この作品によりプロデューサーである馬場英雄氏と、名悪役のロゼを演じた小松未可子氏の名前は大きく知られることになったのも有名な話。
そのヒロインであるアリーシャは、あるはずのない過去の場面を繰り返し見る責め苦を受けていた。
果たして彼女は、この試練に打ち勝ち、笑顔を取り戻すことができるのか。
がんばれアリーシャ! 負けるなアリーシャ! サイモン可愛いよサイモン!
・設定とか前提が若干改変されています。正史ゼスティリアのアリーシャが現実の酷いゼスティリア見てる感じです。
・ロゼ好きの方は見ない方がいいです。ヘイト値凄まじいです。
・鬱要素がありますが虐めとかではないです。全部フリです。
・全部サイモンのせい! ってことで納得できる……できない?
・この作品はpixiv様にも投稿させて頂いております
――ここはどこだろう?
目覚めた時、そこは見知らぬ遺跡の中だった。意識の混濁を振り払って立ち上がるも、未だに何が何だかわからない。私は確か、スレイ達と砂漠にいたはずなのに。疑問は尽きないが、このままじっとしていても仕方がない。とにかく壁を伝ってでも前に進もう。
「ううっ……頭が……」
しばらく歩いていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。快活であり、穏やかでもある、青年の声。
「……ス、レイ……?」
あの部屋の奥からだ。その声音を聞いただけで、独りで不安だった心の中に光が射し、陽だまりができたような心地だった。
「スレイ……」
思わず綻んでしまう顔を自覚していた。こんなところ、エドナに見られたらからかわれてしまう。でも隠すつもりはない。ふらついていた足にも力が入り、自然と駆け足になる。スレイがいる……あの向こうに、スレイがいるんだ! 一秒でも早く、早くスレイに会いたい!
「スレイ……スレイ……スレイ……スレイ……!」
走り続けて、息も切れてきた頃。部屋の奥で、導師の伝承と同じ服を着た後ろ姿を見つけた。あれは私が作った衣装……私と彼の繋がりだ……見間違えるはずもない。やっと、会える……!
「スレ……」
「――ロゼさんを私たちの旅に誘いませんか?」
…………えっ?
「ライラ、何を言って……」
「僕も同意だ。スレイにはいい仲間になると思う」
「ミクリオまで!」
「ジイジが言ってた“同じものを見て、聞くことのできる真の仲間”だよ」
違う!ジイジ殿が伝えたかったのは、そんなことじゃないはずだ! 見れて聞ければ誰でもいいのか!? 大体、ロゼが仲間だなんて……一体、何がどうなっているんだ……?
「良いんじゃない?」
「エドナッ!?」
「ロゼさんの霊応力はスレイさんと比肩するほどのものです。アリーシャさんの時のように従士の代償でお互い苦しむこともないと思いますわ」
「ちょっと待つんだライラ! それはもう、克服したじゃないか! スレイが、私の為に……みんな、聞こえてなっ……!?」
微笑みながらにつらつらとスレイへの侮辱を並べるライラ。その肩を掴もうとした私の手は、あっけなくすり抜ける。どういうことなんだ……まるで、瞳石で過去を垣間見た時のような感覚だけど、私はこんな過去、知らない。
「いっそこのままアリーシャのことぱーっと忘れちゃえば簡単なのにね」
「――ッ!?」
耳を疑うような言葉に、絶句する。エドナが私にこんな事を言うなんて、想像できなかった。出会った頃であればいざ知らず、彼女とは今や、友達と言えるほど打ち解けられたつもりだったのに。口が悪いなんてものではない。友に裏切られるとは、こんなにも辛い気持ちだったのか? 違う……これは何かの間違いだ! みんなが、こんな……こんなことを……!
