その際にデュエルの書き方も大幅に変わったかなと思いました。
そうなってから初めて書く荘介のデュエルです。
というか思ったよりも長くなりました。
11話も字数が1万を越えましたが、今回はそれすら凌駕してます。
月曜日。
荘介達はいつものように一日の授業を終えて放課後を迎える。
いつもならここで健一による同好会へのしつこい勧誘から真っ先に逃亡する荘介だが、この日はいつもと様子が違う。
「浅井ー、悪いんだけどこれ職員室の俺の机に持っていってくれないか?」
「うぃーっす」
先ほどの歴史の授業で使ったプリントが教卓の上に積まれていた。
歴史の教科担任である平野はこの後、忙しいらしく職員室へ行く暇がない。そこで平野は何かと縁のある健一にプリントの運搬を頼み、足早に教室を出て行った。
(あれ、浅井って6限目終わったら真っ先に草薙を勧誘してなかったっけ? それで草薙は逃げるように帰ってたような……)
廊下を歩きながら平野はふと、疑問が浮かんだ。
月曜日6限目に授業を担当している平野にとって他のクラスにはない『お約束』が起こらない事に違和感があったからだ。
何かあったか? 草薙が根負けした? 色々理由を考えてみたが、真相は分からなかった。
考えながら歩いているうちにまあいっかと言った気持ちになり、次にやることへ意識を向けた。
「荘介、俺が戻ってくるまで逃げるなよ? いいな……?」
「ぐっ、わかったよ……」
未だかつて無い下卑た笑いを浮かべる健一。
屈辱から歯軋りする荘介。今にも地団駄を踏みそうだ。
煽るだけ煽った健一は平野の頼みどおり、授業のプリントを職員室へと運ぶため、教室を出て行った。
****
日曜日、荘介と理沙の二人は美術館を出たところを健一達に見つかってしまった。
その後のやりとりと言うのも荘介は普段、絶対に上げないであろう悲鳴を上げながら四人を何とか路地裏へ連れ込み、理沙も含めて冷静に事情を説明したのであった。
その結果荘介は健一からは「寝落ち野郎」と、座苦からは「運ゲー野郎」と呼ばれる羽目となった。
夕実も思うところがあったが、兄に折角できたガールフレンドの前で悪いことを言うのも良くないと思ってこの場は控えた。
一方、白鳥はと言うと、荘介をある種の尊敬の眼差しで見たのであった。
流石荘介さん! とまで言われてしまうが、それに皮肉が全く込められておらず、素直に尊敬されているのがかえって辛かったのである。
その後もすったもんだの末に、とりあえず理沙は荘介のガールフレンドだってことで話は一応収束。
その場で改めて簡単な紹介をして、理沙も荘介のコミュニティの仲間入りをしたといえる状態となった。
……なのは良いのだが、問題は荘介のほうである。
ローカルとは言え、アイドルと個人的によろしくやっている事は表沙汰になったら何かと面倒ごとに巻き込まれるのは想像に難くない。
そこまで知名度が高いわけではないため、週刊誌やネットに記事を書かれるような事態にはならないだろう。
マスコミが詰め寄る事はありえないと思う。
そんなことより、同じ学校の生徒が詰め寄ってくるほうが億倍厄介である。
秘密がバレてしまった荘介は現在、喉元に刃を当てられているに等しい状態といえる。
だから健一には逆らえない。逃げられない。
待たざるを得ないのである。
「荘介ー、戻ったぞー」
「おせーよ」
「逃げなかった事は褒めてやろう」
「……言っとくけど、てめーのために待ったんじゃねぇからな」
「ツンドラみたいなこと言うねぇ」
「それを言うならツンデレだ!! しかも俺はツンデレじゃねぇ!」
荘介はその日の晩、理沙からLINEが送られてきた。
内容は、「草薙くんもデュエルにハマってるんだから、同好会に行くだけ行ったら良いんじゃないの? 別に何もしてないんでしょ?」というものだった。
