キョンの非日常   作:囲村すき

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十八話 つながり始めた?分かり始めた?始めに気づけばよかった?

 

 

 

 

 

 

 「なんだか妙な気がするんだ」

 

 わたしは隣に座る、SOS団副団長の古泉(こいずみ)一姫(いつき)にそうつぶやく。

 

 「どうしてです?」

 

 どうやったらそんなスマイル¥0みたいな笑顔をキープできるんだ?

 

 「・・・わたしがこっちに帰ってきた途端、あっちではおかしなことになっちゃってる。わたしは帰ってきて大丈夫だったのか心配・・ってわけでもないんだけど、さ」

 

 一姫は綺麗な栗色の髪をちょっと触り、にこやかにほほ笑んだ。

 

 「あちらのことはあちらでなんとかするでしょう。それよりこちらの問題を解決すべきなのでは?」

 

 一姫の冷静な指摘に私は思わずため息をつく。全くその通りだよ、ちょっと現実逃避してみただけだって。

 

 

 そう、なんとかしなくては。

 

 

 わたしたちはボードゲーム大会の真っ最中だった。周りは子供ばかりだ。

 

 それもそのはず、参加年齢制限が二十歳以下のちんけな大会だからだ。

 

 今、ハルヒコが将棋で対戦中。

 

 相手はなんと十九歳でプロ入りした凄腕棋士だ。

 

 問題なのは、そんな相手にハルヒコが勝ってしま(・・・・・・・)いそうだということだ。(・・・・・・・・・)

 

 素人目にはどういう戦局なのかさっぱりだが、周りのやつらが興奮して騒いでいる。

 

 冷や汗がわたしの背筋を伝う。一姫の笑顔も心なしか強張っている。ような気がしないでもない。

 

 なんとかしなくては・・・・

 

 「絶対に涼宮君に勝たせるわけにはいきませんよ、ここは」

 

 一姫がわたしに囁く。

 

 「手遅れになる前に・・仕方ありません、長門君の力を借りる他ないでしょう」

 

 一姫は立ち上がり、長門の姿を探し始めた。

 

 「もっと初めに気づいていればよかったのですが」

 

 一姫は長門を見つけたのか、人ごみの中へ歩き去った。

 

 「初めに気づいていれば・・・・ねえ」

 

 わたしはまたぼんやりとキョンの世界に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、とうとう長門のしおりの期限日まで来てしまった。もはや俺の脚はほぼ宙に浮いたままの状態である。・・・・いや、本当に浮いているわけじゃないんだが。

 

ちなみに今日から午後の授業がなくなる。学校も年越しの準備に入るってところだな。

 

「・・・・はあ」

 

 

 俺は普通に登校して、普通に授業を受ける。

 

 

 ・・・もうこれでいいのかもしれないな。

 

 実際、俺は諦めかけていた。「始まり」は一向に見つからないし、それどころかこの世界になじみ始めてすらいた。

 

 このままこの世界で、この平穏な世界で、俺は生きていくのか?

 

 そして、それを俺は望むのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつのまにか放課後だった。最近俺は授業のほとんどが上の空だ。テストやばいだろうな、これでは。

 

が、ただ悪戯に意識をトリップさせていたわけじゃない。長門のしおりのことについて考えていたんだ。

 

『プログラム起動条件・始まりを探せ。最終期限・二日後』

 

もう少し分かりやすく教えてくれるわけにはいかなかったのか?長門(男)よ。

 

 だいたい『始まり』という表現が抽象的すぎる。なんの始まりだ?固有名詞じゃねーぞ、おい。

 

 「じゃあね、キョンくん。また明日」

 

 後ろで声がしたので振り返ると、ハルヒが大きなスポーツバッグを抱えて席を立ちあがるところだった。

 

 「ん、ああ。ってハル・・涼宮、その荷物はなんだ?」

 

 「え?部活のだけど?」

 

 ・・・・・部活、だって?

