キョンの非日常   作:囲村すき

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一話 キョン&キョン

 おいおいおい。いやいやいや。

 

 俺は驚いたついでに、ベッドから転げ落ちてしまった。うわああああ。

 

 女の子はジト目でそんな俺を眺めた。

 

「えーっと…悪いけど…あんたは誰かな?」

 

 いや、それは俺のセリフだから。ほんと。

 

「いや、わたしのセリフだから」

 

「いやいや、俺のセリフだから」

 

「いやいやいや「ねえっ!キョン君たち!なにやってんの!」

 

 俺と女の子の会話を見かねて妹が叫んだ。

 

 女の子はまじまじと妹を見つめる。

 

「おい…髪、急に伸びたんじゃないか?…というか、結んでるのかそれ…というか、それじゃまるで…妹じゃないか?」

 

 何を言ってやがるこいつは。妹は妹であり妹でしかない。妹は妹だし、はさみを好むという点も一般的な妹の特徴の一つだろう。というか。

 

「なあ、妹よ…こいつを見て何も思わないのか?」

 

「何言ってるのーキョン君、昨日から家にいるでしょー。おかーさんが言ってたでしょー、遠い親戚のー」

 

 遠い、親戚。か。女の子は目を白黒させている。

 

 やっと頭が働いてきた気がする。

 

「ねー、キョン子ちゃん!」

 

「キョン子ちゃん!?」

 

 俺が叫ぶと、女の子は面倒くさそうに寝癖の付いた頭をかいた。

 

「まあ…そう呼ばれているけど…だからあんたは誰だ」

 

「俺?俺は「キョン君だよーキョン子ちゃんと、キョン君―!」

 

 妹は何がうれしいのか満面の笑みを浮かべて、言った。

 

 ふん、ようやく事態がつかめてきた。俺にはこの手の話には耐性がある。意味の分からない世界に飛び込んた系の話には。

 

「おい妹よ、とりあえず俺はこいつと話があるんだ。ちょっと出て行ってくれ」

 

 えーひどいーとかなんとかいろいろ言ったが、俺は妹をぐいぐい外に押しやった。

 

 そしてキョン子と呼ばれた女の子に向き直る。女の子は床に置かれた大きなボストンバックを開いていた。

 

「これ…わたしの?…全部ある」

 

「それはお前の荷物みたいだな、どうやら」

 

「でも…なんで?」

 

「とりあえず昨日の記憶はあるか」

 

「昨日は普通に日曜日だったから…普通に日曜を過ごして…寝た」

 

「んで、起きたら俺の部屋にいたってか」

 

「いや、ここわたしの部屋」

 

 やつは言い張った。なんだかどうも話がつかめてきたぞ。

 

「分かった、きっとまたハルヒだ」

 

「ハルヒ?って?ハルヒコのこと?」

 

「だれだそいつは…」

 

 俺の頭にひらめくものがあった。

 

「…とりあえず学校に行くぞ。学生は勉学に勤しまねばならん。お前、制服は…」

 

 俺のブレザーがかかっているフックに、さらにセーラー服がかかっていた。

 

「…あるみたいだな、やれやれ…」

 

 こんな分かりやすいラブコメなんて、俺は期待したこともなければ望んだこともなかったんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、解決せねばならない課題は山積みで、しかも何一つ解決していなかったが、なにはともあれ俺たちは学校へ行った。

 

 俺たちは、二人横に並んで北高までの道のりを歩いた。

 

 どうやらお前は異世界に飛ばされたようだ、と口火を切った。

 

「そりゃ見りゃわかる世界が全てだろうさ」

 

 キョン子(と呼ぶことにする)はぶすっとした様子で言う。今日は長い髪をストレートにたらしていたが、いつもはポニーテールに縛っているのだという。なんてことだ、ぜひ一度見てみたい。いやいや、そうじゃなくて。

 

「それで、お前の世界じゃこっちの世界と性別が逆転している…どうだ」

 

 男は女に、女は男に。性別不明は性別不明に。

 

 キョン子はうなずく。

 

「わたしには弟が、いる」

 

先程の妹を見た時の不可解な言動はそのためだったのか。

 

「こっちじゃ妹だ」

 

「さっきのハルヒって言うのは…逆転した涼宮ハルヒコのことか?」

 