日頃逃亡生活(笑)を送っていることが健一によって暴露されてしまったことにより、普段の暇人ぶりが理沙に知られてしまったのであった。
そして、理沙にも諭されたこともあり、渋々同好会へ顔を出してみることにしたのだった。
同好会で使われている教室は三階にある。
荘介達の教室は二階にあるため、健一と荘介は階段を上って目的の部屋へと向かった。
「ここ」
「ふーん」
全然乗り気じゃない荘介の返事は完全に生返事。
健一が教室のドアを開くと、三人の生徒が既に教室内にいた。
その内二人が机の上でデュエルをしていた。横には各々が持っているカードやそれを収納していたストレージボックスが置かれており、デッキ調整とデュエルを交互にやっている様子が見て取れる。
「先輩、その人は?」
「おう、今日からここに入部する俺のクラスメイトだ!」
「まだ入部するって決めてねぇよ!」
荘介はあくまで顔を出すだけだと言っている。
しかし、健一は既に荘介が入ったつもりで後輩に話をしていた。
「見たところ、1年が二人と2年がお前含めて二人か」
「え、お前も含めれば3人……」
「まだだっつーの!!!」
いい加減にしろ。荘介の本音はこれに尽きる。
その後、荘介は既にいた三人に挨拶をした。
「俺はこいつと同じクラスの草薙荘介。よろしくな」
「始めまして、私はアナタと同じ学年の藤崎晶子ですの」
三人の中で唯一二年である女子生徒はどう考えても一般人らしからぬ口調であった。荘介はその口調を少し聞いただけでクラッとするような気分になった。
荘介は健一に小声で話しかける。
(おい、健一。あいつ厨二病か?)
(いや、マジであんな口調。良いとこのお嬢さんらしいぜ)
(マジか……)
「誰が中二病ですの!!?」
荘介と健一の小声での会話が聞こえたようで、それに反応した晶子。
その後も「うわ、地獄耳」「地獄耳で悪かったわね!バックドローップ!」「んぎゃーっ!」といったやり取りがしばらく続いて1年二人の紹介がしばらくできない状態が続いた。
「バックドロップは勿論冗談だからな!!」
とは、荘介の弁。
晶子との漫才染みたやりとりがやっと終わったところで、1年生二人の紹介へうつる。
一人目は大石正人という。
内向的な性格で、荘介としては春樹と似ているように感じた。
二人目は東宗一郎という。
大石とは逆の明るい印象で、ゲームをすることを心の底から楽しんでいることをダイレクトに感じさせる印象だった。
健一と晶子も含めたこの四人が、デュエルモンスターズ同好会のメンバーである。
このメンバーに荘介を加えることができれば、メンバーは5人となり、晴れて部活動として学校に認可される。
そうすれば、部活である恩恵を得られるから活動しやすくなる。
健一の目論みはそこにあった。
「同好会に入ると決めたわけじゃないけど、折角あった訳だしデュエルしようぜ」
荘介は晶子、正人、宗一郎の三人にデュエルを持ちかけた。
三人も当然乗り気で、順番に荘介と対戦することになった。勿論、デュエルディスクは使わず机の上での対戦で。
それぞれが勝ちも負けもし、その度にデッキやプレイングについて指摘やアドバイスをし合った。
和気藹々としながらもお互いに高めあおうと言う姿勢が見られたことから、荘介は早速同好会のメンバーと馴染んでいるのがわかった。
「満更でもないじゃん」
健一はやや呆れながらも微笑みながらその様子を眺めていた。
****
駅前には稽古場が入っているビルがある。
ここはダンス、歌、演技などの芸事のための稽古場であり、日々、様々な人が様々な活動で利用している場である。
理沙は普段ここで歌や演技の指導を受けており、この日も今度の土曜日のイベントに向けて歌の練習に励んでいた。
「うん、まあまあ良くなってきたな」
「ホントですか!?」
現在練習中の歌は、練習を始めたときはそれはもうボロクソに駄目出しを喰らうほど酷かった。
