何だかんだとあったが、ルカとタカノはラトリアに来てたった一日でもう次の国へと旅立つことになった。
女王やビヨールは依頼はもうしばらく先でいいからと、ラトリアでゆっくりしていくように勧めたが、宰相のユルトが特に鬼気迫る様子だったので貞操の危機を感じたルカはタカノの二人はさっさと出ることにしたのだ。
そしてその移動方法なのだが、二人は当初要石で楔の神殿経由で腐れ谷に向かおうと思っていたのだが、女王が旅のための荷物や馬車などの用意してくれたので善意を断るわけにもいかず、今はのんびりとした馬車による旅の最中だ。
「それにしてもラトリアでの滞在時間が一日ってなんかさびしいね」
時間がかかる馬車は暇なだけかと思っていたらルカだが、歩いたり空を飛んだりするのとは違った風情のある馬車に楽しさを感じながら言う。
『せめて馬車の御者は自分に!』と、ユルトは最後まで粘っていたがそこはラトリア女王の手回しにより無口なベテランの御者を手配してもらったおかげで問題なく馬車は進んでいる。
「でも私たちの本来の目的は人助けの旅だったんだし、ルウソパパが世界を救ったあとのあっちこっちを見て回るのに女王の依頼で動くってのは大きくプラスになるはずよ。
なんてったって国家権力があるから国境を越えるのにも手間要らずだし」
こちらも元が鷹なのでデモンズソウルによって人間に近い容姿を得た後も背中から翼を出して飛ぶことも出来るのだが普段乗らない馬車での旅をそれなりに満喫していた。
「でも腐れ谷かぁ~。
アストラエアさん元気かなぁ~」
「あちらも女王と近衛騎士(旦那さん)ですしそれなりに忙しいかもしれないよね。
それよりも依頼者の妹さんの様子を見てくるのが依頼内容だけど一体何が悩みなんだろうね?」
「ふふふ、タカノちゃん。
女の子の悩みなんて基本恋の悩みと相場は決まっているのだよ♪」
見た目の割に人生経験は豊富なルカは意外とその手の知識だけはあるのだった。
知識は……
「でもルカちゃん、知識だけだよね。
実際そうかもしれないけどルカちゃんが言っても現実味がないよ」
「もうっ! タカノちゃんそういうツッコミは無しなんだからっ!」
女三人寄れば姦しいとよく言うが、この二人は二人だけで十分に姦しいのだった。
同乗するけっこうな年のベテラン御者は賑やかな二人を見て、かつてデーモンに殺されてしまった孫の姿を思い出し、少しばかり涙ぐんでいたがそれに二人が気付いた様子はない。
それから夜は野営をしながら3日ほど進むことで腐れ谷が見えてきた。
「御者さーん、ありがとねー♪」
「女王様とビヨールさんによろしくねー♪」
二人に見送られて無口だった御者もその口元にかすかに笑みを浮かべながら去っていった。
短い付き合いだったがそれなりに楽しい旅を経験出来たルカとタカノはもちろん、御者の爺さんも楽しむことが出来たのだろう。
「さてさっそくアストラエアさんに会いに行きましょう。
タカノちゃん、準備はいい?」
「もちろんよルカちゃん。
と言ってもいまの腐れ谷は毒の沼も貴族のロータスの栽培によって浄化されてるし、この世の楽園みたいに言われてるから準備なんていらないと思うけどね」
国の入口からして分かるが腐れ谷は大きく生まれ変わっていた。
国の中に入るための巨大な門の前には巨大腐れ人の衛兵が立っており、手にしたグレートクラブとその巨体こそ威圧感を与えそうだがとても親しみやすい笑顔を向けてくるあたりがアストラエアの教育の成果なのだろう。
中に入ってからも腐れ谷に従軍する兵士を何人か見かけたがその誰もが軍人であることを思わせない親しみやすさと親切な心配りを信条にしているので他の観光客からも受けがいい。
「それにしても変われば変わるもんだね。
パパからは、ここの人たちって死んだふりして背後から襲いかかってくるって聞いてたのにみんな親切だね」
「そりゃアストラエアさんの女王としての教育が徹底されてるからでしょうね。
それに確かに湿度は高いけどそれほど不快じゃないし壁も地面も石造りで舗装されてるし不衛生な感じが一切しないのも凄いわ」
正直二人はこの国の話を聞いた時に場所が場所だけにあまり発展などを期待してはいなかったのだがここまで綺麗で観光客も多い国になっていることに驚きを隠せない。
「さぁさぁ、腐れ谷名物の『腐れ饅頭』だよー!
