魔法少女まどか☆マギカ EDEN(完結)   作:ファルメール

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第06話

 

 マミの部屋で行われた会議では、ワルプルギスの夜が来るまでも基本的には自分達の魔法少女としての活動は変えない事、ただし魔女や使い魔との戦闘では経験を積む意味でも前衛向きの魔法を使うさやかが主体となって戦い、後衛向きのマミやほむら、風華やイブがフォローに回る事、また万一の事があって戦力が低下するのを避ける為、見回りは必ず二人以上で行う事などを決定した後、散会となった。

 

 それから数日して、先日マミと風華達が知り合うきっかけとなった魔女が結界を創っていた病院の屋上では、妙なる旋律が響いていた。音の特徴からバイオリンだと分かるその調べを奏でているのは、車椅子に座った少年だった。

 

 彼の演奏会の観客は両親や担当医、数名の女性看護師など十指に満たない。そんなある意味贅沢な列席者の中には、さやかの姿もあった。

 

 マエストロの名前は、上条恭介。さやかの幼馴染みであり事故にあって右手の機能を失ってしまっていた。キュゥべえと契約したさやかの願いは、彼の右手を治して欲しいというものだった。

 

 契約に当たってさやかの脳裏によぎったのは、先輩の、巴マミの死に様だった。風華の力によって結果的にマミは無事であったものの、それでも自分やまどかの目から見れば確実に一度死んでいた。魔法少女の戦いは常に命懸けなのだと言葉で言われても実感が今ひとつ湧かなかったが、そんな浮ついた気分はあの時に吹っ飛んだ。

 

 だからまどかは魔法少女にならなかったのだろう。それを責めようとは思わない。むしろ当たり前だ。いくら何でも一つ願いが叶うからといって、あれを見た後でも尚魔法少女になろうとする自分の方が、きっと異常なのだとさやかは思う。

 

 それでも、大切な人を救える手段があって、自分にはそれが出来て、けれどそれをしないでいる事は、出来なかった。

 

 別の方法もあったかも知れない。長い目で見れば、こんな歪な形で願いを叶えるよりも幼馴染みとして恭介の心のケアに力を注ぐという選択肢だってあったかも知れない。

 

 だがこうして恭介の奏でるバイオリンを聞いていると、やっぱりこれで良かったのだと思う。イブにも言った通り、後悔なんてある訳無かった。

 

 この時、さやかも誰も気付かなかったが魔法でエンチャントしたスコープを使い、この演奏会の様子を遥か遠方から覗いている者がいた。イブと風華の二人組だ。

 

「彼が、さやかの望んだ奇跡か……」

 

「さやかはバカです」

 

 双眼鏡を使って覗き見しながらそう言うパートナーを、風華は望遠鏡の中を見ていないもう一方の目を動かして、ちらりと見た。

 

「幼馴染みの手を治すなんて事で契約するなんて……昨日今日会ったとは言え知らない仲じゃないんだし、僕に一言相談してくれたら何が何でも止めたのに、です」

 

 悔しそうに言うイブの頭に、風華はぽんと手を置いて撫でてやる。

 

「まあ、なってしまったものはもう仕方がないわ……後悔するよりも次善の手を考えましょ」

 

「風華……はいです」

 

 そう言って二人は手にした道具の機能強化に施していた魔法を解除する。実用性とはかけ離れたファンタジックなデザインだったスコープは二人の手の中で、本来の機能性を重視した形へと戻った。それを懐に入れてこの場所を後にしようとして、イブは不意に誰かに見られているような感覚を覚え、振り返った。だが彼女の視界にそれらしき人物は映らなかったので気のせいかと風華の後を駆け足で付いていく。

 

 次の日、彼女はこの時感じた気配が気のせいではなかったのだと知る事になった。見る人は見られる人だったという訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉杏子と会ったの?」

 

「ええ、その時は私と暁美さんが間に入って彼女には退いてもらったけど」

 

 携帯にマミから呼び出しがあって、何事かと出向いた風華達の耳に入ったのは意外な知らせであった。隣町を縄張りとする魔法少女、佐倉杏子が使い魔を追い掛けていたさやかと接触し、いくらかの会話を経た後に戦闘に突入したのだという。

 

「あいつ……使い魔が人を襲って魔女になるのを待てって言ってたの。それで、私はそれが許せなくて……」

 

