救世神話-Storm Saviour   作:風代利紅

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本当は21時頃に公開する予定でした……。


第11話《隠された“闇”》

「あいつが、白鳥君をいじめてたクラスメート、桜井一臣だよ」

 夕実は金髪の少年を指差し、過去の行いを暴露すると共に名を明かす。

 普段はもう少し物腰の柔らかい夕実だが、今はどうも様子が違う。表情は真顔だが、その目には確かに怒りが宿っていた。

 

「いじめってマジ?」

「でも、やりそーだよな……」

 夕実の糾弾を聞いたギャラリーもざわつく。

 有象無象と言うのは、他人の悪行には手厳しい。それがいじめともなれば、逆に今度はいじめた側が世間から同様か、それ以上の扱いを受けかねない。

(チッ……)

 目を細め、周囲を見回す桜井。

 直感で、今のこの空気は非常にまずいと言うのがわかった。

(これは想定してなかったぜ。けど、ここで逃げちゃ逆に……)

 逃げたら露骨に苛めていました、イカサマしましたと、認めるに等しい。

 少しずつ焦る桜井。

 それならいっそのこと……。

「いじめだなんて、人聞き悪いなぁ~。そうだ、再会を祝ってデュエルしないか? 白鳥君、勝ってるんだろ?」

 逃げるとかえって不利のなるのならば、いっそ勝負を申し込む。どの道、お互いに大会を勝ち残っている以上、一戦交えねばならない。

 

「…………」

 白鳥は無言だった。

 昔、自分をいじめた相手。しかも、イカサマ疑惑が浮上している。

 ちゃんと自分のデュエルをできるか、白鳥はそれが心配だった。

「白鳥君」

 夕実が声をかけた。

「落ち着いて。白鳥君は強いんだから、いけるよ。私、知ってるもん」

「草薙……さん」

 夕実は知っている。

 白鳥は小学校の頃からデュエルが強かった。

 しかし、デュエルの強さとは裏腹に気が弱く、ケンカが強いわけでもない。白鳥は彼のデュエルの強さを疎ましく思った者による嫌がらせだった。

 そして、桜井もそのグループの一員だったのだ。

 白鳥はその忌まわしい過去をフラッシュバックさせつつも、桜井の顔を正面から見る。

 

(ガン飛ばしてんのか、こいつ……)

 桜井はチッと舌打ちする。

 自分がかつて甚振っていたおもちゃ同然の奴が、今にも敢然と立ち向かって来るであろう瞬間がすこぶる不愉快だった。

 しかし、表立ってデュエルで叩き潰せれば、優勝と相まってデュエリストとして箔がつくもんだ。

 口元の歪む桜井は右腕の袖内の感覚を確かめる。

 ――カードは確かに入っている。万一、不利になれば、袖の中のカードをこっそり手札に加えて、これで一発逆転。

(白鳥ぃ……。てめぇはもう、デュエルでも俺に勝てねーことを教えてやるよ)

 表情には出さないものの、心の中では下卑た笑いを見せる。

「さ、デュエルを始めようぜ。白鳥クン」

「うん」

 白鳥と桜井は間を空けて、2メートルほどの感覚を開ける。

「白鳥、負けんなよ」

「はい!」

 荘介は白鳥の右肩をぽんと叩き、夕実達と共に後ろに下がる。

 

 互いにデュエルディスクにセットしたデッキはオートシャッフルにより、よく混ぜられる。その後、デッキの上から五枚のカードを引いて手札とする。

 見渡せば、既に大会に残っているのは二人だけ。そう、これは決勝戦に等しい劇的な決戦の場であった。

 白鳥はふと、気づく。いつの間にか自分は大勢のギャラリーに囲まれる中でデュエルをしていることを。こんな経験は初めて。苦手な相手と対面することとは違った形で緊張してきた。

「凄い、僕はこんな大歓声の中でデュエルするんだ……」

 右を見ても、左を見ても、あたり一面に人がいる。思わず感動した。気づけば、桜井のことを一瞬、忘れるほどに。

「おい、白鳥……。余裕ぶっこいてんじゃ……」

 

 

 

「さあ、間もなく始まります決勝戦!!!」

 

