アシタカを先頭に歩くこと5分。
ボールドウィンとエドはその間も超人的な鍛冶バトルを繰り広げているがそれとは関係なくルカとタカノはストーファング坑道のチカ、かつて二人の父ルウソが『炎に潜む者』と戦った場所に来た。
ただ昔と違ってこの場所はだいぶ修繕されており、窓は仕方がないとして扉がちゃんとついた部屋となっていた。
「ホノオさん、入ってもいいですか?」
「…………」
「いるようですね」
スーツの内ポケットから扉の鍵を取り出すアシタカ。
「いやいや返事ないのに何でわかるの?」
返事がないことで留守だと思っていたタカノだったがアシタカが返事がないことを事前にわかっていたような風なので聞いた質問なのだがこれはデーモンであるアシタカには聞くまでもない質問だった。
「ルカやアシタカみたいな元デーモンはデーモン同士の存在を感知できるんだよタカノちゃん。
だからこの部屋の中に『炎に潜む者』はちゃんといるよ」
ルカは部屋の前に着いてすぐに中から感じる『炎に潜む者』の気配を感じていたがそれはルカの想像していたよりもずっと小さなものだった。
「でも随分と気配が小さいけどどうしたの?
パパから聞いた話では『炎に潜む者』ってかなり強くて豪放磊落なデーモンらしいけどこれは『不潔な巨像』よりも弱く感じるわよ」
「今は人間界で生活するためにホノオ・ヒソムという名前を使っていますのでそちらで呼んであげてください。
そして問題なのですが、デーモン『炎に潜む者』のホノオさんはただ今引き籠りになってしまているのです!」
アシタカの衝撃発言。
「軽く言えばヒッキーモンスターってところでしょうか?
実は私が人間界に来る時に一緒に誘ったのがまずかったのですがホノオさんはこっちに来て以来ホームシックになってしまいまして、この部屋から一歩も出ないのですよ。
かと言ってデーモンの世界への入り口は私たちが再びこっちに来た段階で完全に閉じられてしまったので戻ることも出来ませんし。
我が主達も国として動き始めたこのストーンファング坑国の発展にお忙しいので構うこともできないのですがこの国の発展にはホノオさんの力が必要なんです。
どうか彼を部屋から出すことはできないでしょうか?」
いきなりぶっちゃけられてしまったがこれはなかなかに難しい。
ルカとタカノは基本荒事専門で人助けをするつもりだったのでホームシックのデーモンの説得などどうすればいいのか全く分からないのだ。
「とりあえず中に入ってみましょ。
話をしてみれば案外上手くいくかもしれないし」
タカノのこの発言はこの時点ではただの希望的観測だったのだがこの発言が後に大きく作用することとなるのだった。
「ウラァー! ひきこもりのデーモンに喝を入れに来てあげたわよー!」
ルカの先制の一撃。
扉に1万のダメージを与えた。
吹き飛んだ扉は中にいた『炎に潜む者』の頭に突き刺さった。
ホノオに1万のダメージを与えた。
「ぐぉぉぉ~……」
「なんだ、案外元気じゃない♪」
「ちょ、ちょっとルカちゃん鍵があるのに何で扉壊したりしたの!?」
「それは~、ルカがドジっ子さんだからなの~、テヘッ♪」
というのはさておき、強烈なファーストインパクトを与えることに成功したルカはそのまま中に入り『炎に潜む者』の胸倉を掴み、吊るしあげる。
こっちの世界で人間として暮らし始めたというホノオ・ヒソムは赤い髪という点を除けば随分と普通で、むしろ地味な格好をしていた。
「ぼ、ぼくに何の用があるって言うんだ!?
ぼぼぼくはここでひっそりと暮らしていければそれでいいんだから邪魔しないでくれよ」
「はっ、言葉使いも随分と腑抜けたみたいじゃない。
貧弱デーモンのアシタカが許してもこのルカはあんたみたいな軟弱な奴が嫌いなのよ!」
アシタカはその発言を聞き流しじっと静観する。
「あー、なんかこのまま首の骨へしおってあげたい気分だわ。
せっかくパパが認めたデーモンってのがこんな腰抜けだなんてパパの名誉にもかかわるしこのまま消滅させちゃおうかしら。
デーモンと人間の世界の入り口が完全に閉じちゃったんなら死んで向こうの世界に戻ったらもうこっちには帰って来れないでしょうし」
ルカがうっかりホノオの首を握る手に更に力を込めようとしたところでタカノに止められた。
「もういいじゃんルカちゃん。
殺すのはもちろん、無理矢理部屋から引きずりだすのは可哀想だよ」
だがその瞬間ホノオ・ヒソムの眼が輝いた。
その力強さにルカは反射的に距離を取って身構えたがホノオはルカに何かするというわけでもなくタカノをじっと凝視し、一言つぶやいた。
「美しい……」
「「「は?」」」
その場にいた全員が何を言ったのかわからない中、ホノオはタカノの手を取り続ける。
「是非とも僕と結婚してください。
あなたのその豊かな双丘に惚れました」
そして視線はタカノの胸に……
「何行ってるんだこの変態ジジィー!