「佐倉杏子はイブ、あなたを捜しているようだったわ」

 

 そこまで聞いて、大体の事情は二人にも飲み込めた。

 

 恐らく彼女は先日のリターンマッチの為、イブを捜して見滝原市にやって来たのだろう。だが魔法少女として最高のパフォーマンスを発揮する為には出し惜しみ無く魔力を使える状態にする事、つまり大量のグリーフシードが必要となる。それで魔女狩りをしようとしていたらさやか達とぶつかったという所か。

 

「あいつ……凄く強くて、私じゃ歯が立たなかった……ほむらとマミさんがいてくれなかったら……」

 

 癒しの契約による高い回復力とマミに治癒魔法を掛けてもらった事でうっすらと腕に残るだけになった傷をさすりながら、さやかが言う。その声には悔しさが滲み出ていた。

 

「杏子は素質があってベテランだし、その上持っているグリーフシードの数にも余裕がある。だから消費を気兼ねすることなく、魔力を贅沢に使えるのさ」

 

 テーブルの上にちょこんと乗っていたキュゥべえが説明する。その説明を聞いている者の内、気付いた者はいなかったがほむらの目は尋常ではなく鋭かった。

 

「佐倉さんはちょっと乱暴だけど魔法少女になって長いし、上手く説明すれば協力してくれるかも知れないわ」

 

「そうね、彼女はワルプルギスの夜との戦いで、貴重な戦力になるわ」

 

 マミの提案した協力案には、ほむらも賛成票を投じる。一方、反対票を投じたのは、

 

「私は反対。あんな奴とチームを組むなんて……たとえ組めたとしても、絶対に問題起こすに決まってるよ」

 

 やはりさやかだった。これは無理からぬ所だと言える。彼女の先輩に当たるマミは一般人を守る為に魔法を使う、魔法少女としては少数派と言える部類であるし、そのマミの事をさやかは尊敬し、慕っている。当然、魔法少女としての行動原理も同じ方向を向いている。そんな彼女とある意味スタンダードな魔法少女である杏子とがぶつかれば、激突は必然であった。

 

「今居る仲間で戦力アップを図りたいならまどか、君が魔法少女になるのが一番だと思うな」

 

「え、私が?」

 

 キュゥべえのその提案に、ほむらの視線が先程よりもずっと鋭くなった。風華も、ごきりと指の関節をならす。いざという時はすぐに動けるように。

 

「君はこの中の誰よりも、と言うか今まで僕が見てきた誰よりも凄い素質を持っている。もし君が魔法少女になれば、杏子を引き入れるよりもずっと確実にワルプルギスの夜を倒せると思うけど?」

 

「わ、私は……」

 

「その必要は無い、そう言った筈よ、まどか」

 

「そうね、最後に決めるのは鹿目さん自身だけどキュゥべえ、今のあなたの言い方は少し誘導的だったわよ?」

 

 ほむらは相変わらずの強い口調で、マミは彼女よりはずっと穏やかに窘めるように言う。だが、同じ事を言っていても二人の間には大きな溝がある。持っている情報の差が、そこに現れていた。とは言えキュゥべえにとって「無理強いするのはルール違反」である為、この小動物は少なくともこの場ではまどかが魔法少女になればと口にする事は、もうなかった。

 

 そしてこんな煮詰まり気味だった場を締めたのは、イブだった。

 

「杏子さんが用があるのは僕のようですし、彼女の事は僕に任せるです」

 

 

 

 

 

 

 

 任せろとは言ったものの、肝心の杏子がどこにいるかイブは知らなかった。彼女としては同じ魔法少女なのだから、グリーフシードを集める為に魔女退治をしていればその内バッティングすると楽観的に考えていたが、こういう時に限ってそういう巡り会いは起きないもの。取り敢えず使い魔を何匹か狩った所で、ほむらが心当たりがあると言ってきた。

 

 そうして案内された先は、ゲームセンターだった。この町では一番大きなその施設は最新の筐体も置かれていて、隣町辺りから電車や車を使ってわざわざやって来る客も多いとの事だった。

 

 その店の一角で一際目立つダンスゲームの舞台の上で、佐倉杏子は踊っていた。彼女のステップは軽く、リズム感も半端ではない。真っ正面の一番大きな画面には、一度もミスが表示されていなかった。

 

 ちなみに注意書きには「プレイ中の飲食はご遠慮下さい」と書かれているが、杏子はそんなものガン無視で、葉巻のようにポッキーを咥えている。

 

