救世神話-Storm Saviour   作:風代利紅

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やっと出せましたストーム・セイバー。
中々デュエルする展開には持っていけませんね。


第14話《ストーム・セイバー》

 ――救世主。

 

 それは乱世の時代に新たな時代の道標を照らし、人々へその道を指し示す先導者。

 

 ――風の時代。

 

 風の救世主と呼ばれるものが斬り開いた時代。

 

 その時代の人々は苦しんでいた。

 束縛に。

 往くべき道に。

 

 人々は求めた。

 時代の迷い仔を導き、斬り開く救世主を。

 

 ――そして、彼は現れた。

 

 どこからともなく、一陣の風に乗り。

 そして、風の如き麗しき剣を携えて。

 

 救世主は剣を差し向けた。

 時代を切り開くための障害となる脅威に対し。

 

 いつ、終わるともわからぬ長き戦いが続いた。

 その戦の中でどれほどの血を流したかなど、想像もつかない。

 それでも、彼は戦った。時代を切り開くために。

 

 どれほどの時が経ったのかはわからない。

 

 ――戦は終わった。

 

 荒涼とした大地を覆う暗雲の隙間から陽が差し込み、乱世の時代に終幕を告げる。

 そして、始まる時代。

 全ては、救世主と呼ばれる者のはたらきによって。

 

 ――しかし、その後の救世主を見たものは一人もいない。

 

 それでも人々は、救世主を奉る祭壇を作り、顔も知らぬ人物を未来永劫、信奉した。

 

****

 

「以上が、救世神話と呼ばれる伝承の大まかな概要です」

 

 クライヴによる、救世神話の説明が終わる。

 その話が終わった頃、荘介と理沙は現実に戻りきれていないような、呆けたような表情を見せていた。

 早い話が、まだ内容を飲み込めていない訳だ。

 

「……初めて聞いたぜ。そんな話」

「ねっ」

 荘介と理沙どころではなく、この話は世間一般に知れ渡っていることではない。

 文献で世に出回っている神話、伝承とは訳が違う。

 しかし、クライヴは人に説明するために内容を簡略化こそすれど、内容そのものを捏造した訳ではない。

 つまり、古来より存在する由緒正しき伝承である。

 そうなると、どこで、誰が語り継いできたのかと言う疑問が生じる。しかし、そんな事は誰にも想像が付かない。

 

「何か質問はありますか?」

 一通りの話を終えて、質疑応答の時間へと移る。

 荘介と理沙が少々考え込む。考えた後に、荘介が手を上げて、質問をした。

「今の話だと、色んな事が漠然としててわからんところがあるんだけど……。まず、結局のところ、その救世主ってのは何と戦ったんだ?」

 荘介には今の話だけでは、理解できなかった。

 元々文学に無縁の生活を送っていたこともあるが、それを抜きにしても人に知らない情報を与えるのにも関わらず、クライヴの説明は簡単すぎる。

 つまり、具体性に欠けるのだ。

 ただし、クライヴは質問を引き出させるために意図的に話の内容を簡単にしているのだが。

「それに関しては諸説あります。救世主が戦った相手と言うのは、邪神の類であると言われておりますが、時代の流れそのものとも言われております」

「時代の流れ……。何かまるで反社会主義者みてぇだな」

「相手が何であれ、『風の時代』の妨げになったから刃を向けたのかもしれませんね」

 謎は深まるばかり。

 ただでさえ、具体的に何と戦ったのかが定かではない上に、『風の時代』などと言うよくわからない単語まで出てくる始末。

 話を聞けば聞くほど風呂敷が広がっていくのが何となくわかった。

「次の質問いいですか?」

 二つ目の質問は理沙から。

「『風の時代』って何ですか?」

 今のクライヴの話にかかる質問。荘介も尋ねようと思っていたことだろう。

「風の救世主のはたらきにより世界が変革を迎えるより前、人の心がひどく縛られていた時代が続いたそうです。『風の時代』とは、人間と言う名の虜囚が、時代と言う名の牢獄より解き放たれた時代を指すのです」