 唐突に理沙の声が聞こえた。いつの間にかステージに立っていた。

 ギャラリーは思い出す。すっかり、このイベントのMCであるはずの理沙を忘れかけるほどに目の前の状況に白熱していたのだ。

「藍川!」

 荘介はほぼ反射的に理沙の苗字を呼び、ステージに立つ彼女の顔を見る。

 理沙も荘介がこちらを見ていることに気づく。

 お互い、アイコンタクトをする。

 これは理沙によるアドリブ。荘介は確信した。

 

「最後の二人まで残ったのは……白鳥春樹選手と、桜井一臣選手! まずはここまで勝ち抜いた二人に拍手を送ってください!!」

 

 理沙に促された大勢のギャラリーは一斉に拍手を送る。

 それは同時に、二人の対戦に数多くの人の視線が集中することに繋がる。

 この拍手喝采の中、桜井は気づく。この状況では、イカサマをしても誰かが見てしまうことを。

(おい、まさかあのアイドルもグルなんじゃねぇのか……!?)

 桜井は一瞬、見ていた。

 荘介が理沙と顔を合わせる瞬間を。あれは、何かを企んでいた挙動だと勘付いた。

(草薙夕実……、あいつの兄だったか。クソが!)

 益々苛立ちを募らせる桜井。それは眉間にしわが寄る形で無意識に表情として出ていた。お陰で、先ほどまでの悪行を誤魔化す為の飄々とした表情は自分で気が付かないうちに消えていた。

 そして、その表情の変わり様を白鳥は見逃していなかった。

(何か、悪いことを考えていた顔だ、あれは……)

 どうせ青山さんとのデュエルと同様にイカサマをしようとしたんだろう、そしてこの状況では同じことができなくて不愉快なんだと、白鳥は推測する。

 昔のクラスメートだった夕実が応援してくれる。

 その兄で、自分をライバルと言ってくれた荘介が応援してくれる。

 そして、その友人達も。

 さっき出会ったばかりの人からこんな応援されるなんて思わなかった。

 

 ――白鳥に勇気が湧いた。

 

「さあ、始めよう、桜井君!」

「いいぜ、白鳥ぃ! こうなりゃ真っ向からてめーを倒してやるよ!」

 

 

 ――デュエル!

 

「俺のターンからだ!!」

 先攻は桜井がとった。

 最初のターンはドローをせず、そのままメインフェイズへと移行する。

「俺はフィールド魔法《竜の渓谷》を発動! その効果により、手札を一枚捨てて、デッキからレベル4以下のドラグニティを一枚加える! 俺は手札から《ドラグニティ-ファランクス》を捨てて、デッキから《ドラグニティ-ドゥクス》を手札に加える!」

 ――ドラグニティ、それは鳥獣族とドラゴン族を主軸としたデッキ。そして、フィールド魔法《竜の渓谷》をそれをサポートするカード。

 発動と共に、辺り一面の風景が、駅前の町並みから一転、大自然の中のどこまでも続くような渓谷へと変わってゆく。

 その広い渓谷の一箇所に集中するギャラリーの中、桜井は続けざまにカードを展開していく。

「そして俺は《ドラグニティ-ドゥクス》を通常召喚! そして、モンスター効果発動! 墓地に存在するレベル3以下でドラグニティのドラゴンを装備する! 俺が装備するのは、《ドラグニティ-ファランクス》!!」

 白い衣装を身にまとう鳥人、そして、空の彼方より金の竜が姿を現す。

 鳥人は胴体とは真逆とも言える黒い翼を広げて飛翔し、空中で竜の背に騎乗する。空を支配する者同士が力を合わせて戦う。――これが最強の竜騎兵団、ドラグニティ。

 

竜の渓谷 フィールド魔法

(1)1ターンに1度、自分メインフェイズに手札を1枚捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●デッキからレベル4以下の「ドラグニティ」モンスター1体を手札に加える。

●デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

 

ドラグニティ-ドゥクス ☆4

鳥獣族/効果 風属性 ATK1500 DEF1000

(1)このカードの攻撃力は、自分フィールド上の「ドラグニティ」カードの数×200ポイントアップする。

(2)このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下の「ドラグニティ」と名のついたドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

 

ドラグニティ-ファランクス ☆2

ドラゴン族/チューナー/効果 風属性 ATK500 DEF1100

(1)1ターンに1度、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合に発動できる。装備されているこのカードを特殊召喚する。

 