 

「あ、もしかしてわたしがソフト部って今まで知らなかったとか?・・・む。それは少しショックだなぁ」

 

 知るも知らぬも、お前がソフトボールだと?ハルヒは本当に少し落ち込んでいるようだ。俺は慌てて取り繕う。

 

 「い、いや、もちろん知ってたさ。俺が言ったのは、いつもそんな大きなスポーツバッグ持って行ってるのかってことだ」

 

 「うん、まあ最初の頃はちょっと重いって思ってたけどね。もう慣れたわ」

 

 俺は、苦笑しながらその大きなスポーツバッグを上げ下げしているハルヒをじっと見つめた。つやのある長い髪をポニーテールにしてまとめている。

 

 クラスに一人はいるような、美人で性格もいい、普通の女子だ。

 

 「・・・なあ涼宮。おまえ、どうしてソフト部に入ったんだ?」

 

 ハルヒは少し首をかしげる。

 

 「いや、他意はないんだ。ちょっと聞いてみたかっただけだ」

 

 「・・・・・うーん、まあやっぱりあれかしら。小学六年生の頃、家族で初めて野球を見に行ったの。広いスタジアムで、とってもたくさん観客もいて、盛り上がってたわ。その時の・・・なんていうのかな、雰囲気?がすごい好きになってね。ピッチャーが球を投げる一瞬の緊張とか、ヒットがでたときの温度の急上昇とか。応援もすごく楽しかったの」

 

 ハルヒはそれはうれしそうに思い出を語った。

 

 だが、俺はそのエピソードは四月に聞いたことがあった。ハルヒの感想はまるで違ったがね。

 

 「それが始まりって言うか、きっかけって言うか。東中でもソフト部に入ってたのよ」

 

 始まり・・・か。

 

 「じゃあ、また明日ね」

 

 ハルヒは明るく言うと、今度こそ席を立った。

 

 

 あのハルヒが、まともな部活に入るとはね。まあ涼宮(・・)はまともだから当たり前か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今日も文芸部部室に向かって廊下を歩いていた。

 

 「しっかし、これ、どうするかな・・・」

 

 乱雑に畳んだ入部届を取り出す。

 

 と、その時。

 

 強い風が、俺の手から折れ曲がった入部届をもぎ取って、そのまま窓の外へと放り投げた。

 

 「しまった!」

 

 慌てて窓の下を見ると、食堂の屋外テーブルの方へ入部届は吹き飛ばされていた。

 

 あれを持ってないと、なんとなく長門ががっかりするような気がする・・・!

 

 俺はなるべく急いで階段を駆け下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど俺より背の高い男子生徒が、身をかがめて入部届を拾うところだった。

 

 「すまん、それは俺のだ。拾ってくれて・・」

 

 小走りに男子生徒に駆け寄りながら礼を言う。生徒は振り返る・・・・

 

 「・・・てめえは」

 

 「・・・古泉か・・・」

 

 その生徒は、古泉(ワル)だった。

 

 「なんでこんなところにいるんだ」

 

 俺の問いかけに、古泉はうっとうしそうに眉をひそめた。

 

 「俺がどこにいようがてめえには関係ねえだろ」

 

 古泉のこんな言葉遣い、ありえなさすぎて泣けてくるぜ。

 

 一番近い屋外テーブルには、缶コーヒーが置かれてあった。ここに座って一人でコーヒーを飲んでいたのかこいつは。物好きな・・・・

 

 

 ―――それが始まりって言うか―――

 

 

 「!?」

 

 俺の頭にある考えが急に浮かび上がった。

 

 そう、「始まり」である。

 

 この食堂の屋外テーブル、ここは俺が初めて古泉一樹の正体を知った場所だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ―――――ひょっとしたら―――――

 

 俺はつまらなさそうな古泉を見た。

 

 「・・・古泉、お前、暇だよな?」

 

 ようやく、「始まり」が分かったかもしれない。

 

 

 

 

 




一姫「わたしの姿を見たい方はどーぞ検索なさってくださいな!」
キョン子(初登場だから嬉しそうだな・・)
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