救世神話-Storm Saviour   作:風代利紅

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「まるでコーヒーのドリップが終わる寸前みたいなその時」
なんて言う、ご●うさっぽいサブタイにしようと思いましたが、やめました。
それは兎も角、書きあがるまでむっちゃくちゃ時間かかりました。


第13話《荘介と理沙の日曜日》

 ――…さい。誰か、止めて下さい。

 

 夢の中で、誰かが呼びかける。

 それは女性の声。

 透き通った、繊細で美しい声。

 しかし、その声には悲しみと焦りが込められている。

 

 ――止めて下さい。

 

 夢の中で、その女性は懇願する。

 何かを止めてと。

 それが何かは聞こえない。

 

 ただひたすらに、止めて下さいと、訴えかけてくる。

 

 

****

 

 

 荘介は目を覚まし、上半身を起こす。

 目覚めたばかりで、まだ頭がぼんやりとしている。

 しばし、そのままの状態で寝ている時に見た夢のことを思い出そうとする。

「…………。女? 何か言ってたな……」

 夢の中で女が何かを言っていた事までは思い出した。

 しかし、その顔が見えなかった事はすぐに思い出す。ただ、声だけが聞こえてきた。

「……何を止めればいいんだ?」

 まだぼんやりとする頭の中に、少しずつ夢の内容が蘇ってくる。

 しかし、あまりにも漠然とした夢のため、結局何を意味する夢なのかなんて、わかるはずもない。

 カーテンの隙間から陽が差し込んでくる。それは朝である事を荘介に教え込む。

 差し込む朝日を見て、荘介は今は朝だと認識する。

 そして、ベッドから出て、机の上に置いてあるスマートフォンの画面を表示させる。

 

理沙

『おはよう、草薙君!今日すごい楽しみだね!.:+:.::.:+:(,, ・∀・)ノ』

 

 朝、8時ごろに理沙からLINEのメッセージが来ていた。

 メッセージと同時に画面右上の時計を見ると、時刻は9:08となっていた。

 前日に11時頃と約束していたから、まだ余裕はある。寝坊せずに済んだ。

 時刻を確認した後に、理沙のメッセージへ目を向け、LINEのトーク画面を表示させる。

 前日の理沙とのやりとりが続き、最下部に今しがた目を通したメッセージが表示される。

 荘介は、朝食を取り、支度をする前にまずは理沙へメッセージを返すこととした。

 

そーすけ

『よっ、早いな藍川!

今から準備するよ。駅前な!』

 

 メッセージを送信。

 荘介はスマートフォンを机の上の充電器に差したまま、自室を出て階段を降りる。

 

 一階に下りてリビングに入ると、リビングの出入り口に背を向けてソファーに座り込む條がいた。テレビを見ている。荘介がテレビに目を向けると、音楽会をやっているのが見えた。「タイトルのない音楽会か」荘介は番組名を呟く。

「お、荘介起きたのか」

 荘介の声に気づいた條は、リビングの出入り口に立っていた荘介の方へ顔を向ける。

「兄貴、そのチャンネルっつーこと……」

「ん? キュアキュアを見ていたけど」

「女の子向けのアニメによーハマれるな」

 キュアキュアとは、日曜朝8時半より放送中の女の子が変身して戦うアニメ。

 本来は低年齢の女の子を対象として製作されているアニメなのだが、大人の男性からも意外なほどに受けが良い。

 世間では、キュアキュア愛好家の成人男性を『キュアキュアおじさん』と呼ぶこともあるようだが、荘介はそんなことに興味は無い。

 荘介は台所まで足を運び、陽の当たらない物陰に置かれている惣菜パンを手に取る。

「そういや兄貴」

「ん?」

「俺、朝飯食って準備したらすぐ出かけてくるわ」

「わかった。いつ頃帰ってくる予定?」

「多分夕方か夜。晩飯どうするかはまだ決めてねぇ」

「そうか、補導されんようにな」

「それはねぇ」

 荘介は一日の予定を含めた会話をしながら、惣菜パンを手に取り、リビングのテーブル前の椅子へ腰掛ける。

 座った後に、飲み物をし忘れたことに気づき、荘介は椅子から立ち上がり、食器棚からガラスのコップを取った後に、冷蔵庫の中からみかんジュースのパックを取り出してテーブルへと運んでいく。