「ドラグニティ……俺もあいつにやられた」

 座苦が先ほどの屈辱を思い出し、歯噛みをする。

 もっとも、不正などせずとも、方向性がはっきりとしていれば相当な力を発揮する強力なデッキである事は間違いなく、恐らくは不正を働かなければ座苦は渋々でも、その実力を認めたかもしれない。

「風属性のモンスターで固めてんだな」

「お前のデッキより完成度はきっと高いぞ」

「ほっとけ!」

 先ほど戦った座苦は何だかんだで桜井の実力を見ていた。同じ風属性使いとしてみても、デュエルの総合力は桜井の方が上なのは認めている。

 不正を働いた事は不快で絶対に許さないが、それでも普段自分を嘗め腐っている荘介を逆にこき下ろす為であれば、格好の材料だった。

「けど、俺はあんな奴に負けたくねぇな」

「それに関しちゃ、同意だ」

 ――ただし、桜井を好ましく思わない点については、同意見だった。

 

「まだ終わらないぜ。俺はドゥクスに装備したファランクスの効果発動! 装備カード扱いのこのカードを、モンスターとして特殊召喚する!」

 金の竜に騎乗した鳥人は、すぐに竜の背を離れ、翼を羽ばたかせながらゆっくりと地上に舞い降りる。鳥人の着地に合わせて金の竜もまた、地上へと下りてくる。

「なんだ、あいつ。装備解除して何する気だ?」

「よく見て、覚えとけ、草薙。ここからがドラグニティの真骨頂だ」

 座苦はこれから始まるドラグニティの動きに注目するよう、荘介に促す。

「俺はレベル4の《ドラグニティ-ドゥクス》に、レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!!」

 桜井の宣言と共に、二体のドラグニティは飛翔する。

 金の竜はその身を弾けさせて、淡い緑に輝く二つの輪へと姿を変換させる。

 二つの淡い緑の輪はある程度の感覚を作り、鳥人がその中へと入り込んでゆく。

 

 

 ――空を翔る戦士達よ! 疾風の槍となりて、あらゆる敵を貫き倒せ!

 

 

 ――シンクロ召喚!

 

 

 レベル6、《ドラグニティナイト-ガジャルグ》!!

 

 

 遥か上空で激しい光に包まれて行われるシンクロ召喚。

 光が収まると共に戦場に舞い戻って来た者は、紅い外装に身を纏う青き身体の竜騎兵。

 その鋭角なフォルムは敵のみならず、風を、逆風さえも貫きそうだった。

「先攻1ターン目は攻撃できない。でも、こいつはモンスター効果がある! 俺は《ドラグニティナイト-ガジャルグ》のモンスター効果により、デッキからレベル4以下のドラゴン族または鳥獣族一枚を手札に加え、その後、手札のドラゴン族か鳥獣族一枚を捨てる。俺はデッキから二枚目の《ドラグニティ-ドゥクス》を加え、手札の《ドラグニティ-アキュリス》を捨てるぜ」

 デュエルディスクのデッキホルダーより、一枚のカードが出っ張る。桜井はそれを引き抜き、白鳥に見せた後で手札より、《ドラグニティ-アキュリス》のカードを墓地へと置いた。

 

ドラグニティナイト-ガジャルグ ☆6

ドラゴン族/シンクロ/効果 風属性 ATK2400 DEF800

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

(1)1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。自分のデッキからレベル4以下のドラゴン族または鳥獣族モンスター1体を手札に加え、その後手札からドラゴン族または鳥獣族モンスター1体を捨てる。

 

「これでターンエンド。でも、攻撃力は2400ある。どうするんだい、白鳥クン?」

「…………。僕のターン、ドロー!」

 白鳥は問いに対して答えを言わなかった。ドローをし、手札を切ることで証明するつもりだ。

「僕は《E-HERO ヘル・ブラット》を特殊召喚! このカードは、僕の場にモンスターがいないときに手札から特殊召喚できるんだ!」

 

E-HERO(イービルヒーロー) ヘル・ブラット ☆2

悪魔族/効果 闇属性 ATK300 DEF600

自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

(1)このカードをリリースして、「HERO」カードをアドバンス召喚した場合、そのターンのエンドフェイズ時に自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 ブラット、それは悪ガキと言う意味を持つ。

