店内は土曜日のため、平日よりも客の来店が多く、賑わっていた。
賑わう店の中、荘介と健一はテーブルの一番端側で向かい合うように座っており、夕実はテーブルの端から二人を真横で見ている。
双方、デッキのシャッフル、手札を5枚引き、初手とするところまで行い、一通りの準備を終える。
「先攻、後攻はデュエルディスクなら自動的に決めてくれる。でも今回はデュエルディスクは使わないから先攻、後攻はダイスで決める。いいか?」
健一の説明に荘介は承諾。
2個のダイスを持つ右手を軽く振り、テーブルの上で音を立てて転がる。賽の目はそれぞれ、『2』と『5』だった。合計すると『7』である。
それを互いに確認し、2個のダイスを次は荘介が同じ様に振る。こちらの出た目は『1』と『2』、つまり合計して『3』だった。
「何か目小さいな……」
折角2個のダイスを振ったというのに、両方とも目が小さい事で複雑な気分となった。
そんな事もあると健一が諭しながら、二人のデュエルは健一の先攻で始まる事となった。
ライフはお互いに4000ポイント。手札は5枚。
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健一のフィールドには《ヴォルカニック・ロケット》が1体。荘介の場には《バードマン》が1体存在している状態だった。
健一は自らのターンになり、勝負をかける。
「俺はチューナーモンスター《孤炎星-ロシシン》を召喚!」
新たに場に置かれたモンスターカードは禅杖を構える丸く太った武将。それはチューナーとも呼ばれる種類のカードでもあった。
「チューナー……」
荘介は思わず呟いた。対戦を始める前にシンクロ召喚の大まかな説明を聞かされ、それを行うために必要なカードであるとも。
「行くぞ、荘介。俺はレベル4の《ヴォルカニック・ロケット》にレベル4の《孤炎星-ロシシン》をチューニング! ……ってな」
これがデュエルディスクによる派手な演出の伴うデュエルならば大型モンスターの出現に合わせた派手な演出が起こるものだが、今回はそれを用いないテーブルでカードや電卓だけを使ったいたって普通なゲーム。
健一はシンクロ素材となった2枚のカードを墓地へ置き、フィールドの左端に裏向きで置かれているエクストラデッキを見る。その中より一枚のカードを抜き出し、それをフィールドに置いた。
「シンクロ召喚! 《フレアスマッシュ・ドラゴン》!」
白い枠に囲まれた、激しい炎と豪腕で今にも敵を叩き潰さんばかりの躍動感溢れるドラゴンの絵が描かれているカードだった。
「ゲッ、強そう」
「実際強いんだぜ。《フレアスマッシュ・ドラゴン》で《バードマン》を攻撃。」
《フレアスマッシュ・ドラゴン》は攻撃力2800。《バードマン》の攻撃力は1800。段違いの攻撃力に圧倒され、荘介はそのまま敗北となった。
「お兄ちゃんの負けね」
「ぐぬぬ……」
ライフポイントが0になった事を理解し、敗北を悟る。歯軋りをしながら強張った表情で健一を見る。
おいおいと思いつつも荘介のそんな表情に微笑ましくも感じた。横から見ていた夕実も思わずクスッっとする。
テーブルには3種類のカードが並べられていた。
紫の枠のカード、融合。
白の枠のカード、シンクロ。
黒の枠のカード、エクシーズ。
エクストラデッキに入れる事ができる特別なモンスターカード3種類である。
「こうやって並べてると鮮やかだよな」
「そうだろ、それも魅力あるだろ?」
「それは良いけどよ、こいつら並べて何するんだ?」
「んなもん決まってんだろ。初心者のお前さんにエクストラデッキの事レクチャーすんだよ」
「お兄ちゃんに教えてくれるんですか?お願いします!」
「おうよ。……えっと君は?」
「あ、すいません。私は妹の夕実です、よろしくお願いします」
夕実が笑顔を見せる。単なる挨拶に過ぎないのだが。しかし、健一は自分の中の何かが撃ち抜かれるような気分がした。顔が紅潮し、一瞬うろたえる。
しかし、何とかこの気分を少なくとも今は押し殺そうとした。何故なら兄が居るからだ。下手な態度を見せれば殺される!健一は直感でそう感じ取った。
「あ、俺は浅井健一。君の兄とはクラスメイトなんだ、よろしくな。……えーっと、すまん、荘介。ちょっと外で缶コーヒー飲んでくる。ほんの少しだけ一人にさせてくれ」
「お、おう」
そそくさと居心地悪そうに一度店の外へと出て行く。
荘介は何がなんだかよくわからなかった。
仕切りなおし。
健一がテーブルに戻ってくるまでの間に夕実は立っているのに疲れたのか荘介の隣に座っていた。健一自身は荘介と対面するかの様に座り、先ほど行おうとした事を再会する。
「んじゃあ、まずはシンクロから説明するか。シンクロはさっき俺がやってみせたようにチューナーとそれ以外のモンスターとでレベルを合計させて、それと同じレベルのシンクロモンスターをエクストラデッキから出す」
「おう、それは俺も理解したぜ」
「そうだな、じゃあ次はさっきお前が使われたエクシーズなんだが…」
「お前ら何してんの?」
三人のやり取りに誰かが入り込んできた。青山座苦だった。あのデュエルの後、店舗の隅で大人しくしていたのだが、それに飽きてきたのか絡んできたのだった。