 小難しい話は続く。

 かなり大雑把に要約して、人々が自由を得たと考えて良いのだろうか、荘介と理沙はそのように考えた。

 わかったような、わからないような。

 二人の表情はまるで、難しい数学の問題を解いてるような苦く、そして少々険しい表情を見せる。

 うーんと声を出すだけの二人。

 クライヴはそれを見て、少し話題を切り替えることとした。

「今の話の中で、風の救世主と呼ばれる存在が出てきました。まずはそれについて知りたいと思いませんか?」

「そういやそうだ。何だそりゃ?」

「では、私に付いてきてください」

 そう言うとクライヴは踵を返し、背を向けて歩き出す。

 荘介と理沙はその後ろに付いて行く。

 

****

 

 関係者以外立ち入り禁止。

 通路の入り口前の立て札にはそう書かれていた。

 クライヴはその立て札をそのまま素通りして、通路の中へと入っていく。

 その先は明らかに美術館の関係者しか入ってはいけないエリア。荘介と理沙の歩みが止まった。

「ちょっと待った、ここから先に俺達は……」

「これは失礼しました。どうぞ、入ってきてください。そのまま私に付いてくれば結構です」

 荘介と理沙は思わず目を合わせる。

 二人とも今一つ状況についていけていない模様。何もかもがクライヴのペースで話が進んでいるようにしか思えなかった。

 しかし、美術館の館長代理とも言える人物が入って良いと言っているのだから、遠慮する事はないだろう。そう思って、荘介と理沙は関係者しか入ることが許されていない狭い通路の中へと入っていく。

 

 二人がスタッフ用の通路に入ると、空気が変わった。

 美術館独特の静寂は途端に無くなり、人気が少ないからこその、無機質な静寂へとスイッチが切り替わったかのように。

 天井の照明で照らされた乳白色の、しかし薄汚れた壁をクライヴが。そして、その後ろに荘介と理沙が付いていくようにただただ歩いていく。

 時折すれ違う美術館の関係者はクライヴにこそ、「お疲れ様です」と声を掛けるも、荘介と理沙を見て、怪訝そうな顔を浮かべる。部外者が関係者用の通路を歩いているのだから無理もない。

 通路を右折し、次は左折。その次は鉄製の重いドアを開くと、地下へと続く階段。

 三人が階段を一段、一段降りるたびにその足音が階段中に響く。

 階段を降りきり、地階へと足を踏み入れる。

 壁の汚れは上階よりも目立っていることが、この建築物の年季の長さを感じさせる。

 蛍光灯の照明も上階のそれよりも弱々しい。

 そんな地下の通路に三人の足音だけが反響する。

「どこまで行くのですか?」

 全くゴールが見えないことに不審になった理沙はクライヴに尋ねる。

「もうすぐです。さ、あの先です」

 歩きながらクライヴは、奥に見える鉄の扉を指差す。

 その扉の前に着くと、三人はその扉の中へと入っていく。

 

 扉の中には、古びた小部屋があった。

 真っ暗だった部屋の照明をクライヴが点けると、天井の明かりが部屋を照らす。

 部屋の中央には古びた木製のテーブルがあり、その上にはテーブルとは真逆の、真新しいジュラルミンケースが置かれていた。

 クライヴは胸ポケットから鍵を取り出し、ジュラルミンケースの鍵穴に差し込む。右に回すとロックが外れた音が鳴り、ジュラルミンケースの中身を、荘介と理沙に見せるように上に上げて開く。

「これです」

 荘介と理沙はジュラルミンケースの中身を覗きこむ。

 

「ッ!! これは……」

 二人が見たものは、デュエルモンスターズのカード。

 名前は、《ストーム・セイバー》という。

 まだデュエルモンスターズを始めて日が浅い荘介は兎も角、理沙もこれを知らなかった。二人は見たことも聞いたことも無い、未知のカードに面食らい、言葉を失った。

「ストーム・セイバー。風の救世主と呼ばれた存在です。風の時代を切り開くきっかけを作り出した張本人であり、後の時代の先駆者と言っても過言ではないでしょう。因みに彼の真価は……」

「ちょっと待った待った待ったぁ!!」

 荘介がクライヴの淡々とした説明を強制終了させる。

「何でそんな大昔……いや、現実かどうかもわかんねぇような話がカードゲームと結びつくんだ? 大体、救世神話って何なんだ!?」

 慌てふためく荘介の問いに冷静に返すクライヴ。

「歴史、神話、伝承。様々な逸話とデュエルモンスターズは常に密接な関係に結びついています。古代エジプトに伝わる決闘を例に挙げましょう。あれは、石版に封じられた魔物を一時的に召喚して戦わせていたそうです。そしてそれがデュエルモンスターズの原点とも言われております」