 さながら、地獄より現れた悪魔の少年と言ったところか。このカード自体は攻撃力は僅か300しかない。勿論、これで終わらせる白鳥ではない。

「僕はこの《E-HERO ヘル・ブラット》をリリースし、《E-HERO マリシャス・エッジ》をアドバンス召喚!」

 悪魔の少年が光の粒子となって消える。空間に漂う光の粒子は一つの形を作る。それは、全身ボンテージで身を縛るような姿をした男だった。

 所々には刃がついており、両手には全身の刃をまとめて握っているかのように武器として持っている。

「レベル7のモンスターを一体のリリースで召喚だと!?」

「このカードは、相手の場にモンスターがいれば、一体のリリースで召喚できるんだ!」

 おおーっと、ギャラリーがざわめく。

 高速シンクロ召喚に対し、なんとアドバンス召喚で対抗する白鳥の戦いぶりには驚きを隠せないようだ。

 融合、シンクロ、エクシーズ……。エクストラデッキを利用した戦いは確かに強力だが、それが全てではない。それがデュエルなのだから。

 

E-HERO(イービルヒーロー) マリシャス・エッジ ☆7

悪魔族/効果 地属性 ATK2600 DEF1800

相手フィールド上にモンスターが存在する場合、このカードはモンスター1体をリリースして召喚できる。

(1)このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

「しかも攻撃力2600か、チッ」

 ガジャルグをしのぐ攻撃力を見て、舌打ちする桜井。もうこれで何度目の舌打ちか。もっとも、そんな事を白鳥は既に気にしてすらいない。

「バトル! マリシャスエッジで、ガジャルグに攻撃!」

 空を舞う竜騎兵目指して刃の悪魔は渓谷の断崖を三角跳びで駆け上がる。

 何段目かの断崖から先の空へと駆け上がる際、大地をカタパルトのようにし、大きく跳躍する。

 地上より肉薄する悪魔を見た竜騎兵はそれを迎撃せんとばかりに急降下。

 騎乗する竜の顎はさながら槍のようで、そのまま突撃するだけであらゆる敵を貫きそうだった。

 しかし、刃の悪魔は竜騎兵と激突する刹那、槍の様な顎の上を足場とした。そこを踏み場とし、脚に力を入れつつも、刃を握る右手に力を入れ、竜に乗る鳥人の戦士を貫き殺す。

 続いて、竜の背を踏み台に更に跳躍。

 両手に握る刃を竜へと投擲。そして、刃は竜の身体へ飛来し、貫通。

 身体を貫かれた竜は断末魔を上げて爆散した。

 そして、竜騎兵は諸共にこの渓谷の空で散る。

 

桜井一臣 ライフ 4000⇒3800

 

「良いぞ、白鳥!」

「その調子だよ!」

 白鳥を応援する荘介と夕実の声が聞こえる。それは白鳥の顔を自然に微笑をもたらす。

「僕はカードを一枚伏せる。エンドフェイズに、ヘル・ブラットの効果でカードを一枚引いてターン終了」

 

「モンスター同士の戦闘を先に制したのは白鳥選手です! しかし、次は桜井選手のターン! どう出るのでしょうか!?」

 理沙が実況する声が聞こえる。

 ギャラリーは理沙の言葉と共に、桜井へと視線を向ける。

 桜井はばつが悪かった。

(おいおい、やっぱこれじゃ袖のカード使えねーじゃねーか……)

 やはり不正はできない。

 これ以上、この大会でトラブルが起きないように理沙なりに考えたうえでの行動の結果だった。ファインプレーと言えよう。

(しゃーねーな。たまにゃ真面目にやるか)

 ギャラリーの多さで、桜井は不正行為を諦めた。

「ドロー!」

 引いたカードは《テラ・フォーミング》。しかし、桜井はこのターン、何を引こうがどうでもよかったりする。不正せずとも策はある。

(へっ、サマしか能がねーとか言わせねぇぜ……)

「俺は《竜の渓谷》の効果を発動! 手札を一枚捨てて、今度はデッキのドラゴンを墓地へ置くぜ! 俺は墓地へ《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》を墓地へ置く!」

 先ほど引いた《テラ・フォーミング》を捨てると共に、デッキより《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》のカードも続けざまに墓地へと置く。

 

