第1話「変身-①」
_誰だって、忘れれない出来事がある。
それが自身にとって苦となるような物であれば、尚更だ。
「圭介っ....逃げろ.....!」
辺りは暗い。
いや、赤黒いと言った方が正しいだろうか。
俺は一心不乱に、真っ赤な火に包まれた瓦礫の中を駆け抜けていた。
身体中が、痛い。
当時まだ小さかった俺は、ただただ逃げる事しか出来なかった。
そんな中、瓦礫の...いや、死体の山の上に佇む人影が一つ。
人...いや、怪物だろうか。
人とは形容しがたいそれは、足元に転がった、首と思われる物体を蹴飛ばした。
「........っ!」
俺は、その怪物を睨みつける。
街を、友を、家族を....滅茶苦茶にした、それを。
「うああああああっ!」
無謀だと解っていた。
馬鹿げた事だと解っていた。
だけど...俺は走った。
目の前にある光景が許せなかった。
もしくは、家族の後を追いたかったのかもしれない。
怪物は、生存者である俺を煩わしく思ったのか、その鋭い爪を振り上げる。
「ちくしょう.....!」
その時だ。
俺に迫ろうとしていたその怪物は、瓦礫の山から吹っ飛ぶ。
「っ⁉︎」
燃え上がる火の中、俺が見たそれは、銀色に包まれた人影。
虫の様な触角、風になびくマフラー。
そして、暗闇の中、薄青く輝くツインアイ。
銀色の人影は俺の姿を認めると、吹っ飛んだ怪物に向かい走って行く。
流れるように、銀色の人影は怪物に対して蹴りを加える。
よろめく怪物。
好機とみた人影は、乾電池のような細い物体を取り出すと、その腰に巻くベルトのパーツに細い物体を装填する。
【レイヴン!ヒッサツ!マキシムストライク!】
銀色の人影は高く飛び上がると、風に乗り勢い良く怪物に蹴りをお見舞いした。
怪物はその蹴りに耐え切れず、爆散。
その場に降り立った人影は、俺の方に向かって歩いてくる。
それが、俺と【レイヴン】の出会いだ。
...
機械音_正確に言えば、歯車の音が静かに響いていた。
辺りは薄暗い。
少し広いその空間には、至る所に妙な光を帯びた機械...と、どろりとした液体が入った半透明の筒。
妖しく光るその中には、得体の知れない「何か」が不気味に脈打っていた。
「全く...久しぶりの【作戦】なのに、君のトロイドを出すのかい?」
青装束を身に纏った男_眼鏡を掛け、知的なイメージを感じさせるその男は、柱を背もたれに立っていた赤装束の男に言う。
「ああ?いいだろ別に...実質、俺のトロイドが一番扱いやすいしな」
赤装束の男---目つきが悪く、如何にも乱暴そうなその男は柱から離れると、バツが悪そうに青装束の男を睨みつけた。
「...あー、そうだねぇ...馬鹿だし」
「今なんつった!?」
赤装束の男が青装束の胸倉を掴み上げる。
それを宥めるかのように、緑装束の男が機械の影から踊り出る。
「心配する必要は無いですよ。障害さえ無ければ今回の【作戦】が成功する確率は...80%」
「だろ?アンサー」
赤装束の男は青装束の男を下ろすと、納得したかの様に一人で頷く。
「しかし問題は....やはり」
「ああ、解ってるよ...」
かつて自身達が作り出し、唯一の脅威となった存在_
「【レイヴン】」
ガチャリ。
機械音が響く。
ドクン。
「何か」が脈打つ。
「始まるぞ...偉大なる大脳の計画が...!」
...