こんな事でライブは大丈夫なのかと心配される程度には酷いものだったようだ。
しかし、最近は上達してきたようで、細かい指摘を受けはするものの酷評を受ける事は無くなった。
それもすぐに直せるようなり、本当に細かい微調整くらいに留められる状態になってきた。
「よし、今日はここまでだ。お疲れ様でした!」
「はい、ありがとうございました!」
レッスンが終わった後、理沙は体操着から制服に着替え、鞄を持ってビルを後にする。
時刻は18時を回っているが、今は七月。陽が暮れつつあるものの外はまだまだ明るい。
理沙は日頃、バスで通学している。この日も勿論、駅前のロータリーでバスに乗って家の前まで帰るつもりでいる。
先ほどまでレッスンを受けていたビルは駅の北側にあり、普段利用するロータリーは駅の南口にある。
理沙は駅を経由して南口へ移動するため、今日も駅の北口へ入ろうとした。
「おっ、藍川だ」
理沙を呼ぶ声がした。その声の主は荘介だった。
「あ、草薙くん!」
思わず笑顔になる理沙。荘介も嬉しそうなのか笑顔だった。
そして荘介の後ろには健一の姿もあった。
「へぇ、そこで歌の練習とかしてんだ」
「そういや、そのこと話してなかったね。えへへ」
三人は駅の中に入り、雑談しながら南口へと向かっていた。
会話は、理沙のことから始まったが、話題はいつの間にか荘介が同好会に入るか入らないかに変わっていた。
「荘介の奴、あれだけ逃げていたのにいざ連れて行ったら他のメンバーと楽しそうにしてたんだぜ」
「あれはたまたまデュエルが楽しかっただけで……」
「えー、草薙くん結構嫌がってるって聞いたのに~」
「ぐっ、あれはな……」
ぐうの音も出ない。
実際に他の同好会メンバーとデュエルをしていたのは本当の楽しそうで、まさしく『満更でもない』と言うにふさわしい状態であったのだ。
荘介も案外素直ではないようだ。
「どうなんだ?」
「どうなの?」
理沙と健一に問い詰められる。
口から何かが出てきそうだが何とか抑える。
まるで嘔吐物を押さえ込むかのように。
しかし、もう耐えられない……。ここは降参して、素直に本音を吐露するしかなかった。
「ぐっ……ぐぬぬ……!! わかったよ! 俺の負けだ! 参りました! 同好会に入ります! コンチキショー!!」
「「おお~」」
荘介の言葉に思わず感嘆の言葉を漏らすと同時に拍手を送った。
それはまるで、今までできなかった事が始めてできた子供を見ているかのように。
思わず、「よくできました~」とさえ言ってしまった。
「何だよそりゃ……」
荘介からすれば全く以ってわけの分からない返しに只ひたすら呆れるだけであった。
そして、荘介が同好会に入ることが決まったところで南口のロータリーに到着。理沙はいつも自分がバスに乗る5番のバス停に行き、時刻表を確認した。
「まだ来ないや」
「後、どんくらい?」
「んー、10分くらいだね」
「俺らが暇つぶしの相手なるよ」
言い出したのは健一だった。
本当はどちらかと言うと荘介が言いそうではあるのだが。
「おめーは藍川の何なんだ」
「お前こそ、正式なカノジョじゃないじゃん」
「るせぇよ!」
「やるかー?」
「おもしれぇ」
男二人の一触即発。しかしそれは全く険悪な様子ではなく、いつもの風景にも見えた。理沙もそれがすぐにわかったのか、うふふと小さく笑った。
「「何だよ?」」
二人は互いに胸倉を掴み合いながら呆れたような顔で理沙を見る。
「二人とも仲が良いんだなぁって思ったの。周りでそう言う人見ないから」
「ふうん。でも、これからは増えるだろ?」
「えっ?」
「そうそう。少なくとも理沙ちゃんは昨日、俺らと出会った。俺らの仲間入りだ!」
しれっと健一があれこれ話す。
段々と痺れを切らした荘介は後ろからコブラツイストをかけた。
