※ 過度な期待は……え? しつこい?
「お兄ちゃん、まだ起きてる?」
『くっ、収まれ僕の右腕!! っと、お前か。我が妹よ、どうした?』
「ごめんねこんな時間に。今日のこと、謝っておこうと思って」
『フッ、人間は常に
「どうしても外せない用事があったから、お兄ちゃんにおいしいご飯作ってあげられなくて
本当にごめんね」
『気にするな。
「ううん、気にするよ」
「だってお兄ちゃん、いつも私の晩ご飯楽しみにしてくれてたんだもん」
『我が妹の献上品だからな。食わぬわけにはいかないだろう』
「作りおきも考えたんだけど、お兄ちゃんにはやっぱり作りたての料理食べてもらいたかったから」
『ほぅ、殊勝な心がけだ』
「でも大丈夫、明日からはちゃんと作るからね」
「別にお兄ちゃんの事嫌いになったとかそういうわけじゃないよ。ほんとだよ?」
『ククク、楽しみにしているぞ』
「どっちかって言うと」
『ん?』
「ウフフッ! ううん、何でもない」
『何だ? まさか前世の記憶が蘇ったのか!?』
「何も言ってないよ」
『何!? では幻聴!? それとも『奴ら』の遠隔精神攻撃か!?』
「本当に何でもないから」
『その安易な考えがいけないんだ!!
僕は『奴ら』に命を狙われているんだぞ!?』
「あっ、そうだ、お昼のお弁当はどうだった?」
『くそっ、奴らは一体どこから……ん? 弁当?』
「いつもと、味付けを変えてみたんだけど」
『なるほど。甘味が0.3%増えて苦味と渋さが0.15%ずつ落ちていたのはそのせいだったか。
悪くはなかったぞ』
「そっか。良かった」
「口に合わなかったらどうしようって思ってたんだけど、これで一安心ね」
『しかし、あれだけの微調整、相当苦労しただろう』
「そんなの気にしなくっていいよ!」
「家族なんだから。ね?」
『……ああ。この世界では、家族はお前だ』
「料理とか、洗濯とか、あたしの取り柄ってそれくらいしか無いし」
『気にする事は無い。ただ、居るだけでも良い』
「それに、お兄ちゃんはいつも私の料理をおいしそうに食べてくれるんだもの。
あたしだって頑張っちゃうよ!」
『……こういう平和な世界も悪くは無い、か』
「ところでお兄ちゃん」
「さっき洗濯しようとして見つけたんだけど」
『選択? 何のだ?』
「このハンカチ、お兄ちゃんのじゃないよね」
『何っ!? これはっ!!』
「誰の?」
『
くっ、奴らはやっぱりすぐ近くに居たのか!!』
「ああ分かった! 綾瀬さんのハンカチでしょ?」
『何っ!? あいつの!? そうなのか!?』
「匂いで分かるもん」
『くっ、奴が刺客だったのかっ!
前世で『
「それで、どうしてお兄ちゃんが持ってるの?」
『そんなの僕が訊きたい。いつのまに入れられたんだ?
まさか、すれ違いざまに切りつけられたあの時か!?』
「えっ!? お兄ちゃん怪我したの!?」
『ん? ああ。
「その時に借りたって、怪我は大丈夫なの!?」
『幸い、実体が損傷を負ったわけではなかったからな。前世から引き継いだ魔力を使って復活した』
「そっか……大したことなくて良かった」
「あのハンカチに付いてた血、お兄ちゃんのだったんだ……」
『我が体内を駆け巡る
「ちょっと勿体ない事したな」
『?』
「こんな事なら、血のついた部分だけ切り取ってから捨てればよかった」
『何を言っている』
「あ、ううん、何でもないよ!」
「ただの独り言だから」
『ふむ、それなら良い。
「そういえば、最近お兄ちゃん、帰りが遅いよね……」
「図書室で勉強?」
『勉強ではない。一般人に溶け込む為の擬装だ。
最近は綾瀬を利用させてもらっていたが……』
「ああ、あの大人しそうなクラスメイトの人でしょ? 知ってる」
「でもあの人って大人しいって言うより暗いよね!」
『いや、奴の前世はおそらく
強力な光属性魔法の使い手だ。暗くは無い』
「あんな人と話してたら、お兄ちゃんまで暗い性格になっちゃうよ?」
『……そうだな。この世界に比べたらあの前世は暗すぎた……』
「お兄ちゃん、昔はあたしの話ちゃんと聞いてくれてたのに……」
「最近はあまり聞いてくれないよね……」
「それに、あたしともあそんでくれなくなったし」
「学校に行くのも綾瀬さんと一緒に行こうって言うし……」
『……すまないな。前世の記憶の無いお前を、この戦いに巻き込みたく無かったんだ』
『だから、悪意があってお前をのけ者にしているわけでは……』
