新訳・ファイアーエムブレム新暗黒竜と光の剣F 作:朝比奈たいら
オルバニー城の会議室で、ベンソンは治療を受けていた。
彼は呼吸を乱しながら杖をついている。
落馬を防ぐ為にアベルの手槍を片足で受け止めた為、杖無しでは歩く事も困難であった。
幸いな事にベンソン軍にはシスターが居た為治療は出来たが、痛みはどうしようもない。
城へ帰還するまでは気合いで無理に動かしていた為、傷口が上手く塞がっていなかった。
この程度の傷でへこたれるベンソンではないが、シスターからは絶対安静と言われている。
「ちっ……アリティア軍の動きはどうか?」
「はっ、未だ橋から見えた形跡もございませぬ」
副官が言いにくそうな顔をする。
見えた形跡が無い、というのは斥候も敵の位置を確認出来ていないという意味でもある。
天馬騎士が居ない自分の部隊を、ベンソンは改めて呪った。
最もそれは部下を責めるというより、自分の不甲斐なさを嫌う感覚に近い。
「橋の防備は完璧なのだな?」
「それは断言出来ます。
アーマーナイト、及び弓隊によって固めております故、ある程度持ちこたえる事は可能です」
「持ちこたえる、か。
私は勝つつもりで臨んだのだがな。
東の歩兵隊も、もはや生きてはいまい。
全ては――」
ベンソンは思わず手に力が入り、勢い良く杖を圧し折ってしまう。
支えが無くなった事で体勢を崩し、何とか近くの椅子にしがみついた。
みっともない体勢のまま、怒りに喚く。
「全てはッ! マチスがわるい!」
「そんな子供みたいな喋り方をなされますな。
まだ騎馬隊の半数以上は健在です。
敵を発見し次第、弓騎兵(ホースメン)も合わせて野戦を挑みましょう」
「ああ……ああ……そうだ、マケドニアとは奴隷から成りあがった国。
我らマケドニア貴族、マケドニア騎士も並の覚悟で戦ってはいない。
マケドニア奴隷出身騎兵(マムルーク)が、竜騎士に劣らない事を証明しなければ……」
ベンソンはそう言って、卓上の地図を見ながら戦術を考える。
だが敵の位置、動きを見ずに戦術も戦略も練れはしなかった。
どうしたものかと悩んでいる中、伝令が会議室の扉を吹き飛ばしそうな勢いで開ける。
「で、伝令!」
「静かにしろ、私の傷に響くくらいならば構わんが、慌てていては兵達の士気に関わる」
「慌てる様な報告であります! アリティア軍が東より接近。
この城の屋上から見える位置です!」
「何故その様な話をでかい声で報告するのだ、伏せて話せ!
……くそっ、まずいな、それほど近くては布陣が間に合わん。
騎兵は野戦でこそ輝けるのだぞ!」
ベンソンは足の痛みに苦しみながらも、籠城戦の準備を命じた。
今から休息中の兵達を全員叩き起こして、出撃準備を整えて、馬に乗って城外へ出る。
敵が目視出来るほどの距離に居るのにそんな暇があるわけがない。
しかし騎兵で籠城戦をするなどという戦い方はベンソンは知らないし、
そんな事はあってはならないという常識を持っていた。
されど今に至って、そんな事はどうしようもない話であった。
「全軍、全力を以って敵城を攻略する!