「テメーは、そうやって女子の誰にでもイイ面してんじゃねぇぇぇぇぇー……!!」
「んぎゃー! ギブギブ!!」
「草薙くん、やりすぎはダメだよ!」
割と本気で技をかけていたようで、ついに理沙に怒られてしまった荘介。
渋々技を解いて健一を解放する。
「ってぇーな、荘介」
「藍川に免じて許してやるよ」
「私を出さない!」
また怒られた。
「怒られてやんのー」
「…………」
健一に対し、静かな怒りが込み上がる。だが、また怒られるのがオチだ。荘介は何も言わない、何もしないことにした。
「それはそうと、日曜日でいいのか?」
「え、何で?」
「土曜日まだ仕事なんだろ? 昨日だって疲れたり……」
「余計な気遣いもダメ! 私が草薙くんと会いたいから良いの!」
「そっか。なら遠慮しねーぞ?」
「それでいいよ!」
荘介は仕事の翌日だから理沙も休みたいんじゃないかと心配になった。
しかし、理沙からすればそれは余計な気遣いであったようだ。
心の底では心配ではあるが、理沙が良いと言うのだったらもうちょっと遠慮しなくて良いか。荘介はそう思った。
「お、今度の日曜もデート?」
「あ、ああ。スキャンダルすんじゃねぇぞ」
「しねぇから安心しろよ」
「……へぇ、二人は付き合ってるんだ」
後ろから何者かが声をかけてきた。
それはいつか聞いたことのある、同じ位の歳の男の声。
三人はその声がした方を向く。
そこには桜井一臣がいた。
一昨日のデュエルローカルイベントの決勝戦で白鳥春樹に敗れた少年。
その目はとてもぎらついており、苛烈さではなく不気味さを醸している。荘介は直感でやばいと感じた。今のこいつとは白鳥でなくても関わってはいけないと思うほどに。
「お前、一昨日の大会で白鳥とやりあった……」
「分かってんだぜぇ、お前らが白鳥とグルだっつーこともよぉ……」
殺気が乗った視線は荘介と理沙へ向いていた。
実況をしていた理沙、彼女とアイコンタクトをした荘介を忘れない。自らのイカサマを妨げ、白鳥と共謀して敗北へと誘ったこの二人を。
「何のことだよ。俺と藍川が何したっつーんだ」
「お前らさえいなければ、俺はあの時……」
桜井は袖の中からカードを出した。
彼が普段行っているイカサマの方法そのものである。それを見て荘介は気づいた。理沙の実況がイカサマ防止に繋がっていたことを。
「……んなセコい手使って勝ってよ、楽しいかよ?」
「別にイカサマが楽しいわけじゃねーよ。白鳥を辱めるのが楽しかっただけだよ」
「……最低」
あまりに下劣な思考に理沙はドン引きした。
育ちが良かったのだろう。このような卑しい人間と関わった事は殆ど無かったから余計に鼻に突く。
「デュエルのリターンマッチなら白鳥に直接仕掛ければ良いだろ。何で俺んとこ来たんだ?」
「俺さ、新しい力を手に入れたんだ。白鳥を殺る前に、誰か練習台が欲しかったんだ」
「何か物騒なこと言ってるぜ」
健一も次第にきな臭い空気を感じ始めた。これは只のケンカさえも超越している気がする。
「正直、俺らもお前と関わりたくねぇな。だが、この状況は逃げられねぇ気がする」
「草薙くん……」
理沙の表情が一気に不安になってきた。
荘介と健一の顔が随分と険しくなっている。
何かが起こる。それは三人全員共通で感じた予感。
「要するに、テメェは俺とデュエルしてぇわけだ」
「理解が早くて助かるぜ」
「仕方ねぇ、受けて立つぜ。だが、ここじゃ目立つ。場所を変えるぞ」
四人はバス停を後にして、別の場所へと移動する。
そこが苛烈な戦場になることまでは想像もつかないまま。
****
行き交う人で賑わう駅前とは打って変わって人気が無い路地裏。
この目立たない場所で荘介と桜井は白黒付けるつもりでいるようだ。
陽が徐々に西の山の向こうへと沈んでいく中、路地裏の空気は殺気で満ち溢れている。