 惣菜パンを食べるより前にみかんジュースを飲む。甘酸っぱい味がまだ目覚めきっていない頭に程よく刺激を与えた。

 

「そういや、夕実いなくね?」

 妹がいないことに今更気づいた荘介が尋ねる。

「ああ。とっくに出かけたぞ。遊びに行くって」

「朝早くから? あいつにしちゃ珍しいな」

 夕実も遊びに行かないわけではないのだが、朝早くから出発すること自体は珍しい。

 草薙家は父が海外へ赴任しており、母もそれに付き添って出て行ってしまっている。よって今、日本の住居には長男の條、次男の荘介、長女だが末っ子の夕実の三人で生活している。

 そして、夕実は、三人の中で一番家事をしており、部屋の掃除や食事はもっぱら夕実が務めていることが多い。

 次に條が食事を作ることも多い。

 荘介も家事をする事はあるが、二人ほど積極的ではない。そのため、二人からよくたしなめられている。

「荘介も出かけるって事は、家は俺一人か」

「普段休みの日なんて大概こもってアニメ見てるから、あんまかわんねーだろ」

「人がアニメしか見ていないように言うんじゃない。今日はドライブでもしようかと思ってたんだよ。なあ、荘介、ひとっ走り付き合えよ」

「だから出かけるつってんだろぉ!?」

 今しがた出かけると言ったのに、人を巻き込もうとする條の発言に呆れながら突っ込みを入れる。

 やれやれと思いながら荘介は惣菜パンを前歯で噛み千切って食す。

 

 

「んじゃ、行ってくらぁ」

「気ぃつけてな」

 荘介は玄関の扉を開けて出かけていった。

 時刻は朝10時。9時からチャンネルがそのままとなっているテレビは次の番組、政治討論番組が始まっていた。

 出演者がおはようございますと挨拶をした後に、政治に関して話し合いを開始した。條はそれをボーっとしながら流すように見ていた。

(そーだ、あそこ行ってみようかな……)

 條ものそのそとソファーから立ち上がり、出発の支度を始める。

 

 

****

 

 

 理沙の乗るバスは駅前のロータリーで停まる。

 バス出口前に設置されているリーダーに、ICカードの入った財布をタッチさせて支払いを手早く済ます。

 その後、バス前部にて到着と同時に開いたままのドアより降車して、駅の入り口へふと、目が向く。

 日曜日の11時前、駅の中へ入ってゆく人、駅から出てくる人、多くの人が行き交い賑わっているのが見えた。

(昨日は、ここが今よりもずっと盛り上がってたんだよね)

 昨日、自分が司会を務めたばかりのイベントが既に懐かしく感じた。昨日と今日とで、まったく異なる世界にいるような気分だった。

 デュエルローカルイベントは昨日のみのイベント。今日はこのあたりで荘介と待ち合わせて美術館へ行く。

 もっとも、理沙としては美術館も含めて色んなところに行く気満々なのだが。

 携帯の画面には10:47と表示されている。約束の時間より、僅かに早い。

 早く会いたい、早く行きたいという気持ちに駆られて少し早く来てしまったようだ。

「草薙君、流石にまだ来てないかなー」

 実は自分よりも早く来てるんじゃないかとついつい期待してしまう。一方で、そんなはずないとも思っているが。

 理沙はあたりを見渡して、荘介がいない事を理解した後に、鞄からスマートフォンを取り出し、LINEを起動する。

 

理沙

『私、もう駅前にいるよ!』

 

 メッセージ送信。

 すると、すぐに既読が付いた。

 

そーすけ

『はえーな。悪い、もうちょいで着くわ』

 

理沙

『待ってまーす』

 

