荘介がストーム・セイバーを手に入れたことで話は動きます。
初夏の夜。
陽が差さない暗闇が世界を覆いつくすその時間であっても、熱気を僅かに感じる空気は季節が徐々に夏に変わっていくことを感じさせる。
これから人も、動物も活発になる。しかし、そんな夏へと変わりゆく穏やかな空気とは裏腹に、その場は強い殺気が支配していた。
デュエルディスクを左腕に装着している者――。決闘者が対峙していた。それもただの決闘を行っているとは思えないような、まるで対峙する相手を抹殺しようとせんばかりの殺気。否、それは殺意に置き換えて相違ない。
「その力で、お前は何を求める?」
アドルフは問う。
「世界の総てだ」
対峙する男は返す。
男は自らが持ちうる力の意味を分かっていない。アドルフはそう確信した。
――レガリア。
その力を持つものは互いに惹き合い、互いの総てをかけた文字通りの決闘を執行する。
今、二人が行っているのもその決闘である。
我々の知る、ゲームとしての決闘ではない。互いの大事なものをかけた決闘、血の儀式。
世界の総てという答えを聞き、やはりというか呆れるアドルフ。
この力の果てに求めるものは何ゆえ、誰も彼も同じなのか。所詮この世には俗物しかいないのかと、ただただ呆れ果てるのみである。
「レガリアを持つものは様々な願いを持つ。だが、お前はその中でも特に哀れな男だ」
「何だと!? それはどういうことだ!!」
男は語気を強めた。
アドルフは益々呆れる。
弱い犬ほど吼える。この男は見事にそれを地で行っていたからだ。もうこれ以上の問答は時間の無駄。アドルフは勝負を決めることにした。
「お前の事はよく分かった。救い様の無い奴だと」
アドルフの左腕に装着しているデュエルディスク、そのホルダーが開く。アドルフはそこから一枚のカードを抜き出して右手に取る。
「エクシーズ召喚」
一枚のモンスターが場に召喚された。
「そ、それは……! ぐあぁぁぁぁっ!!」
召喚されたモンスターの放つ輝きと共に、男は圧倒的な力に呑まれ、敗北を喫する。
デュエルは終わった。
アドルフは一人、月夜の下に佇む。そしてその手には先ほどまで所持していなかったエクシーズモンスターが握られていた。
「これでレガリアが一つ……」
レガリアを持つ者同士の戦い。敗者は勝者に
つまり、このエクシーズモンスターはアドルフが先ほどの男から奪った物であることを意味する。
アドルフは足元に目を向ける。そこには、先ほどの男が意識を失い、その場に倒れていた。
「そういえば、この男が言っていたな。救世主を持つものが現れたと」
――救世主の伝説。
もしもそれが本当であるのならば、レガリアに勝るとも劣らない大きな力を持つ。正当な主が現れたという事は自分がその力を行使することは叶わない。しかし……。
――脳裏に一縷の望みが走る。あの力がもしも味方してくれるのならば、或いは……。
アドルフは歩き出す。
己が本懐を遂げるために必要な力を求めて。
全ては、誤った道を歩き出した友を止めるために……。
****
「《ストーム・セイバー》でダイレクトアタック!」
荘介が高らかに宣言すると、風の救世主はその手に持つ剣で健一を横に両断。勿論、それは単なるソリッドビジョンによる演出。
そして今の攻撃で健一のライフは0となった。
教室中に歓声が響き渡る。
そう、荘介と健一はクラスメートをギャラリーに、デュエルディスクを使って教室でデュエルをしていた。
その賑わいようは他のクラスの人も無視できず、つい観戦するほど。
実は荘介は健一と真剣勝負をして初めて勝った。それまでは荘介の腕が未熟だった。しかし、《ストーム・セイバー》を手にしたことがきっかけになったのか、荘介の実力はメキメキと上達しているように感じられた。
「くっそぉ、ちょっと前とは強さが全然違うな……」
健一は荘介に塩を与えたような気がして自分のしたことに軽く後悔した。
《ストーム・セイバー》と「蒼空騎士」の相性が良い事に気付いた健一は荘介にアドバイスをした。荘介も同様のことに気付いてはいたものの、健一のアドバイスが決定的だったのではないかと勘ぐった。
