愛想尽かされてても文句言えないかも。
かつては様々な職種の事務所が入っており、その中で多くの人が出入りし、色々な取引も成されていたであろう、ビルがある。
しかし、そこは今となっては人っ子一人入りもしない廃墟。誰が地主なのかも判らないそのビルはたまに子供が遊び場として出入りする事もあるようだが、元々人気の希薄なこの場所はそう言うこともあまり無い。
荘介と理紗はそんな廃ビルの中へと移動していた。他の人にこれからする事が見られないようにする為に。
「こんなとこでするのか?」
荘介は再度確認をする。
先に断っておくが、彼らはただデュエルをするのであって特別変なことをするわけでは無い。
理紗の持っているペンデュラムのカードは本当ならばまだ表に出してはならないもの。それこそ荘介が発見せず、第三者の手に渡り、そこからネット上に広まれば信用問題に関る問題でもある。……今、ここで荘介相手にデュエルで使用するという時点でも実は大問題ではあるのだが。
「他の人に見られたらマズいからね」
「そりゃそうだ。そんなもんこっそり見られるなんてラッキーだな」
「他の人には絶対言っちゃダメだよ」
「おうよ。っと、アレ出さねぇとな」
荘介は鞄の中からデュエルディスクを取り出す。実はこれは荘介が自分で購入したものではない。
遡ると、それは初めてエタニティ・ドリームに来て、青山や健一とデュエルを通じて交流を深めた後の事である……
「あ、草薙君……だったね?」
夕実と一緒に退店しようとする荘介を店長である吉川司が呼び止めた。
「なんすか?」
「君にこれを預けるよ!」
有無を言わさず司は荘介に自分のデュエルディスクを押し付けるように渡す。
「え!? こんなん貰って良いんすか!?」
「あげるんじゃないよ。今はね」
「へ?」
「これは貸し。しばらく様子を見て、君の戦いぶりが今以上であるのならそのままあげる。でも、そうでなければ返してもらいます」
その言葉を聞いて荘介はピンと来た。要するに勝ち負けと言うよりもどんどん成長しろ、と言う事だと。
「おもしれぇ、その話乗った」
荘介はその時点でもはや譲渡してもらったも同然の様な素振りを見せてデュエルディスクを貰って行った。案外、司も満更ではないのかも知れない。
そう言う経緯があった為に荘介は以降、学校でも大概の場合、鞄の中にこれを仕舞いこんで行動している。
両者とも、デュエルディスクをセットし、日も殆ど沈んできた殺風景な中、密かなデュエルが起こる。
暗がりの中、荘介は理沙の表情が見えた。
彼女の挙動と言えばそれまではどこか間の抜けた、放っておくと危なっかしいドジな一面を見せるような少女。しかし、今はまるでスイッチが入ったかのように凛々しかった。そこにはアイドル、即ちプロとして活動できるだけの器を確かに感じた。
「行くよ! ……あれ、名前聞いてないよね」
「おっと、いけね。俺の名前は荘介。草薙荘介な」
「草薙荘介……ねえ、一つ聞いていい?」
「何だ?」
「草薙くんって……青山座苦さんに勝った事ある?」
「え、あるけど……あいつ知ってるの?」
「そりゃそうだよ? だって青山さんって選考会で上位取れるような強い人だもん!」
マジかよ。荘介は驚いた。彼は自分が思っていたよりも知名度の高い人間だったことに。そしてきっかけはどうあれ、荘介は彼に勝った。それが巡り巡って今、こうして理紗との関りに繋がってるのだから世の中面白い。
「よっしゃ、始めようぜ」
「はい!」
――デュエル!
