キョンの非日常   作:囲村すき

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十二話 天秤座の日

 

 

 さて、約束の一週間後の放課後になった。わたしたちは部室に集まり、それぞれのノートパソコンを立ち上げた。

 

 もうすでにコンピ研の連中が待ち構えており、わたしたちはコンピ研のグループに参加した。

 

 いよいよ対戦の始まりだ。ちなみにわたしたちがこの一週間CPUとの戦績は一勝十一敗四分けである。意外にも数字にしてみるとわりかしやったほうだろうか。

 

 『ルぺルカリア』とやけにこった名前の戦闘機がわたしの軍を攻撃してきた。とっさに左に進路を変更する。

 

 「ん!?」

 

 しかし見計らったかのように正確な対空砲が、敵戦車『ブラインドネス』から放たれ、わたしの戦闘機軍の数が少し減った。なるほど自信があるわけである。巧みな連係プレーだ。

 

 わたしは『ルペル・・・』面倒くさい、敵戦闘機Aを狙い落そうと思ったが、既にわたしの索敵範囲を超えた所に移動済みであった。顔をしかめる。

 

 ちゅどーん、ばこーんと安っぽい爆発音がキョンのパソコンから鳴った。どうやらキョンの戦車が地雷を踏んだみたいだ。

 

「いつのまにこんなところにまで・・・」

 

 少し驚いたようにキョンが言った。

 

 「なにやってるのよ!いきなりやられちゃってるじゃない!」

 

 ハルヒが喚く。

 

 「うるせー。これでも頑張ってる方なんだ」

 

 「まったく、あんたって・・・あれっ!?」

 

 ハルヒのパソコンからも爆発音が鳴った。地雷の第二の犠牲者だ。

 

 「おかしいわね・・・いつのまにこんなところに・・・」

 

 索敵ぐらいしろっての。わたしも言えた立場じゃないけど。

 

 コンピ研の作戦は一撃離脱法が主のようだ。戦闘機が急襲してきたから応戦しようとすると、海か陸からすかさず援護射撃が入る。うーむ。じわじわと戦力が削られつつある。

 

 

 しかもわたしの軍「戦闘機」は攻撃力は一番高いようだが、防御が弱いし、しかもすべてのエリアから狙われてしまう、ハイコストなユニットであった。

 

 それでも・・・なかなか楽しいじゃないか、とわたしは思ってきた。まあ全く攻撃は当たらないんだけれど。こんな大人数でゲームをするなんて初めてだ。

 

 「ああ、僕のはもうそろそろ限界のようです」

 

 中身なしの笑顔を浮かべて、古泉が申告する。古泉、やっぱりゲーム下手だな。古泉の戦闘機の戦力が残り二けたを切っていた。

 

 「仕方ないわね・・最後の手段よ、古泉君。その名も特攻よ!」

 

 第二次世界大戦中の大●●帝国の将校並に最低な将軍だ。そこ、笑うところじゃないって。

 

 「了解いたしました、将軍。この命、将軍に捧げその上で朽ち果てる所存です」

 

 馬鹿か、古泉。そう簡単に了解するなよ。

 

 「古泉一樹、行きます・・・!」

 

 古泉軍が最後の力を振り絞って敵戦闘機Aに体当たりを敢行した。意外性抜群のその行動は、敵戦闘機Aの冷静さを奪ってしまったようで、もしAが冷静に判断を下していれば古泉軍は体当たりの前に全滅していただろう。

 

 古泉軍はそのまま爆発炎上し、敵戦闘機Aもろとも散ってしまった。さらば、古泉男版。一姫に比べればあんたはキャラ薄かったみたいだけど気にせずこれからもがんばってください。

 

 「僕は励まされているんですか?」

 

 古泉が肩をすくめて見せる。

 

 「けなされてるのさ」

 

 キョンが口をはさむ。ハルヒは、「これで五対五ね・・・まだまだこれからよ!」なんて馬鹿なことをつぶやいていた。

 

 次の瞬間、戦艦が全艦撃破された音が朝比奈先輩のパソコンから聞こえた。

 

 「ふええ、あれ?おわっちゃったんですかぁ?」

 

 「・・・・・・・・・・みくるちゃん」

 

 「・・・ひぃ!?すすす涼宮さん怒らないで・・・・」

 

 朝比奈さんはとうとう最後までユニットの動かし方が分からなかったようだ。

 

 キョンは常に突出気味のハルヒ戦車をかばいながら陸を右往左往していた。

 

 ハルヒはそんなことおかまいなしにずんずんと敵陣営へと突き進んでいく。

 

 長門は確か朝比奈さんと同じで戦艦だったけど・・・・あれ。

 

 長門戦艦の様子がおかしい。なぜか通常の十分の一ぐらいのサイズしかなかった。

 

 そして長門の様子もおかしかった。さっきからガガガガと妙な音が聞こえると思ったら、どうやらその正体は長門の神速タイピングのようだ。

 

 「・・・指が早すぎて二十本ぐらいあるように見える・・・」

 

 わたしは思わずつぶやいていた。キョンが立ち上がり、長門の近くに行った。

 