「……あたしに仲間になって欲しいんだ?」
「やめろ! お前のような穢れに満ちた者に、スレイの隣にいる資格はない!」
いくら声を大にして叫んだところで、それは誰にも届かない。まるで、天族にでもなってしまったかのように。いや、天族にも見えないのなら、私は一体なんなんだ? 誰がこんな悪趣味な茶番を見せているんだ? そう思った次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。またふらつきが頭から訪れて、酔ったような不快な気分にさせられる。
「なんか、めっちゃやれそう!」
「何っ……!?」
どうして、ロゼが火の神衣を……? あいつには、火の陪神なんていなかったはずなのに……
『いきましょう、ロゼさん!』
考えたくなかった答えが、すぐに耳に届いてしまった。彼女はスレイの従士となり、神衣を会得したのだ。身に纏っている白を基調とした炎のベールは『フォエス・メイマ』。自分にも覚えのある、火の神衣だった。ロゼとスレイは、契りを交わした。交わしてしまったのだ。
「うっ……」
ロゼ……あの女に何もかも奪われた気がして、嫌になる。ずっと見ていたら、己が保てないかもしれない。こんなものは幻だ。あるはずがない。スレイの従士は、何があってもこの私だ。スレイだって、そう言っていた。
『このままでは、みんなに迷惑をかけてしまう……』
また場面が切り替わる。今度はマーリンドの村だ。旅への同行を断念し、従士契約を破棄しようとした私が、そこにいた。懐かしい場面に、思わず感傷に浸りそうになる。思えば私はなんて馬鹿な事を言ってしまったのだろう。一緒にいたら迷惑だなんて、スレイが言うわけがない。そんな遠慮がちな考えは、純粋なスレイには却って失礼だ。
『今までありがとう、アリーシャ』
「え……?」
過去へ浸り始めた意識が、無理矢理引き揚げられた。声音こそ、優しく穏やかな私の知るものだったが、言葉は決定的に違う。あの時私に手を差し伸べてくれたはずのスレイが、こんなにもあっさりと諦めているだなんて。
「誰だ……こんな、下品で、悪趣味なものを…………私に見せる外道は――ッ!!」
大切な思い出を汚された気がして、我慢ならなかった。叫ばずにはいられなかった。
「もうやめろ! こんなものを見せても無駄だ! 私は、こんなものには惑わされない! だから――」
声が枯れようが構わない。力の限り叫ばなければ、自分を保てそうにないから。汚れた思い出が上書きされそうで、恐かったから。
「だからもうやめろォ――――――ッ!!!」
私の叫びは誰にも届かず、響かない。無へと木霊して、静かに消えていく。
「くっ……またか……!」
再び場面が切り替わった時、夜空が目に入る。今度はなんだと思ったら、どうやらローランス帝国らしい。宿屋から出てくるスレイ達を見て、次は何があるのだろうという恐れが沸いてくる。彼の隣には、やはりロゼがいたからだ。
「悪なら殺る。それが風の骨だよ。教皇でも皇帝でも、導師でもね」
またこの女だ。どうもこの幻術の主はこの暗殺者がお気に入りな不思議な趣味の持ち主のようだ。
「あれ……? あたしなんか変なこと言った?」
言っただろ! 人が人の生死を断じるなんて、馬鹿げている! ダメだ……ここにいると、頭がどうにかなってしまいそうだ。早く……早く帰してくれ……
「ははは! そこまで言い切って訊かないでよ」
やめろ……スレイを、スレイをこれ以上、穢さないでくれ。スレイを、人殺しを笑うような、外道と、一緒にしないでくれ。
「嘘のない方なんですね、ロゼさんって」
「うわあああああああああああああああああ!!」
騙されるものか……こんな、こんなもの……! 嘘だ! 幻だ! みんなが人殺しの仲間になるだなんて、そんなの……! そもそも、何で導師と暗殺者が一緒にいるんだ。本人が穢れないとしても、ライラがそんな穢れの源を見過ごすはずないのに!
