらしく、『成人してるのに働かずに家で引き籠もってる人の事をそう呼ぶらしいですよ?』と笑顔で言っていたのだ。

 実際のところ、カタリナも少し間違えて覚えていたのだが、それを指摘出来る者が居るはずもなく、ライルもうろ覚え程度のもの。

 果てしなくどうでもいい記憶を、再び脳裏の奥底へと沈めて本題を切り出す。

 

「御名答。付け加えるなら、今回は白夜王国の動向について何か情報を得られたらと考えています。あとは暗夜王国がどれほど戦火を広げているのか、もでしょうか」

 

 酒場と言えば情報の集まる場というのがお決まりだ。遠征に出てからというもの、暗夜王国と白夜王国共に戦況がどのように変動しているのかがスサノオ遠征軍にはほとんど届いていなかった。

 また、遠征の目的である、ノートルディア公国への白夜王国出兵に関しても、最初のガロン王の言葉以上の情報が入って来ていない。

 

 戦争はどうなっているのか? 白夜側の遠征軍の動きはどうなのか?

 

 何も知らないのと、知っているのでは話がまるで違ってくる。

 

「なるほどな。戦争ってのは何も力だけが全てじゃあない。確かに数の暴力ってのはあるが、それも情報の有無で簡単にひっくり返す事だって出来るモンだからな。まあ、仕入れるに越した事はない点に関してはオレも賛成するぜ?」

 

「戦争においての情報戦は重要ですからね。それを理解してもらえる人が仲間内に居るのは助かります。以前、エルフィやアイシスに説明してもあまり理解してもらえなかったのは苦い思い出ですよ」

 

「あ~……アイツらか。筋トレ馬鹿とヒーロー馬鹿だからな。そういうのには疎いだろうよ」

 

 思い出しながら彼女らへの毒を吐くゼロ。一応の弁解をすると、別にゼロはエルフィとアイシスを貶しているのではない。彼女らの個性であると認めている上での発言である。

 彼自身も少しアレな発言が目立つばかりか、同僚がもっと残念な趣味をしている事もあり、さっきの毒舌もまだマシな方だろう。

 

「ふーむ……さて、どいつから聞き出そうか?」

 

 周りに悟られぬよう、ゼロは密やかに酒場の客を観察する。

 そういった彼の目利きは、ライルも信用していたので自分は邪魔にならない且つ怪しまれないように、普通の客のようにメニューに目を通していく。

 目を凝らし、耳を澄ますゼロには、客たちの声がはっきりと聞こえてきた。

 

 

「昼間に飲む酒ってのはまた格別だな。休み様々ってもんだ」

 

「はっはぁ? さてはお前、嫁さんも出掛けて居ないな? でなけりゃ、そんな贅沢許しちゃくれねぇだろ」

 

「そりゃそうさ! たまの息抜きくらいしたって良いだろう? なぁに、神祖竜様だって許してくれるさ!」

 

 

 勢いよく酒とつまみをかっ喰らう二人組の男。どうやら彼らは休日を利用してここに来ているらしい。

 聞いていても内容は妻や仕事の愚痴の言い合いばかり。ゼロはこの客達からは早々に見切りを付ける。

 

(さて、次は……と)

 

 

「暇だなぁ。商人共が海に出れねぇせいで、商売もままならねぇ」

 

「そう言うなって。海が荒れてるんなら仕方ねぇよ。ま、向こうからの積み荷が無けりゃ、俺達だって仕事になりゃしないのは確かだけどよ」

 

「な、なぁ。海が荒れてるのもだけど、なんだか妙な噂を聞いたぞ俺は。なんでも、化け物が海を渡る船を襲うって話じゃねぇか。俺はそっちの方が困るぜ。怖くて港に近付けやしない」

 

「ああ? んな戯れ言を信じてんのか? 大の男が情けねぇぜ! ハッハハ!!」

 

 

 

 体格の良い三人組は話の内容からして、商人か物資の運搬をする仕事をしているらしい。こちらも愚痴が多いが、戦争に関しては特に何も話さない様子から、それほど関心は低いようだ。

 

 

(……アレは)

 

 と、酒場の一角にて、武装解除してはいるが明らかに一般人らしからぬ者が一人、疲れたようにひっそりと酒を飲んでいるのをゼロは発見する。

 

「おい、ライル。あの隅で飲んでる男を見てみろ」

 

