そんなに勿体つけるようなものでもありませんけど。
荘介は職員室で担任との話を終え、帰るべく、校舎を出た。
しかし、その日は様子がおかしいことにすぐ気付く。
普段ならば、グラウンドで運動部の生徒が部活動に励んでいるのであるが、そんな彼らが……、否、帰宅しようとしている生徒も含め、校門の一点に注目していたからだ。
荘介も気になり、皆が注目している校門に視線を向ける。
すると、そこには呆然と立ち尽くす健一と彼と対峙する謎の男の姿があった。
「な、何だったんだ……」
すぐに我にかえり冷静になる健一。
その視界には、こちら側へと歩いてくるアドルフの姿があった。周りの生徒がざわつく中、それを一切意に返さず近づいてくるところ、健一もまた近づいていった。
健一は握手をしようと思っていた。
しかし、アドルフはそんな健一の意思とは裏腹に彼のことまでも無視するかのように通り過ぎ去る。
(え……?)
健一はショックを受けると同時に、後ろへ振り向く。
すると、アドルフは荘介に話しかけていた。
ああそうか、もう本命がそいつだってわかってんだな。健一は意中の相手を既に把握していることに対して納得はしたが、さっきまで一戦交えた自分のことをまるで空気扱いしたことが心底気に入らなかった。
「お前!! いきなり俺のことをシカトするとはどういうことだ!!」
負け犬の遠吠えみたいだな、俺。そんなこと百も承知だったが、今の態度には悪態をつかずにはいられなかった。
アドルフはようやくこちらを向いた。一方で荘介が怪訝そうな様子で健一のことを見ていたが、今はあえてそっちのことは気にしないようにした。
「おっと、すまなかったな。目的の相手を見つけてしまってな」
目的の相手は間違いなく荘介だ。救世主の使い手である彼に用があるとはどういうことなのだろうか。
「まさか健一……、この知らない人間に俺のこと喋ったのか?」
とんだ勘違いである。
「話すかよ! 俺だって胡散臭いと思って、デュエルの相手して時間稼いでたってのに!!」
「時間稼ぎにもなっていなかったが……」
アドルフからの率直なデュエルの感想。
あのカードを発動したことで健一はあっさり負けてしまったので、否定できない点が健一にとって悲しいところ。
「よくわかんねぇけど、何であんたは俺のことを探してたんだ?」
荘介からすれば唐突な話だから何がなんだかわかっていない。もっともそれは健一も大差ないのだが。
周囲の状況はというと、健一が声を少々荒げたことで喧嘩か何かと他の生徒が集まりだしていた。
「まずは自己紹介をしよう。私の名はアドルフ。ある事情から救世主の力が必要なんだ」
自己紹介というにはあまりにも突飛なものだった。とはいえ、これでこの男が荘介が持つ救世主の力が必要だということは一応把握できた。
が、肝心な理由が分からない以上、安請け合いをすることなんかできない。
「正体がバレてる以上、誤魔化す気はねぇけど、理由や目的がわからねぇのに手を貸すことなんかできねぇ」
「当然の返答だな」
自分が碌に説明していないから突っぱねられるだろうということは百も承知。しかし、アドルフはそれで引き下がることは出来ない。
「ならばまずは、デュエルを受けて頂きたい!」
どうにも納得しがたい荘介であったが、デュエルを渋々受けることになった。
周りの野次馬は最初は喧嘩に発展することに期待していたが、結局喧嘩にならなかったことから半数が呆れてその場を去る。半数は荘介とアドルフのデュエルに興味があるのか、そのまま二人の様子を見ているようだった。
「んじゃ、行くぜ……」
――デュエル!
