キョンの非日常   作:囲村すき

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九話 十月の紅葉と溜息の後の文化祭

 

 

 

暦上では秋で間違いはないが、それにしても妙に残暑が長引く。

 

 終わらない夏休みを終えると、九月なんてテストだの体育祭だの文化祭の準備だので光速で過ぎ去ってしまった。ニュートリノよりは遅いがね。

 

 さて、今日はその文化祭当日である。

 

 「ねえキョン?聞いてる?どこまわろうか?」

 

 国木田の声で俺は現実に呼び戻される。

 

 「だから言ってるだろ、もちろん朝比奈さんのクラスのコスプレ喫茶だ!」

 

 そんなことを言うのは俺とアホ同盟を結ぶ谷口だ。俺も同意する。朝比奈さんがどんな服装なのか滅茶苦茶興味がある!

 

 

 

 

 

 

 朝比奈さんのクラスまで行くと、もうすでに長蛇の列で多少げんなりするものの、目に飛び込んできた鶴屋さんのウエイトレスバージョンを見てそんなもんはあっさり吹き飛んだ。

 

 「やあやあキョン君とその友達たち!いらっしゃい!」

 

 鶴屋さんはハルヒに負けず劣らずの笑顔をふりまきながらこちらにやってきた。

 

 「どうにょろ?この衣装っ!」

 

 素晴らしく似合っていますよ、鶴屋さん。

 

谷口も国木田も鶴屋さんをまじまじと見つめている。ひょっとしたらデザイナーの卵でもおられるのではないか、このクラスにはと思うほど、衣装はすごいものだった。

 

 「盛況ですね」

 

 俺が言うと、鶴屋さんは見る人まで楽しくなってくるような笑顔で答えた。

 

 「メニューは安っぽい焼きそばと水道水だけ!これでたんまり儲かるんだからもー笑いが止まんないねっ!」

 

 ちょっと待てばすぐ入れるにょろ!と鶴屋さんは言ったが、結局三十分は待ち、ようやく教室に入ることができた。

 

 「いらっしゃいませ~ご来店ありがとうございますぅ」

 

 われらが女神、朝比奈さんが水の入ったコップをもってご登場なさった。ははー、ありがとうございます。

 

 「キョン君と、友達の、えと、「谷口です!」「国木田です」

 

 朝比奈さんのウエイトレス姿もまた似合っていた。朝比奈さんは天使のように二人に微笑む。

 

 「映画のエキストラ、どうもありがとう」

 

 「はい!いや、朝比奈さんのためならなんだってする所存です!」

 

 谷口が威勢よく言った。

 

 ん?ああ、エキストラね。我ら史上最強のおバカ集団、SOS団はこの文化祭に向けて映画という名のついた悪夢を撮影していたのだった。谷口と国木田はその時に俺に呼び出されたのだった。

 

朝比奈さんにつられたようだったが、あまりいい目は見られなかったな。

 

 

 

 

 

そしてその悪夢は本日、視聴覚室で絶賛上映中であった。

 

 

 

 

 

 

 それから程なくして焼きそばがやってきたが、店内はごった返し、大盛況なので俺たちはいそいそと食べる他なかった。朝比奈さんとももうそれきりであった。

 

 「うーん、あんまり食べた気がしないけど、どうする?また食べ物を探す?」

 

 教室から出て、国木田が全員の気持ちを代弁して言う。

 

 「俺は無論、朝比奈さんのお姿を拝見できただけで腹はいっぱい、と言いたいところだが妄想は実物のエネルギーにはならねえ。俺は食べ物とあと女を探しに行くぜ」

 

 なんだそのどや顔は。

 

 「ナンパだよナンパ!暇そうに三人ぐらいで固まって歩いてる私服が狙い目だぜ!」

 

 いや、俺は遠慮しよう。お前の船に乗ってるとナンパするまでもなく難破しそうだからな。

 

 「上手いことでも言ったつもりか!だがな、そう調子こいていられるのも今のうちだぜ?・・・まあお前には涼宮がいるしな・・・今決めた、俺が今年のクリスマスを一人で過ごすことはない!はっはー!絶対クリスマスまでに女捕まえて見せるぜ!」

 