「ん……、あの服装。後ろ姿ではありますが、街に入る際に見た衛兵のものだったように見受けられますね」

 

 衛兵、ならばそれなりに戦争に関して知っているかもしれない。彼に狙いを決めたゼロは、ライルに頷いて合図をし、静かに席を立った。

 ライルも頷いて返し、ゼロを目だけで見送る。

 

 そして、

 

「ちょっとイイかい、そこの兄さん? 昼間に酒場で一人寂しく酒を飲んでるもんだから、少し気になって声を掛けちまった」

 

 いきなり声を掛ける事が既に怪しいが、そこはそれ。ゼロとて情報収集には長けている。下手な真似をして騒ぎになるのは本末転倒なので、ひとまず当たり障りの無いきっかけを口にして、衛兵へと近付いた。

 

「ん? 別に。今日は夜の番を明けたところだ。さっきまで寝てて、気分転換にこうして軽く飲んでるのさ。この年になって良い女の一人も居ない、寂しい男だがね」

 

「なるほどねぇ……。服はそのままなのかい? その格好からして衛兵のようだが。まさか着替えずに寝たと?」

 

「まあ、な。それだけ疲れてるのさ。どうせ今日もまた夜の番をしなきゃならないんだし、着替えるのはそれが終わってからってね。ところで、アンタは見かけない顔だが、旅人か何かか? 見た目からして、商人って感じはしないが」

 

 疑うような目ではないが、衛兵も話を聞いてくるゼロに興味が出たらしい。これを好機と捉え、ゼロもまた気安く話を続ける。

 

「オレは用心棒ってところかね。街に来た行商人の護衛さ。それで、だ。次はこの街の少し先にある港町までの仕事を請け負ってるんだが……」

 

 ここまでは自然な流れ。嘘の私情を語り、自らを護衛と騙る事で、違和感を与えずに核心へと話を進ませる。

 

「なにぶん、この仕事柄、依頼主の身の安全が第一の商売だ。なモンで、暗夜王国や白夜王国の戦争は今どうなってるのかが気になってな。厄介事に自分から首を突っ込まないように、状勢についての情報を仕入れときたいんだが……衛兵の兄さん、何か知らないかい?」

 

「ほう、それは確かに困るだろうな。何も知らないで戦いの場に巻き込まれたりしたら大変だ。だが、それほど詳しいというワケでもないからなぁ……」

 

「いや、少しでもイイんだ。それだけでもオレにとっちゃあ助かるからな」

 

 なら、と衛兵はポツポツと語り出す。衛兵という仕事の都合上、街に危険が及びそうな情報はそれなりに仕入れているのだろう。彼は言葉とは裏腹に、ゼロの想像以上の量の情報を口にし始める。

 

「この前、白夜王国が暗夜王国の黒竜砦まで攻め込んだらしいが、その後、暗夜王国は報復とばかりに戦線を押し広げているらしい。今じゃ国境辺りなんて一般人でも迂闊に近寄れないそうで、白夜の第一王子も最前線で指揮を執っているという話だ」

 

「へぇ~……。なら、あちら側へ行く場合は、国境は避けて海路を進むのが得策か」

 

「他には……そうだな。つい先日に北の街から来た行商人から聞いたんだが、暗夜王国の遠征軍がノートルディア公国に向かっているとか。この街を経由して港町に入るのだろうが……通るだけならまだ良いがね、厄介事を持ち込んでくれないように祈るばかりだよ。何しろ、連中は侵略にしか興味が無い。いずれこの街も暗夜王国の直接の支配下になると思うと、今から気が重い」

 

 溜め息を吐き、衛兵はグラスに残った酒を一気に飲み干した。今の口振りからして、彼は暗夜王国に良い感情は抱いていないだろう。かといって、明確な敵意が有るという事もない。

 やはり、暗夜王国の者であると明かさないでおいたのは正解だったと、ゼロは内心でほくそ笑んでいた。もし知られていれば、ここまで情報を喋ってくれなかったかもしれない。

 誰だって、良く思わない相手には、得をする情報は伝えたいものではないものだ。最悪、力ずくで聞き出すなんて事になれば、それこそ大騒ぎになってスサノオに迷惑が掛かるのだから。

 

「暗夜王国ねぇ……。ところで白夜王国はどうなんだい? いくら平和を愛する国とはいえ、今は戦争中だ。頭に血が上って暗夜軍と間違えて襲って来ないとも限らない。ついこの前の黒竜砦の一件もあるしな」

