遂に本作の看板モンスター、ストーム・セイバーが主人公の物になりました!
雑にブン投げまくった伏線も順次回収していきます。
まずはクライヴが……。
草薙荘介は風の救世主……ストーム・セイバーに選ばれた。
救世主に選ばれた者が現れた事、それ即ち救世主の代行者が現れた事を意味する。
つまり、救世主が現代の世に降り立った事と同義である。
それを、人はこう定義する。
――忘れられた神話の復活。
しかし、草薙荘介は今はそのことを知る由も無い。
自らが救世主と共に戦うその意味も。
彼はただ、自分の信じるがままに戦うことを選ぶだけであろう。
しかし、いずれ知ることになる。
――救世主の意味を。
――風の時代を。
――そして、救世主が秘める真価を。
荘介よ、今はただ自分が正しいと思った道を行けばよい。
自分を信じていれば、風は常に君に味方する。
そう、味方がいれば君は決して負けることはない。
信じよ、ただ純粋に、真っ直ぐに…………。
――風が答えを教えてくれる。
****
「勝った……」
デュエルが終わり、両者を囲っていた紫の炎の結界がフェードアウトする。
それと同時に高揚していた荘介の心も少しずつ落ち着きつつあった。そして、脱力感のようなものが全身を包み込む。
恐怖しているわけではないが、今にも全身が震えそうだ。
デュエルディスクの上に置かれた《ストーム・セイバー》を見る。
改めてみると、こんな特別なカードの持ち主に自分が選ばれたという現実が理解できなかった。
受け入れられないわけじゃない。例えるなら、宝くじで一億円を当てたような感覚であろう。幸運すぎて現実感が持てない。
「荘介くん……」
「荘介……」
理沙と健一が続けざまに名前を呼ぶ。
勝利したのだから既に心配するようなことはないが、勝利したにも関わらず微動だにしない荘介が気になった。
「お前ら……。俺、やったぜ」
荘介が二人の方を向く。
ストーム・セイバーのカードを手にとり、二人に見せるようにした。
「このヤロー! 冷や冷やさせやがって! 負けたら恐ろしいことになってたんだぞ!」
「いてーよ! 勝ったしこいつも手に入れたんだから良いじゃねーか!」
「そうそう、あの桜井って人は……」
「お、そうだな。おい、桜井」
三人が桜井のいた方を向いたが、桜井は忽然と姿を消していた。
敗者は罰を受ける。それがこのツファットと呼ばれる領域の中で戦った者のルール。
それを承知の上でこのデュエルを仕掛けておきながら、桜井は自ら逃げ出した。恐らく罰を恐れて。
三人は口を揃えてどうしようもない奴だと断定。
荘介としては人をいじめる奴なんて所詮その程度の奴だという認識もあった。
「けど、どうするの? これ、美術館の物でしょ?」
「ああ、そうだな。とりあえず美術館に行って、あのクライヴって人に……」
荘介が美術館に行くと言い出した矢先、理沙の携帯の着信音が鳴った。
未登録の電話番号からだった。
何なのか分からないが、理沙はとりあえず出てみた。
「もしもし、どなたでしょうか?」
『どうもこんにちは、クライヴです』
「えっ!? クライヴさん!? 何で私の番号を!?」
電話の正体はクライヴだった。
連絡先の交換などした覚えが無い上に、丁度話題に上がっていただけにひどく驚いた。
『これは失礼しました。訳あってあなたの父上から教えていただいたのです』
「そう、お父さんが……」
『ええ。私も急いでいますので、本題に移っていいですか?』
「あ、はい」
『恐らくあなた方は先ほど、桜井という少年に襲われたでしょう?』
「はい。でも、何でそれを?」
『それは今は話せません。ですが、後の処理は私に任せていただいて結構です。後、草薙荘介に伝えてください。ストーム・セイバーはもうあなたの物だから好きに使って良いと。……それでは失礼します』
一通りの要件を伝えるだけ伝えてクライヴは通話を終えた。
噂をすれば影が差すとは言うが、まさか電話が掛かってくるなどとは夢にも思わなかったであろう。
何はともあれ、理沙はクライヴから聞いた話を荘介と健一にも聞かせた。
「これが、俺の物か……」
元々管理していた人物からのお墨付きである以上、所有権についてはもはや気にすることはない。
問題があるとすれば、このストーム・セイバーにまつわるどんな事件が起こるかということ。
今、この場で起こった出来事に類似した事は今後も起こるのではないかと、荘介は懸念した。
****
――罰は嫌だ……!