 理沙のメッセージに既読がついて以降、返事は来ない。恐らく、急いでこちらへ向かっているのだろう。

 もうすぐ荘介が来る。

 そう考えると心が躍る気分だった。

 荘介としてもそうだが、理沙としても人生始めてのデート。とても自分から言い出しにくかったから、荘介の方から行こうと言い出したのはとても嬉しかった。

(まだかなー)

 理沙は一人、つい笑いだしてしまうほどに気分が舞い上がっている。

 一人笑顔でいる様子は端から見ると変人にも思われてもおかしくないが、そんな事気にしている訳がない。

 

「おーい、藍川ー」

 荘介の声がする。

 しかし、聞こえない。

「うふふっ、草薙君、早く来ないかなー」

 理沙は完全に自分の世界に入りきっており、周りの様子を全く気にしていない。

「俺はここにいるぞー」

 到着したことを主張する。

「楽しみだなぁ。草薙君とのデート!」

 まだ自分の世界に戻ってこない。と、言うか既に荘介がいることに気づいていない。

「…………」

 荘介は聞いてて恥ずかしくなったのか、顔が熱くなるのを感じる。

 そして、なんと言えばいいのかわからなくなった。

「…………。完全に自分の世界に入ってやがる……」

 思えば荘介は理沙に呆れ気味なリアクションを取ることが多い。

 しかし実は、そんな態度を取っているのは家族以外では荘介のみだと言う事を、荘介本人が知るはずもなかった。

 

 すーっと、荘介は鼻から息を大きく吸う。

 吸い込んだ空気を腹へ送り、エネルギーをチャージする。

 

 約1秒の間。

 

「…………わっ!!!」

「うひゃぁっ!?!?!?!?!」

 荘介が真後ろから理沙を脅かす。

 びっくりした理沙はようやく自分の世界から脱出し、現実世界へと戻ってきた。

 心臓が激しく脈打つのを感じた理沙は、次は心臓麻痺でも起こすのかと冷や冷やした。

 

 その後、何事!? と、うろたえて周りを見る。そしてようやく荘介に気づく。

「…………お、おはよ、草薙君……」

 まだ驚いた余韻があるのか、表情が若干硬くなっていた。

「よっ」

「いつからいたの……?」

 恐る恐る尋ねる。

「…………。うふふっ、草薙君、早く来ないかなーは聞いた」

 声を高くして極力理沙の口調を再現。

 どうやら、声は兎も角、口調の再現度が余程高かったらしく、理沙は死ぬほど恥ずかしい気持ちになって、顔が下から込みあがるように赤くなっていく。

 

 そして、風船が破裂したかのように頭から熱気が飛び出し、その場にしゃがみ込む。

「聞かれちゃった……草薙君に……恥ずかしい……死ぬしかない……」

「おいおいやめろやめろ。メンヘラみたいな発言はやめとけ」

 恥ずかしいまでは兎も角、死ぬという発言には流石に荘介も困りそうだった。

 しかし、荘介の顔は笑っている。理沙の発言がコメディのような冗談だというのはわかっているからだ。

 

「んで、早速美術館行くか?」

「待って! いきなり美術館行くのも何か勿体無くない?」

 理沙は美術館へ行く前に色々行きたいようだ。

 荘介としては、まずは美術館とも考えていた。しかし、現在時刻が11時だったため、荘介としても思うところはあったようだ。

 二人でまずは何をするか考えたところで、荘介が行動で示しだす。

「なら、サ店に行くぜ!」

 その一言と共に荘介は駅の入り口を背にして歩き出す。

 理沙は一瞬、歩けなかった。

(草薙君、ナウい……)

 サ店と言う死語を使った事に唖然としたからだ。

「おーい、早く来いよ」

 荘介は立ち止まり振り替えり、ぼーっと立っていた理沙を呼ぶ。

「はうっ! ごめーん!」

 駆け足気味で荘介の元へ行く。

 荘介は理沙が追いついてきた辺りで再び歩き出し、まずは喫茶店へと向かった。

 