時間をかければ南に居る部隊が合流しにやってくるだろう。
一気に敵の本隊を撃破するんだ!」
マルスの号令で、アリティア軍はオルバニー城への突撃を敢行した。
東の町から一直線に城へ向かったアリティア軍。
ベンソン軍の見張りがそれを発見するも、目視出来る位置にまでやってきたアリティアは
速度を落とさずに城のすぐ傍まで進撃していた。
ベンソン軍は慌てて籠城戦に移るも、兵達には多大な混乱が生じた。
騎兵は基本的に、平坦な地形で敵の側面や背面に回り込み、突撃をかける兵科である。
決して城壁の上から弓を射る兵科ではない。
よって、籠城戦をしろ、などと言われても彼らは専門家ではなく、混乱も当然であった。
嗜みとして徒歩剣術や弓術などの訓練を施された騎士ならまだしも、
馬に乗って戦う事を主目的とした騎兵隊は単なる馬を欠いた兵であった。
本領を発揮出来ず、なおかつ突然の奇襲に混乱するベンソン隊は、
アリティア軍が城門の前にやってきてもろくな反撃が行えないでいた。
それどころか、先の戦いでの敗戦による士気低下も合わさって脱走兵の処理に追われる事態が起こる。
アリティア軍は遠征軍の為大した攻城兵器を持っていなかったが、
デビルマウンテンを抜ける際にサジマジバーツの木こり達が木を切り、簡易的な破城槌を作り上げていた。
オルバニー城はさほど大規模な城ではなく、数十分で正門は突破された。
「突入! 突入!」
城門は開かれ、アリティア騎士団が先陣を切って城内へ突撃する。
この時ベンソン騎兵隊は半数以上が下馬していた。
防衛戦の為、剣や槍を持った騎兵ではなく城壁の上から弓を射かける弓兵が求められていたのだ。
しかし門が突破されると、弓や弩を持って城壁に上がろうとしていた兵達は蹂躙された。
「アーマーナイト隊は小隊ごとに隊列を組み、敵騎兵に当たれ」
屋外とはいえ、平野より狭い城内区画では騎士隊よりもドーガ達アーマーナイト隊の出番である。
槍を構えたアーマーナイト隊は、ベンソン騎兵隊に正面からぶち当たった。
長槍の槍衾が、投擲された手槍が馬を貫き、次々と数を減らす敵騎兵。
されど敵も正騎士が中心となり、兵卒をまとめて反撃を行う。
前線で槍を振るっていたドーガは、甲冑に身を包んだ重装備のソシアルナイトと対峙する。
初撃を受け止めてすぐに、相手が単なる徴兵された農民の騎兵ではなく、
練度の高い正騎士である事が分かった。
防御ではドーガの鎧と大盾が勝るも、敵騎士は馬上から槍を次々と繰り出す。
戦闘において高所を取られるというのは、戦術的にも戦略的にも痛いところだ。
ドーガは落馬させようと馬を狙うも、騎士の槍と馬術で弾かれる。
敵騎士は両手で勢いよく頭上に槍を振りかぶり、ヒュンヒュンと回転を加えてドーガの喉下を狙った。
咄嗟に大盾で槍を受け流すドーガ。
顔の真横で火花が散り、金属が擦れ合う耳障りな音が鼓膜に響く。
相手は両手で突きを繰り出した為、身体はがら空きだった。
ドーガは槍を騎士の横っ腹目掛けて振り抜く。
そしてそのまま槍を捨てて腰の剣を抜刀し、馬から叩き落とされた騎士の首を全力で突き刺した。
「……手強い」
やはり海賊や山賊とは違うな、と思う。
ドーガは多くを語る性格ではない。
だとしても、今の自分ならばアベルやカインと会話が弾むのではないかと、そう思えてしまう。
アーマーナイト隊を預かる身として今以上に鍛錬に励まねばと、ドーガは自分を律する。
このベンソン軍とて、精鋭でも何でもない軍団だというのは理解していた。
だからこそ、ドーガは驕らずに黙々と戦況を進めて行くのであった。
ドーガ達がある程度敵に打撃を与えると、城壁上の弓兵をあらかた掃討したゴードン達や魔道士マリク、
その他歩兵隊もベンソン騎兵に止めを刺しにかかった。
残った騎兵達は果敢に抵抗したが、アリティア歩兵及び弓兵の集中攻撃を受けると劣勢は覆せなかった。
「オグマ、僕と一緒に来てくれ!」
混戦の中、十名ほどの近衛に守られたマルスが叫ぶ。