桜井は必死に走った。
――死ぬのは怖い……!
路地裏をひたすら、見苦しく。
――俺にはまだやることがある……!
誰にも肯定されない悲痛な願いを唱えながら。
――許さねぇ……!
己の全ての非を認めない見苦しさを吐き出して。
「はぁ……はぁ……」
息が切れて走るのをやめた。
後ろを振り返っても追手は来ない。
逃げ延びた。
安堵して胸を撫で下ろす。
ツファットを用いたデュエルに敗れた者は罰を受ける運命。
しかし、桜井は自らそれを受けるのは嫌だった。
この力はあくまで、憎い相手を抹殺するための手段。自分がその手段に呑まれてはならない。
そして、今回のことをきっかけに覚えた。
負けても一目散に逃げれば罰を受けない、と。
ならば……今一度荘介に挑み、今度こそ葬り去る。ストーム・セイバーは単なる道具に過ぎない。無いなら無いで、やりようはあるのだから。
「草薙荘介、今度こそテメェを……」
たどった道を戻り、荘介にリターンマッチを挑むためにあの場に戻る。桜井がそう考えた矢先、人影が一つ、桜井の行く手を阻む。
「誰だ、お前は……」
白い外套を纏う長身の男、クライヴ・ウィルソンが桜井の前に姿を現した。
クライヴは不敵な笑みを桜井へと向ける。次第に夜空に浮かび上がりつつある月を背景にして。
「始めまして、桜井一臣君。私はあなたが盗みに入った美術館の館長代理、クライヴ・ウィルソンです」
「何だよ、オメェ。館長代理なんかが俺に何のようだ? 俺をしょっぴきに来たのか?」
「ええ、そうです。ですが、私はあなたにチャンスを与えようと思っております」
「チャンスだぁ」
「そうです、私にデュエルで勝つことです。ストーム・セイバーに選ばれた草薙荘介を倒すと意気込んでいるのであれば、私を倒していくことです。ククク……」
クライヴの言う事は要約すれば、荘介に会いたければ私を倒していけということである。
しかし、それは決して彼を守るようなニュアンスではなく、只単に荘介を出しにしているだけにしか思えない。
クライヴは何かを企んでいる。
底知れない心の闇を内に秘めて。
もっとも、桜井はそのことを知る由も無かった。
桜井は、度重なる出来事により興奮状態となっており、正常な判断力を失いつつあったのだから。
「その話乗ったぁー……。手始めにテメェをコテンパンにしてよぉ……」
口から息を漏らすように吐く。
まるで永い眠りから醒めた怪物のように。
しかし、クライヴはそれを見ても表情一つ変えない。強いて言うなら口元が少々曲がったくらい。
フッ、という相手を鼻で笑う声を僅かに出しながら左腕に装着していたデュエルディスクを展開。
既にデッキはホルダーにセットされており、いつでもデュエルが始められる状態であった。
「さあ、行きますよ!」
「どこからでも掛かって来いやぁ!!」
――デュエル!
逢魔ヶ時すら過ぎ、空を夜の闇が覆い始める頃、桜井一臣とクライヴ・ウィルソンのデュエルの幕が切って落とされた。
****
「ところでさ」
「「ん?」」
健一が唐突に話題を振った。
「お前ら、デュエル始まる前までは苗字で呼んでたのに、急に名前で呼び合うようになったな?」
「「え……」」
荘介と理沙はお互いの顔を見合いながら、その時の光景を思い出す。
死者蘇生を使う直前に理沙の名を呼んだ荘介。
それに対して名前で呼んで応えた理沙。
そのことを思い出して、何かが体の奥底からじわじわと込みあがってくるのを感じた。
「「……ぁぁっ!?!?!?!?!」」
お互い、顔を真っ赤にして目を逸らした。
「お前ら~、面白いなぁ~」
ニヤニヤしながら二人をからかう健一。
健一は更に荘介の肩を組んで酔っ払いのように絡み始める。
「いやね、ボクはキミの友人だからなんとなーく、そんなんだって分かってたよ。うん。荘介クン」
「カタカナで呼ぶんじゃねぇよ!!」
「何に対するツッコミかな?」
「何でもいいだろぉ!?」
「それはまあいいだろう。もう一つ、大事なことを二人に問う!」