いまなら冷たい饅頭と温かくない饅頭の二種類が選べるサービスやってるよー!」
「こちらも腐れ谷名物『腐れトマト虫のシチュー』がおいしいよー!
一口食べればオォウ、フレ~ッシュと言いたくなるはずさ」
露天商も多く、食べれそうもないものを料理として作ってしまうこの国の腐れ精神に感服しながらも本来の目的を達成するために二人はこの国の王城、アストラエア城へと向かう。
「すいませーん、アストラエア女王にお会いしたいのですがー」
城の入り口で門番に話しかけるルカ。
城の門番も腐れ谷の入り口で門番をしていた者よりはいい鎧を身に纏っているがこちらも笑顔で挨拶をしてきてくれた。
「おやおやいらっしゃい可愛らしいお嬢さん。
城に何か御用でしょうか?」
「私たちルウソ・ズンモデの娘でアストラエアさんとも知り合いなんですよ。
で、今回はラトリアの女王様からの依頼でこの国に来たんで面会をお願いしたいんです」
「なるほど、しかし女王陛下はただ今会議中ですのでしばらく待ってもらうことになりますが「待たせなーい♪」……女王陛下、会議はどうしたんですか?」
にこやかに対応してくれていた門番の顔が急に曇ったのはその声の主が尊敬するに値する人物でありながらそれと比例して迷惑をかけてくる困ったちゃんな人物だからだろう。
「はぁーいルカちゃん、タカノちゃん久し振り♪
二人とも大きくなったじゃない♪」
声の主はこの国の女王アストラエアであった。
「陛下、護衛を置いて先先走らないでください。
一国の女王としての節度とそれなりの態度で人と接しなければいけません。
あと会議を無断でサボらないでください」
続いて出てきたのは久し振りだというのにあまり変わっていない女王とは違い、えらく疲れたような顔の近衛騎士ガル・ヴィンランド。
騎士としての職務だけでなく、夫としても常にアストラエアの側にいるために体だけ大人の中身はまるっきり子どもの相手を四六時中しているわけなのだから心労もいかほどだろうか。
ちなみに城内ということもあり、いつものイカ兜は脱いでいる。
「久し振りですアストラエアさん、ガルさん。
実は私たちラトリアからの依頼で来たんですよ」
「ルカは美味しいお菓子とお茶が飲みたいな~♪」
腐れ谷のトップ二人、特にアストラエアがルウソの娘である自分たちに甘いことを知っているルカは早速お茶菓子の催促。
これもルウソの教育なのだが、『もらえるものは何でももらえ、利用できるものは何でも利用しろ』と言われてきたために自分の欲望には忠実に育っている証拠でもあった。
タカノは かぼたん似なので割と奥ゆかしいのだが……
「そうですね、では中にどうぞ♪
今日は私も暇で暇ですることがなかったのよ~♪」
「いやいや陛下、今日は会議だけでなく、他にも仕事がいっぱい溜まっているじゃないですか」
「はい聞こえなーい。
聞こえないからそんな仕事は存在しなーい。
私、ルカちゃん、タカノちゃん、遊ぶ。
ガル、仕事、一人で、OK?」
「OKじゃないですってば!?」
なにやら見ていて可哀想になるくらいにガルの扱いが不憫だが、夜は夜で国中の誰もが羨む魅惑の女王アストラエアを一人占めすることが出来る特典と比べたらプラスマイナスで……微妙にプラスになるのかもしれない。
門番の兵士も、いつものことなのか微笑ましい様子で仕えるべき主と上司にあたる近衛騎士のやり取りを眺めていた。
もっともそれは側近という立場を全てがる一人に任せられることによる喜びからくるのかもしれないが。
「では改めて、いらっしゃい二人とも。
ようこそ腐れ谷アストラエア王国へ♪」
そしてルカとタカノの二人はアストラエア王国、別名アストラエアファンクラブによる国に案内されたのだった。