「青山さん、ちわーっす。こいつまだまだトーシロだから俺が色々説明してたんすよ」
「ホントにド素人なんだな」
「ほっとけ、そんな俺に負けたくせに」
「何をー!」
「もいっぺんやるかー!? いてっ!!」
後ろから夕実が荘介の頭をポカリと叩く。
「ごめんなさい。お兄ちゃんすぐ調子に乗るから……」
「とりあえず青山さんもここ座ったら?」
「ん、ああ。そうするわ」
青山は健一の隣に座り、レクチャーに参加することとなった。テーブルに置かれていた黒枠のカードを手に取り健一に代わって荘介に説明し始めた。
「エクシーズはさっき俺がやったように同じレベルのモンスターを複数重ねて更にその上に同じランクのエクシーズモンスターをエクストラデッキから出して重ねる。こいつはシンクロや融合と違い、特別な専用カードを必要としないから一番エクストラデッキに入れやすいんだぞ」
「あー、そっか。シンクロはチューナーが無いと出せないもんな。んじゃ、融合は?」
「そうだな。じゃあ最後に融合説明するか」
健一は最後に紫の枠のカードを手に取る。
「融合モンスター、これは基本的には《融合》って魔法カードが必要になる。んで、それとカードに記された融合素材を墓地へ送って融合召喚する。融合するカードの種類にもよるけど、普通な《融合》の場合はフィールドだけじゃなくて手札のカードも素材に出来る」
「お、じゃあ通常召喚の必要もなくて手軽じゃん」
「だぁーから、やっぱり素人なんだな君は」
「そこ強調すんじゃねぇよ」
融合召喚は通常、《融合》と素材のモンスター2体を使用する。言い方を変えればカードを3枚消費して1体のモンスターを出す。戦術がしっかりしていなければ割に合わない召喚方法だ。
更に融合素材はシンクロやエクシーズ以上に決められており、それに伴ったデッキ構築も要求される。ただ無闇にデッキに投入する訳にはいかないのだ。
健一と青山の説明を受けた荘介は融合は向いていないと難色を示し、融合は現在の戦術パターンからは除外する事とした。
テーブルの上には荘介のデッキや予備のカードが無秩序に並べられていた。
荘介の現在のデッキから更に手数を増やすための考察を始めるところだ。
デッキは風属性、低レベルのモンスターで攻めて行くスタイルをとっている。主にレベル4やその周辺のモンスターが主軸となりうる。その最たる例が《バードマン》だろう。
「やっぱりエクシーズじゃないかな」
「だよな」
口を開いたのは健一。そして青山がそれに同意する。
ひとまずメインデッキの構成が一通りまとまっており、そこにシンクロ召喚を狙って無理にチューナーを投入したり、融合召喚を狙うために融合を投入する訳には行かない。同じレベルのモンスターさえ並べば召喚可能なエクシーズが妥当だと言う結論が自然に出た。
健一と青山は手持ちのカードから荘介に譲渡出来る安価なエクシーズモンスターのカードを出し、それを荘介のデッキと同じ様にテーブルに置く。
「え、お前らくれるの?」
「ノーマルカードくらいが限界だけどな」
「レアカードは流石に自分で何とかしな」
「いや、十分だ。ありがてぇ」
エクストラデッキのカードは最大15枚。2人から貰ったカードを合わせてもまだほんの数枚程度だが、無いよりはマシだろう。
ついでにメインデッキの調整も行い、荘介のデッキは熟練者二人の手が入り、更に改良された。
「よっしゃ!」
更に仕上がったデッキを握り、ガッツポーズ。荘介はそのデッキを使って再度対戦を挑む。
「よーし、なら俺が揉んで…」
「浅井、俺にやらせろよ」
「青山さん?いいっすよ」
意気揚々としていた青山。にやりと笑みを浮かべて荘介と再び対戦をすることとなった。荘介と対戦するために青山と健一は座る場所を交換する。
必然的に夕実の向かいに座る事になった健一。対面する二人は思わずお辞儀をする。
「夕実ちゃん。俺らもデュエルしてみない?」
「はい、やりましょう!」
荘介と青山が対戦を始めようとする横で、彼らも対戦を始めようとしていた。
荘介らも五枚の手札を持ち、対面する相手の顔を見る。
「お前にリターンマッチを仕掛けるからな。次に勝つのは俺だぞ!」
「おもしれぇ。返り討ちにしてやらぁ」
「言ったなぁ!?」
その後、四人は大いにデュエルを楽しみ、その都度デッキやプレイングを直していった。そして閉店時間になるまで時間を忘れるように楽しんでいた。
****
夜も更けてきた頃のとある女子高生の自室。
少女は携帯でツイッターを眺めていた。普段流すように見ているツイートの数々。しかし、今、無視できないようなツイートを目撃した。
【速報】青山座苦氏、素人に敗北www
恐らく青山を知る何者か、荘介との対戦をリアルタイムで観戦していた者。つまりはエタニティ・ドリームに居た人物によるツイートだと思われる。しかし少女はその人物を直接フォローしているわけではない。恐らくリツイートだろう。
流れて来たリツイートが目に留まった少女は少し興味が沸いた。青山座苦が選考会にも出るような強豪なのを知っているからだ。
「へぇ、どんな人なんだろう?」
少女はわずかな興味を抱くと共にツイッターを閉じて、携帯を机に置いた。
続く
青山座苦が口や態度が悪いけど何だかんだで憎めない奴って感じになりそうな気がします(笑)