まさかここまで強くなるとは思わなかったからだ。
「荘介ぇ!」
「な、何だよ?」
「お前は青山さんと倒し、俺を倒し、そしてすげーカードを手に入れた!」
「お、おう」
「そんなお前は……。何を望む!?」
突然の意味不明な問いかけであった。
別に何も望んでねぇよと言うのが本音であった。
「おい、お前ら。まだこんなに残ってるのか!?」
担任が教室に戻ってきた。既に放課後なのに殆どのクラスメートが帰っていないものだから大いに驚いた。
「お、センセ。俺、健一に勝ったぜ!」
サムズアップと良い笑顔で担任に勝利の報告をする荘介。
「それは良いけど。草薙、お前に話があるから職員室に来てくれよ」
「えー、マジで?」
「なるべく手短に済ますから」
「わーかりました」
担任に呼び出された荘介はデュエルディスクを鞄に片付け、渋々担任についていく。二人は教室を出て行く。
「あ、皆は机整えてから帰れよー!」
残った生徒には帰るように促していった。
面白い見世物を見ててご機嫌だった生徒は特に反論もせず、素直に机の整頓に応じた。
****
机の整頓が終わり、生徒は続々と教室を出て行く。
健一も今日は、部活が休みだから帰宅しようと、荷物をまとめて帰宅しようとした。
元々荘介とは帰り道が違っており、健一はいつも一人で帰宅している。だから担任に呼ばれた荘介を待つような事はしなかった。
「くっそー。俺のデッキもすっかり攻略法見抜かれたかな」
健一は一人、校門へ歩くまでの間に先ほどのデュエルの敗因を考えていた。
攻撃のタイミング、ブツブツ……。
出すシンクロモンスター、ブツブツ……。
伏せる罠カード、ブツブツ……。
そして、それは独り言として口からアウトプットしていた。
その独り言を呟きながら健一は廊下を歩き、校舎を出る。無心で歩き校門を出ようとする健一の視界に見慣れない風貌の男、アドルフが入る。
健一は違和感をおぼえた。もう夏になるというのに、その男はグレーのロングコートを着ていた。しかも明らかに学生という雰囲気ではなく、二十代以上のように思えた。
「そこの君」
アドルフは偶然目が合った健一に声を掛けてきた。物言いに威圧感は無く、悪意のようなものは感じられなかった。だから、健一も嫌悪感は抱かず自然体で対応することができそうだった。
「何すか?」
「人を探している」
アドルフは誰かを探しているらしい。目的は分からないが、その一言で奇妙な感覚が脳裏をよぎる。
「……どんな人です?」
「《ストーム・セイバー》というカードを持つ少年がここの学校にいると聞いた」
――荘介だ。
どこでそんな情報仕入れたのか知らないが胡散臭すぎる。健一は大いに警戒した。
会わせちゃいけない。そう感じた健一は策を講じた。
「ああ。そいつね、知ってるよ。でも今日は風邪引いて休んでるんだ」
――うわ、あからさまな嘘。
健一は心の中で自嘲した。まあ、こんな嘘でも真に受けてくれればそれでいいのだが。
アドルフは無言で校内に入っていく。健一の発言を嘘と断定したようだ。
あれは呼び止めてもきっと止まらない。
はぁ、とため息をついた健一は決心する。
「そんなに知りたきゃ俺とデュエルしろ!」
アドルフは健一の挑戦を無視して歩き続ける。
「あいつは俺よりもつえーぞー! 俺に勝てないんじゃ、あいつに挑んだって無駄無駄!」
アドルフは漸く歩を止めた。
本音としては健一など相手にする必要など無い。が、こいつを餌にして《ストーム・セイバー》の持ち主をおびき寄せるのは有効かもしれない、そう判断した。
「そう来なくっちゃな! この学校のデュエルのレベルを俺が叩き込んでやるぜ!」
「ふん、君こそ、私のレベルを叩き込んであげよう」
お互いにデュエルディスクを左腕に装着。ウイングが展開されると共に左腕の側面を正面に向けてデュエルの構えを取る。
下校しようとしていた周りの生徒もどんどん集まってくる。デュエルが始まり、野次馬が形成されていく。
――デュエル!
