むっちゃくちゃ遅くなって本当にすみません。orz
外ではカラスが鳴いていた。
時間は十八時を既に過ぎている。
夏も近い季節とは言え、陽は既に沈みかけており、夜の闇が空を覆うのも時間の問題だった。
健一はデュエル同好会の部室にいた。
放課後の活動時間は既に終了しており、他の部員は全員帰宅した。
しかし、健一だけは椅子に座り、脚を組み、部屋の時計と手持ちの携帯電話の時計を代わる代わる見つめていた。
「結局、草薙は戻ってこない。LINEも既読すらつかん。あいつは何してんだ……」
放課後に一瞬の隙を突いた荘介。
彼を何としてでもデュエル同好会に入れたかったが、流石に今日は無理のようだ。
「おい、お前まだ残ってたのか? いい加減帰れよ」
「うぃーっす」
まだ残っている生徒がいないか見回りをしていた教員が部室を覗き込み、健一に帰るように注意する。
今日のところは諦めて帰ることにした。
校門を出たところで一瞬、足を止めて理由に一つ勘付く。
「あいつ、まさか俺に黙って合コンとか……」
カラオケで他校の男女が集まってジュースを飲みながらおしゃべりをしている光景を想像した。
しかし、頭を振ってその可能性を否定した。
「流石にありえんわ」
やれやれと呆れながら健一は一人、帰路に着く。
****
荘介は戦慄した。
倒したはずのモンスターが蘇ってきただけでなく、上級モンスターがいともたやすく出現したからだ。
《解放のアリアドネ》、《大地のマネージャ》、《ダンシング・セイレーン》……。
ペンデュラムモンスターと呼ばれるこれらのカードは倒されてもエクストラデッキに行き、ターンが訪れるたびにペンデュラム召喚で何度でもフィールドに舞い戻る。
それはさながら、一度舞台裏に戻った後に再度現るスターの様だった。
「バトルフェイズよ! 《ダンシング・セイレーン》で《バードマン》に攻撃!」
有翼の踊り子はこの狭い廃屋の中、華麗に舞う。殺風景な室内を彩る踊りは使われていない廃屋の中にいることを忘れさせる。
しかし、それと裏腹に攻撃は容赦なく、両の翼をまるで刃のように振るい、《バードマン》を切り裂く。
攻撃力で負けている《バードマン》はなす術もなく、消滅する。
草薙荘介 ライフ 4000⇒3900
《鎖付きブーメラン》により、強化されたバードマンだった。
しかし、攻撃力で勝るモンスターが相手ではなす術もない。
「続いて、《解放のアリアドネ》で、《フェンサー・ウィズ・ウィング》に攻撃!」
機械天使は踊り子とは違い、無情なまでに攻撃を開始。胸元で光の球体を形成する。
「更にダメージステップに手札の《オネスト》を発動するよ!」
「やべぇ、そいつは!」
《オネスト》……。
それは光属性モンスター一体に対峙する相手モンスターの攻撃力をそのまま付与する効果を持つ天使。
この効果により、《解放のアリアドネ》は《フェンサー・ウィズ・ウィング》の攻撃力1800がそのまま上乗せされる結果となる。
攻撃力は一時的に3500まで跳ね上がった機械天使の極光の波動は荘介の場の唯一のモンスターを芥も残さず消し去ることとなった。
草薙荘介 ライフ 3900⇒2200
《大地のマネージャ》では仕掛けてこなかった。
それもそのはず、このカードの攻撃力は500しかない。
攻撃力の低いカードを何の目的も無しに攻撃表示にしておくと、返しのターンでただではすまないのは明白。
「どう、草薙くん。これがペンデュラムよ」
「へっ、すげぇな……。こんなのがお前のデッキにはまだあるのか?」
「えーっとね……。実はまだこれだけしかないの」
「え?」
「だって、まだペンデュラムはホントは表に出てないんだし、これらだってテストなんだよ。私もまだよく使いこなせないんだ」
「あー、そっか。すぐには慣れないよな」
「でしょ?」
「じゃあ……」
荘介は手札を眺める。
《霞の谷(ミストバレー)の霊媒師》と言う名前のカードがある。
荘介はこれに賭けることにした。
そして、荘介へとターンが移り、デッキからカードを1枚ドロー。
「俺は、《霞の谷(ミストバレー)の霊媒師》を召喚!」
淡い緑のローブで身を包む、金髪の若い女性が出現。右手には樫の杖が握られている。
《霞の谷(ミストバレー)の霊媒師》がフィールドに召喚されると同時に、そのモンスター効果が発動する。それは、自分の墓地の風属性モンスター1体を効果を無効化し、守備表示で特殊召喚するというもの。
霊媒師が杖をかざして呪文を詠唱する。すると、地面に暗い紫の魔方陣が出現する。
若干、禍々しさを感じさせるが、これはこのカードゲームで墓地より特殊召喚される時共通の演出でしかない。
魔方陣の合間より、胸元で両腕を交差させて《バードマン》が、姿を現す。
これで、荘介の場にはモンスターが2体揃った。
「でも、草薙くんの場のモンスターでは、私のモンスターに勝てないよ?どうするの?」
「ヘッ」
理沙の問いに、微笑で返す荘介。既にすることは決まっている。
「俺の場にはレベル4のモンスターが2体。さて、何が起こるでしょう!?」
「えーっと……あっ!」
理沙は気づいた。荘介がこれから何をするのか。
「行くぜ、俺はレベル4の《バードマン》と、《霞の谷(ミストバレー)の霊媒師》で、オーバーレイ!」
荘介が右腕を天に向けるように掲げると、荘介の場の2体のモンスターは金色の光となって、空中で交じり合う。
天井で作り出された小さな銀河は、このデュエルで新たなモンスターを呼び出す前触れ。
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築――。
「自由なる世界を目指すため、剣を手に取り、空へと旅立たん!風と共に新たな旅路へ!」
エクシーズ召喚!