その先には、オグマとナバールが次々と肉の土嚢を積み上げているのが見えた。
剣を一つ振るう度に、赤い山が巨大化してゆく。
二名ほどを一薙ぎにしながら、オグマが返す。
「今忙しいんだ!」
「もう大部分が居館内に入り込んでいる。
僕と一緒に、敵将の所へ来てくれ!」
敢えて大きな声で言うマルス。
オグマ達と戦っていたベンソン兵が、明らかに動揺した。
大部分が、というのはやや誇張であったが、マルスはそれで敵が戦意を失ってくれれば良いと考えていた。
どちらにせよ、マルスは自ら敵将の下へ向かうつもりである。
「しゃーねぇ、後は頼んだぜナバール」
「貴様に言われるまでもない」
「可愛くねぇの……」
オグマはイーッと歯を見せながら、マルスに付いてゆく。
一人減ったはずなのだが、ベンソン兵達はまるで勝機が見出せなかった。
やがて一人二人と武器を捨てて降参する者が現れ、
ナバールは手を上げて自分を見つめる兵達を他の所へ行く様顎を向けて示した。
彼は降伏した敵兵を連れて本隊へ報告などする性格ではない。
もっと興味深い敵は居ないのかと、ナバールは屋外で剣を振るい続けた。
しかしベンソン騎兵隊でナバールと数合以上打ち合える人物は、
既にほとんどが戦死するか投降するかしていたのだった。
城内部に突入したマルス達は、廊下で出くわした敵兵を斬り捨てながら進む。
曲がり角から一人現れる度にマルスは降伏を促すものの、
ほとんどがマルスを総大将、もしくは貴族の指揮官と見て攻撃してきた。
そういった敵は護衛役のオグマに一太刀で斬られる。
何度かそれを繰り返し、オグマは溜息を吐いた。
「王子様よ、いちいち立ち止まってちゃあキリがねぇぜ」
「オグマ」
「解ってるよ、それでもやりたいんだろう?」
「もう勝敗は決した。
僕だって戦争をしているつもりだ。
だけど戦わなくていい時は戦わなくていい」
「ま、いつものお前さんだあな」
マルス達は手当たり次第に、敵の総大将が居そうな場所を巡る。
本城でもないのに玉座の間は無いから、それに相当する広間を探した。
しかし広間に敵将はおらず、片っ端から扉を開けて回る。
開錠には本職であるジュリアンを連れてきていた。
その過程で、マチスの侍女達を発見し保護する。
当然ながら、マルスは略奪を禁じている。
例え高価な荷物を持って逃亡を図るベンソン軍の侍女などの女性が居ても無視した。
そういった女達は一部の心無いアリティア兵によって捕らえられ、
略奪された後に殺害される事もあったが、
元々この城には女性は少なかったし、
無法を犯したアリティア兵は憲兵隊によってその場で首を刎ねられた。
残念な事に悪行を犯した者の大半は元サムシアンの兵であり、
後にマルスは自分の行為の無意味さを嘆いたという。
どれくらい城内を駆け回っただろうか。
ジュリアンが鍵のかかっていない扉を開けると、
そこには数名の近衛兵を背後に整列させたベンソンが会議室らしき卓の上座で堂々と待ち構えていた。
ベンソンはマルスを見ると、真顔でそれを迎える。
「よくぞいらっしゃった。
アリティア王国王子、マルス・ローウェル・アリティアとお見受けする」
「はい、ベンソン卿。
アリティアは即座に戦闘を停止する準備があります。
どうか、降伏願いたい」
「私が部下達に徹底抗戦を行えと命じても、もはや意味の無い事です」
「ならば――」
「しかし……私自身が、そうではない」
ベンソンは机を蹴とばして、戦場を造る。
長柄のナイトキラーは屋内戦闘に向かないので剣を抜いた。
後ろの近衛達は抜刀せず、黙って整列したままである。
「一騎討ちを所望する。
私が勝っても、部下は降伏させると約束しよう」
「馬鹿な……そんな事に何の意味があるのです!」
「もう後ろ指を指されて生きるのは嫌なのだよ!」
マルスに突きかかるベンソン。
刃には勢いは無く、割って入ったオグマがそれを撥ね飛ばし、
無防備となったベンソンに剣を振りかぶった。
「止めろ、オグマ!」
怒鳴られた、マルスに、おれが。