 

「白夜王国か……。うーん、さっき言った以外の事は分からないな。ただ、これは白夜王国側からの商人に聞いた話だが、イズモ公国でも暗夜と白夜の軍同士の衝突があったとか。どうにも暗夜が罠を仕掛けていたらしい。中立国を戦地にするばかりか、罠として利用するなど信じられないな。つくづく暗夜王国は野蛮としか言いようがないよ」

 

 淡々と語る衛兵ではあるが、ゼロにしてみれば本当に予想を上回る収穫だ。白夜の遠征軍に関してはあまり詳しい情報は得られなかったが、それでも上々の結果と言える。

 

 

『な!? 何故ここに……!!?』

 

 

 と、遠くからライルの声が聞こえてくる。というか、驚いている様子だが、何かあったのかとゼロがそちらを向くよりも早く、()()は向こうから先にやってきた。

 

 

 

「見つけた」

 

 

 

 それは女の声だった。

 

 冷たく、鋭く、感情の起伏がまるで感じられない冷淡な声音。ゼロは知っている。これは闇に潜む事を生業(なりわい)としている人間がよく発するものだ。

 具体的に言えば、暗殺など、汚れ仕事を被るような───。

 

「……ベルカ、だと!?」

 

 振り向いた先に立っていたのは、鎧に身を包んだ小柄な女性。ともすれば、少女に見紛う容姿をした彼女の名はベルカ。

 カミラの部下にして、ミシェイルが先日仲間達と共に死闘を繰り広げたストレルカと並び称される凄腕の殺し屋だ。

 

 その姿を目でしかと見ていなければ、彼女がそこに存在していると認識出来ないのではないかとさえ感じる程に存在感が薄い。

 闇から闇へとターゲットを殺そうと渡り歩くが故に、ベルカは普段から気配を殺す事に長けているのだ。それが日中であっても、市井の中であっても変わりなく、武術の心得が無い者なら簡単に息の根を止めるくらい、ベルカには容易い作業なのである。

 

「ゼロ、それとライルも居るのね。これで任務も達成出来る。早くスサノオ様の所に案内して」

 

 言うや、ゼロのマントを引っ掴んだベルカは、女性とは思えない腕力を以て彼を席から引き剥がす。

 

「うおっ!? 待て、分かったから引っ張るな! スマンな兄さん、連れが来ちまった。また縁が有れば飲もうぜ?」

 

「え? あ、ああ……」

 

 構わずゼロを半ば引きずるようにして酒場から出て行くベルカに、衛兵は呆気に取られて見つめるだけしか出来ない。

 ライルもまた、出て行く二人を慌てて追いかけ、酒場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何でお前がここに居るんだ?」

 

「カミラ様やルーナはどうしたんですか? 貴方一人だけでここに?」

 

 酒場からかなりの距離を歩いた所でようやく解放───もとい、抜け出せたゼロ。そして二人にどうにか追い付いたライルは、カミラと一緒に居るはずのベルカに問い詰める。

 

「二人もこの街に来ているわ。ルーナだけはぐれたけど、私はカミラ様の命令でスサノオ様とその一行を捜索していた。それと、何故カミラ様がここに来れたのかは、マークス様が代わりに任務を引き受けたから」

 

 淡々と質問に答えるベルカ。それにしても受け答えすら義務的というか機械的な感じがして、人間味に欠けている。

 

「では何故、スサノオ様がこの街に滞在中であると知っていたのですか?」

 

 カミラが任されていた任務をマークスが代行したという事は分かったが、どうしてスサノオ達の居場所を特定出来たのかは謎のまま。

 目的地は知っていても、現在地まで知っているというのはどうにも不自然な話だ。もしや、こちらの動きが筒抜けになっているのでは、と危惧したライル。

 もしそうなら、ガロン王やマクベスに自分達の動向が事細かに伝わっているのは面倒かつ厄介であろう。迂闊な真似が出来ないどころか、スサノオの揚げ足を取られかねない。

 

「理由………。カミラ様は特別な伝手を使ったと言っていた。それ以上は私も詳しくは知らない」

 

「特別な伝手ねぇ……?」

 

 ならば、あまり危うく捉えずとも良いか。カミラは完全にスサノオ派であり、ガロン王の命令には背けずとも、自らスサノオが不利なるような振る舞いはしないに決まっている。

 そんなスサノオを溺愛しているカミラが使う伝手なのだから、その点に関しては信用してもいいだろう。

 