我が主に恥をかかせる気かー!?」
ルカが殴りつけようとしたところでそれよりも早くアシタカがホノオを殴りつけていた。
「この子は俺が最初に目をつけとったんじゃコルァァァァ!
何横取りしようとしてくれとんのじゃー!」
「そんな事言うなよアシタカ。
僕も人間界に来て女性というものに初めて興味をもったんだから。
それにそっちのルカちゃんはどうやら君とはデーモンの世界での幼なじみだったそうじゃないか?
あっちと付き合えばいいじゃないか」
アシタカはいったんルカを振り返り、それからタカノを見る。
「ふっざけるなぁー! あんなお子様いるかー!
俺は大きい方がいいんだ!」
「なんだと!?
僕も大きい方が好きなのだからここは年長者に譲るという優しさを持って身を引け!」
実はデーモンの中でも最年長な『炎に潜む者』。
ルカとタカノを無視した醜いデーモン二人による言い争いは続く。
そして最終的にはその二人にキレたルカが何も言わずに静かに二人を殴って気絶させてその場を収めた。
そしてそれを見ていたタカノはこうなることを予想していたらしく別段驚くこともなく言った。
「まさかルウソパパが最強と言っていた『炎に潜む者』がここまでの変態に変わるなんてびっくりだよ」
ぷるん
「でもこれでこっちの世界でのホノオ・ヒソムさんを引き籠りから脱却させることには成功したし人助けの旅も順調だね」
ぷるるぅ~ん
ルカ、マジで切れる5秒前。
「……もうタカノちゃんさっきから胸揺らしぎ!!
ったくなぁにが胸よ! ただの脂肪の塊じゃない!
ルカみたいに小さくとも感度が良ければそれでいいのよ!」
キレた。
「もういいじゃないルカちゃん。私はルカちゃんの小ささも大好きだから、ねっ?」
ぷるんぷるん
「それがいやなのよ!
何でルカはこんなに小さいままなのよ!?
タカノちゃんはデーモンになった時からさらに成長したのにルカは背が少し伸びただけでまだ150㎝も超えれないうえに起伏にも乏しいの!?」
どうやら前回のアリオナ王のような特殊な人からしか人気が出ないルカは大変ご立腹の様子。
それをなだめるタカノはどこか余裕のある表情だった。
「ほらルカちゃん、ここでの人助けは終わったし早く次の場所に行こ。
きっと私たちを待っている人たちがいるはずだから」
「ぐすん……そうね、ルカとしたことがちょっとむきになり過ぎたみたい。
それじゃさっそく次の目的地まで行きましょうか」
こうして二人は次の目的地『塔のラトリア』に向かうのでした。
果たしてそこで二人を待ち構えているものとは……
おまけ
「くそっ、やるな老いぼれボールドウィン」
「そっちこそ伊達に年を食ったわけじゃなさそうじゃのうエド」
睨みあう二人の老人。
「喰らえエドよ!
ボールドウィン式必殺『空中螺旋ハンマー投げ』!」
綺麗な弧を描いて跳びあがったボールドウィンは炉で熱して赤くなった鉱石にハンマーを投げつけた。
「甘いなボールドウィン!
エド式必殺『昇竜ハンマー叩きトルネード』!」
地下に潜りこんだエドは金床に乗せられていた熱された鉱石を空に打ち上げ、対象が空中に浮かんでいる間に加工をする。
「ふっ、やるな」
「そっちこそ」
二人の老人に兄弟という絆を越えた熱いものが生まれた瞬間だった。
その後完成した品物を持ってルカとタカノを探しに向かった二人は気絶したアシタカとホノオを見つけ、理由を聞いて二人を怒鳴りつけ、そのままデーモン二人を旅に出した。
ようするに未来永劫に渡る休暇を出したのだ。
「……なぁ、アシタカ」
「なんだホノオ?」
「やっぱでかい方がいいよな♪」
「そうだよな♪」
デーモン二人は熱いバトルの末に友情という絆を得ることに成功したんだそうな……。