「墓地にカードを置く? あいつ何考えてんだ?」

 まだデュエルにそこまで詳しくない荘介には疑問だった。

 わざわざカードを墓地へ置くことの優位性をまだ理解していない。

「そうか、荘介はまだ『墓地肥やし』がわかってないのか」

 健一が返す。

「墓地肥やし?」

「おう。墓地にあらかじめカードを溜めておく事で色んな戦術に繋げられるんだ。融合素材にするもよし、連続で蘇生するもよし、墓地で発動する効果を連発するもよし。いろんな戦い方がある」

「おう。んで、あれの場合は?」

「……レヴァテインの効果を使うつもりだろうぜ」

「?」

「まあ、見とけって」

 健一に促されるがままにデュエルへと再度視線を向ける。

「俺は手札から《ドラグニティ-ドゥクス》を通常召喚。効果で《ドラグニティ-ファランクス》を装備するぜ」

 再び登場した鳥人は先ほどと同じように金の竜に騎乗する。

 同じようにシンクロ召喚を目指すこともできるのだが……。

「ドゥクスでもレベル8のシンクロ召喚は狙える。でも、レヴァテインを特殊召喚。……何となく君のやることが見えたよ」

「ああそうかい。じゃ……くたばりな! 俺は《ドラグニティ-ドゥクス》を除外し、墓地の《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》を特殊召喚!」

 

ドラグニティアームズ-レヴァテイン ☆8

ドラゴン族/効果 風属性 ATK2600 DEF1200

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する「ドラグニティ」カードを装備したモンスター1体をゲームから除外し、手札または墓地から特殊召喚する事ができる。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、「ドラグニティアームズ-レヴァテイン」以外の自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。

(2)このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、装備カード扱いとしてこのカードに装備されたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 鳥獣のような美しい翼と、竜のような鋭い翼を併せ持つドラグニティの上級戦士が出現する。

 大剣を軽々と逆手持ちしている姿から竜らしい力強さを証明してくる。

 そして、彼に随伴して金の竜、ファランクスも共に現れ、ゆっくり羽ばたきながら大地をその脚で踏む。

「レヴァテインは、特殊召喚されると共に、ドゥクスと同じように墓地のドラゴンを装備できる。そして、このファランクスは当然特殊召喚させてもらうぜ」

 桜井の場にはレベル8のモンスターとレベル2のチューナーが揃った。

 ファランクスの装備を解除するという事は、もはや説明するまでもないだろう。

「俺はカードを一枚伏せて……行くぜ、白鳥ぃ!! 俺はレベル8のレヴァテインに、レベル2のファランクスをチューニング!!」

 竜戦士は四枚の翼をはためかせ、大きな体躯を飛翔させる。

 それに追従するように金の竜も飛翔し、再び二つの緑の輪へと姿を換える。

 緑の輪が囲む相手は、レベル8の竜戦士。

 

 

 ――憤怒と共に贄を喰らい尽くし、世界の総てに破壊と殺戮をもたらせ!

 

 

 ――シンクロ召喚!!

 

 

 レベル10、《トライデント・ドラギオン》!!

 

 

「レベル10のシンクロ召喚!? なんつードラゴンだ、すげぇ迫力……」

 荘介はその迫力に圧倒された。

 三つ首の赤竜は光の柱の中より出現すると共に、怒号のような咆哮をあげる。

 攻撃力は3000。上級のシンクロモンスターとしては実はありふれた数値ではあるが、それだけでレベル10と言う神に匹敵するレベルを誇るわけではない。

「《トライデント・ドラギオン》の効果発動! このカードをシンクロ召喚した時、俺の場のカードを二枚まで破壊する!!」

 

トライデント・ドラギオン ☆10

ドラゴン族/シンクロ/効果 炎属性 ATK3000 DEF2800

ドラゴン族チューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体以上

このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。

(1)このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを2枚まで選択して破壊できる。このターン、このカードは通常の攻撃に加えて、この効果で破壊したカードの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

 三つ首の赤竜は再び咆哮をあげる。

 それと同時に、今しがた伏せたカード、そして《竜の渓谷》は吹き飛び、辺りの風景は駅前の商店街へと戻る。

 竜の雄たけびと風景が一瞬で様変わりした二つの事象により、驚くギャラリー。

 

「あいつ、何で自分のカード二枚破壊してんだ?」

「あのカードは、破壊したカードの数だけ攻撃回数を追加できるんだ」

「何だと!? じゃあ、今、あいつは二枚カードを破壊したから……。三回攻撃ッ!?」

 座苦は無言で首を縦に振る。

 攻撃力3000の三回攻撃。荘介は観戦しているだけにも関わらず戦慄し、生唾を飲み込む。

 

