前回までの仮面ライダーレイヴンは...
「【レイヴン!ヒッサツ!マキシムストライク!】」
「っ...せぇえぇい!!」
「察しが良くて助かるわ。簡単に言えばそうなるかな」
「やりますよ、【レイヴン】。それが今の俺に出来るというのなら」
「さあ、第二ラウンドだ...」
...
...
一通り基地の中を案内された後、俺は広間に通された。
広間は二段構造となっており、上段には司令官が座るかのような椅子とミニパソコンにオペレーターが2人ほど、下段には円形のテーブルを中心に人員が配置されており、天井から吊られたモニターや至る所に存在する通信機器も相まって、如何にも秘密基地らしい雰囲気を醸し出していた。
その中で一際目を引くのが円形のテーブルから天井に伸びる一本の丸く太い柱で、内部には半透明の液体らしき物が入っている。
「今からここが、神居君の拠点になるわ。そして彼らが_」
真澄さんが後ろを振り向く事で気付いたのか、数人の隊員達が俺の前に躍り出る。
「よろしくね〜」
「ほう、君があのトロイドを...」
「変身した感覚、どうでした!?」
...みな、それぞれ個性的な面子のようだ。
「紹介するわ。まずはうちの技術担当である製作チーム」
目の前に現れた三人組は白衣を纏っていた。...いや、特徴はそれだけじゃない。
「...なんか、ちっこくないっすか」
三人組の一人は年端もいかない子どものようで、薄茶の髪が特徴的。
着ている白衣もサイズが合わずダボダボだ。
「失礼な!僕は泉 三平。レイヴンの力の源である【マキシムスロット】を担当しているんだ」
マキシムスロット?
現れた疑問を引き継ぐように、真澄さんが口を開く。
「あー、マキシムスロットについてはあとで話すわ。...兎に角、三平君はうちのれっきとした技術者よ」
「は、はぁ...」
俺が溜息に似た返事をする中で、一人満足するように鼻を鳴らす三平。
「次は私ね。...泉 ニ華。主にレイヴドライバーの調整をしているの。よろしくね、新人くん」
口を開いた女性は桜色の髪を持っていた。
背は俺と比べ少し低いくらいだが、活発そうなその言動は見る者に明るいイメージを与えさせる。
「そして最後に....新型武装などの開発を行うのが私、泉 一郎。」
俺より頭一つ背が高い青髪の青年が俺の前に出て、掛けたメガネをクイっと上げる。
そこまで自己紹介が済んだところで、真澄さんが再び口を開いた。
「次ね。主に情報通達を仕事とするオペレーター」
紺色の渋いスーツをピシッと着こなした若者が俺の前に立つ。
「...おっ、俺っ、鷹宮 正義って言います!...よっ、よろしくお願いしますっ!!」
そう言って、垂直に綺麗なお辞儀をした。
「正義君は若いのに誰よりも仕事の効率が良くてね。うちの隊員にピッタリと思った訳」
「...それで、真澄さんの立ち位置は?」
こんな個性が強いメンバーが集まっているのだ、真澄さんもそれなりな役職の筈_
「ああ、言ってなかったっけ。それじゃあ改めて...私は清隆 真澄。一介のレジスタンス隊員であると共に、ここ中心街支部【アース】の作戦司令官を担当しているわ」
...案の定、相当な位置にいた。
...
「それじゃ、まだ慣れてないと思うから基地内をレッツ探検、って事で」
結局マキシムスロットとかいう物についての説明は後回しにされ、自由行動という形で俺はほっぽり出された。
...なんというか、真澄さんはマイペースな奴だ。
とりあえず先ほどの作戦行動室を後にして、基地内を巡ってみる。
食堂に仮眠室、研究室や医務室など、様々な施設が揃っているようだった。
「...っと、ここは...」
どうやらかなり奥まで来てしまったようだ。
あまり普段使われていないのか、通路は薄暗く気味が悪い。
「ん、あんな所に明かりが...」
視線の先に、青白い明かりが見えた。
「...おお...」
光の元に辿り着くなり、目の前の景色に圧倒された。
開けた場所に、その場を囲うように大水槽が設置されていた。
様々な海洋生物。今や絶滅種となった動物まで、優雅に活き活きと泳いでいる。
「...凄いな」
図鑑という書物からでしか見る事の出来なかった生物達を見て、俺は感嘆の息を漏らす。
「...誰?」
そんな時、側から声が聞こえた。
「っと....?」
声のした方を向くと、自分より少し背が低い少女が、不思議な表情で俺を見上げていた。
ゆったりとした服に、長い黒髪ストレート。どこかぼうっとした瞳は、俺じゃなく別の場所を見てるようにも思える。
それよりも驚いたのはその存在感の薄さだ。声を掛けられるまで、彼女に気付く事が出来なかった。
「え....ああ。俺は神居 圭介...今日からここに配属する者だ」
「...そう」
少女は俺の名前を認めると、さながら何もなかったかのように水槽に目を戻す。
_しばらく、沈黙が流れた。
流石にこのまま黙ったままも気まずかったので、水槽内をながめていた少女の隣に移動する。
「...魚、好きなのか?」
「...ええ」
水槽から目は離さなかったが、俺の問いには答えてくれた。
「...ここは、落ち着く」
「...それは同感だな」
そしてまた、二人して黙ってしまう。
もともと無口な性格なのだろうか。
「...えっと、その、君は...」
「...名前?...朝比奈 明。...明で、いい」
聞く前に名乗られてしまった。
「そうか、明か...ここで明はどんな仕事をしているんだ?」
会話が途切れないように、どんな役割を持っているか聞いてみる。
「...探知」
「...というと?」
その瞬間、彼女の声のトーンが低く聞こえた気がした。
「...トロイドの発生時間...例えば、今とか」
...
