滅びた世界で銃を持つ少女 ー科学と魔法の融合世界ー 作:鈴水
シュラは酒場に居た。
飲んでいるのはお酒ではなく、ミルク。
酒場の店主には酒を頼まないから嫌な顔をされたが、前払いで多めにお金を渡すと何も言わなくなった。
特に目的がある訳じゃない。
今は昼間で、それでも酒場にはそれなりの数のお客がいる。
誰もが戦争で落ち延びてここまでやって来た者達ばかり。
荒れている者は故郷を失ったか、お先が真っ暗という者達だろう。
シュラは何か面白いことが無いかなと考えつつも、やはりミルクを飲んでいる。
今の世の中で、信じられるものなど何もないだろう。
お金がたくさんあったって、何も買えない地域は存在するし、腕っぷしが強くないと生き残れない場所もある。
極東の日本なんかは戦争には一切参加せず、専守防衛を抱えた科学の国。
あそこなんかは、今も豊かさを残しているが、移民の問題に悩まされている。
海を挟んだ向かいの側の大陸と、その反対の大陸は見渡す限りの焼け野原しかない。
今シュラが居るのはヨーロッパの、辺境の地。
正しくは「辺境だった」であり、今はこの地域でも上位に数えられるくらいに栄えている。
「さて、行きますか」
ミルクをぐいっと飲み干して、後ろを見れば連れがやって来た。
「遅いぞ、フレイ」
シュラが話しかけるのは、無表情に剣を腰に下げた20代の青年がいた。
傭兵団でよく一緒に出撃する仲間のフレイという男性。
「酒も飲まないのに、酒場を集合場所に指定するのはどうかしている」
そんな軽口をたたきつつも、無表情を崩さないフレイ。
傭兵団フレイヤの統領であり、総勢100名の魔法と科学両方の戦闘員を抱えるそこそこ名の通った集団のリーダー。
「今度は東側で小競り合いがあるらしい」
へえ。と相槌を打つシュラ。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
「楽しそうじゃない。儲かりそうなの?」
傭兵とは戦争で戦力を売りにする兵隊である。
ただ単に戦争を楽しむだけでは、この世界では生きていけない。
「ある国の正規軍と、周辺の移民が盗賊になった盗賊団とのぶつかり合いだ」
ただし、盗賊側に魔法使いが含まれているという。
魔法使いは、この世界ではかなりの希少人種。
それが含まれるということは、裏で何かを企んで戦力供給している組織の陰がみえる。
フレイはそんな事をシュラに言う。
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シュラは、銃や短剣での白兵戦にはめっぽう強い。
大戦時に、銃と魔法使いが完全武装で身を固めた50人の部隊相手に、たった一人で総勢の9割を戦死させた。
魔法の弾丸と、火薬を込めた弾丸が、シュラを避けて通るように。
素早く駆け、姿を捉えた瞬間には死んでいる。
狙撃も気づかれて当てられず、フルオートの連射銃でさえも、構えた時には既に遅い。
的確に、視線を感じて避けているので、無駄な動きが少ない。
相手には、背後に目でもあるのかという恐怖を植え付け、その恐怖が視野を狭めていく。
人間ではそこそこ早い程度の速さなのに、近くでは捉えられないほどの俊足に見える。
半分は意図的に、錯覚を利用して瞬きと同時に加速する。
血濡れのシュラ。
表舞台に上がったのは、世界大戦が末期に達し、大規模な施設は粗方破壊しつくされた後のこと。
白兵戦をするまでに人類が追い詰められて、どこもかしこも独裁政治と恐怖政治。
大規模魔法を放とうとすれば、それを奪い取るかの如くハイエナのように戦争バカが集まってくる。
衛星はほとんどを撃ち落とされ、宇宙開発技術もほとんどが失われてしまった。
まさに何も残っていない世界。
人口も、半数より少なくなった世界。
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シュラは傭兵団のアジトに着いた。
入口でシュラの制服を大事そうに抱えて、それを渡してくる小柄な少女が居る。
「お帰り、シュラ」
それは技術担当スタッフのミラ。
小さいながらも、腕の良いエンジニア。
シュラとは付き合いが長く、世界各地を放浪している時に、研究施設に居た子供を保護したのがミラ。
「ありがとう」
そういって黒い制服を受け取り、軽く羽織る。
襟には一際輝く宝石があしらわれた襟章が着いている。
傭兵団でも、一部の者たちだけが着けることのできる記章。
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既に、シュラとフレイ以外のメンバーは円卓に座っていた。
「それでは、次の戦争の話をする」
リーダーがそう声を掛けると、皆が気を引き締めたように次の言葉を待っている。
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文明は滅び、国々がいくつも無くなっても、人間はそれでも争いを続ける。
昔みたいに、海を越えて連絡を付ける手段はあまり無く、情報のラインもほとんどが潰れてしまった世紀末な世界。
そんな世界で娯楽と言えば、ギャンブルか酒か色欲か、それとも血に酔うくらいしか存在しない。
シュラは血に酔う側の人間だった。
次に渡り歩く戦場を考えるとわくわくするし、笑顔になる。
傭兵団フレイヤで戦闘が嫌いな人間などあまりいない。
皆が返り血で身を汚しても平気な連中のたまり場である。
小さな幼女と言えるミラはシュラの活躍が見たくて仕方がないという、少し変わった動機ではあるものの、それはまた今度、語れたら語ろうと思う。