アドルフの先攻でスタート。
アドルフは手札の一枚をモンスターゾーンに攻撃表示で置く。
――《
その様子に健一は舌を巻く。この後の流れを把握しているからだ。
アドルフはデネブのモンスター効果により、二枚目のベガを手札に加えた。これでアドルフの手札の枚数は四枚。そして……。
「いきなりレベル4のモンスターが二体!? ってことは……」
「そう、君の想像通りだ。私はレベル4のベガとデネブでオーバーレイ!」
――ランク4のエクシーズ召喚。召喚されたカードは先程の健一のデュエルと同様、《セイクリッド・オメガ》であった。
健一は先程のデュエルについて、本当は荘介に教えたいことがあった。
《
「私はカードを一枚伏せてターンエンドだ」
荘介は分析した。
アドルフはデネブの効果によりベガを手札に確保した上でエクシーズ召喚を行っている。つまり、事実上、手札一枚でエクシーズ召喚を行っていることに相違ないということを。
まだお世辞にも上級者とはいえない荘介ではあるが、カードゲームにおけるアドバンテージというものに対する考え方については健一や青山から何回か聞かされたことがある。だからこそ直感的に分かった。
こいつは
「ドロー!」
勿論、それで遅れを取るなどとは思っておらず、寧ろ喰らい付いてやろうと考えているのが荘介だ。
六枚の手札を眺め、伏せを掻い潜りながらセイクリッド・オメガを倒す手段を考えた。
時間にして数秒の後に、荘介は自らの結論を現実に見せるべく、手札のカードを繰り出していく。
「《
荘介が最初に出したカードは新たなる『
以前繰り出したものと類似した、羽をあしらい、蒼を基調とした鎧はまさに空のようだ。
このカードの効果は、召喚時に手札のレベル4以下の『
そして、その効果により、《
因みに、カーヴァイルにはもう一つの効果がある。それは自分のフィールドに他のチューナーがいる場合、レベルを6にできるというもの。ただし、代わりに風属性のシンクロモンスター以外は特殊召喚できなくなるというデメリットも伴う。
「レベル1のチューナーに、チューナー以外のレベル6か」
「あんたがエクシーズなら俺はシンクロだ! 行くぜ、俺はレベル6のカーヴァイルにレベル1のティルウェスをチューニング!!」
――空に君臨する疾風の大天使!
――吹き荒れる風を無数の刃と成して敵を裁く!
――シンクロ召喚!
レベル7、《フェザーブレイド・セラフィム》!!
「セラフィムの効果発動! 墓地のチューナーをこのカードの装備カードとして、攻撃力500ポイントアップ!」
デュエルディスクの
そのまま勢いに乗るかのように、立て続けでバトルフェイズに移項。セラフィムにより、セイクリッド・オメガへ攻撃宣言を行う。
風刃の大天使は飛翔し、体を大の字に広げると、空間中の空気を収束させるかのように無数の刃を形成。まるで意思を持つかのようなそれに敵へ向かうように指示を送ると、風の刃が飛び、セイクリッド・オメガを一瞬で切り刻む。
アドルフ ライフ 4000⇒3700
戦士族/効果 風属性 ATK1600 DEF1100
(1)このカードが召喚された場合に発動できる。自分の手札からレベル4以下の「
(2)自分のフィールド上に風属性のチューナーが表側表示で存在する場合に発動する。ターン終了時までこのカードのレベルを6にする。この効果を発動後、このカードは風属性Sモンスター以外をS素材にできない。
フェザーブレイド・セラフィム ☆7
天使族/シンクロ/効果 風属性 ATK2200 DEF2900
風属性チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上
(1)このカードのシンクロ召喚に成功した時、自分の墓地のチューナー1体を選択して発動する。選択したカードを攻撃力500ポイントアップの装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
(2)このカードに装備されている装備カード1枚を墓地に送って発動する。相手フィールド上の表側表示モンスター1体の攻撃力・守備力を500ポイントダウンさせ、相手に500ポイントのダメージを与える。
フッ、とアドルフの口元が緩む。しかし、表情は笑っていない。アルカイック・スマイルというやつか。
「私の場に
「…………」
実は荘介は手札にアドルフの
「っせーな。今の俺の手札じゃ
結局手札に対抗手段が無いことをバラした。何だか挑発されたようで突っかからなきゃ落ち着かなかったからだ。
かといって、アドルフもそれでガンガン伏せるような戦法を取るかというと、手札の問題もあり、そんなこともない。
結局、牽制でもなんでもないちょっとした会話程度で終わった。
荘介はメインフェイズ2で何かをすることもなくターンエンドの宣言をした。
それと同時にアドルフへターンが渡り、カードをドロー。
(ここまでは予定通りか。ふっ、さっきのデュエルをなぞる様なプレイで終わらなければいいがな……)
なぞる様なプレイ。アドルフはセイクリッド・オメガが破壊されるところまでは殆ど健一とデュエルを行っていた時どほぼ同じカードを使っている。そして、この先に使うカードも……。
「《死者蘇生》を発動。墓地の《セイクリッド・オメガ》を守備表示で特殊召喚する」
墓地から蘇生されたエクシーズモンスターは
あからさまに何かを狙っているであろうということは流石の荘介でも分かっているが、具体的に何をするかまでは分かるはずもない。
――が、その手はすぐに明かされる。
「気をつけろ、荘介!」
「!? 何を!」
「私は《
その類のカードはカードショップのショーケースでも度々目にしており、エクシーズモンスターを使っていた都合から、やや興味を持っていた。
しかし、実際にこうして使われることは始めてである。
それに何より、『レガリア・リベレイター』などという名前のカードなど見たことも聞いたこともない。完全に未知のカードである。
「このカードは、エクシーズモンスター1体をランクが2つ上の存在にラックアップさせる。私はランク4の《セイクリッド・オメガ》でオーバーレイ!」
――王権賜りし至高の聖剣士よ、
――清廉なる大剣振るいて、遍く過ちを在るべき道へ!
――ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!
ランク6、《クロノライザー-オートクレール》!!
黒き大盾と黒き鎧に身を纏いし、気高き騎士が降臨。その鎧の黒は闇を連想しがちだが、オートクレールのそれとは異なり、強い決意を背負い戦う戦士の覚悟を象徴しているかのようである。
そしてその右手には透き通ったサファイアのような輝きを放つ剣が握られていた。
荘介はその荘厳なる姿に思わず身構える。
1ターン目の行動からも分かるように、この男は強敵であると。そして、このカードはさながらアドルフの生き写しのようでもあった。
「レガリア・リベレイターは特殊召喚したモンスターの
黒き鎧の騎士は、左手に持つ大盾を前にし、剣を隠すような構えで風刃の大天使、セラフィムに肉薄する。
セラフィムは風の刃で迎え撃つも、翠の輝きとともに消えた。……もとい、セラフィムの背後に瞬間移動し、勢いを落とすことなく高速で接近した。
「断ち斬る!」
――横一閃。
成す術無く、セラフィムは一撃の下に両断された。
草薙荘介 ライフ 4000⇒3700
オートクレールの攻撃力は3000。
奇しくも前のターンにアドルフが受けたときと同じダメージが荘介にも与えられる。
「さあ、私はこれでターンエンドだ。君の力を見せてみろ、草薙荘介!」
アドルフはどこで荘介の名を知ったのか、その名を呼び挑発する。
上等じゃねぇか、とでも言いたげな様子で歯を食いしばりながら、荘介はカードをドローする。
引いたカードは、《ストーム・セイバー》だった。
来たな。荘介は心の中で呟きながら、これを繰り出す算段を立てる。
荘介の今のデッキは、《ストーム・セイバー》を召喚する為に、「
しかし、今、《ストーム・セイバー》を召喚しても有利になれるのかという疑問があった。そもそも、攻撃力でいえば、アドルフの持つオートクレールより下回っている。モンスター効果で圧倒的に上回ることは出来るが、重いライフコストを払う必要がある。
そもそも、オートクレールはまだモンスター効果を使っていない。相手の手も読めないのに、迂闊な真似はできないと荘介は直感的に警戒した。
「どうやら、悩んでいるな」
「ったりめぇだろ……。テメェに勝つにはそいつを倒さなきゃならねぇ訳だしな」
「そうだな。それに私の場には
前のターンで使われなかった
しかし、このターンも手札には除去手段などは無い。
――暫し、無言で考える。
数秒の思案の後、荘介は動き出す。
前のターンに使わなかった以上、あれはブラフだという可能性を信じて。
「俺は、《
荘介は更なる
ジャメイムは手札から風属性の鳥獣族か戦士族を任意の枚数見せることで、一枚につき、攻撃力を300ポイントアップする効果を持つ。
しかし、ジャメイムは元々の攻撃力は1800。四枚見せて1200ポイント上げることでようやく同じ攻撃力で相打ち。荘介の手札には《ストーム・セイバー》があるが……。
「アドルフ、今はまだ《ストーム・セイバー》の出番じゃねぇ。その前に、俺の他のモンスターとのバトルを楽しもうぜ?」
――どうやら荘介には反撃の手があるようだ。
蒼き空への誓いの下集いし、戦士たち。
彼等は何故か風の救世主を呼ぶための布石になるべく力を持つが、
それには別の用途も存在する。