『もう、嫌だ……』
その時、自分の声が誰かと被った。抱えた頭を起こすと、それが自分自身だと解る。過去の私が、師匠であるマルトランを槍で刺し殺していた。脳裏には、その後の出来事が鮮明に浮かび上がった。
「やだやだ! 家に帰りたい! 知らないよ! 戦争も国も民も!」
私がスレイの胸で泣いていた。忘れもしない、あの時の出来事。
「陰口を言われるのも意地悪をされるのももうたくさん! 王女も騎士もやめる!バルトロでも誰でも勝手にすればいい!」
その後の彼の言葉を思い出すと、こんな幻に負けたくないという気持ちが、より強まった。
「みんなのためにって頑張っても……いいことなんかなかった……なにも……なのに……それなのに……」
それはスレイが否定してくれた言葉だ。私のやってきたことは、決して無意味なことではなかったんだって。だからもう、こんなことはやめて欲しい。どんな悪夢を見せたところで、私の意志は揺らがない。
「揺らがない……んだ」
なのに、それなのに。口に出しても、空々しく思えてしまうのはなぜだろう。私に自信がないから? 確信が持てなくなっているから? それはこの幻に、心を侵されそうになっているからか。ぐにゃぐにゃと歪んでいく空間は、まだ懲りずに様々な幻を見せてくる。いい加減この酔いのような感覚にも慣れてきたところだ。それでも、心の奥底にある疑念は消えない。私はスレイを信じている。だけど、スレイは、本当は私をどう思っているのだろう。
「……! わ、私は……何を……!」
私はスレイを疑おうとしていた……? 黒く歪む空間の中で、心まで歪んでしまったのだろうか。これはいけない、と頭を振ってもやもやを吹き払う。まだくらくらするが、少し楽になった気がした。
「はい、そのように」
また私の声がする。ここは……ラストンベルの聖堂? 見渡すと、セルゲイと話す私が聖壇の上に、今さっき訪れたスレイ達が入口に立っていた。しばらくしてセルゲイとの話を止め、俯いている自分の姿。それを見て、なんとなく嫌な予感がしている。そんなことない、そんなことないと自分に言い聞かせても背筋に悪寒が走っていく感覚は収まらない。見るな、聞くなと私の中の第六感が警鐘を鳴らしている。
「スレイも一緒にペンドラゴに行かないか? 君は両国の架け橋として重要な人物だ」
額にじわじわと汗が滲む感覚を覚える。過去を見ているはずなのに、彼の言葉を思い出せない。この後スレイはどんな言葉をかけてくれるのか、過去に重なるように不安になる自分がいる。大丈夫だ。スレイは……スレイは、一緒に来てくれるんだ。もうこんな不安な気持ちは、抱えなくていいんだ。だから……
「――それはアリーシャが叶える夢だよ」
「スレイ……?」
なんて、言った。スレイは今、何を言ったんだ……? 私と、一緒に、行くって……そう言ってくれたんじゃなかったのか?
「待ってくれ、スレイ……」
覚束ない手で彼に触れようとするが、やはり容易くすり抜けてしまう。
「やめて……」
虚空を舞う手は、何も掴めない。やがて聖堂は真っ白に塗り潰されていく。まるであの時の私の心みたいに、空っぽだった。何もない空白の空間。そこにかつての仲間達とロゼが立っていた。私を囲んで、円を作るように。
「付き合ってらんねーぜ」
「あなたは従士に相応しくありません……」
蝋燭の火をフッと吹き消すように、二人の天族が去っていく。ザビーダとライラ。二人とも良き大人として私を導いてくれた仲間だった。それがこうも簡単に、話しにくいだとか、相性が悪いだとか、そんな簡単な理由で私を置いて去っていく。
「これだから人間は……やっぱり付いていくんじゃなかったわ」
「エドナ……」
ひょっとして、それが本音だったの……?
「残念だけど、君ではスレイに負担をかけてしまう」
「ミクリオ待って……!」
スレイの親友で、初めて出会ったであろう天族、ミクリオ。思い返せば、仲間に様付けをやめたのは彼の提案によるものだった。ミクリオ……君がもっと距離を近付けたいと言ってくれたから、私は……! 追い縋っても、誰も彼も姿を消してしまう。残ったのはふんぞり返るロゼと、俯いたスレイだけだった。
「アリーシャ」
「スレイ……」
「もうオレには、君を救うことはできない。オレは導師で忙しいからさ……君になんて構っていられない」
「そんな、そんなこと……!」
「救いを与えるんだ。憑魔は浄化して、浄化できなければせめて、安らかに……」
俯きながらそう言うスレイの顔は、冗談を言っているようには見えない。それが悲しくて、苦しかった。こんな思いをさせている誰かがいるなら、許せない。
「何言ってるんだ! 君はどんな憑魔だって殺さず、ちゃんと救ってきたじゃないか!」