お互いに左腕にデュエルディスクを装着。ディスクは起動し、デュエル開始。ライフは4000からのスタート。先攻は理紗からだ。
「私は、《大地のマネージャー》を召喚!」
理沙がデュエルディスクの上にモンスターカードが置かれる。それは上半分が茶色で下半分が緑の枠。つまりペンデュラムだ。
茶色の背広を着た整った顔立ちの男、所謂イケメンに該当するような男が姿を現す。そのマネージャーは出現と同時に荘介にお辞儀をする。
「ど、どうも……」
荘介も思わずつられてお辞儀をする。
大地のマネージャーは召喚された時にその効果を発動する。それはデッキから《太陽のディーヴァ》か《月のディーヴァ》一枚を手札に加えるというもの。効果の発動により、理沙のデッキから一枚のカードが突き出てくる。それを手に取り、対戦相手にわかるように見せる。加えたカードは《太陽のディーヴァ》。
(さっき拾ったカードか)
荘介は拾ったカードの特徴的な枠に目を奪われてしまっていたため、カードの効果を覚えていなかった。とりあえず警戒心だけは緩めない。
大地のマネージャー ☆3 戦士族/ペンデュラム/リバース/効果 地属性 ATK500 DEF500
【Pスケール:青3/赤3】
(1)このカードを破壊し、自分のエクストラデッキから「太陽のディーヴァ」または「月のディーヴァ」1体を手札に加える。
【モンスター効果】
(1)このカードの召喚に成功した時に発動できる。自分のデッキから「太陽のディーヴァ」または「月のディーヴァ」1枚を手札に加える。
「私はこれでターンエンド。さあ、草薙君のターンだよ」
「おう、ドロー。俺は《バードマン》を召喚、そのまま攻撃するぜ」
荘介のオーソドックスな初手。攻撃力高めのモンスターで仕掛けていく。
赤い鳥人の鉤爪がマネージャーを急襲。
戦闘で負けたマネージャーは粒子となり消散する。
藍川理沙 ライフ 4000⇒2700
「いきなりやられちゃったなぁ」
「そりゃ、攻撃力低いやつ倒したしな」
理沙は破壊された《大地のマネージャー》を墓地へ置かなかった。そしてそれをエクストラデッキのホルダーに表向きで挿し込んだ。
「あれ、何で倒したモンスターがエクストラデッキに行くんだ?」
「そういや説明して無かったね。ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地へは行かずに代わりにエクストラデッキに表側で入るの」
「え、ってことは……」
荘介はふと思った。
倒したモンスターが墓地へ行かないと言う事は《死者蘇生》で奪い取る事ができないという点について。
尤も、それを持たない荘介には今はあまり関係無いのだが。
「ま、いいか」
「ん?」
「いや、独り言。俺はカードを一枚伏せてエンド」
「私のターンね、私は《解放のアリアドネ》を召喚!」
続けて現れたモンスターは球体に腕と翼が付いた天使が出現。尤も、どことなく機械染みたその姿は機械天使と言うに相応しいものだろう。
解放のアリアドネ ☆4 天使族/ペンデュラム/効果 光属性 ATK1700 DEF800
【Pスケール:青3/赤3】
(1):このカードがPゾーンに存在する限り、以下の効果を適用する。
●自分はカウンター罠カードを発動するために払うLPが必要なくなる。
●自分はカウンター罠カードを発動するために捨てる手札が必要なくなる。
【モンスター効果】
(1):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
デッキからカウンター罠カード3枚を相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。
そのカード1枚を自分の手札に加え、残りをデッキに戻す。
理沙は手札を眺める。その中には《オネスト》があった。
想定する状況では、このまま攻撃を仕掛け、返り討ちに合わせると高をくくったところでこれの効果を使う事で意表を突くと言うもの。
もしも、その通りに行けば荘介に1700ダメージを与えられ、ライフを互角に持ち込むことができる。
「よぉーし、アリアドネでバードマンに攻撃よ!」
高らかに攻撃宣言をする。
それを受けて機械天使は胸元で光の球体を形成、いかにもそれをバードマンに投げつけて攻撃しようとする。
「罠カード、《鎖付きブーメラン》発動!」
「えっ、うそ」
まさかの事態に狼狽した。鎖付きブーメランは相手モンスターの攻撃を守備表示にする事で妨害する効果を持っている。
それだけでなく、モンスター一体の装備カードにもなる。
守備表示になったのでは、オネストも使うことが出来ない。
鎖に絡め捕られ、身動きが取れない機械天使。出現した鎖付きブーメランはそのままバードマンが装備し、その戦闘力を上昇させた。攻撃力は500ポイントアップし、2300となる。
(強い……!)