「じゃあ、その救世神話ってやつもそうなのか?」

「今のところ断定はできませんが、その可能性は高いですね」

 クライヴは《ストーム・セイバー》のカードを手に取りながら話を続ける。

「まず、このカードはデュエルディスクにおいても認証しません」

「は?」

 荘介と理沙は目を丸くした。

 まず、そもそも一般的に流通しないオリジナルカードをデュエルディスクに置いたところで、認証するはずがない。

 海馬コーポレーションのデュエル・リンク・サーバーにデータが存在しないのだから当たり前である。

「そりゃ、世の中に無いカードなんだから当たり前じゃん」

「ええ。しかし、これは特別なカードなのです」

「どういうこった?」

「救世主の力とは人の常識の外にあります。それは世界の法則すらも捻じ曲げる可能性があります。つまり、デュエルモンスターズの世界にも干渉できるということです。カードの形をしているのは、そのための姿と言っても良いでしょう。そして、それが許されるのは……」

「カードに選ばれた奴だけ、ってか?」

 荘介はクライヴが言おうとしたことを先に言い当てた。

 ご明察。クライヴはすかした表情でそれだけ言った。

「けど、なんでこんなもん俺らに見せたんだ?」

 荘介は不思議だった。

 理沙とは前日に会っているから多少の接点があるから彼女に見せることはあり得る。しかし、クライヴは態度はどちらかと言えば荘介に見せたかったようにも見えた。

 クライヴは予感をしていた。

 しかし、それはあくまで予感。確証はない。

 だからこそこう返す。

「草薙荘介、でしたね。あなたから風を感じたからです」

「なんだそりゃ」

「でも、興味はありませんか? このカードに」

 そう言われてみれば、非常識な話を立て続けに聞かされてカードへの関心がどこかへ行ってしまっていたことに気づいた。

 クライヴの問いかけで、荘介はカードとしての《ストーム・セイバー》への関心を呼び起こした。

 クライヴが持つカードをそのまま眺める。

 その様子を理沙が横で見る。

 次第に荘介の表情は笑顔交じりになっていった。

「さっきの訳分からん話は置いといても、かっけぇなこいつ」

 荘介は日頃から風属性で戦士族のモンスターカードを多用している。これに関心を示さないわけが無かった。

「けど、これをくれる訳じゃないんだろ?」

「ええ。申し訳ありませんが、貴重な物ですからね」

「わーってるよ」

 クライヴは《ストーム・セイバー》のカードをジュラルミンケースに仕舞いこむ。

 カードを収めたジュラルミンケースは閉ざされ、クライヴの手により施錠された。

「さて、続きは明日以降にこの美術館へ来てください。明日からこのカードも展示します」

「平日は学校だぜ?」

「別に放課後に来れるでしょう? ここは夕方六時までやっていますよ」

「ヘッ、うまいこと釣るじゃねぇか」

「フッ。では、戻りましょうか」

 荘介と理沙はクライヴに連れられて、地下室を後にした。

 救世主のカードが納められているジュラルミンケースが置かれた地下室の扉は閉ざされ、地下の暗闇に包まれた。

 

****

 

 荘介と理沙は美術館から出た。

 状況の理解がまだ追いついておらず、未だ頭の中に何かが渦巻いているような気分ではあるが、刺激的であったことは悪くないと思っているようだ。

 特に荘介にとっては、自分が愛用している風属性のレアカードを拝めたわけでもあるのだから。

「もう夕方か」

 気づけば、太陽は西の空へと沈みつつあるのが見えた。

 もう少し時間が経てば山に隠れていき、そして見えなくなるだろう。

 そして二人は気づく。もうお互いに帰らなければいけないことを。

 荘介と理沙はお互いに見合って名残惜しさを感じた。

「何か名残惜しいな」

「うん。楽しかったもんね」

 二人とも笑顔だった。

 デートが楽しくて、最高の一日だったからだ。しかし、それももうすぐ終わる。

「じゃあ、来週も同じ時間に会えるか?」

「来週? 土曜日は仕事があるから、日曜日にしよう?」

「オッケー、日曜日だな。今日と同じ感じで会おうぜ」

「うん!」

 理沙の顔は更に満面の笑みとなった。

 次のデートの約束をし、二人の日常は更に色鮮やかなものになっていくことを予感したのだから。

 いつの間にか、二人の手はしっかりと握られ、繋がっていた。

 知らず知らずのうちに、お互いにお互いのことを愛おしく思っていたようだ。

「あ……」

 再び二人は顔を見合う。

 いつの間にか手を繋いでいたことに気づいた二人は顔を赤くした。けれども、手を離そうとせず、お互いに包み合うように柔らかく繋いだままでいた。

 