オグマはタリスにおいてマルスの剣術の師であったが、
オグマがマルスを怒鳴る事はあっても逆は無かった。
多少の事であれば剣をそのまま振り抜くつもりだったが、驚いて思わず手を止めてしまう。
マルスは声音と同じ、真剣な眼差しをしていた。
「ベンソン卿、仮に僕が一騎討ちに応じたとして、その足で戦うのは公正じゃありません。
僕を憎んでくれて構わない。
しかし、今は……今は戦いを止めていただけませんか」
ベンソンは肩を小さく震わせる。
包帯の上にグリーヴを装着している為、見た目ではバレないはずだ。
しかしマルスはベンソンが負傷したと報告を受けていたし、
机を蹴っ飛ばした時に彼が顔を顰めるのを確かに見ていた。
ベンソンは理解する。
姑息にも油を使い、マチスを裏切らせたアリティアは卑怯者の集団だと思い込んでいた。
しかし目の前の少年は、自分達を弓矢で討ち取る事もせずに降伏を促す。
その場に座り込んだベンソンは、息を吐いて悔しそうな顔をした。
「……全軍、ただちに戦闘を停止して降伏する様に伝えろ」
「了解致しました」
すぐさま副官と近衛が城内に触れ回りに向かう。
後に残されたベンソンは、あぐらをかいたままマルスを見上げる。
その目が酷く悲しそうで、マルスは目の前の敵将が一体どんな人物なのか興味を持った。
「何故、決断を?」
「そちらから言っておいてよく言う。
私はマケドニア貴族だ、生半可な竜騎士隊よりも矜持はあると認識している」
「ありがとう……ありがとう、ございます。
これで少しでも死人を減らせる事が出来れば……」
マルスが本気で安堵の表情を見せた為、ベンソンは調子が狂った。
ベンソンは思う。
もしこれが演技で無かったら、この少年はミネルバ様と気が合うのだろう、と。
ここに至り、アリティア軍とベンソン軍の戦いは幕を閉じた。
この戦いは両者にとって、必要の無い戦いだったのではないか。
マルスもベンソンも、それを今更口には出来なかった。
「さて、マケドニア軍の処遇ですが……」
占領した城の会議室で、モロドフが発言する。
部屋にはアリティア軍幹部格が揃い、ベンソンとマチスも同席していた。
戦闘の事後処理と並行して、マケドニア軍及びベンソンの身柄について話し合うのである。
「まず、ベンソン卿は捕虜としてオレルアン軍に引き渡します故、ご同行願う」
「……是非も無い」
ベンソンが眉間にシワを寄せたまま、口だけを動かす。
モロドフとしては、ベンソンはオレルアン軍と合流する際の土産になると考えていた。
アリティアの立場を考えれば、手土産は多いに越した事はない。
自分達の捕虜にして身代金をせしめるという案もあったが、今は金よりも政治的立場が重要であった。
この際だから降伏したマケドニア兵達も引き渡そうと思う。
しかし、マルスが待ったをかけた。
「いや、じいや、ベンソン卿とマケドニア兵はこのままこの土地を統治してもらおう」
「な、何をおっしゃるのです王子!?」
その発言には他の面子もざわついたが、マルスとて偽善のみで動く人間ではない。
彼は彼なりに考えての言葉である。
「もしもベンソン卿を捕らえてしまえば、この土地一帯を守る者が居なくなってしまう。
この戦争で野盗の類も増えているし、
第一に僕達アリティア軍にはこの町に残していくだけの戦力が無い」
それを言われると、モロドフは辛かった。
現状のアリティア軍は義勇兵を含めても数千に満たない。
これを城の防備と治安維持に回せば更に少なくなる。
オレルアンの軍勢と合流した時、数百人しかいませんでしたでは国家としての立場が無い。
傭兵団や村一つの義勇軍ではなく、宮廷騎士団を含む王子の軍勢である。
決して侮られるわけにはいかないのだ。
「とりあえず、民に無法な真似はしないという誓約書を書いてもらって、
ベンソン卿は「負けはしたがアリティアは行軍を急いでいた為解放された」
という態にしておけば良いんじゃないかと、僕は思う」
「そのまんまですな」
「それが駄目なら……」