ランク4、《フリーダム・ウォリアー》!!
度を越えて厳つい全身の鎧。
戦闘機のような鋭い両翼。
銀を貴重に緑のアクセントが際立つカラーリング。
人の素肌も見えないその姿は人型機動兵器と見間違えるような重厚な姿を演出している。
そして、その周囲には二つの光源が衛星のように漂っている。
その攻撃力は、2100。ランク4のエクシーズモンスターとしては平凡なステータス。
「エクシーズモンスター……」
理沙は驚く。
同じレベルのモンスターを幾つも並べてくる戦法から予想はしていたものの、ペンデュラム召喚を行った返しのターンにエクシーズ召喚を決める荘介のデュエルのセンスに。
素人と言うにはセンスを感じた。
青山を破った噂は本当だと、再確認した。
「行くぜ」
「何をするの、草薙くん?」
「俺は《フリーダム・ウォリアー》の効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから装備魔法カード1枚を手札に加える!俺は、《疾風剣-シルバー・ブレイド》を手札に加え、このカードを《フリーダム・ウォリアー》に装備する!」
荘介によるカードの宣言と同時に出現する剣は白銀の騎士の新たな力となる。
《疾風剣-シルバー・ブレイド》の効果は装備モンスターの攻撃力を700ポイントアップさせる。
この効果により、《フリーダム・ウォリアー》の攻撃力は2800へと上昇する。
「そして、バトル!」
…………荘介は、バトルと宣言して、すぐに沈黙した。
理沙の場をじっと見る。
《解放のアリアドネ》を戦闘破壊することができれば勝てる、荘介はそう確信する。しかし、荘介は前のターンに《オネスト》を見ている。
つまり、ここで《解放のアリアドネ》に仕掛けた事で返り討ちに遭ってしまっては、荘介は切り札を失い、このまま負ける事になってしまう。
一方で《ダンシング・セイレーン》は水属性。《オネスト》を警戒する必要はないのだが、このターンで決着をつけることはできない。そして、次のターンには、理沙が何をしてくるかわからない。
…………荘介は悩んだ。どちらの選択肢をとるべきか。
ふと、見れば、突然黙り込んだ荘介を見て、きょとんとする理沙の可愛らしい顔が見えた。
ドキッ。
胸が弾む音を聞こえた。
我に返る荘介。
(次のターンが来るかもわかんねーのなら……。俺は、このターンに勝てる可能性に賭けるぜ!)
「《フリーダム・ウォリアー》で、《解放のアリアドネ》を攻撃!」
意を決した荘介は遂に攻撃対象を決めた。
「《オネスト》のことは……はっ!」
理沙は驚く。
荘介は、不適な微笑みを見せている。
気づいた、あれは《オネスト》があるかもしれない事を覚悟しながら仕掛けていることを。
それでも尚、勝とうとして《解放のアリアドネ》を狙ったことがわかった。
白銀の剣による一閃。
空中を漂う機械天使はなす術もなく、一瞬で上下に真っ二つとなり、爆散。
藍川理沙 ライフ 2700⇒1600
理沙の手札に《オネスト》はなかった。
そして、この後の展開はもう、理沙もわかっていた。
「《フリーダム・ウォリアー》の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、このカードが装備しているカード全てを墓地へ送ることで、相手モンスター1体と続けて攻撃できる!」
《フリーダム・ウォリアー》が装備している《疾風剣-シルバー・ブレイド》を墓地へ送ることで、《フリーダム・ウォリアー》は、もう一度だけモンスターへ攻撃する権利を得た。
しかし、荘介の手はこれで終わりではない。
「モンスターに装備されている《疾風剣-シルバー・ブレイド》が墓地へ送られたことで、モンスター1体の表示形式を変更。俺は《大地のマネージャ》を攻撃表示に変更する!」
フリーダム・ウォリアー ☆4
戦士族/エクシーズ/効果 風属性 ATK2100 DEF1500
レベル4モンスター×2
(1)1ターンに1度、このカードのX素材1つを取り除いて発動する。デッキから装備魔法カード1枚を手札に加える。
(2)風属性のX素材を持っているこのカードが相手モンスターを戦闘で破壊した場合に、このカードの装備カードを全て墓地へ送り、発動することができる。このカードはもう一度だけ、相手モンスターに続けて攻撃することができる。
疾風剣-シルバーブレイド 装備魔法
風属性モンスターのみ装備可能。
(1)装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
