勿論知らない人もウェルカムです。
HELLSHIP 第1話
20XX年、◯月△日。
某鎮守府に新たな艦娘がやって来た。
それは、奇妙な艦娘だった。
常に単独で行動し、他の艦娘達とは殆ど口をきかない。何となく不気味で、暗い雰囲気が漂っていたという。
最初の事件は起こった。
鎮守府においてほぼ放置状態だったある艦娘(自称「艦隊のアイドル」とのこと)が、勝手に解体されていたのだ。
それからというもの、立て続けに戦力として使われていない艦娘が解体された。10日間の間に次々と、10人の艦娘が消えた。
大して支障は無かった(むしろありがたかった?)にしろ、提督はこの事態を重く見て、その「怪しげな艦娘」に問いただした。
すると…
艦娘…いや、"そいつ"は、提督に抗って艤装を展開した。
それは、黒く、禍々しいものだった。
「お、お前はッ…!!!」
直後、そいつは辺りにいた提督と、秘書艦の扶桑をその艤装で薙ぎ払った。
その時、様子を覗いていた扶桑の妹艦、山城の目は、確かにそいつを捉えていた。
「深海棲艦…軽巡棲鬼!?」
それから、2日経ったある日の暮れ方。鎮守府では特務機関が捜査にあたっていた。
艦娘と深海棲艦によって保たれている、この世界の秩序を乱そうとする者達を葬り去る為の、決して表舞台に姿を現さない裏の組織。
名を「HELLSHIP」。
「深海棲艦…おそらく軽巡棲鬼です!私はこの目で見ました!提督と、姉様に向けて展開した、あの艤装を!」
山城は、HELLSHIP機関の一員である、白い髪を不自然に片方だけ伸ばし、常に片目を瞑らせ、首元には季節外れのゴツいマフラーを巻いた人物と話をしていた。
黒い上着を羽織り、まるで世を偲んでいるかのような立ち姿である。
「…既に鎮守府構内に対深海棲艦のエキスパートを送っています。恐らく1時間も経たない内にケリがつくでしょう。」
HELLSHIPのマフラーの彼女は表情を変えずに言った。
「対深海棲艦のエキスパートって…ソイツ、本当に大丈夫なの?」
目の前の人物でさえこの様である。そんな奴等の、しかも対深海棲艦のエキスパートである。恐らく、並の人間ではないだろう。色んな意味で。
「"マスター"、状況はどうですか?」
マフラーの女性は無線で誰かと連絡を取る。彼女の言う「対深海棲艦のエキスパート」だ。
鎮守府構内は、真っ暗で静まりかえっていた。HELLSHIP機関が捜査に入るということで、艦娘達は皆外に出ている。
そして、その鎮守府構内に、目標-ターゲット-はいるのだ。
「…あぁ、お前か。今の所静かだ。異常は無い。」
仲間の無線に短く応える。
「…今日は本当に静かだ…いい夜だ。…楽しくなりそうだ」
ふと。
前方の闇の中に、青い光がちらついた。そしてそれに近づくにつれ、闇に人型のシルエットが浮かび上がる。
「…見つけた」
目標は此方に気付き、ニヤリと笑う。
「アレ…アンタハ…?」
「私の名は…これといって無いから、まぁ"Y"とでも呼んでくれ」
「ミンナ、私ニオビエテ逃ゲテイッタノヨ…Yッテイッタカシラ、アンタハ逃ゲナイノ?」
「私は貴女みたいなゴミ共を始末する為に此処に来たからねぇ…"ゴミ処理係"として」
「始末!?アンタガ?私ヲ?フフ…フフフ…」
「………」
「沈メ」
直後、目標はその黒く禍々しい艤装から砲撃を浴びせる。目標からの集中砲火を喰らい、黒い上着が破け、血が噴き出る。
「………」
「アハハ!所詮口ダケカ!」
しかし、倒れない。
…と同時に、心の中で何かしらの"覚醒"を感じる。今迄、何度も経験してきたこの感覚。
「その程度の攻撃じゃ…『深海棲艦』は沈まんさ」
「ナッ…!?」
被っていた帽子を取る。ほんのりピンクがかった、白く長い髪が現れる。
羽織っていた上着を脱ぐ。黒い服と腕と脚の装甲、純白の肌が現れる。
「何故…何故、深海棲艦ガ…ソチラ側ニ味方ヲ!」
「お前らみたいな調子乗りが好き勝手暴れられたら困るんだ…艦娘全滅させたりしたらこの世界は終わりだ…先の見えん奴め。
それに私を…私達を、そこら辺の深海棲艦と一緒にしないで」
「コノ…裏切者ドモメッ!」
「よく言われる」
そうこうしてる内に、使い込まれた長い弓を取り出した。そして目標に向けて、いかにも禍々しく、ドス黒い弓矢を構える。
「邪悪エネルギーの弓矢だ…喰らえば鬼級でも一発だ」
「クッ…!」
目標は身をひるがえして逃げる。弓を構えつつ、後を追う。
「逃がさない」
懐から髑髏頭のコウモリを数匹出現させ、目標を追跡。
「何者ナンダ…アンタハ…ッ!」
目標は前方の窓ガラスを突き破って、外に飛び出した。
「所詮…こんなものか…」
ガラスの割れた音に、鎮守府の外にいた艦娘達はどよめいた。
直後、黒い影が窓から飛び出してくる。深海棲艦だ。
深海棲艦は地面に降り立ち、側に居た銀髪の艦娘を捕まえる。
「動クナ、ゴミ処理屋!ソコマデダッ!」
深海棲艦は自分の飛び降りた窓の方を見て言い放った。奥にいるので正面からしか見えない構図だが、視線の先にその"ゴミ処理屋"が居るのだろう。
"ゴミ処理屋"と呼ばれた彼女は、今にも矢を放ちそうな感じで、眼下の深海棲艦とそれが盾にした銀髪の艦娘を見下ろす。
そして、恐怖で震えているその艦娘に向かって、こう言った。
「貴女は…予備艦?」
「へっ…!?」
急に質問され、艦娘は困惑する。
「予備艦かと訊いている。答えて。」
「何ヲ言ッテ…」
「はっ…はいっ!」
それからは一瞬だった。窓の奥から放たれた黒く鋭い何かが、艦娘もろとも深海棲艦の身体を射抜いた。
「カハア…ァッ…」
「塵と成れ」
深海棲艦の身体は沢山のコウモリとなって、夜空に消えていった。
「N、後の処理を頼む」
「解りました、マスター」
無線を受けたマフラーの女性は、肺を射抜かれ倒れた艦娘を抱える。
「すみませんが、この子をこちらで預かってよろしいでしょうか…こうしているうちに間も無く彼女は死にます」
その艦娘は正規空母、翔鶴といった。その鎮守府には偶々2隻居て、これは即ち弱い方、戦力でない予備艦だった。
「むぅ…まぁいいが…しかし、どうやって生かすのだ?」
恐らくその鎮守府で一番権力を持っているであろう、戦艦の長門が応える。
「…まぁ、なんとかしてみせますよ。では、仕事は終わったので私達はこれにて。私達のことはくれぐれも内密にお願いします」
「あぁ…」
そうして、HELLSHIP機関は撤収していった
「何だったのよ…あいつら」
「さぁな…世の中には、変わった人達もいる。まだまだ世の中謎だらけだ、胸が熱いな…」
「…ちょっと変わってる、どころじゃないと思うけど…」
こうして、夜は更けていった。
話の元ネタ:HELLSING(漫画)第1話「VAMPIRE HUNTER」