 「おい長門、今度はインチキはなしっつったろ」

 

 「インチキと呼ばれる行為は行っていない。全てプログラム内での事。人間が行うことのできるレベル」

 

 しかし長門のパソコンに表示されているのは普通のゲームの画面ではなく、真っ黒な背景に白い文字がばあーっと連なっている意味不明な画面であった。

 

 「そ、そうなのか・・・?」

 

 まあ、長門は嘘は言わないだろうな。

 

 「・・・インチキと呼ばれる行為をしているのは、あちらの方」

 

 「なに!?」

 

 「コンピュータ研究部は兵器『地雷』の設置のプロセスを省略している。つまり、ユニット『兵』を使用することなく地雷を設置することが彼らには可能」

 

 「だっからおかしなところに地雷が置いてあったわけねっ!」

 

 ハルヒが目を吊り上げて怒り出した。

 

 「また、戦艦の装備『魚雷』は自動追尾モードに設定されている。94%の確率で目標への到達が可能」

 

 なんて奴らだ!どうりであんなに自信満々だったわけだ。

 

 「・・・で、お前は今何をやってる?」

 

 「改造されたプログラムの初期化と変更プログラミング。課せられたルールは遵守している。許可を」

 

 長門はまっすぐにキョンを見つめた。キョンがたじ、となったのが見て取れた。

 

 長門・・・ひょっとして、負けたくないのか?

 

 わたしが前々から思っていたことがある。それは、長門にも感情が芽生え始めているのではないか、ということだ。

 

 エンドレスエイトの時の、退屈そうに見えた長門。とか。

 

 そんなにわかの妄想が、ぐっと現実味を帯びてきた。

 

 ためらうキョンに、わたしは声をかける。

 

 「いいじゃん、インチキしてんのはあっちだって。目には目を、インチキにはインチキを、だって」

 

 敗北した古泉もにこやかに同意する。

 

 「現代の人間の力の範囲内での行いなら、それはヒューマノイドインターフェースのスキルではないでしょう。問題ないと思われますが」

 

 キョンはそれでも迷っていたが、やおら笑みをこぼすと、長門に宣告した。

 

 「やっちまえ、長門」

 

 長門のその真っ黒で無機質みたいな瞳が一瞬揺らぎ、長門はつぶやいた。

 

 「そう」

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

 「負けだよ・・僕たちの完全な敗北だ・・・いや、まさかこれほどとは・・・」

 

 ゲームはその後の長門の大活躍で、SOS団の勝利となった。その十分後ぐらい、部長氏がうなだれながら部員を引き連れやってきた。

 

 「まさかゲーム中にプログラムを書き換えられるとは・・・」

 

 ハルヒはハルヒで部長氏の言うことなんざ聞いちゃいなかった。

 

 「これでこのノートパソコンは全部あたしたちのものね!それに敗者は勝者に従うものよ、コンピ研をSOS団第一支部にするわっ!なんでも言うこと聞いてもらうからねっ!それに・・・」

 

 まあハルヒの言葉も死にかけの部長氏の耳を通り抜けて行ってるんだけど。

 

 「・・・・・・・なあ、君。書き換えをやったのはいったい・・・いや、だれだか大体想像はつくんだが・・・」

 

 そう言いつつ部長氏はパイプ椅子に座る長門を注視した。

 

 ええ、まあご想像の通りですよ。

 

 「君、暇な時でいいんだ・・・コンピ研の部活に・・・参加してみないかっ!?」

 

 部長氏の言葉がにわかに活気づいてくる(ハルヒの喚き声は無視だ)。長門は黙ってキョンを見つめている。キョンは困惑してわたしを見る。

 

(なんで長門は俺を見てる?) (あんたが決めてってこと) (なんで俺?) (知らん)

 

 キョンは少し緊張した様子で咳払いすると、言った。

 

 「好きにしろ、長門。お前だってやりたいことがあるはずだ」

 

 長門はキョンの言葉を聞いて、わずかに首をかしげる。

 

 「そう・・・」

 

 それはまるで、相変わらず何の感情もないような。

 

 「・・・たまになら」

 

 でも、長門は確かに変化しつつある、と思うのはわたしだけだろうか。

 

 

 

 

 

 

 家に帰って、なんだかゲームがしたくなって、わたしはキョンの格ゲー百人抜きに挑んだ。今やっとあと二人を残すところになった。

 

 「わたしさ、思うことがあるんだけど」

 

 「なんだ」

 

 キョンが画面を見つつ返事をする。よし!あと一人!

 

 わたしの操るインドの曲芸師の必殺技を百人目に一気に叩き込む。なんだかとても調子が良くて、敵の攻撃を全て見切ることができた。そのまま相手にダメージを与え続け、百人目はとうとうぶっ倒れた。おお、やった。

 

 「撮って撮って」

 

 記念記念。わたしはキョンに携帯を渡し、K・Oの画面の横で笑顔を作った。

 

 パシャ。

 

 「撮れたぜ・・・それで?思うことって?」

 

 わたしはにやっと笑って言った。

 

 「格ゲーなら・・・ 長門に勝てると思わない?」

 

 

 




長門「思わない」
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