健一とアドルフのデュエルの火蓋が切って落とされた。
先攻は健一。
ドローすると同時に、モンスターを攻撃表示で召喚する。
「俺は、《フレムベル・ヘルドッグ》を召喚!」
猟犬が姿を現す。その姿はまるで溶岩が犬の姿を形成しているようである。出現と同時に歯軋りをしながらアドルフに敵意をむき出しにする。
フレムベル・ヘルドッグ ☆4
獣族/効果 炎属性 ATK1900 DEF200
(1)このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
デッキから「フレムベル・ヘルドッグ」以外の守備力200以下の炎属性モンスター1体を
特殊召喚できる。
「そしてカードを一枚伏せてターンエンド」
健一の場には《フレムベル・ヘルドッグ》と伏せカード一枚。
先攻1ターン目は攻撃できないため、様子見だというのはアドルフにもすぐに分かった。
アドルフのターン。
最初のドローで引いたカードを加えて六枚となった手札を眺める。溶岩の猟犬と伏せカードに対し、どう攻めて行くかを考えていた。
ただし、その答えを出すのはそこまで時間が掛かることではなく、すぐに行動に出た。
「《
アドルフが召喚したモンスターは
「《デネブ》の効果発動。このカードの召喚成功時、手札から他の
続けざまに別の
戦士族/効果 光属性 ATK1200 DEF1600
「
(1)このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「
戦士族/効果 光属性 ATK1500 DEF1000
「
(1)このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「
「レベル4のモンスターが2体……」
同じレベルのモンスターが揃う。健一はそこで一つの可能性を想定した。それは昨日まで友人が多用していた戦法――。
「私は、レベル4のベガとデネブでオーバーレイ!」
二体の光輝の戦士は紫の光源となり、宙に舞い、一つに交わる。そして、小さな銀河を空中に形成する。
――光に導かれし更なる輝きは、天駆ける騎士となり然るべき断罪を齎す!
――エクシーズ召喚!
ランク4、《セイクリッド・オメガ》!!
上半身は人型で下半身は馬。ケンタウロスさながらのシルエットを持ち、白と金の鎧に身を纏う戦士が姿を現す。
先ほどの
(あれは……)
健一はデュエルディスクのカードデータ閲覧機能を使用。《セイクリッド・オメガ》のカードデータを確認した。
セイクリッド・オメガ ☆4
獣戦士族/エクシーズ/効果 光属性 ATK2400 DEF500
光属性レベル4モンスター×2
(1)1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
自分フィールド上の「セイクリッド」モンスターは、このターン魔法・罠カードの効果を受けない。
この効果は相手ターンでも発動できる。
(参ったな……。俺の伏せカードは《次元幽閉》だ。これを使ってもきっとモンスター効果で防いでくるに違いねぇ……)
アドルフが偶然か狙ってかは分からないが、健一の伏せカードが意味の無いものとなった。
そんな健一の様子を見計らったのか、アドルフは即座に次の行動に移行する。
「バトルだ、《セイクリッド・オメガ》で《フレムベル・ヘルドッグ》に攻撃!」
四本の脚で駆ける神聖なる戦士は、溶岩の猟犬に接近。
両の手で光の円陣を作り出し、それを相手に叩き込む。円陣に収束された光の破壊エネルギーは猟犬の体内で暴発し、猟犬を粉砕する。
「くっ……」
猟犬が爆散したことにより、健一は思わず右腕で顔を覆う。
そして、戦闘でモンスターが破壊されたことで健一のライフにもダメージが入った。
浅井健一 ライフ 4000⇒3500
「私はカードを一枚伏せてターンエンドだ」
一枚だけカードを伏せ、健一にターンを渡した。
「面白い……! 勝負はこれからだぜ」
健一は一人でヒートアップし始めた。ギャラリーも盛り上がりを見せているが、それが健一の視界や耳に入ることはない。
一方でアドルフは一貫して冷徹なほどに澄まし顔のままである。
「ドロー!」
引いたカードは《真炎の爆発》だった。健一は一瞬考える。これは強力な魔法、無闇に使うものではないが手札の他のカードを見ると、《セイクリッド・オメガ》に対抗するには心許ないものがあった。
ただ、手札にはチューナーである《フレムベル・マジカル》がある。健一はやる事は一つしかないと判断した。
「魔法カード《真炎の爆発》を発動! 俺の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚! ただし、この効果で出したモンスターはターン終了時に除外される!」
フレムベル・マジカル ☆4
魔法使い族/チューナー/効果 炎属性 ATK1400 DEF200
(1)自分フィールド上に「A・O・J」と名のついたモンスターが存在する限り、
このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
真炎の爆発 通常魔法
(1)自分の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。
健一の墓地には《フレムベル・ヘルドッグ》しかない。よって、そのカードだけが特殊召喚された。
そして続けざまに手札からは《フレムベル・マジカル》を通常召喚。
伏せカードが発動する様子を見せないのが分かった健一は更なる行動に打って出る。
「俺は、レベル4の《フレムベル・ヘルドッグ》にレベル4の《フレムベル・マジカル》をチューニング!」
炎の魔術師は四つの円環姿を換えた。溶岩の猟犬は四つの星へと姿を換え、輝く円環の中を駆け巡る。
――吼え猛る魔竜の豪腕は爆炎を呼び起こし、大地の怒りと共に総てを滅ぼす!