(ちょれーなー、白鳥ぃ~……。まさか、イカサマしなくてもこんな風にできちゃうなんてよ……)

 桜井は心の中で下卑た笑いを浮かべる。

 今、自分には攻撃力3000で三回もの攻撃を可能とする超強力なドラゴンがいる。連続攻撃の機会はシンクロ召喚をしたターンのみだが、このターンで終わらせてしまえば関係ない。元より、《トライデント・ドラギオン》とはワンターンキルがモットーのカードなのもわかっている。

 マリシャスエッジを始末し、後はがら空きの奴の場に二回攻撃叩き込んでゲームセット。この圧倒的な力を以ってして、白鳥は自分の隷属下にあることを思い知らせる。

「さあ、バトルだ! 《トライデント・ドラギオン》で、《E-HERO マリシャス・エッジ》に攻撃!」

 

 三つ首の赤竜、その真ん中の首が雄たけびをあげる。

 その目は刃の悪魔をジッと見据え、標的、否、餌として見ているようだ。

 閉じた口の隙間から水の様に溢れる炎。それは竜の体内で生成される灼熱のブレス。赤竜はこれを吐いて、敵を焼き尽くす。

「ジェノサイド・ブレイズ!!」

 雄たけびと共に灼熱の吐息は真っ先に刃の悪魔へと向かって放たれる。

 刃の悪魔を尽きる事のない業火が包み込む。悪魔は悲鳴を上げることもなく、灰も残ることなく、跡形もなく戦場よりその姿を消す。

 

白鳥春樹 ライフ 4000⇒3600

 

「白鳥選手のモンスターが破壊された!? しかし、《トライデント・ドラギオン》はまだ二回攻撃ができます!!」

 理沙が実況の言葉を言いきるより前に、桜井は既に二度目の攻撃宣言をしていた。次の標的は白鳥。

 次は右の首が動き出し、先ほどの攻撃と同じ要領で雄たけびと共に業火の吐息を放つ。

 

「ジェノサイド・ブレイズ、セカンドォ!!」

 白鳥を業火の吐息が襲う。

 

白鳥春樹 ライフ 3600⇒600

 

 残りライフ、僅か600。三度目のまともに喰らえば敗北は免れない。白鳥の場には未だ伏せられたままのカードが一枚。それとも、単なるブラフで三度目の攻撃も甘んじて受けるのか?

「白鳥選手、絶体絶命です!! 次の攻撃を何とかできなければ、これで優勝者が決まります!!」

 理沙はあくまでも中立の立場で実況をする。

 しかし、理沙は本当は白鳥に勝って欲しい。彼女は荘介達のように彼と面識はない。しかし、先ほどの桜井の行いを見ていると、彼に勝って欲しくないとも思う。それに、白鳥は既に荘介と友達になっているように見えた。

 荘介だけじゃない、荘介の友達にも勝って欲しい。それが理沙の本心だ。

 

「白鳥くぅん。次の攻撃決まっちゃったら俺、優勝だね。そしたら、君、ケンカだけじゃなくてデュエルでも俺より下になっちゃうな?」

「…………」

 白鳥は何も言わなかった。

「ま、どっちにしてもこれで決まりだな! 行け、《トライデント・ドラギオン》! あのクズにトドメを刺してやれぇ!!」

 最後。

 左の首が真ん中、右の首と同じように動き始める。

「ジェノサイド・ブレイズ、ジ・エンドォ!!!」

 雄たけびをあげ、放たれる業火。

 それは先ほどの攻撃と同じく、白鳥に向かって真っ直ぐ、走るように近づく。

 

「白鳥!!」

 荘介が叫ぶ。

 

「白鳥君!!」

 夕実が両手で目を塞いで嘆く。

 

「ハーッハハハハハ!」

 桜井の高笑いがこだまする。

 

 

 