「てめぇが何を企んでいるかは知らねぇ。だが、今のてめぇは尚のこと白鳥に会わせるわけにはいかねぇな」
「んじゃ、どーすんだよ?」
「決まってんだろ……」
荘介はヘッと微笑みながら鞄からデュエルディスクを取り出す。そして、それを自らの左腕にセットする。
「てめぇは俺がぶっ倒す! 俺に勝てない奴が白鳥に勝てる訳ねぇしな!」
桜井はチッと舌打ちした。
確かに白鳥は強い。それは認めざるを得ないだろう。だが、白鳥を利用して自分を煽る姿には虫唾が走った。
だったら潰してやる、桜井は心の奥底で殺意を湧き上がらせた。
それはまるで火口の溶岩さながらに徐々に上がっていくように感じさせる。
「待って、草薙くん」
そろそろ一触即発と言えるような状況になる手前、理沙が荘介を呼ぶ。
理沙の手には一枚のカードが握られていた。
「これ、使って……」
理沙から託された一枚のカードを受け取る。
裏向きだったそのカードの表を見て、驚く。
――《死者蘇生》。
デュエルモンスターズをプレイしたものなら誰もが知るレアカード。自分のでも、相手のでも、墓地のモンスターなら何でも特殊召喚できるカードを理沙は荘介に託した。
彼らにとって《死者蘇生》はとても高価で入手も難しい。荘介はありがたくそのカードをデッキにそのまま入れた。
「藍川……何で?」
「私ね、なんだか予感がするの。悪い予感じゃないけど……何かが起こる気がして!」
「……。負けねぇって、だから心配はすんなよ!」
「うん……」
荘介は笑顔を見せるが、理沙は中々不安が拭えない。
いや、理沙が気にしているのは勝敗や生殺とは別の問題だった。それが何なのか、本人でもわからないのだが。
「さ、お前も構えろよ」
荘介は既に準備万端。一方で桜井はまだデュエルディスクを装着してすらいなかった。
しかし、荘介の挑発に対し悪態をつきながらデュエルディスクを左腕に装着した。起動音と同時にディスクが展開し、翼型の五枚のカードが並べられる状態へと変形する。
「さあ、始めようぜ? デュエルをよぉ。その為の新たな力をまずは一つ……見せてやるよォ!!」
桜井が両目を大きく開き右腕を天高く掲げると、紫色の炎が荘介と桜井を囲う形で結界を形成する。
今まで見たことの無いその異様な光景には対峙する荘介は勿論、その様子を見ていた理沙と健一も戦慄する。
これはソリッドビジョンじゃないと直感で分かると同時に、禍々しい氣を感じさせた。
――闇のゲーム。そのワードが不意に脳裏をよぎる。この禍々しい氣というのはそれに類するものだろうか。だとすれば、この桜井という男はその力をどうやって手に入れたのか?
尽きぬ疑問が怒涛のように三人の頭の中に舞い込んでくる。
「なんだこれは!?」
「これはツファット。デュエリストが己の総てを賭けて肩書きどおりの決闘を果たすための聖域だ」
「聖域……!」
「勝者は敗者にあらゆる罰を与えられる。言いなりにするのも殺すのも自由だ」
真顔の桜井から明かされる信じられない事実。
桜井の言ったことが本当であるのならば、下手をすれば荘介が殺されるかもしれない。
「草薙くん……」
理沙の顔が蒼ざめる。
荘介の死、それを考えると胸が締め付けられる思いを感じた。
(マジで何なんだよこいつ……。やっぱり一昨日と比べて様子が変だしよ……)
非常識な展開の数々に険しい表情を見せる荘介。
怖い、逃げたい。恐怖心が荘介の心を巣食う。しかし、荘介は逃げることができないとも思っていた。
(やるしかねぇ……! 勝てばあいつに罰を与えられるってんなら、こんなバカな真似が二度とできないように止めてやるしかねぇ!)
進退窮まった荘介は覚悟を決めた。
「俺はぜってぇ負けねぇぞ! さっさと始めるぜ!!」
「ククク……粋がってられるのも今のうちだよ、クソザコ!」
「ほざきやがれ!」
――デュエル!