 その後、喫茶店でお茶をしながら、その後にどこへ行くのか話し合った。

 そして、理沙の提案により、まずは服を見に行くことから始まった。

 理沙が荘介に服を選んで欲しいのと、理沙自身が荘介の服を選びたい気持ちがあったからだ。

 

「…………なげー」

 女子の買い物は長い。

 荘介には妹がいるとは言え、日頃からこのような調子で一緒に遊ぶわけではないから、これほどにまで長いとは思いもよらなかった。

 1件目の服屋に入った時点で既に10パターンは越えている。

 

「草薙くん、これどう!?」

「なんかパッとこねぇな」

「じゃあ、次の!」

 この会話の後に服を一通り探す動作を既に10回以上やっていることになる。

 荘介は唖然としながらも、まるで監督のように、理沙に相応しい服飾を選りすぐっているが、それにより殊更時間が掛かっている事には気づいていない。もしかしたら、荘介は女子との買い物を無意識の内に楽しんでいるのかもしれないのだが。

 

「ありがとうございましたー!」

 若い女性店員の声をバックに店を後にする荘介と理沙。

 荘介の右手には、入店前には持っていなかったこの店の紙袋が二つ、握られている。

 一つは理沙の服、もう一つは荘介の服が入っている。

 店を出た後の荘介の表情が喜怒哀楽のどれにも当てはまらない正真正銘、普通な表情をしている一方で、理沙はとても上機嫌。ついついスキップまでしているほど。

 

「草薙くん、約束があるの!」

「約束?」

「来週会う時は、お互い、今日買った服を着ること!」

 上機嫌なまま、荘介の前を歩いていた理沙は振り向くと、満面の笑みで荘介に約束を持ちかける。

 まだデートは始まって少ししか経っていないのに随分と遊び歩いたような表情にも見えた。

 その時の理沙の笑顔がとても楽しそうに見えたのか、荘介は別に何も拒否する事無く、素直に応じる。もっとも、そんな約束せずとも、荘介は着る気満々ではあったが。折角買ったわけでもあるのだから。

 

「ねえ、草薙くん。今日は何で誘ってくれたの?」

「えっ」

 思いもよらない問いかけに荘介は少々狼狽する。

「…………」

 返答に詰まった。

 否、何と返すか考えた。

 

 数秒の間。

 

「……。そりゃ、君と会いたかったから……」

 数秒頭の中を搾り出して思わず放った言葉。

 理沙は思わず胸がドキッとなり、顔が僅かに紅潮する。

 その顔を見て、荘介も自分の言葉が恥ずかしくなって顔が紅潮する。

 

 ――お互いに顔を見れない。

 

 ――しばらく無言のまま歩く。

 

 二人は、互いを意識しながら歩くあまり、周りの人々や町並みが全て、スクロールするだけの背景に見えた。

 その状態のまま、ただひたすらに歩き続けていると、やがて、レストランが見えてきたことに気づいた。

 

 ぐー。

 

 それは腹が鳴る音。

 露骨に空腹であることを主張するその音に、荘介は自分で気づき、一人で勝手に更に気まずくなった。

 しかし、人ごみの中、腹の音は理沙には聞こえなかった。

 それでも、荘介は若干、慌てふためきながら、レストランを指し、昼食にすることを提案する。

「な、なあ! 腹減ったし、昼飯にしないか?」

「そうね! 私もお腹空いちゃった!」

 二人はまだぎこちない作り笑いを浮かべながら、レストランの中へと入っていく。

 

 

****

 

 