「どうにもならないものだってあるんだ! アイゼンさんも、ヘルダルフも、きっと殺さなきゃ救えない!」
落ち込む私を説教してくれた時と同じ、本気の目。真剣な顔。そこから出た言葉が、私の知るスレイと大きく異なっている。そこにいるのはスレイだけど、スレイじゃない。私は、こんなに何でもかんでも諦めてしまう男に憧れたわけではない。
「なぜそんな事を言う! スレイ、答えろ! いや……君は本当にスレイなのか!?」
「そうよ」
吐き捨てるような声が背後から聞こえた。振り返ると、今一番見たくなかった顔が私を睨んでいた。
「スレイの言う事は正しいよ。この世には、死による救いだってあるからね」
「他の方法も何一つ探さず、なぜそんな事が言える!?」
スレイはいつの間にか姿を消して、この空間には私とロゼの二人だけがいる。彼女は眉間に皺を寄せて、不愉快さを隠そうともせず私を睨んでいた。
「うっさい! 綺麗事だけでどうにかなるわけないだろ! 偽善者!」
「その綺麗事すら実行に移せないのか!? 何の努力もせず文句だけ言うのは、卑怯者のすることだ!」
「あんたに何がわかんの!? スレイ達の仲間でも何でもない癖に!」
わかるさ。少なくともお前よりは、スレイ達のことは理解しているつもりだ。いきなり降って湧いた女に、なぜこうまで言われなければならないのか。
「違う! 仲間だ!」
「スレイはあんたを仲間だなんて認めない!」
「仲間なん……ひゃっ!?」
我慢ならずロゼに一発食らわせようと思ったら、またすり抜けて顔から一気に倒れてしまう。起き上がって周りを見たら、誰もいなくなっていた。白い空間に一人になって、虚しさが胸に込み上がる。
「誰か、いないのか……?」
答える者はいない。
『お前のことが、反吐が出るほど嫌いだったよ』
代わりに、頭の中に声が響いてきた。
『いっそこのままアリーシャのことぱーっと忘れちゃえば簡単なのにね』
誰だ。姿を現せ。
『さよなら、アリーシャ』
やめろ。
『独りぼっちのアリーシャ』
やめてくれ。
『誰も助けてなんてくれないよ』
やめて……スレイの声で、そんなこと言わないでよ……
『この役立たずが』
「ううっ……ふえぇ……うぷっ……ぐ、うぇ……あぅ……」
『“そぞろ涙目のアリーシャ”……役立たずにはお似合いな名前ね。何が“笑顔のアリーシャ”よ! バカじゃないの!?』
「おえぇ……ぐ、ふぅ……うげぇぇぇぇぇ!!」
心の奥底にいる男からの、心を抉る言葉。更に心の支えであった真名を汚された衝撃。その大きな圧迫感に耐えきれず、顔中の穴という穴から色んなモノが溢れだした。こんな惨めで情けない姿、見せられない。きっとスレイもミクリオもエドナも、幻滅してしまう。だけど止められない。それだけ君達との旅は、私にとって大きなものだったから。否定されたら、自分を保てないから。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
『……ャ』
「もう、付いていかないから……一人でもいいから……」
『…………リーシャ』
「だから……嫌いにならないで……おねがい……」
『――アリーシャ!!』
――――--
「アリーシャ!!」
「――ハッ!?」
ここは……どこだ? 私は、一体何を……
「くっ……解けてしまったか。ここは一旦退こう」
「待ちなっ! ……クソッ! 逃げ足の速ェ女だな」
状況が掴めない私は、ただ呆然としていた。目の前ではザビーダが悔しそうな表情でこちらに向かってきて、エドナが溜息を吐いている。寝起きのようにぼうっとした頭に冷水をかけたのはミクリオ……ではなく、心配そうに私を見つめるスレイの顔だった。
「やっと目を覚ました……どこか、変なところとかない!?」
「あ……うぁ……」
大丈夫だ、と返そうとした。けれど口が上手く動いてくれない。スレイは、私を拒絶しているのではないのか。役立たずに思っているんじゃないか。不安で仕方なくて、何を言っていいのかわからない。
「ここ……どこ……?」
「ここはマビノギオ山岳遺跡。僕達はサイモンと戦って、君は幻術にかけられて、しばらく気絶していたんだ」
丁寧なミクリオの説明に、ようやく状況が掴めてきた。幻術にかけられる直前のことも、徐々に思い出してきた。確か分身した彼女に背後を取られ、気付けばどこかもわからない遺跡にいたんだ。それであんなことに……?
「もういい、一人で立てる……うわっ!?」
「ちょっ……無理しちゃダメだって! ライラ!」
「はい!」
ふらつく私の肩をスレイが抱いて支え、ライラが治癒術をかける。それだけで私は、精神的にも身体的にも随分と癒やされた。幻術はもう、終わったんだ。だけど、休んでる暇なんてないんだ!