 だが、その特別な伝手とは一体……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 とある呉服屋内にて、一息もとい、溜め息を吐くのはスサノオのメイド、フローラだ。

 

 彼女は現在、スサノオと共に仲間達の防寒具を買いにこの店へと入っていた。ちなみにスサノオは男性陣、フローラは女性陣の分と、それぞれ分担して選んでいる。

 防寒具だし、別にピッタリサイズフィットする必要もないので、頭の中でだいたいの目測をイメージし、だぼつかない程度のものを選んでいく。

 

 ただ、スサノオならともかく、優秀なメイドであるフローラがそれだけの作業で苦労するはずもなく、溜め息は別の理由からによるものだ。

 

「せっかく二人きりで出掛けているのに、何も進展がないなんて……」

 

 と、あまりの何も無さに落胆を露わにするフローラ。というか、彼女自身が萎縮してしまいがちな事もあり、大胆な行動に移せないのも要因の一つである。

 もう一つ要因を挙げるとするなら、それはスサノオの鈍感さだろうか。

 フローラは道中、手を繋いできたスサノオに何度もチラチラと視線を送っていたのだが、それに一切全く気付かない。

 故に、手を繋ぐ以上の進展は望めず。そしてそのままここに至るのであった。

 

「せめて……せめて、帰るまでに何か行動を起こす? いいえ、それはムリ。とてもじゃないけど、私からなんて絶対にムリね……。ハア、奥手な自分が憎い……」

 

 彼女の性格からして、アプローチも表立ってはしない。良くて、スサノオの食事に彼の好物を他の人より多めに入れるなどくらいの、気付いてもらえるかも分からない囁かなものだ。

 スサノオへの恋心をはっきりと自覚してからというもの、幾度となくアプローチをしてはみたものの、程度が小さいばかりに意味を為さないのが結果の全てだった。

 好きな人を相手に自分全開で接する事の出来るカミラやエリーゼを密かに羨ましく思っているのは、ここだけの秘密。

 

「とにかく、買い物を手早く済ませてしまわないと……」

 

 スサノオ一色だった思考を振り払い、フローラは目の前の仕事に取り掛かろうと思考を切り替える。

 さて、エリーゼやネネ、ニュクスは小柄なので小さめで構わない。エルフィは相当鍛えているが、体格は意外にもゴツくないため、普通くらいのサイズでも問題ない。それは入浴の際にも視認していたので確実だ。

 アカツキとノルン、シェイドは女性陣でもそれなりに身長が高く、少し大きめのものを買うべきか。

 特筆して語る身体的特徴の無い者、例えばフローラ自身やアイシスなどの女性の平均的身長メンバーは、フローラを基準として選べば良いのでまだ楽か。

 

 

 などと、真面目に選んでいたからか。思わぬハプニングがフローラを襲う。

 

 

 

 

『ああ……私の可愛いスサノオ! こんな所に居たのね……!!』

 

『え、姉さん!? なんで!? え、本当になんで!!?』

 

 

 

 

 ───否。ハプニングが襲ったのはフローラではなく、スサノオである。

 まあ、二人きりの状況を破壊されたというハプニングに襲われたというなら、まさしくフローラにも当てはまるのだが。

 

「……カミラ様? 何故、ここに……。とにかく私も向こうに行かないと」

 

 突如現れたらしきカミラ。何故、どうして───そんな疑問が尽きないが、まずは合流すべきだろう。

 何より、スサノオとカミラを二人きりにする状況こそフローラは早く阻止したかった。歯止めの利かないカミラ程に危険な存在は居ない。血縁が無いと判明した今となっては、カミラはフローラにとって最大の恋のライバルであるのだから……。

 

 

 





まずは謝罪を。
かなりもの間、更新がなくて本当にすみませんでした。
一年も放置……なんて事だけはどうにか阻止出来ました。待ってくれている読者がどれだけ居るのかは分かりませんが、少しでも居てくれたのなら、本当に申し訳ない限りです。

浅ましくも言い訳をさせて頂くなら、頭を休めようと気まぐれで書いた物が想像以上に評判が良く、退くに退けない所まで行ってしまったというのが一番の要因でしょうか。

なので、これからもチマチマと書いていくつもりですが、頻繁に更新するのは厳しいと思います。それでも良ければ、今週からまた連載再開したハンター×ハンターのように気長に見てもらえたらと思いますので……。

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