「「何?」」
詰め寄る二人を前に健一は、目を閉じて腕を組み、暫し間を置く。
数秒間を置いた後に、指を差してどや顔で問いかけた。
「二人はズバリ! 恋人として付き合っているという自覚はあるのかぁ~!!??」
衝撃的な質問に荘介と理沙は閉口した。
と言うのも、本当に恋人と分かった上で付き合っているのならば即座に「はい」と答えられるだろう。
しかし、二人はまだあくまでも友達以上恋人未満といった関係だった。
それは今後どういう関係に落ち着いてもおかしくない。
だから、「はい」とも「いいえ」とも断言できない微妙なところなのだ。
荘介が逆に健一の肩を組み、語りだす。
「どんな関係だって聞かれたら~友達以上かな~それも少し違うか~……って歌詞、知ってる?」
「何のこっちゃ」
「つまり、聞くんじゃねぇって事だ」
「まったくしょうがねぇなー」
「そろそろバス停戻ろうぜ」
荘介に促されて三人は、理沙がバスを待っていた場所に戻った。
****
「じゃあねー」
理沙がバスの中から二人に対して手を振る。
二人もバスの中の理沙に対して手を振った。
バスが排気ガスを噴かせながらロータリーを後にした。
それを見届けた荘介と健一も帰路に着く。
「荘介、お前、帰ったらそのストーム・セイバーを入れてデッキ組みなおすのか?」
「たりめーだろ。折角のすげー力だ、俺の手でコイツを使いこなしてぇ」
歩きながら荘介は先ほど入手したばかりのストーム・セイバーを眺める。
カード持ちながら歩くのは危険だと健一に注意されて荘介はカードをケースの中にしまいこんだ。
「確か、お前が最近使ってる蒼空騎士は、レベル6になるカードが多かったよな」
「ああ」
「なあ、まるでそのカードって、ストーム・セイバーのためにあるようにも思えるんだけど」
「偶然じゃねぇのか? ま、どっちにしても関係ねぇよ。こいつらは相性良さそうだから一緒にデッキ組む価値はあると思うぜ」
「お前がそう言うなら止めやしないぜ。とりあえず、明日デッキ持って来いよ。部員全員見てる中で真剣勝負だ!」
「おもしれぇ。皆見てる前で部長のオメーをけちょんけちょんにしてやるぜ」
「負けんぞ」
「こっちこそな」
睨む健一とほくそ笑む荘介。
明日、荘介は早速、ストーム・セイバーを組み込んだ新デッキで友人である健一と真剣勝負をすることとなった。
この後、荘介は帰宅して夕食の後に、自室に篭って只ひたすらにデッキ構築に夢中になった。
理沙とのLINEも程々にしてしまうほどに。
****
クライヴは、《神獣王バルバロス》を通常召喚。
このカードはレベル8のモンスターでありながら、リリース無しで召喚可能。ただし、その方法で召喚した場合は攻撃力が1900となる。
神獣王バルバロス ☆8
獣戦士族/効果 地属性 ATK3000 DEF1200
(1)このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2)このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。
(3)このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事もできる。
(4)このカードがこのカードの(3)の方法で召喚に成功した場合に発動する。
相手フィールドのカードを全て破壊する。
これにより、クライヴの場に神獣王バルバロスが二体並んだ。
「レベル8のモンスターが二体……」
桜井は一つの可能性に気づいた。
同レベルのモンスターが二体並ぶと、何が起こるのか。
「フッ、流石に察したようですね。では、あなたにお見せしましょう。私は、レベル8のバルバロス二体でオーバーレイ!」
獅子が如き鬣を持つ二体の戦士は空中で眩い霊体となり、宙で一つに交わる。
――その瞳に大いなる闇を内包する竜。
――総てを破壊する暗獄の力を教示せよ!!
――エクシーズ召喚!