「説明出来なくてゴメンね...はいこれ、さっき言ってた【マキシムスロット】よ」
真澄さんから細長い物体を手渡される。
さながら乾電池のような形状をしていて、手のひらに収まる程だ。
「活用法は実践中に通信機を使って説明するわ....あと」
一歩後ろに下がると、真澄さんは側にあった布を取り払う。
そこには、銀と水色が主体となった、流線形のバイクが佇んでいた。
「これは?」
「レイヴン専用バイク...【マシンレイヴンラリアン】よ。これを呼び出せるスロットもベルトのホルダーにしまってあるわ」
それを聞き、俺は手元のベルト_レイヴドライバーに目を向ける。
電飾に照らされ輝きを放つそれは、俺が【レイヴン】_【仮面ライダー】なのだと何よりも実感させた。
...
圭介がマシンレイヴラリアンに跨り現場に向かった後、レジスタンスの作戦行動室に隊員達が集まった。
その中には司令官である真澄は勿論、研究チームである泉三兄弟、そして明の姿もあった。
「...今回のトロイド...普通のレイヴンじゃ....倒せない」
モニターを見て、明が呟く。
「その為に今回のがあるんだよ。急造だったから調整はしてないけどさ」
隣にいた三平が、背伸びをしてモニターを見据える。
「...それじゃあ始めようかしら。作戦、開始《オペレーション・スタート》!!」
真澄の号令と共に、隊員達は一瞬にして仕事モードに突入した。
...
現場まではさほど、時間は掛からなかった。
それ程このマシンが高性能なのだろう。納得しつつ、ヘルメットをハンドルに引っ掛けた。
幸いバイクの免許を持っていた事に安堵しながら、俺は目の前で構える怪物を睨み付ける。
「あいつが今回の...」
目の前の怪物_真澄さん等が【トロイド】と呼んでいたそれは、「牛」...簡単に言えば、そんなイメージを持っていた。
生物的なツノや耳の他に、機械的な銀色の部分やネジも見える。
どうやら、トロイドは個体によって姿が異なるようだ。
「...まあ、ずっと同じ蜘蛛男...というのも、味気ないよな...」
すっくと立ち、即興で考えたポーズを取る。
右腕が左腕の上に来るように両腕を交差させ、ゆっくりと解くように離れさせる。
左腕は握り拳を作り空に突き出しながら、右腕はレイヴドライバー側部のレバーへと添えた。
そして左腕もレバーの元へ持って来ると、勢いのままにレバーを下ろす。
「...変身!」
...決まった、とかどうとかはこの際気にしない。
こういうのはその場のノリが大事なのだ。
「【レイヴン!スタート!】」
レイヴドライバーから光と電子音声が溢れ、超高性能3Dインジェクターが強化装甲を生成。
俺の周りを舞う白銀の鎧は、即座に身体のあちこちに重ねられていく。
光が収まると、そこには白銀の超人、【レイヴン】が立っていた。
「ふぉぉ、かっこいいい!!」
作戦行動室では、オペレーターの正義が手を大きく振り上げて興奮していた。
「ノリノリじゃない、神居君...」
苦笑しながらも、真澄は圭介にレイヴドライバーを託して良かった、と思うのだった。
走り出した先にトロイドを見据え、飛び上がりつつ右ストレート。
案の定躱されたが、想定内。
即座に身体を捻って裏拳をお見舞いした。
「っち...」
しかし、トロイドには届かない。
その硬い装甲が、俺の拳を阻んでいたからだ。
トロイドは俺の拳を掴み、勢いのまま投げ上げる。
宙空に放り投げられたが、体勢を立て直し着地する事が出来た。
「...っ、まだまだ!」
再び走り寄り、今度は蹴り上げ。
トロイドの腹を思い切り捕らえたが、やはり攻撃は通らなかった。
「...だぁっ、なんでこんなに硬いんだよっ...」
一人愚痴る隙を突いたか否か、今度はトロイドから迫ってきた。
視界が銀に染まり、次の瞬間弾き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、二、三回バウンドした。
「っぐ....ぅ...!?」
強化装甲の恩恵でさほどのダメージはない。
しかし、叩きつけられた際の衝撃は相当な物だった。
「やっぱり苦戦してるかしら、神居君」
起き上がろうとした時、ベルト内部の通信機から真澄さんの声が聞こえた。
「そりゃあ苦戦しますよ、あんなに硬いのが相手じゃあ...」
尚もトロイドは迫る。
俺はバックステップで後退し、なんとかトロイドと距離を空けた。