 日曜日の昼、エタニティドリームの店内は他の客もカードゲームに興じており、とても賑わっている。

 その中で、夕実と春樹はテーブルで対面し、彼らもまた、デュエルに興じている。

 店内のテーブルでのデュエル、デュエルディスクを用いないため、ソリッドビジョンによる迫力はないものの、座りながらゆっくりとデュエルを楽しめられる。

 現在、夕実側の場には《フレシアの蟲惑魔》が守備表示で存在している。他に伏せカードはない。

「僕のターン!」

 春樹はデッキの一番上からカードを引き、手札を覗き込んで考える。

 夕実の場には、《フレシアの蟲惑魔》が存在するのみ。

 しかし、《フレシアの蟲惑魔》はそのモンスター効果により、デッキ内の落とし穴の効果を発揮することができる。

 春樹の手札には《ダーク・フュージョン》、《E-HERO(イービルヒーロー) マリシャス・エッジ》が2枚。《E-HERO(イービルヒーロー) マリシャス・デビル》を融合召喚することができる。

(マリシャスデビルを出すしかないのかな。フレシアがいるから絶対、《奈落の落とし穴》を使われる気がするんだよなぁ)

 春樹は警戒していた。

 たとえ融合召喚しても、すぐに破壊される事は想像に難くなかった。

 とは言え、春樹の手札は今はその三枚のみ。やるしかないと思った。

「《ダーク・フュージョン》発動! 手札のマリシャス・エッジ2体で融合し、《E-HERO マリシャス・デビル》を融合召喚!」

 春樹は3枚の手札を使いきり、エクストラデッキから紫の枠のモンスターカードを自分のフィールドに置く。

「僕は、マリシャス・デビルを出すけど、どうする?」

「じゃあ、私は《フレシアの蟲惑魔》の効果を発動させるよ」

 夕実は黒枠のカードの下に重ねられているカードを1枚墓地へ置くとともに、効果発動を宣言する。

 続いて、デッキの中身を覗きこみ、その中から《奈落の落とし穴》を1枚抜き出して、墓地へと置く。

「あーあ、やっぱりねー」

 春樹はこの展開は読めていたが、この状況では他にやりようもなかった。

 折角出したマリシャス・デビルを盤面の外に置くと、すぐに降参した。

「ついに負けちゃったね」

「やったー! やっと白鳥君に勝てたー!」

 何度もデュエルをし、ようやく春樹に勝てた夕実は嬉しくてつい、立ち上がった。

 春樹も遂に負けて、参ったと言いたげな微笑を見せる。

「僕に勝てたのがそこまで嬉しかったの?」

「うん! だって、白鳥君って凄いんだもん!」

「そ、そう……。僕、凄いのかな……」

 夕実が喜ぶあまりに春樹のこともべた褒め。それを聞いて、顔を赤くして俯く。

「でも、次は負けちゃうかもね。だって白鳥君強いもん」

「そうかな?」

「ねえ、どうしたらそこまで強くなれるの? 昔からだもんね」

「うーん、それにはまず……」

 

「あ、白鳥君と夕実ちゃん!」

 知っている人の声が店の入り口のほうから聞こえてきた。

 健一と座苦が入店していた。

「こんにちは! 確か、健一さんと座苦さんですよね!」

「座苦ってあんまり言わんでくれ。ガ●ダムのやられ役みたいじゃん……」

 邪気のない爽やかな笑顔で名前を呼ぶ春樹に対し、ばつの悪そうな表情を浮かべる座苦。

「俺らさ、これから例の美術館行こうと思うんだけど、お前らどう?」

「二人もですか? 草薙さん、僕らも行こう!」

「えっ、あっ、……うん」

 夕実は複雑な気分になった。

 折角、春樹と二人で楽しくやっていたところに健一と座苦がやってきてしまったことがちょっと面白くなかった。

 しかし、春樹は二人と会ってとても嬉しそうにしている。夕実は小学生時代が春樹に友達が少なかったのを知っており、今、目の前で楽しそうにしているのが嬉しくもあり、嫉妬と喜びが自分の中で戦っているような気持ちになっているからだ。

「じゃあ、まずはテーブルのカードとか片付けないとね」

 春樹と夕実はそれぞれ自分のカードを鞄に片付け、鞄を持って出発の準備が済んだ。

 そして、健一と座苦の二人と一緒に、エタニティドリームを後にした。

 