 なにか途中でものすごく不可思議なことを言ったような気もするが、まあ気にしないでおいてやろう。せいぜい頑張れよ、谷口。

 

 谷口はそのまま風と共にフェードアウトし、国木田はSOS団の映画を見に行った。俺はどこに行こうにも、どうにも面倒くさくてぶらぶら歩きだした。

 

 ちなみにハルヒはバニーガールコスで映画のビラ配りだったはずだ。

 

 

 

 

 

 

 「おー、キョン」

 

 キョン子と曲がり角で偶然にも鉢合わせした。

 

 「おー、お前も一人か」

 

 キョン子は片手にプログラムを丸めて、もう片手にはどこで手に入れたのか綿あめを携えていた。

 

 「暇そうだなー」

 

 キョン子がそう言いながら無造作に差し出す綿あめを受け取り、少しだけかじる。口の中に甘みがふわっと溶け、そのまま一瞬で消えてなくなった。

 

 「お前もな」

 

 「行くあてないんだったら講堂でも行かない?バンド演奏会やってるんだって」

 

 軽音楽部と一般参加のバンドによる演奏会、か。座ってぼーっとするにはちょうどいいな。

 

 というわけで、俺とキョン子は講堂に行くこととなった。二人で並んで歩きながら、教室の催し物をぼんやり眺めたりする。

 

 キョン子か。そう言えば九月に、キョン子に関する重大なイベントが起きていたのを忘れていた。

 

 キョン子の携帯に、あっちの世界からの長門からメールが入ったのだ。

 

 そのメールの内容を要約すると、キョン子が帰ってこないことに業を煮やした涼宮ハルヒコ(ハルヒの男版だ)が自身の能力をフルに使用し、その世界の時間をキョン子がいなくなった頃の六月まで戻すと、そのまま時間を凍結させてしまった、ということらしい。

 

なんとまあ、ハルヒコってのは。ハルヒ並みだな。笑えるな。

 

キョン子の取り乱し方はちっとも笑えなかったがな。

 

 あっちの世界の長門はこっちと同様、ハルヒの時空改変の能力を受け付けないので難を逃れたらしい。この時間凍結を元に戻すには、キョン子があちら側の世界に帰ることが必要条件だと。

 

 メールを見るに、あっちの長門もどうやって帰ることができるのか分からないみたいだ。ただ、ヒントが残されていた。

 

 

 

 

《静かに降る雪の為に、あなたは聖夜に願うだろう》

 

《聖夜の願いはいつだって、そっと空に届くだろう》

 

《空に届くその願いは、やがて雪を降らせるだろう》

 

 

 

 

 あっちの世界の長門はどうやら宇宙人から詩人にジョブを変更したらしい。何が言いたいのかさっぱり分からない。

 

 古泉たちとも頭をひねったのだったがお手上げだった。そもそもこちらの長門の回答が「分からない」なのだから、凡人が解読しようなど愚の骨頂である。

 

  だが冬、特にクリスマスまで待てば何か分かるに違いない、と俺たちはひとまず解読を打ち切った。

 

 キョン子もここでじたばたしても何の解決にならないということを悟ったらしく、もう取り乱さなくなった。

 

 キョン子は今では苦笑交じりに言う。

 

 「まったく、ハルヒコにはやれやれだ」

 

  キョン子は俺の逆転であるが、百パーセント裏返しかと言えばそうでもないようだ。この四か月で段々と分かってきた。

 

 全体的には完璧に同じようで、しかし細部にわたると微妙に異なる。まさしくハルヒの考えることのような、大雑把な感じであるのだ、俺とキョン子の関係は。

 

 

 

 

 講堂に到着した。うるさいパンク系のバンドが一生懸命頑張っている。

 

 演奏が終わり、次のバンドの名前が紹介され、バンドメンバーたちがぞろぞろと袖から出てくる。

 

 「「げっ!」」

 

 一番最初に出てきた人物に、俺とキョン子は一斉に息をのんだ。

 

 バニーガールで映画のビラを配っているはずの人物――

 

 ハルヒが、ギターとマイクをひっつかんでステージに登場した。

 

 

 




谷口「・・・」(ナンパを一人でできるほど俺は強くないんだが・・・)
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