「このままではサイモンが逃げてしまう……早く追いかけないと!」
「いけません! アリーシャさんはまだ、まともに動けません! それだけの穢れを体に浴びたんです!」
「で、でも! もう嫌なんだ! みんなの足手まといになるなんて、私は……私は!」
ライラの言うこともわかる。でもそれは、私一人が我慢すればなんとかなる話だ。だからもう、これ以上時間を無駄にしてほしくない。
「もういい。私のことは捨て置いて、早く、早く敵を……」
「――アリーシャ!!」
「ッ!?」
スレイがいつもと違う、やや怒気を孕んだ声で叫ぶ。
「それ以上言ったら、怒るよ?」
「スレイ……」
彼がこんなに怒るのを見たのは、恥ずかしながら今が初めてだった。
「そうよ。アリーシャの癖に生意気なのよ」
「勇気は買うが、一人で無茶するのはいけないぜアリーシャちゃん。どうせヤツは主サマを守るのに必死だ。逃げやしねぇよ」
続くようにエドナがそっぽを向きながら、ザビーダが私に笑いかけながら言う。
「……ありがとう、みんな」
「礼なんて言いっこ無しだアリーシャ。僕達は……その、仲間なんだからな」
「ミクリオ……」
「そうそう! みんなで困難に立ち向かって、みんなで支え合って、みんなで夢を叶える! それが仲間ってもの……じゃ、ないかな?」
「相変わらず締まらないね君は……」
私の知るみんなが、笑顔でそこにいた。そのことが、何よりも嬉しくて、嬉しくて。頬に熱い何かが伝う感触に気付くまでに、随分と時間がかかった。
「ど、どうしたのアリーシャ!? やっぱりどこか痛いんじゃ……」
「……ち、違う! これは……うっ、その……ひぅ……なかまが……うれじぐで……ふぇぇえ……」
情けないところは見せたくないと思っていたのに、どれだけ拭っても涙が止まらない。どれだけ声を押し殺しても嗚咽が止まらない。感極まっていたのかもしれない。周りが見えなくなっていたのかもしれない。とにかくこの時の私は、迷わずスレイの胸に飛び込んでいたのだ。多分、もうどうでもよくなっていたんだろう。こんなに良き仲間達がいて、何を遠慮する必要があるだろう。いや、ない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! スレイぃぃ……スレイぃぃ!!」
「あ、アリーシャ! その、なんか…………ごめん」
「ずっと……ずっとそばにいてよぉ……!」
「えぁ……いやその、あああアリーシャ!?」
わ、私は何を言っているんだ! い、今の取り消し……いやでも、そんなこと叫んだら思い切りスレイを拒絶してるみたいで後味が悪いし……あぁ、どうしよう。よし、もういい! もうこのままでいい! 諦めた!
「あらまぁ♪」
「……意外と大胆ね」
「ハッハァ! やっぱ人間ってのは面白いなァ!」
「……コホン」
ライラもザビーダもワイワイ騒いでるだけだし、エドナもミクリオも静観に徹するつもりのようだ。なら今は、この暖かさに存分に浸っていたい。それぐらい、いいだろう……?