先攻は荘介からだった。
「《バードマン》を召喚! そしてカードを1枚伏せてターンエンドだ!」
荘介が最初に召喚したのは、いつも使っている赤い羽根の鳥人。
そして伏せたカードはまるでそれを援護するための構えにも見えた。
鳥人は主である荘介を守護するかのように桜井の前に立ちふさがる。しかし、それで荘介は全く安心できなかった。
両者を囲う紫の炎、その存在が荘介に未だかつて無い緊張感を与える。
「バードマンだぁ? んなカード使ってるっつーことはまだまだトーシロだよなぁ」
「てめぇ……」
荘介は即座に悪態を突く。
理沙と健一も同じように桜井の発言に対しむっとした。自分が好きに使っているカードに対して露骨に暴言を吐くなど、決闘者の風上にも置けない奴だと思い。
「ま、それもすぐに潰してやるよ。ドロー」
桜井にターンが回ってきたことでドローをして手札が一枚増える。
「俺は《天帝従騎イデア》を召喚!」
桜井が召喚したモンスターは白銀の鎧で全身を包んだ女戦士。
その美しさはまさに、天に仕える御使いさながらであった。
「攻撃力800……。何かあるんだろ?」
「その通り。イデアの効果発動。こいつを召喚または特殊召喚した時、イデア以外の攻撃力800で守備力1000のモンスターを1体、デッキから特殊召喚する!」
イデアの効果発動宣言と共に、桜井のデッキから一枚のカードが突き出る。桜井はそれを抜き出してデュエルディスクのモンスターゾーンに直接叩きつけた。
「《冥帝従騎エイドス》を特殊召喚!」
イデアの導きにより出現したモンスターは、イデアとは真逆の漆黒の鎧を身に纏う男。片や天に仕えし者、片や黄泉に仕えし者。
「そして《冥帝従騎エイドス》の効果発動! このカードが召喚か特殊召喚された時、通常召喚とは別でアドバンス召喚の権利を1回得る!」
天帝従騎イデア ☆1
戦士族/効果 光属性 ATK800 DEF1000
「天帝従騎イデア」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「天帝従騎イデア」以外の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
(2):このカードが墓地へ送られた場合、除外されている自分の「帝王」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
冥帝従騎エイドス ☆2
魔法使い族/効果 闇属性 ATK800 DEF1000
「冥帝従騎エイドス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。
このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。
(2)墓地のこのカードを除外し、「冥帝従騎エイドス」以外の自分の墓地の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
「何!? てことは……」
「草薙荘介ぇ……。お前にはまずこれを見せてやるよ。俺はイデアとエイドスをリリースし、《冥帝エレボス》をアドバンス召喚!!」
イデアとエイドス、天と黄泉の御使い二人が飛沫のように消え去るや否や、冥界より這い上がるかのように地の底から帝が顕現。
その姿はエイドスを一回りも二回りも大きくしたようで、エイドスの主であることを強調しているかのようであった。
「でけぇ……」
その迫力は出現するだけで荘介を圧倒する。
帝という存在はそれだけの威圧感を出している。
「エレボスの効果発動! アドバンス召喚成功時、相手の手札、フィールド、墓地のいずれかのカードをデッキに戻す! 俺が戻すのは《バードマン》だ!」
――ゼロ・リグレッション。
冥帝が右手を開き、その名を宣告する。狙われた赤の鳥人は、足元に出現した暗黒の渦に飲み込まれてその場より消滅する。
「くそっ、これでがら空きか!」
荘介は歯軋りをしながら、バードマンが戻ったデッキがデュエルディスクの機能でオートシャッフルされている様子を見届けるしかなかった。
「がら空きのところわりーけど、喰らっとけ! エレボスのダイレクトアタック!!」
――ブラックソード・レイン。
冥帝の宣告とともに上空に漆黒の剣が幾つも現れた。その切っ先は全て荘介の方へと向けられており、明確に彼を狙っていることがわかる。
冥帝エレボス ☆8
アンデット族/効果 闇属性 ATK2800 DEF1000
このカードはアドバンス召喚したモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。
(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。