自分の想定を覆してくる荘介を相手にして顔が険しくなる。これは苦戦しそうだと。でも、理沙は同時に自分には奥の手があることも確信している……
「一枚伏せてターンエンドよ」
「俺のターン、俺は更に《フェンサー・ウィズ・ウイング》を召喚だ」
続けて召喚されたのは名前どおり翼を持つ剣士。翼を用いた空中戦等を主としているのか、鎧は軽め、剣も細身だが切れ味のあるシャムシールを装備していると見る事ができる。
「行くぜ、まずはフェンサーで解放のアリアドネに攻撃だ!」
飛翔、そして滑空と同時に剣を振り下ろす。
上空からの一刀両断は鎖で動きを封じられていた機械天使を一瞬で倒す。
しかし、《解放のアリアドネ》の効果が発動する。デッキからカウンター罠カードを三枚選び、それの内一枚を対戦相手に選ばせて、それが手札に加わるというもの。
「私が選ぶのは……これだよッ!」
「何を選んだ……ってオイッ!」
荘介は一瞬、目を見開いた。
選ばれた三枚はどれも《神の通告》だった。
要するにどれを選んでも同じだと言う事。
「どれにする? どれにする?」
妙に目を輝かせる理沙。どちらかと言うと、荘介をからかっているだけにも見えてくる。
一瞬、閉口した荘介は頭をがしがしと掻いた後に、カードをとりあえず選んだ。
「あー、かったりぃな。じゃあ右」
選択された右の神の通告が理沙の手札に加わる。選ばれなかった二枚はデッキに戻された。
「だが、バードマンの攻撃も残ってるぜ!」
赤い鳥人は次は滑空と鉤爪で仕掛けるのではなく、手に持っている鎖付きブーメランを投擲していく。
迫る刃のブーメラン、しかし理沙も負けない。
「罠カード、《ガード・ブロック》発動!」
理沙を薄い膜の結界が守る。
鎖の刃の攻撃は遮断され、理沙への直撃を許さなかった。それは勿論、理沙は無傷に終わると言うもの。
「流石に簡単には行かねぇな、お互い」
「私も草薙君に負けたくないからね。あ、効果で一枚ドローするね」
理沙がカードを引いている間に荘介はデュエルディスクを見る。
見ながら、ある日のやりとりを思い出していた。
「いいか、お前のデッキはとりあえずレベル4で攻めて、そのままランク4のエクシーズ召喚を狙う。アドバンス召喚に関してはお前の好きなようにすりゃいい」
「おう」
「でも、気をつけな。エクシーズは切り札。むやみやたらに出せば良いってもんじゃあない。必要な時までとっておけ」
ある日、エタドリでの健一や青山との会話。
二人にデッキ構築を見繕ってもらった際に受けたアドバイスだった。
荘介は今、一瞬、エクシーズ召喚をしておく事を考えたが、もしかしたらエクシーズモンスターがまともに活躍する事もないまま、やられる事も気になった。
(……やめとこ、あいつが何するかわかんねぇし)
荘介の挙動は理沙も少し気になった。
何かしようとして結局やめた。彼女の目にもそう映ったようだ。
「俺はターンエンド。さあ、そっちのターンだぜ」
理沙に手番が移り、カードを引く。
引いたカードは《ダンシング・セイレーン》と言うカードだった。茶色の枠と緑色の枠のハイブリッドからしてそれもペンデュラムのようだ。
それを見て理沙はやった!と言った表情を見せる。
「草薙君! これから君にとっておきを見せてあげるね!」
「なんだいそりゃ? 見せてくれよ」
「じゃあ、行くね。私は、スケール2の《月のディーヴァ》とスケール7の《太陽のディーヴァ》をペンデュラムゾーンにセッティング!」
デュエルディスクの右端と左端にそれぞれカードを配置した。
PENDULUM。二枚のカードに挟まれる形でデュエルディスクにメッセージが現れた。
フィールドにも同様に左右に置かれたカードのソリッドビジョンが姿を現す。
――太陽のディーヴァ。
露出の多い、躍動感に満ち溢れた美しき歌姫。
――月のディーヴァ。
対して、長いドレスで身を纏う、神秘的な歌姫。
「これがペンデュラム……!」
未知の存在にうろたえる。
しかし、それだけでは何をするかはわからない。
「実はこの二種類のディーヴァ、両方揃うとそれぞれスケールが変化するんだよ。月は2から1に、太陽は7から8に。つまり、レベル2~7までのモンスターが同時に召喚可能となったの」
「同時に!?」
「そう、じゃあその取っておき、見せてあげるね! ……ペンデュラム召喚!!」
理沙の真上に出現する光のリング。
その中から走る様に出てくる光源。
一つ。
二つ。
そして三つ。
それらは召喚されたモンスターの数と一致した。
先ほど倒された《大地のマネージャー》と《解放のアリアドネ》。
更に手札の《ダンシング・セイレーン》。
黒服のマネージャーに機械天使、そして大地と空の二つを利用して舞う、有翼の踊り子。
金髪でウェーブの利いた髪はアイドルらしさを見せていた。
しかし、その攻撃力は2400。並みのモンスターよりは上である。
「す……すげぇ。こんなに一気に並べてきやがった」
荘介は圧倒された。
今まで見たことの無かった召喚方法。おそらく、他のデュエリストもそうなのであろう。まだこれは表に出ていないカード達なのだから。
「ふふ、驚いてる驚いてる」
微笑む理沙の顔が見えた。
荘介はピンチだった。しかし、顔はニヤリと微笑み、ヒートアップしていく実感があった。
「面白ぇな、このデュエル」
一気に並んだ三体のモンスター。
これがペンデュラム召喚。
この力はデュエルをどの様に変えて行くのか……
前書きでも書いたけどいやほんと申し訳ありません。
次の更新は来週したいですが、さてできるか……?
フェンサー・ウィズ・ウイング。何も考えてない、いい加減なカードです。
適当にネーミングしました。
漫画でキースが出したメガトロンと良い勝負。