「全く....状況は?」
「はい、隊員達が現在交戦中の様ですが...やはり普通の人間とトロイドでは無理があるかと...」
それなりに広い部屋の中、電子音と情報通達の声が響く。
円形のテーブル、彼方此方に置かれた電子機器、中央にあるモニターと、その光景はまるでSF映画に出てくる秘密基地のようだ。
「...適合者の方は?」
少し濃い紫色の髪をした、スラリとした出で立ちの女性が、オペレーターに聞く。
「えーと、その...カツ丼食べてます」
「はあ...私が行く」
そう言うと、紫髪の女性はその部屋を出て行った。
「いい加減教えろよ...ここはどこだってんだ!?」
面接官のような、ピシッとしたスーツの男と向かい合うように座り、テーブルを挟んでカツ丼を頬張る男が一人。
「...ご馳走様!!」
彼は納得行かなそうに立ち上がると、丼を置いて部屋を出て行こうとする。
「...ちょっと待ちなさい」
それを、丁度部屋にやって来た紫髪の女性が引き止めた。
「あ?...何処に行こうが俺の自由だろ。こっちは仕事が無くなってだな...」
「仕事?...あるのに...」
そう言うと、紫髪の女性は一つのアタッシュケースを取り出す。
ロックを外し蓋を開けると、そこには_
銀色のベルトが収められていた。
_遡る事、一時間程前。
「...やっちまった」
交差点の前で途方に暮れる。
空を見上げ項垂れている男---神居 圭介は、この度自身の勤めていた会社をクビにされ、路頭に迷うフリーターとなっていた。
「...はあ」
きっかけは些細な物だった。何が悪かったのか.....いや、思い出したくもないな。
「.........」
信号が青に変わっているにも関わらず、圭介は歩き出せないでいた。
両親も祖父母も親戚も亡くし、苦労の末やっと手に入れた職だ。ショックは相当な物だった。
「...何もない、か」
不意に、自身にとって未だに忘れられない出来事が脳裏に現れる。
赤黒い瓦礫の中を駆け抜け、自らの無力さを思い知った、あの時。
何もかもを失い、生きる価値を見出せなかった、あの時。
だが、その「あの時」に現れたあの銀色の影が、彼に僅かな希望を与えていた。
「...もう一度...会えるかな」
信号が一周回り、また青になる。
ここで止まってても仕方ない。まずは出来ることを考えなくちゃ。
そう、踏み出そうとした時だ。
突然、目の前に車が現れた。
いや、現れたのでは無く、飛んできたの方が正しいだろうか。
「っ!?」
幸い、身体を捻って飛び出していたおかげで車には当たらずに済む。
放り出された車は、無残にも地面に叩きつけられ鉄の塊と化した。
「........!?」
圭介は咄嗟に車が飛んできた方向を見据え、唖然とする。
そこには、とても人間とは形容し難い、蜘蛛のような怪物がいた。
直感でそう捉えただけで実際そうとは限らないが、所々蜘蛛のようなイメージがある。
「.......っ!」
何故か、その怪物が圭介には妙に懐かしく思えた。
「まさか...!」
目まぐるしく、脳裏の景色が変わる。
次の瞬間、圭介は駆け出していた。
怪物とは正反対の方向に。
「駄目だっ...駄目だっ...駄目だっ...」
そんな時だ。
急に現れた一台の黒い車が、圭介を呼び止めたのは。
---そして、現在。
「....こいつが、俺の物に...」
手に持ったベルトを眺め、少し小さな溜息を吐く。
しかし、今の圭介に出来る事は、もう既に決まっていた。
「...ああ、もういいさ。やってやる...!」
説明は大体された。
後は、自分の身体が着いてこれるか。
こうなったら一か八かだ。
あの時のあいつに...俺が。
「今度は俺が...【仮面ライダー】だ」
目の前の---トロイドと呼ばれた怪物を睨みつけ、ベルトを腰に巻く。
「...【変身】」
次の瞬間、圭介の身体は銀色の光に包まれていた。
「【レイヴン!スタート!】」
光を裂いて現れていく、「あの時」の銀色の影。
虫のような触角、風になびくマフラー、そして、薄青く光るツインアイ。
「さて、お仕事開始だ...!」
弾けるように、走り出した。
次回、仮面ライダーレイヴン_
「俺が、レイヴン...」
「そ。ああ、私の名前は真澄...清隆 真澄よ」
「やっぱり現れたか、レイヴン...」
「奴らは【ブレイン】...そして、その対抗組織がこの【反脳世界連合】ってわけ」
次回「組織」
レイヴン、装着〈スタート〉!