手札・デッキから「帝王」魔法・罠カード2種類を墓地へ送り、相手の手札・フィールド・墓地の中からカード1枚を選んでデッキに戻す。
(2)このカードが墓地にある場合、1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに手札から「帝王」魔法・罠カード1枚を捨て、自分の墓地の攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
「させるかよ! 《ガード・ブロック》発動!」
荘介が罠カードを発動させると同時に、淡い結界が荘介を覆う。それは、敵の攻撃から自身を守るバリア。
エレボスにより降り注ぐ漆黒の剣は全て弾かれたことにより、荘介へのダメージは無い。
しかもそれだけでなく、
ガード・ブロック 通常罠
(1)相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
「ま、それくらいはしょうがないか。ターンエンド」
桜井はばつが悪そうではあるものの、攻撃が止められることくらいは承知していた。渋々納得する様子を見せながらターンを荘介に渡す。
「俺のターン!」
デッキの一番上のカードを、力強くドロー。そのカードを加えた手札を眺めて次なる手を決める。
荘介が手に取ったのは右から二番目のカード、それは《召喚僧サモンプリースト》だった。
「サモンプリーストを召喚して効果発動! 手札の魔法カードを1枚捨ててデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する!」
手札から魔法カードを捨てると同時に、デッキから1枚のカードが突き出てくる。荘介はそれを抜き取る。そして、それを桜井が先ほどやったのと同じようにモンスターゾーンへと叩きつけた。
「《風のエルフ》を守備表示で特殊召喚!」
荘介が特殊召喚したカードは、緑のローブを着た金髪の女エルフ。荘介とほぼ同じ身長であることから、女性としては長身であることがわかる。
「エルフの効果発動! このカードが召喚か特殊召喚されたとき、デッキから違う名前の風属性で戦士族か鳥獣族モンスター1枚を手札に加える! 俺が加えるのは《
召喚成功時の効果により手札を増やす荘介。サモンプリーストの効果によるコストにより一枚減っていることを計算すれば差し引きはゼロとなる。
召喚僧サモンプリースト ☆4
魔法使い族/効果 闇属性 ATK800 DEF1600
(1)このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。
(2)このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。
(3)1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。
風のエルフ ☆4
戦士族/効果 風属性 ATK1400 DEF1400
(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「風のエルフ」以外の戦士族または鳥獣族・風属性モンスター1体を手札に加える。
(レベル4が2体……)
桜井は同じレベルのモンスターが揃ったことであることを予感した。
それはデュエルモンスターズをある程度プレイした人なら誰もがわかる簡単な答え。
「俺は、レベル4のサモンプリーストと風のエルフでオーバーレイ!」
荘介の場にいる二体のモンスターは紫色の光源となり、宙を舞う。その後に、交じり合い小さな銀河を上空で作り出した。
――空の申し子よ、その手に構える銃を操り全ての敵を撃ちぬけ!
――エクシーズ召喚!
ランク4、《鳥銃士カステル》!!
荘介が呼び出したエクシーズモンスターはライフルを構えた鳥人。
汎用性が高いと言われるそれは、風属性や鳥獣族に関係なくとも用いるデュエリストがいるほど。
「ちっ、厄介な奴が出てきやがった!」
その強さは桜井も当然承知で、思わず苦虫を噛むようないかにも嫌そうな表情を見せる。
「カステルの効果発動! オーバーレイユニットを二つ使い、表側表示のカード一枚をデッキに戻す!」
カステルはライフルを構えた。その銃口は既に狙いを定めている。
「俺が戻すのは勿論、エレボスだ!」
漆黒の帝、それが鳥人の狩りの対象。
――オクスタン・バレット。
荘介の「食らえ!」という叫び声と共に放たれた真空の弾丸は漆黒の帝を押し飛ばし、彼方へと追いやる。
桜井が除去されたエレボスをデッキに戻すと、デッキのオートシャッフル機能が働いた。
自分のデッキがシャッフルされている様子を見ながら気づく。お互いにやっていることが全く同じであったことを。ただし、こちらは伏せカードが無い。
(くそ、これじゃ……!!)