「よう、そっちから出向いてくれるとは、決着を付ける気になったかい?」

 

 後ろに立った3人、イブ、ほむら、まどかに対して振り返る事はせず、踊りながら応対する。対する3人は、まどかだけがこういった場所に来慣れていないのだろう。落ち着いた様子のイブやほむらとは対照的に、きょろきょろと居心地悪そうにしていた。

 

 杏子がこの町に来た目的はイブへのリベンジであるが、今は目の前のゲームの方が優先事項らしかった。

 

「別にやるのは構わないですけど、でも一度は付いた勝負です」

 

「タダじゃあ()らねぇってことか?」

 

 イブの言葉は相当な上から目線であったが、しかし杏子も今回は自分が”挑戦者”であることを理解していた。

 

 その条件についてはほむらが説明する。

 

「二週間後、この町にワルプルギスの夜が来る」

 

「そいつを倒すのを手伝えってか?」

 

 ほむらが「その通りよ」と言いかけた所で、イブがもう一言付け加えた。

 

「僕とあなた、どちらが欠けても再試合は不可能、です」

 

 つまりは決着を付けたければワルプルギスの夜との戦いで自分を死なせるなと言っているのだ。勿論、杏子も死なない事は前提条件で。

 

「はん、やっすい挑発だねぇ。だがまあいい、乗ってやるよ」

 

「じゃあ……」

 

 ”協力してくれる”とそう思って、まどかが嬉しそうな声を上げる。だが、こっちから条件を出している以上、向こうも然り、であった。

 

「さやか、だっけ? あの青い奴がいるのならこの話は無かった事にしてもらうよ。あんなトーシロと一緒に戦ってたんじゃ、いつ足引っ張られるか分かったモンじゃない」

 

「えっ……」

 

 まどかは”魔女を倒す”という共通の目的を持つ同じ存在、魔法少女同士ならばよく話し合えば協力し合えると思っていただけに、その言葉はショックが大きかった。あるいはそんな言葉を言う事自体考えていなかったのかも知れない。

 

 ほむらはやれやれと息を吐いて、イブはまだ動きを見せない。

 

「あいつ、戦い方が全然なっちゃいなかった。キュゥべえからも聞いたけど契約したばっかなんだろ? 足手まといにしかならねぇよ、ンなトーシロは。仕舞いにゃ魔女に喰われる一般人を見殺しにするのか、なんて世迷い事を言い出す始末だし」

 

「そんな言い方ってないよ!! それに、だったらマミさんだって!!」

 

 まどかにとってさやかを罵倒する事は一度は自分も魔法少女になって共に戦おうと思ったマミをも、二人同時に侮辱する事でもあった。彼女にしては珍しく声を荒げるが、ほむらが遮るように手を伸ばして制する。

 

 この中では唯一人、一般人の彼女の言葉だったがそれでも杏子の中には幾ばくか納得の行く部分もあったらしい。言葉を続ける。

 

「……別に甘っちょろい理想を持ってたって良いんだよ。マミみたいにそいつを貫けるだけの強さがあれば。あのさやかって奴にはそれが無い。弱い奴が謳う理想ってさぁ……ムカつくんだよね……」

 

 それは一面の正論ではある。だからまどかもそれ以上の言葉には詰まってしまった。

 

 ほむらは「そこはこの2週間で私達が一人前に仕上げる」という言葉を用意していたが、その答えはありきたりでありそれだけでは杏子の心を動かす事は出来なかったろう。

 

 だから、イブはこう言ったのだ。

 

「確かに、杏子さんの言う事も尤も、なのですよ」

 

「え!?」

 

「な……?」

 

 自分達の側の人間である筈のイブの発言に、この時はまどかは勿論ほむらも思わず驚いた声を上げてしまった。が、イブの爆弾発言はここからが本番だった。

 

「分かりましたです。今日これからさやかさんの所に行って僕達のメンバーから外れるように言うです」

 

「イブちゃん!? 何言ってるの?」

 

「ちょっと……!!」

 

 自分の側の二人が上げる抗議の声にも、イブは取り合わない。杏子もこの反応は予想外だったのだろう。少し動揺したようで初めて画面に「miss」の文字が現れた。

 

「もし、嫌だって言った場合は?」

 

「その時は、僕が始末しますですよ」

 

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