 ――しばし、そのまま沈黙が続いた。

 

「……もう帰らなきゃな」

「そうだね」

 二人は手を繋ぎながら美術館入り口の階段を降りようとした。

 そして、荘介は階段を降りるときに下を向いて気づいた。

 

 

 

 

 

 ――気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ――そこには健一、座苦、夕実、春樹の四人がいたことに。

 

「あ……」

 荘介は凍りついた。

 表情も、全身も固まりきった。

 そう、見られてしまったのだ。自分がデートをしていたところを。

 この事は兄、妹にもまったく話していなかった。

 荘介が凍りつく一方で、彼を見た四人は奇異を見るような目で荘介を、そして変装して正体が分からない状態の理沙を眺めた。

 

「お兄ちゃん……。その女の子、誰?」

「え、えーっと……その……」

 都合が悪ければ即逃亡。

 曲がった行いには即反攻。

 それが草薙荘介。

 しかし、今の荘介は完全にしどろもどろとなっている。

 逃げ場も無ければ敵もいない。そして自分とずっと一緒にいたのはローカルとはいえ、アイドル。

 一気に崖っぷちに追い込まれた気分であった。

 もう先ほどの良いムードが台無しとかそんなことを考えられる思考ではない。

 

****

 

 夜が更ける。

 昼間は休日を楽しむ人々の喧騒に包まれていた駅前の街もすっかり静かになっていた。

 

 しかし、この日はいつもと様子が違う。

 それもその筈。

 夜の静寂は突如として打ち破られたからだ。

 

 美術館に鳴り響く警報。

 通報を受けた警察は美術館へと出動し、美術館の周囲にはパトカーがたちどころに集まっていった。

 パトカーの赤い光は夜の闇に包まれた街を赤く照らし出し、周囲の住民はただ事ならぬ騒ぎであることを予感した。

 警察が駆けつけて美術館の様子を見たところ、一箇所だけ問題があった。

 

 ガラスのショーケースが割られていた。

 勿論、その中に置かれていたものを盗むために割ったのだろう。

 そしてそれはクライヴが月曜日より美術館で展示予定だった《ストーム・セイバー》。

 クライヴもその騒ぎを聞きつけて、自宅より駆けつけた。

 鑑識が館内を調べまわる。

 警察や美術館の関係者などの話し声が聞こえる。

 非常に緊迫した空気。

 それぞれが犯人の足取りを追おうと捜査を続けていた。

 その中でクライヴは、割られたガラスケースをただただ眺め続けた。

 白い外套の両方のポケットに手を入れながら、神妙な表情で。

「…………」

 クライヴは何も口にしなかった。

 別にクライヴにとってこれが盗まれる事自体は大した問題ではないと考えている。

 いや、好都合だとも考えていた。

 しかし、館長代理としてカードを盗んだこと以外の問題に対しては落とし前をつけねばならない。大事な美術館を預かった身である以上、ここの備品を破壊したことを許すわけにはいかない。

(これをきっかけに、救世主が正当な主を見つける流れになればそれでいいでしょう。しかし、館長代理として責任を持たねばなりませんね……)

 口元だけが微笑みを見せる。

 そして、外套の裏ポケットより一枚のカードを取り出して視界に入れた。

(場合によっては使って差し上げる必要がありますね。この、《暗黒眼の皇竜(ダークアイズ・ロードドラゴン)》の力を……)

 闇が静かに胎動する。

 その力を誇示する機会が来ることを待ちわびるかのように。




ようやくファンタジー的要素が少しずつ目立ってきました。
それでも本質としては高校生の生活を中心であることを忘れないように話を丁寧に書いて行きたいです。
週1は何かもうしばらく難しいので、無理せずやっていくようにします。
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