 ――白鳥の口元が歪む。

 それはまだ、これで決着は着かない事を意味する。

「リバースカード、オープン! 《ヒドゥン・ダーク》!」

 白鳥が発動したのは一枚の罠カード。

 そして、これにより、桜井の目論みは失敗に終わる。

「手札か墓地の《ダーク・フュージョン》か《ダーク・コーリング》のどちらかを除外する事で、その名前と効果を得る!」

「相手ターンでのダークフュージョンか!」

 相手ターンでの融合。その行為に荘介は先ほどの危機感を忘れて目を丸くする。

「え……?」

 指を僅かに開く隙間から夕実は場の状況を見る。

「僕は手札の《ダーク・コーリング》を除外して、その効果により、墓地の《E-HERO マリシャスエッジ》と、《E-HERO ヘル・ブラット》を融合する!」

 

ヒドゥン・ダーク 通常罠

(1)自分の手札・墓地から「ダーク・フュージョン」または「ダーク・コーリング」1枚を除外する。このカードのカード名はこの効果で除外したカードと同じカード名となり、同じ効果を得る。

 

ダーク・コーリング 通常魔法

(1)自分の手札・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できるその融合モンスター1体を「ダーク・フュージョン」による融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 白鳥のデュエルディスクの墓地スペースより飛び出るように現れる二体の悪魔。それは戦場の上空で水溶液のように一つに交じり合う。

 

 ――二つの悪意が一つに交わるとき、闇に魅入られし大神官の裁きが下る!

 

 

 ――融合召喚!

 

 

 レベル8、《E-HERO ブラック・カーディナル》!!

 

 

 漆黒の甲冑を身に纏う暗黒魔道士。それがこのデュエルにおける、白鳥のエースであるE-HERO。

 その守備力は3000。《トライデント・ドラギオン》の攻撃を寄せ付けない。

「ここで白鳥選手、守備力3000のエースモンスターを呼び出しました!」

 おおー!

 理沙の実況と観客の歓声が場を更に盛り上げる。

 決着が着くかと思われた瞬間に対抗して呼び出されるモンスター。

 怒り狂う三つ首の赤竜と言えど、攻撃力と守備力が同じではこれ以上、攻撃を通すことができなかった。

「チッ……!」

 渋々、バトルフェイズを終了する桜井。

 しかし、腑に落ちなかった。

(何故だ? そんなカードがあるなら二度目の攻撃に対して使えば、無駄に3000ダメージ喰らわずに済んだろ……)

 疑問だった。

 桜井には、白鳥がわざとダメージを受けたようにしか考えられなかった。

 《冥府の使者 ゴーズ》等のようなカードを使うのならばわかる。ダイレクトアタックがトリガーとなって発動する効果を持っているのだから。

 しかし、今使った《ヒドゥン・ダーク》は所謂、フリーチェーンの罠カード。わざと攻撃を受ける意味はないはず。

 それとも、《巨大化》でも使うのか?

 尽きぬ疑問はあるものの、次のターンにこそ、トドメを刺す。桜井はそう決めた。

 

「ターンエンド。オラ、白鳥。次はお前の……」

 桜井は閉口した。

 その時、見た光景に戦慄したからだ。

 

 ――白鳥の目が座っていた。それも恐ろしく。目のハイライトすら見受けられなかった。

 一瞬とは言え、桜井は白鳥に対し、本気で恐怖を感じた。

(何だ、今の目……)

 桜井は蒼ざめた表情で周囲を見渡す。

 荘介。

 夕実。

 座苦。

 理沙。

 他のギャラリー。

 ――誰一人として、白鳥の異質なオーラに気づいていないように見えた。感じ取ったのは桜井ただ一人。

 

「僕のターン、ドロー!」

 気づいた時には白鳥にターンが回り、カードをドローしていた。

 いつの間にと、思ったが、そういえばターンエンドと言ったのを思い出した。

「僕は《E-HERO ブラック・カーディナル》の効果を発動! このカードをリリース!」

 暗黒魔道士は黒い霧へと姿を換えて、場に漂い始める。

 その異質な光景に場がざわつく。

 直後、黒い霧はまるで手を伸ばすかのように、三つ首の赤竜へと伸びてゆく。

 黒い霧は赤竜を覆う様に広がり、包み込む。

「な、何をする気だ!?」

 状況が飲み込めない桜井はうろたえる。

 破壊?

 除外?