ランク8、《
クライヴが誇るエースモンスター、それが《
出現すると共に、敵対するものを絶対的な恐怖と威圧感で身動きすら取れなくなる。
竜であるにも関わらず、鈍色の甲冑で身を纏い、その漆黒の鱗に僅かに彩りを与えているが、それがかえって竜の暗黒面を前面に押し出しているようにも感じられる。
竜は、出現と同時に咆哮をあげる。
力の根源たる闇と同じくらいに底知れない殺気を放ち、桜井を大いに戦慄させる。
「何だ……そいつは……」
「
暗黒竜が口を開くと、口元で闇の球体が徐々に形成されていく。
桜井には何が起こっているのかまでは把握せずとも、直感的に非常に危険であることを察知した。
しかし、気づいた。
――逃げられない。
さっきは負けても逃げれば良いと思っていたのに、今は恐怖のあまり逃げることすらままならない。
自らの考えが浅はかだったことに気づいたが、それは既に手遅れだった。
既にクライヴの静かな怒りは、桜井を捉えて逃がさない。
「……ッ! 何で、何で俺を狙うんだ!? ストーム・セイバーが奪われたのがそんなに悔しかったか!」
命乞いをするかのようにクライヴに問う。
クライヴは表情一つ変えず、冷静に問いに対して返答する。
「ストーム・セイバー自体は全く惜しくありません。しかし、私は美術館を預かる身。あの美術館の備品を壊した事は許せません。だから、私はあなたに落とし前をつけるのです。わかりましたか?」
クライヴは淡々と説明しているが、その言葉の節々には僅かに怒気を感じられた。
細める目の奥から殺気を放ち、桜井の胸を深く突き刺す。
「さあ、もういいでしょう。覚悟は良いですか?」
クライヴの不敵な笑みを見せ付けられた桜井は何も言えなかった。そして、逃げられもしない。この後待ち受けるのは恐らく、様々な狼藉を働いた事への報復として凄惨な負けっぷりを曝け出す事だろう。
暗黒竜の口元の黒い球体は次第に肥大化していく。
それはさながら、ブラックホールであるかのようにも見える。
否、実際にブラックホールを形成しているのだ。
――鎮滅のブラックホール・バースト!
クライヴが高らかに宣言すると同時に、暗黒竜は口元の黒い球体……ブラックホールを射出。
ブラックホールは桜井の場に佇む白き帝こと、《光帝クライス》を直撃。
クライスは自らに直撃したブラックホールの中へと一切の抵抗も許されず飲み込まれていく。その体躯が細長く圧縮されて。
そして、それと同時に激しい衝撃により桜井自身も吹き飛ぶ。
桜井一臣 ライフ1000⇒0
これはあくまでもモンスター同士の戦闘。
それにより発生したダメージを受けたことにより、桜井のライフは0となって敗北した。
そして、桜井自身は吹き飛ばされたショックにより気を失った。
意識の無い桜井の元へ寄ろうともせず、クライヴはその場で吐き捨てるように言った。
「どこで手に入れたのかは知りませんが、紛い物の力では、誰にも勝てませんよ」
その後、どこからともなく警察が駆けつけてきて、人気の無い路地裏は瞬く間に喧騒に包まれた。
夜の闇をパトライトの光が赤く染め上げる中、警察は気を失った桜井の身柄を確保する。
警察は気絶した少年が桜井一臣であることをクライヴに確認した後に、救急車を手配する。
しばらくして、物々しい現場に救急車が到着。
桜井を担架に乗せて担ぎ上げた。その後、桜井は気絶したまま救急車の中に乗せられ、移送されていった。恐らく警察病院へ送られるのだろう。
美術館の備品を壊した犯人である桜井の移送を確認したことにより、警察も現場を離れていった。
やがて、路地裏に夜の静寂が戻る。そして、クライヴはその中に一人佇んでいた。
「…………。なるほど、彼はレガリアの力の片鱗を得ていた訳ですね」
――レガリア。
広義では王権を象徴する品を指す言葉だが、クライヴが呟くそれはまた異なった意味合いを持つようだ。
そして、クライヴはレガリアの正体を知っている。
「問題は、誰が彼に力を与えたのか。そして、その者は今、どこにいるのか」
クライヴは桜井にレガリアの力の片鱗を与えた者の正体を探っている。
「エリザ、レガリア、ツファット。人の欲望を煽り、心の闇を増幅させるファクター。……荘介、救世主に選ばれたあなたを待ち受ける運命は、そんな甘いものではありませんよ」
クライヴは、今、このときに救世主に選ばれたことの重大さも理解している。
にも関わらず、荘介と救世主を引き合わせた。
それは自らの目的のためである。
クライヴは自らのデュエルディスクから、
そして、これから始まる『ゲーム』を予感する。
「ですが、安心してください。あなたと救世主、いや、レガリアに関わる者全ての業は、この
夜の中、クライヴは一人不気味に微笑む。
これから始まる熾烈な戦いの連続をまるで心待ちにしているかのようでもあった。
風の救世主と暗黒の竜皇が激突する日は近い……。
しかし風は何を告げるでもなく、ただ穏やかに吹き続けるだけであった。
荘介とストーム・セイバー、クライヴとダークアイズ。
役者が揃いました。
そして、1話で出てきたエリザに前回のデュエルで使われたツファット。
更に今回のクライヴの独白の中に出てきたレガリア。
重要な用語もどんどんぶっぱしちゃってます。
と、言うわけで!!!
そろそろ新章へ移る予定です!
お楽しみに!