「あんな人っ!!」
「どうせお兄ちゃんの事何も分かってないんだから!!」
「お兄ちゃんの事を世界で一番よく分かってるのはあたしなの!!」
「他の誰でもないあたし!!」
『落ち着け、我が妹よ。
お前とは前世からの付き合いだ。そんな事はよく分かってる。今更言う事じゃないだろう?』
「ごめん、怒鳴っちゃって……」
「お兄ちゃんがそういう所で鈍いのは昔からだもんね。分かってるよ」
『鈍い……か。かつては僕は『
今ではこのザマか』
「それはそうと、今日の晩ご飯どうしたの?」
『人間社会に溶け込む為に外食をしようとした』
「そっか、外食したんだ」
「お金渡しとけばよかったね」
『そう、『金』。まったく、何故人間はこんな鉄くずに価値を見出すのか』
「それで、1人でご飯食べたの?」
『そう思うか?』
「ふーん……」
「1人で食べにいったんだ……」
『いや、だから……』
「やっぱりあの女の匂いがする」
「お兄ちゃんの嘘つき!!」
「ねぇ、どうしてそんな嘘つくの?」
『あのな、
「お兄ちゃん、いままであたしに嘘吐いたこと無かったのに!!」
『……うろついてたら綾瀬が飯をだな』
「そっかぁ、やっぱり綾瀬さんの所に行ってたんだぁ」
「へえぇ……手料理食べさせてもらったの?」
『ああ。人間社会に溶け込む良い訓練になった』
「それは良かったねぇっ!!」
バキッ
『ぐはっ!! なっ、僕がただの打撃で傷を負うだと!?』
「お兄ちゃんは優しくて格好良くて」
「でも、ちょっと雰囲気に流されやすい所があるのは分かってた」
『おかしい、魔力が、動かない!?』
「でも、お兄ちゃんはきっといつか、絶対あたしの気持ちを分かってくれるって思ってたから……」
「ずっと我慢してたんだよ!?」
『くそっ、こんな時に『奴ら』に襲われたら……』
「それなのに……」
「あたしに隠れて浮気ってどういう事!?」
「信じられない!!」
『くそっ、僕だって信じたくない!!』
「やっぱりあの女がいけないのね!?」
「幼馴染とか言ってお兄ちゃんに擦り寄ってくるけど、結局は赤の他人じゃない!」
『いや、奴がもし『
「あんな奴にはお兄ちゃんは渡さない……渡すもんですか!!」
「たとえ幽霊になって出てきても、また始末すれば良いんだもんね……」
『何? どういう意味だ?』
「ん? どういう意味って……」
「そのままの意味に決まってるじゃない!」
「お兄ちゃんに擦り寄ってくる意地汚い女どもは、
みんなもうこの世に居ないのよ……?」
『……そうか。あいつが輪廻の環に還ったか……』
「ほら! 私の手嗅いでみて?」
「ちゃんと綺麗にして来たから、あいつらの臭い全然しないでしょ!?」
『匂いがしない……?
まさかお前、倒した時に『
「そうよ? 今日お兄ちゃんの晩ご飯を作れなかったのは、
邪魔な女を片付けてきたから」
『『
「だって……
お兄ちゃんにはあんなの要らないもん」
「お兄ちゃんの側にあんなのが居たらお兄ちゃんが腐っちゃうわ!」
『……まさか、天使力がここ一帯に充満しているのか? それはつまり……』
「お兄ちゃんを守れるのはあたしだけ……」
「お兄ちゃんはあたしだけ見てれば良いの!!」
「それが最高の幸せなんだから……」
『……すまない。どうやら僕はここまでのようだ……』
「……どうして?」
「どうしてそんな事言うの!?」
「お兄ちゃんはそんなこと言わない!!」
「あたしを傷つけるようなこと絶対に言わないもん!!」
「そんなのお兄ちゃんじゃない!!」
『この世界では、お前の兄で居たかった。でも、もう……時間が無いんだ』
『並の異能者の
「ああそっか。あいつの料理食べたから、きっと毒されちゃってるんだ」
『がはっ!! く、暴走が、始まっているっ!!』
「だったら早くそれを取り除かないと」
『いや、取り除けるようなものではない!』
「ああ、でも料理を食べたって事は、
口の中もあいつに毒されてるんだよね!?」
『そう、体の中が壊れて、恐ろしい何かが出てくる、そんな、がはっ!!』
「食道も、胃の中も、内臓がどんどんあいつに毒されていくんだ!!」
『ぼ、暴走を止める手段は、ただ、一つ。
僕を……倒して、
「じゃあ、あたしが綺麗にしてあげなくちゃね」
(……そう、それで良い。
僕が消える事でお前が助かるなら……
……ハハッ、『
……この気持ち、悪くは……無い。
最後に……伝えなければ……
僕が、護った命へ……)
あり が と う