 E-HEROについて大した知識のない桜井には、否、ほとんどのギャラリーにはこれから何が起こるのか予測がつかなかった。

「ブラック・カーディナルの効果、それは……」

 黒い霧に包まれた赤竜は突如、その目を赤く光らせ、翼を羽ばたかせて、白鳥の側へと飛んでゆく。

 そして、白鳥と同じ方向を向き、桜井と対峙するように立ちふさがる。

「ま、まさか……!」

「そう、エンドフェイズまで、相手モンスターのコントロールを得る! E-HEROとして扱うと言うおまけ付きで」

 黒い霧は依然として赤竜を覆ったまま。恐らくは、このターンの間はこの状態なのだろう。

 

「相手モンスターを奪う!? スゲェ!」

 このデュエル、荘介にとって驚きの連続だった。

 白鳥と桜井の戦いぶりは過去の因縁を無視して考えれば相当に白熱するものだと思っている。

 E-HEROの融合を得意とする白鳥。

 ドラグニティによるシンクロ召喚を主力とする桜井。

 どちらの戦い方もまだまだ素人の荘介には考えられるものでない。

(けど、攻撃力は3000。桜井のライフはそれだけじゃ削りきれないぜ、白鳥……)

 

「桜井君、君は今、このカードだけではトドメを刺せない。そう思っている」

「あ?」

「でもね、僕は、墓地の《E-HERO ブラック・カーディナル》を除外し、もう一つの効果を発動するよ」

 デュエルディスクのセメタリースペースより排出されたブラック・カーディナルのカードを取り出すと、赤竜を覆う黒い霧はより濃厚となる。

 より濃くなった霧が赤竜を黒く染め上げ、赤色の面影が次第に失われてゆく。

 暗黒の竜、ここまで来ると完全に悪魔の隷属化にあると言えよう。

「何が起こったんだ……」

「墓地のこのカードを除外する事で、E-HERO一体の攻撃力を、ターン終了時まで1000ポイントアップさせる!」

「馬鹿な!? だが、そいつはE-HEROでは……」

「忘れたのかい? ブラックカーディナルの効果で奪われたモンスターは一時的にE-HEROになるって」

「ぐっ……」

 

E-HERO(イービルヒーロー) ブラック・カーディナル ☆8

悪魔族/融合/効果 闇属性 ATK1800 DEF3000

「E-HERO」モンスター+闇属性モンスター

このカードは、「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1)このカードをリリースして相手フィールド上のモンスター1体を対象として発動する。エンドフェイズ時まで、そのモンスターのコントロールを得る。この効果でコントロールを得たモンスターはこのターン、「E-HERO」モンスターとしても扱う。

(2)墓地に存在するこのカードを除外し、自分フィールド上の「E-HERO」モンスター1体を対象として発動する。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力を1000ポイントアップする。

 

 《トライデント・ドラギオン》の攻撃力は現在、4000。初期ライフでさえも一瞬で0にする圧倒的な攻撃力を備えて、元の主に牙を剥く。

 

「バトルフェイズ!」

 ――白鳥が高らかに宣言する。

 

「畜生……」

 ――桜井が小声で呟く。

 

「《トライデント・ドラギオン》で、ダイレクトアタック!!」

 ――白鳥が闇に堕ちた竜をけしかける。

 

「畜生…!」

 ――桜井の呟きの語気が増す。

 

「ジェノサイド・ブレイズ、レタリエイション!!」

 ――報復の意をその技の名に込める。

 

「畜生ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ――迫る業火を前に、桜井が叫び声をあげる。

 

桜井一臣 ライフ 3600⇒0

 

 何の対抗手段を講じることもできぬまま、桜井は自分のモンスターの手により、敗北を喫する。

 思いのほかに壮絶な結末を迎えたこのデュエル。ギャラリーも思わず静かになる。

 MCである理沙も言葉を失う。

 荘介も。

 

「…………、クッ」

 桜井は敗北のショックで膝をつく。

 白鳥はそれを見る、まるで虫けらを哀れむかのように。

(やっぱり、大したこと無いね……)

 その悪意に満ちた視線に気づいた者は、この時点では誰もいなかった。




今回は、1話でデュエルを済ませるつもりで長くなること承知で書きました。
今までは、早く公開しよう、公開したいと焦る気持ちがあって、余計に拙い文章になりがちでしたが、最近は1話1話、なるべく丁寧に書くように心がけています。
実はこの辺、仕事でやっていることの影響でもあるのですが。(笑)

シンクロVS融合、我ながら互いにやることはっきりしててメリハリついたなと思いました。
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