導師服がぐしゃぐしゃになったら、私がまた作ろう。スレイが辛そうにしていたら、今度は私から胸を貸そう。だから今は……なんて考えてる私を見て、スレイはただ微笑み、私を両腕で抱き締めてくれた。
「おかえり、アリーシャ」
――――--
「取り乱してすまない。みんな……もう大丈夫だ」
「うふふ。もっと甘えても良かったんですよ?」
「そうだよ。スレイもそれくらい言ったらどうだ?」
「やめとけって! 導師サマに乙女心を扱うのはまだ早えェって!」
ライラの冗談にミクリオが乗り、ザビーダが囃し立てる。正直もう勘弁して欲しいのだが、悪い気分ではない。
「フフッ……」
「やっと笑ってくれたね」
「え?」
「アリーシャはやっぱり、笑顔が一番似合うよ……泣いてる顔も、まあ……可愛かったけどさ」
顔が熱くなってきた。でも違う。スレイは別に私を口説いているわけではないんだ。イズチという特殊な環境で育ってきたから純粋にこうなんだ。そうわかっていたとしても、以前にかけてもらった言葉を思い出さずにはいられない。
――従士契約の反動なんかより、アリーシャが泣いてる方がずっと辛い。だから、この手は離さない。
「天然だというのか……凄いな」
「今更言うことでもないでしょ」
ザビーダが感心して、エドナがそれに呆れている。ライラは……隅っこの方でさっきからブツブツと何か言っている。
「オホンッ!」
スレイが弛緩した空気を仕切り直すように咳払いをして、みんながその前に集まる。深呼吸を終え目を見開いて、彼は私の両手を包んではっきりとした口調で言った。
「まだまだやれることは一杯あるよ、アリーシャ! 君の夢を叶えるのもそうだし、ロゼ達を倒すのもそう! サイモンにアイゼンさんにルナールにゴドジンの村、それにヘルダルフだって、みんなまとめて救う方法は、きっとある! だからこれからも、一緒に夢を叶えていこう?」
「スレイ……私は、君の従士として友に歩めたことを、誇りに思うよ――――本当に」
この世界の穢れにどう向き合うか、その答えはまだわからない。いや、きっと正解なんてない。けれど間違いだってない。白くて空虚な私の世界を、新たな世界へと塗り潰してくれたスレイ。
そんな彼と一緒に歩んでいけば、きっと見つけられる。
「行こう!」
私達だけの答えが、きっとこの先にある。
スキット
――[SELECT] 「どんな幻?」――
エド「それで、結局どんなのを見せられたの?」
アリ「どんなの、とは……?」
ミク「君がサイモンにかけられた幻術だよ。随分憔悴し切ってたみたいだし、心配なんだ」
アリ「えっと、それは……」
ザビ「言いたくないなら、無理に言わなくてもいいんだぜ?」
アリ「いや、言わせてもらうよ。胸に秘めておくようなものでもないからね」
スレ「ゴクリ……」
アリ「私は従士反動の影響で旅の同行を止めて、代わりにロゼが仲間になっていた」
ミク「えぇ!?」
ライ「ロ、ろろろろ、ロゼさんが!? 暗殺者が、従士に…………きゅぅ」
スレ「ライラが倒れたー!?」
アリ「ちょ、ライラ!? 大丈夫なのか!?」
ライ「だ、だいじょーぶです……つ、つづきを……」
アリ「う、うん。わかったよ」
アリ「その後、私がラストンベルの聖堂でスレイに、一緒に来て欲しいと頼んだだろ?」
スレ「うん。覚えてるよ……って、まさか!」
アリ「ばっさり断られた」
エド「ちょっとスレイ、何やってんのよ。男らしくないわ」
スレ「痛い痛い! 傘で突くなってエドナ! それに、幻術のことだろ!」
サビ「なんか……まるで俺達がアリーシャちゃんを仲間外れにしてるみたいだな……」
ライ「有り得ませんわ! アリーシャちゃんは私達の仲間じゃありませんか!」
ミク「あ、復活した」
エド「そうよね……アリーシャは私の…………と、とも……だ……」
スレ「友達を見捨てるわけないだろ!!」
エド「…………」
アリ「ありがとう、みんな。ところでエドナ、今なんて?」
エド「なんでもない……」
アリ「何でもないことはないだろ? 教えてくれたっていいじゃないか」
エド「なんでもないのよ。本当に……しつこい女は嫌われるわよ」
ミク「……行っちゃった」
アリ「フフッ……やっぱり、エドナはこうでなくちゃね」
スレ「だよな!」
Fin
もし健全なアリーシャがサイモンに悪夢を見せられたら…きっと吐いちゃうでしょうね。
真面目な話、リアラがハロルドにカイル寝取られたら多分吐いちゃうし、ミラがアルヴィンとキスしてる現場目撃したがジュードは「嫌だ嫌だ嫌だ」とか言ってパーティメンバー全員虐殺しちゃいますよ。
この後パーティインするサイモンですが、彼女のみに与えられた闇神衣の性能は半端じゃなかったですよね! アレでラスボス戦随分楽になりましたよ!
ヘルダルフの後に出てくる真のラスボス、あれが強敵だった! いやー最後までやったけどいい作品だったゼスティリア! スレイとアリーシャが途中何度か挫けながらも最後まで一緒にいたのは、ヒロイン力の成せる技でしょうね!
うわあああああああああああああああロゼこっち来んなやめろ!!