――シンクロ召喚!
レベル8、《フレアスマッシュ・ドラゴン》!!
フレアスマッシュ・ドラゴン ☆8
ドラゴン族/シンクロ/効果 炎属性 ATK2800 DEF2300
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1)このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
人間よりも一回りも二回りも大きな体躯を持つ黒き魔竜が姿を現す。これこそが健一が愛用するエースモンスター。
「ほう、シンクロモンスターか」
無反応だったアドルフもその迫力には思わず感嘆の声を漏らす。
「関心してる場合じゃないぜ、《フレアスマッシュ・ドラゴン》で、《セイクリッド・オメガ》に攻撃!」
攻撃宣言を受けると同時に黒き魔竜は感情を高ぶらせ、全身から炎を放ち始める。激しく燃え盛る右腕を振り上げ、光輝の戦士に豪腕を振り下ろして渾身の一撃を叩き込む。
――ジオ・インパクト。
健一は爆ぜろという一言の呟きの後に続けざまにその技の名を叫ぶ。
魔竜の一撃は光輝の戦士を一撃のもとに爆砕。
アドルフ ライフ 4000⇒3600
「《フレアスマッシュ・ドラゴン》の効果発動! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
アドルフ ライフ 4000⇒1200
《セイクリッド・オメガ》の攻撃力は2400。その分のダメージがアドルフのライフに与えられた。残り1200ポイントのダメージを与えることができれば健一の勝ちであったが、健一の手札ではその1200ポイントのダメージを与える手立ては無かった。
健一はこのターンで勝負を決められなかったことを残念がりながらも、次のターンに備えてもう一枚のカードを伏せた。
(俺が伏せたカードは《神の宣告》だぜ。これで奴さんが何しても大体のことには対応でき……)
「
「!? それは!!」
健一の表情が一気に蒼ざめる。
《ツインツイスター》、それは手札一枚をコストに発動するカードで、場の魔法、罠カードを二枚まで破壊する効果を持つ。破壊対象は当然、健一の場にある二枚の
二つの竜巻が
ツインツイスター 速攻魔法
(1)手札を1枚捨て、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「今、伏せたカードは《神の宣告》か。なるほど、このターンで始末しておいて正解だったな」
「くっ……。やるな……」
――してやられたか。健一はそう思って相手を褒めるしかなかった。
「私のターン!」
アドルフもまた、引いたカードに目を向ける。そして表情一つ変えず引いたカードを使用した。
「魔法カード《死者蘇生》。墓地から《セイクリッド・オメガ》を特殊召喚する」
(エクシーズを蘇生……? オーバーレイ・ユニットは無いのに何故……?)
一見、意味の無い行動をとっているように見えるが、健一は無意味だとは断定し切れなかった。
この男はそんな馬鹿な行動を取る奴ではないと、直感で感じ取っていたからだ。
死者蘇生 通常魔法
(1)自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
「お前……何かすんだろ?」
「ああ」
健一の問いに、アドルフは無機質に返す。
そしてその返答の内容が今、明かされる。
「私は手札から《
激しい光が辺りを包み込む――。
レガリア・リベレイター。
名前どおり、レガリアの力を解放する魔法。