桜井は気づく。これは闇のデュエルで、自分もその弊害を被ることを。
「行くぜ、バトルだ! カステルでてめぇにダイレクトアタック!」
鳥人の銃士による狙撃、その次なるターゲットは桜井に定められた。そして、その引鉄が引かれる。
――ストライク・バレット。
エレボスをデッキに戻すための真空の弾丸とは違い、次に放たれたのは鉛の弾丸。
腹にその直撃を受けた桜井はうずくまった。
桜井一臣 ライフ 4000⇒2000
鳥銃士カステル ☆4
鳥獣族/エクシーズ/効果 風属性 ATK2000 DEF1500
レベル4モンスター×2
「鳥銃士カステル」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする。
(2):このカードのX素材を2つ取り除き、このカード以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻す。
「ぐうっ……!」
その様子に、荘介達も様子がおかしいことに気づく。
「お、おいおい。いくらソリッドビジョンだからってそこまで痛がることはないんじゃ……」
普通の状態であれば幾らなんでもオーバーなリアクション。よくチンピラ等にありがちな肩がぶつかった時でもどこかわざとらしいものだが、桜井のそれはリアリティがありすぎる。
「クッ、ククク……」
桜井が俯いたまま笑う。その様子から益々不気味さが感じ取れた。
闇のゲームと称し、紫の業火で覆う諸行、ダメージを受けたときのリアクション。どれにしても明らかに異常だった。
「闇のゲームってのはな……。モンスターのダメージが現実のものとなるんだ。だから俺は今こうして、クソ痛くてうずくまっちまった訳だぜ……」
よろめきながら立ち上がる桜井。まだ痛みは残っていることがその様子から感じ取れ、荘介はその異質な様子に言葉を失う。
「なあ、お前のターンは終了か?」
「あ、そうか。俺はカードを一枚伏せてターン終了」
生唾を飲みこむ。
何なんだコイツ。やばい。逃げたい。だが、放ってもおけない。危険で関わってはいけない相手なのは明白だが、だからこそここで止めなければならないという使命感もあった。
「俺のターン……」
桜井はドローをする前に左腕に視線を向ける。そして、その袖の中が透けて見えるように感じる。
袖の中にはカードが仕込まれている。ここぞと言うときに加えて一発逆転を狙うためのカード。それは所謂イカサマ。
あの時はあまりにもギャラリーが多すぎてできなかったが、この場なら他に見ているものはいない。外野二人だけならどうってことはない。今ならあのアイドルも只の外野に過ぎない。
やることは決まった。
桜井は、多分に悪意を含む笑顔を見せる。
「ドロー!!」
わざとらしく右腕全体で左の袖を隠すようにする。
正面の相手にはイカサマをしたのかしてないのか判別し辛い状態にしたまま、袖の中に仕込んだカードを手札に加える。
(!? あれは……)
とは言え、荘介……いや、理沙と健一も気づいた。あの挙動は明らかにイカサマをしたと。腕を覆い隠して袖の中のカードを加える。あたかもしたかどうかの判別がつけられない状態にしても、それを完全に誤魔化すことはできない。
もっとも、桜井としてはこの場でバレることは大した問題ではない。
そして桜井は手札に加えたそのカードを見ながら益々邪な笑みを浮かべる。
(草薙荘介……。このカードを召喚すれば、キサマは終わりだ!!!)
手に持つカードからは邪悪な瘴気が溢れ出ているようだった。
「俺は墓地に存在する《冥帝従騎エイドス》の効果発動。これを除外して墓地のイデアを特殊召喚。そして、イデアの効果により2枚目のエイドスを特殊召喚する」
前のターンと全く同じ流れ。帝をテーマとしている以上、同じようにアドバンス召喚を狙っている事は容易に想像できる。しかし、先ほどのダメージを受けてからの様子も含めて何もかもが怪しく感じる。
桜井は手札から一枚のカードを右手に取り、裏向きのまま荘介に誇示するように構える。
「草薙荘介! これがお前を闇に堕とす最強のカードだ!」
「最強のカードだと!?」
「いくぞ、俺はイデアとエイドスをリリース!! ……アドバンス召喚、《ストーム・セイバー》!!!」
「何だと……!」
フィールドに激しい風が巻き起こる。
白銀の鎧を身に纏う誇り高き救世主。
――その名は、ストーム・セイバー。
しかし、それも今や得体の知れぬ闇に蝕まれておりかつての誇りが失われている様だった。
「ストームセイバー!? 何であのカードを彼が!!」
荘介と理沙には信じがたい事実だった。
「てめぇ……どうやってそれを……」
答えは返ってこない。
桜井はそんな下らない問いに答える気など毛頭無いからだ。
「ハハハハハ。ハッハッハ。……ハーッハッハッハハ!!!」
闇。闇。そして闇。
数え切れないほどの闇の力がその場を蝕み、非常な刃となって荘介に襲い掛かろうとしていた。
救世主。
それはデュエルモンスターズ本来のカードプールには存在しえないが、
特有の力により因果律を捻じ曲げてデュエルに干渉できる。
しかし、それは選ばれし者のみが行使できるはずの力。
桜井が行使できる理由とは……。