「さあ。お前の世界じゃハルヒはハルヒコなのか…」

 

 それもまたすごい気がする。見てみたいのか、見て見たくないのか…。

 

 北高名物、上り坂に到達した。周りには北高生はいない。俺たちはもう普通に遅刻だった。先程のやり取りが響いた。岡部に怒られるかもしれんが、岡部よ、世界侵略されたこちらの気持ちを慮れ。

 

「なら、わたしは」

 

「俺の逆転、だと思うぜ」

 

「…」

 

 なんだその不服そうな目つきは。おい。

 

 

 

 

 

 

 

 学校につくと、キョン子は玄関で待ち伏せていた生徒指導の先生に確保され、連行されていった。先生の話を聞く限り、どうやらキョン子は転校生扱いになっているらしい。<<そう言う設定>>らしい。どのみちハルヒがほっとくわけないってか。

 

 そして当然のように、キョン子はウチのクラスに来た。これは予想済みである。自分の所属するクラスに転校生がやってくるのは生まれて初めてのことだったが、こんなにも面白くない生まれて初めてが来るとは。

 

 だるそうな顔で、キョン子は俺のクラスで自己紹介した。ぱらぱらと拍手が起こる。

 

「ねえ、キョン。あんたの親戚なんだって?面白そうじゃない」

 

 一体何が面白いのか気になるところだ。いや、教えてもらわなくてもいい。ほんとに。

 

 涼宮ハルヒは相も変わらず俺の後ろの席でふんぞり返っていた。

 

「なんだよ、まさか」

 

 と言いつつ俺はこれも予想済み。というか、最早規定事項だ。ハルヒはスマイル0円のスマイルを浮かべ、

 

「もっちろん!SOS団に入団してもらうわっ!転校生だしっ!」

 

 あいつの話じゃもう入部していてもおかしくないがな。俺はただただ、はやく昼休みが来ないかとそればかり気にしていた。

 

 キョン子は、なんとたまたま空いていた俺の隣の席に座った。

 

「ねえっ!あんたSOS団に入部しなさい!」

 

勧誘ではなく命令なのがハルヒのハルヒたる所以だった。

 

「?」

 

キョン子の目は、こいつは誰だと訴えている。

 

「ああ、涼宮ハルヒだ。さっき言ったろ」

 

「あたしはSOS団の団長よ!団長直々に言ってんだから、もちろん入部するわよね」

 

 何を根拠に言っているのか、本当に疑問だ。

 

 キョン子の目は空中をさまよい、何度かハルヒと俺を見ると、力無くため息をついた。

 

 俺は気づいちまった。あいつのため息のタイミングや長さ、全て俺にそっくりだったということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が全く頭に入らないまま(当然だろ?)、昼休みになった。よし。決起の時だ。

 

「おい、ちょっといいか」

 

 俺はキョン子の腕をつかんで素早く教室を飛び出した。ハルヒは食堂に行くべくそれより早く飛び出したのだが。

 

「ちょ、どこ行くんだよ!」

 

「お前も知ってるだろ、自称超能力者とかあるいはヒューマノイド何とやらのところへだ」

 

「この世界にもやっぱりいるのか」

 

「あいつらなら何か知ってるはずだ」

 

「たしかにそーだな。…ちょっと会うのが楽しみだ」

 

 一年九組の扉をがらりとあけると、目の前に古泉の気の抜けた笑顔が現れる。話が速くて助かる。できればこのままの加速を続けて数分後には終わらせたいね、俺は。

 

 同時にそうはならないとも確信しているけれど。

 

「おや、僕もちょうどあなたに会いたい気がしていたのですよ」

 

「古泉、話がある。早く部室に来い」

 

「お、お前が古泉か…イケメンだな。確かに古泉ならイケメンでもおかしくないけど」

 

 キョン子がうんうんとうなずく。古泉は分かってるのか分かってないのかよく分からない顔をした。まあ、結局分かってないんだろうな、何も。

 

「承知しましたが、そちらのお嬢さんはどちら様です?」

 

「お前にお嬢さんとか言われたくねえっ!」

 

 つい俺は自分が言われたかのように返事をしてしまった。

 

 

 

 

 

 予想通り、部室には本を読んでいる長門がいた。

 