「...出撃前に渡さなかった?マキシムスロット」
「...ああ、アレを使うんですね」
ベルト背部のホルダーから一本の乾電池...じゃなかった、マキシムスロットを取り出す。
透明の幕の下に、青が見える。
「ベルト左側のスロットローダーを開いて、既に入ってるスタートスロットの代わりに今持ってるセイバースロットを装填しなさい。あとはシステムに任せれば大丈夫よ」
左腰を見ると、成る程、確かにホルダー内に銀のマキシムスロットが入っている。
そういえば、以前蜘蛛のトロイドと戦った時は無意識にホルダーを開いていた...いやそうなるのも不思議なんだけど。
「さて、どんな姿に変わるか...」
ホルダーから銀のマキシムスロット_スタートスロットを引き出し、代わりに青のセイバースロットをトロイドに向かい投げつける。
それと同時に走り出し、真っ直ぐに跳び上がった。
「........ここッ!」
そして、トロイドとすれ違う瞬間_スロットをキャッチ。
振り向きざまに、ホルダーを開き青いセイバースロットを装填した。
「【レイヴン!セイバー!】」
ベルトから蒼い閃光が迸り、俺とトロイドを包み込む。
銀の装甲の上に、セイバースロットをトリガーとして生成された蒼い装甲が重ねられていく。
「....よし」
光を裂いて現れたのは、先程まで立っていた銀のレイヴンではなかった。
「高強度の敵に対し、実体剣に熱を帯びせ溶断する_。レイヴン、セイバーフォルム!」
銀色のスタートフォルムと違い、鋭利になった肩装甲に、黒が強い主張を放つスーツ。
「顔」に当たる部分には蒼く半透明の二枚の強化マスクが取り付けられ、内部からはスタートフォルムのツインアイが光を放つ。
そして、何よりも目を引くのは_右手に握る長剣。
頭部強化マスクと同じクリア素材で作られた薄緑の刃が、この形態が剣に重きを置いた接近戦仕様なのだと実感させた。
「成る程....これなら!」
トロイドに跳び寄り、思うがままに縦に一閃。
その瞬間、「捉えた」という確信と共に、トロイドの装甲が裂かれる音がした。
「やった!」
通信機を介して、誰かの声が聞こえる。
それは俺も同じで、勢いを付けたまま第二撃。今度はサイドからの横薙ぎだ。
先程よりは掠めた程度に近かったが、ダメージが通ったのを確かに感じる。
本能的な危険を察したのか、トロイドが後退する。
それが瞬間に出来た最大の隙であり好機だと、レイヴンの戦いを見る作戦行動室の隊員達、はたまた剣を振るう俺もそう確信した。
後部ホルダーから一本のマキシムスロットを引き出し、セイバーフォルム特有の長剣_【ブルーセイバー】に装填する。
「【レイヴン!ヒッサツ!マキシムスラッシュ!】」
レイヴドライバー、ブルーセイバー両方から電子音声が響き、ブルーセイバーの刀身から蒼き光が迸る。
「ッ....せぇのぉッッ!!」
トロイドに身体もろとも突っ込み、腹部を捉え斬り込む。
刀身を真っ直ぐにトロイドから抜いたその瞬間、背後に立つ牛の怪物は爆散した。
...
「.....お疲れ様」
明から冷えた麦茶を手渡された。
キンキンに冷えた麦茶は戦闘で火照った身体を冷ましてくれる。
「...ってか、何でトロイドが来るとかわかったんだ?索敵センサー?...とかを持ってるようには見えなかったが」
それを聞くと、明はそっぽを向き淡々と言葉を紡ぐ。
「.....そういう、体質」
「体質....か」
特異な奴もいるんだなあ...と一人納得し、先程の戦いを記録した映像のスイッチを入れる。
「........あ」
そこには、トロイドに対しキレッキレの変身ポーズを決める俺の姿が映っていた。
「............」
思えばこの戦闘、記録されていたんだった。
俺は一人頭を抱え、すぐにそのシーンをスキップ。
近くで同じモニターを見ていた明は、一瞬目を丸くすると
「.......ふふっ」
と、小さく笑ったように見えた。
「ちょ、笑うな!」
一息に、麦茶を飲み干した。
...
次回、仮面ライダーレイヴンは...
「...家、追い出された...」
「.........フリーターだから?」
「うるせえ」
「.........そんな事より、何か、今までとは違うのが.....」
「はぁ?.....ってあいつは....!?」
「「お手並み拝見と行こうか、レイヴンッ!!」」
次回「暴怪」
レイヴン、装着(スタート)!