マルスは座っていた椅子を引っ張って、ベンソンの近くまで行く。
対面に座り直すと、両手を膝に当てて頭を下げた。
「ベンソン卿、どうか我々の仲間に加わってくれないだろうか」
「なかっ……!?」
これを聞いたベンソンは、驚きのあまりに声を失う。
辺りを見回すと、「また始まってしまった」と言わんばかりに目を覆っている幹部達の表情が見えた。
それを見て、この少年は本気で口にしているのだと理解する。
控えめに言って、正気の沙汰ではない。
少なくとも戦争という行為の当事者である者が、立場も感情も忘れて手を取り合うなどありえない。
だからこそベンソンは理解出来なかったし、理屈を納得出来なかったし、賛成も出来なかった。
自分は赤髪ではないにせよ、マケドニアで育ったマケドニア人である。
そう考えているベンソンがこの申し入れを呑めるはずがない。
たっぷり一分ほど黙り込んだベンソンは、俯きがちだった顔を上げる。
「私はマケドニアの将である」
「知っている」
「ならばそれは侮辱だ。
調略、勧誘に値する人材と思われているのならばそれはよし。
だが祖国を裏切る者とは思われたくない」
「祖国というのは、ドルーアの事ではないでしょう?」
マルスが大真面目な顔で言ったので、ベンソンは思わず笑いがこみ上げてくる。
これが皮肉や論破のつもりで言っているのならば、ベンソンはこの場で二度と口を開く事は無かっただろう、
しかしマルスの言葉が純粋な本音だと判ると、この王子はなんと若々しい男なのだと面白くなってきた。
その笑いは半分が嘲笑で、半分が懐かしさであった。
元来子供とは理想主義者であるべきで、ベンソンもその例には漏れなかった。
ただ歳と共に現実の醜さと素晴らしさを知ったのだ。
「なるほど! マルス王子、私はあなたの事を誤解していた。
どこぞの阿呆をたぶらかし、姑息な作戦ばかり考える人物だと。
しかしそうではない、あなたはこの世の中において異端である、まともな人間だ」
会議に同席していたマチスが、「俺悪くない」と小さくぼやいた。
マルスはそれを聞かなかった事にして、ベンソンの評価を嬉しく思う。
「そうあれかしと、戒めは解きたくありません」
「私はそうではない。
このベンソンは、あなたと同じ道を進める貴族ではない。
私が私であり、アリティアはあなただとすれば」
マルスは目を伏せる。
「残念です……だが僕は、手を取り合おうという行為を諦めたくない」
「平和を願う心は天晴れなるも、戦場では想いが実る事露の如し。
我が国のミネルバ王女も、そうであります」
「ミネルバ王女……?」
「オレルアン進駐軍の司令をやっておられるが、はてさてどうなるやら。
新しく王となられたミシェイル殿下は、王女に期待しておられる様子だ」
ベンソンの口調は皮肉めいたものであった為、マルス達にも理解出来た。
二年間タリスに居たアリティア軍は各国の情報を噂程度にしか確認出来ていなかったが、
ミシェイルが父親を殺して国を乗っ取り、ミネルバはそれに反対していたという事は知っていた。
ベンソンの言葉は、王族同士の不和を指しているのだと。
マルスは神妙に頷く。
「そうですか……手強い相手となりましょう。
平和な時代に出会えていれば良かったのですが」
「マルス王子、あなた方も同じ話ですよ、我々にとっては」
「ええ、本当に……」
こうして、マルス達は城よりも価値のある情報を手に入れた。
事後処理の終わったアリティア軍は、数日間の休息の後オルバニー城を立ってオレルアン本城へ向かう。
ベンソン軍は大部分の武具や物資を取り上げられた後、城に残された。
その後ベンソンは部隊の再建と、周辺の統治に専念する。
しばらく後にミシェイル配下の兵が状況確認に来て、ベンソンはこう返した。
「我々は善戦したし、マチス隊の騎士達も勇敢に戦った。
我が軍が敗北したのは、そうでない奴が居たからだ。
たった一人、マチスという裏切り者のせいだ」
余談であるが、本国に帰還したマチス隊の兵は領民共々粛清を免れたという――