「…来ると思った」

 

 なら来てくれよ。

 

 キョン子が俺の制服の袖をつかんで、言った。

 

「なあ、ひょっとしたらこれが長門?」

 

「ああそうだよ、長門だ」

 

 俺はできれば朝比奈さんもいてほしかったが、まあ二人がそろえばいい。二人に事情を全て説明した。

 

「なるほど…ならばこのお嬢さんはキョン子さんとお呼びしなければ」

 

 それは真っ先に言うことなのかどうなのか、甚だ疑問だ。

 

「質問だ、やっぱりこれもハルヒがしでかしたことか」

 

「そう」

 

「一体全体奴は何を願ったんだ?何か不満があったのか?」

 

「さあ、気づいているとしたらそれはあなたなのではないかと思っていたのですが。どうやら違ったようですね」

 

 古泉は困ったような顔をして、笑った。

 

「なに?」

 

 そう言いつつ、俺の脳裏にある光景がフラッシュバックしてきた。

 

 先週の金曜日の放課後だ・・・・・・

 

 

 

 

 

「おい、キョン、今日俺んちにすっげーおもしれ―ゲームあんだけどよ…ってかまあ今日もどうせ涼宮と部活なんだろ?」

 

 俺のアホ友、谷口が俺に話しかけてきた。俺はなにより背中に突き刺さる冷ややかな視線に耐えきれそうになかったので、うなずいた。

 

 谷口は大げさにため息をついた。

 

「あーあ。お前もとうとう涼宮の美貌の虜になっちまったみたいだな、この面食い」

 

「はあ?俺がいつ面食いになった。この面食い妖怪」

 

「んだそりゃ。そう言うならお前、涼宮がもし男だったらそれでもその怪しげな部活してたかよ!?」

 

「ハルヒが男だったら?ふむ、俺が女だったとしてもあいつはきっと俺を誘ったに違いないだろうよ。俺のこの背筋の寒気がそう告げている」

 

 ばっと俺が後ろを振り返ると、ハルヒはなにやらじいーっと考え込んでいた。

 

 また良からぬことを思いつかなければいいが、と俺は思った。

 

 

 

 

 

…ということがあった、そうだった。思い出した。すっかり忘れてたぜ、そんなこと。

 

「その時に涼宮さんが女のあなたを見てみたいと思っていたとは考えられませんか?」

 

 なんてこった。恐る恐るもう一人の俺の顔をうかがうと、あいつは俺をジト目でにらみつけていた。

 

「おい、お前のせいじゃないか!こっちはどんなに迷惑か!」

 

「いや、本当にすまん、もう謝るしかないぜ、本当すまん」

 

 キョン子はぶつぶつと文句を言い続けている。

 

「まったく、とんだ目にあったよ。ベッドにはもう一人のわたしがいるし、弟は妹になってるし、古泉は男になってなんか気持ち悪いし」

 

 古泉は苦笑するしかないじゃん?みたいな感じで苦笑していた。

 

「失礼ですが、あちらの世界では僕はどのような存在なのでしょう?」

 

 キョン子は顔を上げ、そしてためいきをついた。

 

「…めっちゃ美人。巨乳だし。閉鎖空間でばんばん戦える」

 

「それは…嬉しいですね」

 

「変態だけど」

 

「え」

 

 ふと気になって、俺は尋ねた。

 

「なあ、ハルヒと長門はどうなんだよ」

 

「長門はあんまり変わんない。隅っこで本読んでる宇宙人」

 

「あ、そう、ハルヒはどうなんだ?」

 

「ハルヒ?あんたの後ろにいたのが涼宮ハルヒ?こっちじゃ涼宮ハルヒコ。いっつもバカ考えてるバカ」

 

「パラレルワールドでは本質的なものは何も変わらない」

 

 長門がぼそっと口をはさむ。

 

 キョン子がそれを聞いて何か思いついたのか、口を開く。

 

「考えたんだけど、こっちの世界ではわたしは異世界人ということになるんだろうか?」

 

「そういうことじゃないですかね。涼宮さんは我々だけでは飽き足らず、とうとう異世界人も手に入れてしまったようですね」

 

 やれやれ、だ。それしか言いようがないだろ?

 

 

 

 

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