(2)モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合に発動することができる。フィールド上の表側表示モンスター1体の表示形式を変更する。
攻撃力僅か500。もはや丸腰と言ってもいいほどに無防備な姿を曝け出してしまった《大地のマネージャー》へも、有翼の騎士による容赦の無い、一撃が放たれる。
腰の左の鞘より抜き出された剣を握り、背中のウイングのブースターにより加速。白銀の騎士は必殺の一撃を叩き込み、デュエルの幕を下ろす。
藍川理沙 ライフ 1600⇒0
攻撃力2100と500の差は丁度1600。荘介の勝利でデュエルは終わった。
「いよっしゃーっ!!」
ペンデュラムと言う未知の強敵相手に逆転勝利を収めた荘介。思わずガッツポーズをとる。
理沙はと言うと、数で勝るこちらを圧倒したセンスと度胸に驚かされ、思わず微笑がこぼれた。
「草薙くん」
「お、そうだ、デュエルありがとな!」
「こっちこそありがとね。草薙くん、やっぱり強いんだね」
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、まだまだ俺は強くなりたいぜ」
荘介は青山にこそ勝ったものの、健一には負け越している。
それに青山が選考会プレイヤーで、トップではないと言うことは青山よりも強い相手は世の中ゴマンといる事に他ならない。
それだけ荘介にとって目指すべきライバルは世の中に星の数ほどいる。
「ところで、草薙くんもデュエリストなら、土曜日に、駅前でやるイベントに来ない?」
「イベント?」
理沙はチケットを一枚、荘介に差し出す。
受け取った荘介はそのチケットを眺める。
デュエリストローカルライブ、そのチケットにはそう書かれていた。
そして、このイベントのプロモーションとして、ご当地アイドルである、理沙が出演することも書かれていた。
「この日に、さっき使ったペンデュラムカードを本格的に発表するんだよ!」
「マジか、すげぇな!」
「それに、非公認だけど、デュエル大会も行われるし、ペンデュラム以外にも色々発表があるの!」
「おお、そんなイベントあるのか! そりゃ行くしかねぇ!」
「じゃあ、決まりだね!」
「お、そうだ、藍川」
「なに?」
「また、行く前に連絡したいし、LINE教えてくれよ」
「いいよ!」
荘介と理沙はお互い、携帯を取り出し、LINEのアカウントを教えあう。
連絡先を交換し、日もすっかり暮れて来たため、荘介は帰宅することにした。
「最初はびっくりしたけど、お前と会えて面白かったぜ、藍川!」
「私もよ、草薙くん!」
「またな」
「バイバイ」
大きく手を上げる荘介と小ぶりに可愛く手を振る理沙は廃ビルの中でそのままお互い帰路に着く。
きっかけは健一から逃亡するために乗ったバスで寝過ごしたことだった。
しかし、そのお陰で、荘介と理沙は誰も知らない場所でめぐり合うこととなった。
これが素敵な出会いだったと、後に二人は振り返ることなる。
……しかし、その代償として、次のバスの到着まで1時間、待つ羽目になってしまったが。
理由は諸々ありますが、とりあえず省きます。
遅くなってすみませんでしたーっ!
ダンシング・セイレーンの効果については、今回のデュエルでは明かせるような構成にできなかったので、次回以降に見せられるようなテキストにしたいですね。
別の話、某イラストレーターみたいなこと言わせていただくのであれば、高校時代、こんな感じの甘酸っぱい経験がしたかったです。
当時は私自身が少々気が立っていたことと、進路の都合上、男子校同然の環境に置かれてしまい……と、問題点が色々ございまして(笑)
そんな私は当時といえば、遊戯王とスパロボばっかやっておりましたね。
遊戯の環境で言えば、私が高2の頃に変異カオスが終わり、ガジェや黄泉帝がしのぎを削る時代になっておりました。3年の夏の終わりからはエアーマン3積み時代を満喫しておりましたね。友達にも迷惑かけまくりでしたが……(汗)
遊戯のアニメで言えば、1年の秋にGXが始まった頃でした。その時は諸事情で心境的に若干暗かった…と、言うほどでもないのですけど、立ち直ろうとした頃に遊城十代と出会えたことは結構でかいです。アニメの影響ナメちゃダメですよ。
当時は遊戯王漬けの3年間でしたが、今の記憶のまま、当時に戻ったら私は何をするのでしょうかね。
裂け目の突破、闇の腹心……。
いやいや、そうじゃなくて、もっとこう……あんなことがあったんだ!
あれは……いや、ダメだ……!見えざる力に阻まれて、喋れ……ないッ!!