「なんだか妙な気がするんだ」
わたしは隣に座る、SOS団副団長の
「どうしてです?」
どうやったらそんなスマイル¥0みたいな笑顔をキープできるんだ?
「・・・わたしがこっちに帰ってきた途端、あっちではおかしなことになっちゃってる。わたしは帰ってきて大丈夫だったのか心配・・ってわけでもないんだけど、さ」
一姫は綺麗な栗色の髪をちょっと触り、にこやかにほほ笑んだ。
「あちらのことはあちらでなんとかするでしょう。それよりこちらの問題を解決すべきなのでは?」
一姫の冷静な指摘に私は思わずため息をつく。全くその通りだよ、ちょっと現実逃避してみただけだって。
そう、なんとかしなくては。
わたしたちはボードゲーム大会の真っ最中だった。周りは子供ばかりだ。
それもそのはず、参加年齢制限が二十歳以下のちんけな大会だからだ。
今、ハルヒコが将棋で対戦中。
相手はなんと十九歳でプロ入りした凄腕棋士だ。
問題なのは、そんな相手に
素人目にはどういう戦局なのかさっぱりだが、周りのやつらが興奮して騒いでいる。
冷や汗がわたしの背筋を伝う。一姫の笑顔も心なしか強張っている。ような気がしないでもない。
なんとかしなくては・・・・
「絶対に涼宮君に勝たせるわけにはいきませんよ、ここは」
一姫がわたしに囁く。
「手遅れになる前に・・仕方ありません、長門君の力を借りる他ないでしょう」
一姫は立ち上がり、長門の姿を探し始めた。
「もっと初めに気づいていればよかったのですが」
一姫は長門を見つけたのか、人ごみの中へ歩き去った。
「初めに気づいていれば・・・・ねえ」
わたしはまたぼんやりとキョンの世界に思いを馳せるのだった。
さあ、とうとう長門のしおりの期限日まで来てしまった。もはや俺の脚はほぼ宙に浮いたままの状態である。・・・・いや、本当に浮いているわけじゃないんだが。
ちなみに今日から午後の授業がなくなる。学校も年越しの準備に入るってところだな。
「・・・・はあ」
俺は普通に登校して、普通に授業を受ける。
・・・もうこれでいいのかもしれないな。
実際、俺は諦めかけていた。「始まり」は一向に見つからないし、それどころかこの世界になじみ始めてすらいた。
このままこの世界で、この平穏な世界で、俺は生きていくのか?
そして、それを俺は望むのか?
いつのまにか放課後だった。最近俺は授業のほとんどが上の空だ。テストやばいだろうな、これでは。
が、ただ悪戯に意識をトリップさせていたわけじゃない。長門のしおりのことについて考えていたんだ。
『プログラム起動条件・始まりを探せ。最終期限・二日後』
もう少し分かりやすく教えてくれるわけにはいかなかったのか?長門(男)よ。
だいたい『始まり』という表現が抽象的すぎる。なんの始まりだ?固有名詞じゃねーぞ、おい。
「じゃあね、キョンくん。また明日」
後ろで声がしたので振り返ると、ハルヒが大きなスポーツバッグを抱えて席を立ちあがるところだった。
「ん、ああ。ってハル・・涼宮、その荷物はなんだ?」
「え?部活のだけど?」
・・・・・部活、だって?
「あ、もしかしてわたしがソフト部って今まで知らなかったとか?・・・む。それは少しショックだなぁ」
知るも知らぬも、お前がソフトボールだと?ハルヒは本当に少し落ち込んでいるようだ。俺は慌てて取り繕う。
「い、いや、もちろん知ってたさ。俺が言ったのは、いつもそんな大きなスポーツバッグ持って行ってるのかってことだ」
「うん、まあ最初の頃はちょっと重いって思ってたけどね。もう慣れたわ」
俺は、苦笑しながらその大きなスポーツバッグを上げ下げしているハルヒをじっと見つめた。つやのある長い髪をポニーテールにしてまとめている。
クラスに一人はいるような、美人で性格もいい、普通の女子だ。
「・・・なあ涼宮。おまえ、どうしてソフト部に入ったんだ?」
ハルヒは少し首をかしげる。
「いや、他意はないんだ。ちょっと聞いてみたかっただけだ」
「・・・・・うーん、まあやっぱりあれかしら。小学六年生の頃、家族で初めて野球を見に行ったの。広いスタジアムで、とってもたくさん観客もいて、盛り上がってたわ。その時の・・・なんていうのかな、雰囲気?がすごい好きになってね。ピッチャーが球を投げる一瞬の緊張とか、ヒットがでたときの温度の急上昇とか。応援もすごく楽しかったの」
ハルヒはそれはうれしそうに思い出を語った。
だが、俺はそのエピソードは四月に聞いたことがあった。ハルヒの感想はまるで違ったがね。
「それが始まりって言うか、きっかけって言うか。東中でもソフト部に入ってたのよ」
始まり・・・か。
「じゃあ、また明日ね」
ハルヒは明るく言うと、今度こそ席を立った。
あのハルヒが、まともな部活に入るとはね。まあ
俺は今日も文芸部部室に向かって廊下を歩いていた。
「しっかし、これ、どうするかな・・・」
乱雑に畳んだ入部届を取り出す。
と、その時。
強い風が、俺の手から折れ曲がった入部届をもぎ取って、そのまま窓の外へと放り投げた。
「しまった!」
慌てて窓の下を見ると、食堂の屋外テーブルの方へ入部届は吹き飛ばされていた。
あれを持ってないと、なんとなく長門ががっかりするような気がする・・・!
俺はなるべく急いで階段を駆け下りていった。
ちょうど俺より背の高い男子生徒が、身をかがめて入部届を拾うところだった。
「すまん、それは俺のだ。拾ってくれて・・」
小走りに男子生徒に駆け寄りながら礼を言う。生徒は振り返る・・・・
「・・・てめえは」
「・・・古泉か・・・」
その生徒は、古泉(ワル)だった。
「なんでこんなところにいるんだ」
俺の問いかけに、古泉はうっとうしそうに眉をひそめた。
「俺がどこにいようがてめえには関係ねえだろ」
古泉のこんな言葉遣い、ありえなさすぎて泣けてくるぜ。
一番近い屋外テーブルには、缶コーヒーが置かれてあった。ここに座って一人でコーヒーを飲んでいたのかこいつは。物好きな・・・・
―――それが始まりって言うか―――
「!?」
俺の頭にある考えが急に浮かび上がった。
そう、「始まり」である。
この食堂の屋外テーブル、ここは
―――――ひょっとしたら―――――
俺はつまらなさそうな古泉を見た。
「・・・古泉、お前、暇だよな?」
ようやく、「始まり」が分かったかもしれない。
一姫「わたしの姿を見たい方はどーぞ検索なさってくださいな!」
キョン子(初登場だから嬉しそうだな・・)