「今日は彼ら、ショップ大会に出ないんですね……」

 吉川店長は、出て行く四人の背中を見ながら一人さびしく呟いた。

 

 

****

 

 

 荘介と理沙は麗須美術館の入り口に立っていた。

 ロンドンの大英帝国博物館を思わせる荘厳な外観を見て、荘介は自分には不似合いな場所ではないかと感じさせた。

 一方で理沙はまるで馴染みの場所に来たかのように驚きも何も無い、楽な表情をしていた。

 

「さ、入ろ。草薙くん」

「あ、ああ」

 先ほどまでは、荘介のほうがリードするかのように前に立って歩いていたのに、理沙が荘介の手を引っ張りながら美術館の中へと入っていく。

 美術館の中へ入ると、とても騒がしかった街中とは打って変わって、とても静かだった。

 中には他にも客が大勢いるが、誰も殆ど言葉を発さない。勿論、全員がそういうわけではなく、時々、子供が声を出してはしゃぐ姿も見られた。もっとも、その子供ははしゃいだ直後に母親に怒られるが。

 

 美術館中を見渡した後に二人は『古代救世主展をご覧のお客様は、右へ進んでください』という案内がなされた掲示板が正面にあることに気づく。

「行こうよ、草薙くん!」

「落ち着けって」

 さっきにも増してはしゃぐ理沙を見て、荘介はまるで子供をなだめる様に理沙を止めながら歩く。

 二人は館内の案内に沿って歩き、目的の場所へと歩く。

 美術館の一部分が仕切りで囲われたエリアがある。

 エリアの出入り口に、『古代救世主展』と茶色の明朝体で書かれた看板が立てられており、それを見て二人はすぐにわかった。

 二人がエリア内で最初に目に入ったのは、大きなガラスケースの中に保管されている石碑、否、壁画の一部であった。

 その壁画は、剣を持った人と思しき形の存在が、剣を振り上げて無数の敵に立ち向かう様子が描かれていた。

 そして、その壁画は塗料で描かれたものではなく、壁を削って描かれている事はすぐにわかった。

「一人で、沢山の敵に立ち向かっている……いや、違う。これは……」

「草薙くん?」

 荘介は壁画を見て何か引っかかるものを感じた。

「これは……敵の群れに立ち向かって行ってるんじゃない……」

「どういうこと?」

 理沙は怪訝そうな顔で荘介を見る。

 荘介は、壁画を見ながら、右手で口を押さえていた。

 何かを吐き出してしまいそうな様子で。ただ、決して吐き気を催しているわけではない。今ここで、口にしてはならないことを口にしそうな様子。

 しかし、それを何と言うべきか言い表せる語彙が無く、口の中で溜まっているのを隠すように。

 

「彼は気づいてしまったのです、その壁画の本当の意味に」

 二人は、聞いたことのある声がしたのに気づいた。

 振り向くと、そこには明らかに日本人とは言えない顔立ちの男が立っていた。

 品のありそうな振る舞いを感じさせる彼は、昨日のデュエルローカルイベントの閉会式で少しだけ顔を見せた男、クライヴ・ウィルソン。

「ク、クライヴさん? こ、こんにちは!」

 まさか声を掛けてくるとは思わなかった理沙は、やや慌てふためきながらぺこりと頭を下げて挨拶をする。

「……。あんたは知ってるのか? この壁画の意味を」

「ええ、勿論。私は館長代理ですからね。ある程度の知識はありますよ」

 荘介の問いに、丁寧な口調で、しかしどこか余裕を通り越して人を見下すような態度の片鱗すら見せる様子で返す。

「折角、珍しいお客様が来てくださったのです。あなた方には私がここの案内を致しましょう」

 クライヴは荘介と理沙へ古代救世主展の案内をすることを自ら名乗り出た。




荘介と理沙が仲良くしてるけど、この二人が知り合いだって事を、他の誰も知らないんですよね。
でも、その知り合いが美術館に向かってるわけですよ。

……さて。
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