キョンの非日常   作:囲村すき

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二十話 過去旅行・織姫彦星SOS

 

 

 

 暑い。

 

 最初に感じたものがそれだった。

 

 暗い。

 

 次に認識したものがそれ。

 

 どこだ。

 

 最後に思ったのがそれだ。

 

 いや、最後の疑問には比較的早く答えが出た。俺の目の前にあるのは机の上に置かれた古いパソコンで、それが指し示す答えは

 

 「部室か」

 

 しかし暗い。照明はどうなっていやがる。

 

 じゃねえ、夜なんだ。

 

 窓の外を覗くと、申し訳程度に光る星が見えた。

 

 それにしても暑い。まるで夏の気温だ。

 

 まてよ・・・まるで夏・・・?

 

 もう一つ疑問に思わなければならない事柄が存在したぜ。

 

 いつ、なんだ。

 

 

 夜の校舎を抜け出した俺は、最寄りのコンビニエンスストアに入っていった。

 

 真っ先にレジの横の新聞を手に取り、日付を確かめた。

 

 「・・・・・!・・・」

 

 今日は、というよりこの時間軸は、三年前の七月七日。

 

 つまり七夕だった。

 

 ・・・・そういうことか。

 

 三年前の七夕には一度来たことがある。今年の七夕、俺は朝比奈さんに連れられてここにやってきた。

 

 俺はそれをまるで昨日のことのように鮮明に覚えている・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

~今年の七夕・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 『ええと、起きました?』

 

 『?朝比奈さん・・・?ここは・・・?ベンチ・・・どうして』

 

 『無事時間跳躍ができました。今は三年前の七夕です。夜の九時くらい』

 

 『マジすか』

 

 『マジなはずです』

 

 『へえ・・・それで朝比奈さん、これから俺はなにをすればいいんです?』

 

 『・・・・』

 

 『朝比奈さん?』

 

 『・・くう・・・・』

 

 『寝てる・・?・・』

 

『その子には眠ってもらいました』

 

 『??朝比奈さん・・・?このあいだの大人の(・・・)朝比奈さんじゃないですか』

 

 『また会えましたね。キョンくん』

 

 『・・・はあ。そうですね』

 

 『ここまであなたを導くのがこの子の役目で、ここからあなたを導くのはわたしの役目です』

 

 『・・・で、俺は何のために三年前に?この朝比奈さんでさえよくわかっていなかったのですが』

 

 『これからあなたにここをまっすぐ行ったところにある中学校に行ってもらいます。そこに一人の女の子がいますから、その子を助けてあげてください』

 

 『・・・・・・はあ。わかりました。わかりましたけど・・いったい何の意味が?』

 

 『今はまだ言えません。今はね』

 

 てなわけでこの時俺は朝比奈さん(大)の言うとおりに朝比奈さん(小)をおぶり、東中まで歩いて行った。

 

 『・・・おい、なにしてるんだ』

 

 『見てわからないの?忍び込んでるの』

 

 『不法侵入だ』

 

 『だからなに?あんた暇なの?なら手伝いなさいよ』

 

 『ったくお前は・・・・それよりその袋はなんだ』

 

 『石灰よ。これで線を引くの。あたしの指示通りにひいてね』

 

 『ほう、頑張れよ』

 

 『やって』

 

 『誰がだ』

 

 『あんたがよ』

 

 『・・・・・予言しておいてやるが、お前は三年後もその物言いは直らねーよ、ハルヒ』

 

 『え?何か言った?』

 

 『・・・ふん、いいや、なにも』

 

 こうしてその時の俺は中学生のハルヒにこき使われ、グラウンドに妙な模様を描いた。

 

 そしてそのあと、TPDD(タイムマシンのようなもの)をなくして慌てた朝比奈さんと二人で長門のマンションへ向かった。あいつなら何とかしてくれると思ってな。

 

 『・・・それで?この布団はなんだ、長門』

 

 『寝て』

 

 『朝比奈さんと、か?』

 

 『ひいっ!?』

 

 『寝るだけ』

 

 『いや、そのつもりだが・・・それで本当に未来に戻れるのか?』

 

 『そう』

 

 『・・・ふーん・・・』

 

 

 

 

 ・・・・・・それで俺は長門のマンションの一室で朝比奈さんと眠りにつき、そのまま三年間寝過ごすことによって無事俺たちはもとの時間帯に戻れたとさ。はい、回想終了。

 

 

 そうして前回の過去旅行じゃ意味が分からないまま翻弄された俺だが、今回なぜ俺がここに連れてこられたのか分かる。

 

いる。

 

 ここには、いる。

 

 朝比奈さんと、朝比奈さんに連れられた俺と、朝比奈さん(大)と、それに

 

 「三年前の長門・・・」

 

 俺はコンビニを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キョン子が俺のベッドで寝ていて、キョン子が俺の逆転の存在だと知った時はなかなか衝撃的だったが、「俺」そのまんまの存在を遠くから発見したのも衝撃的だった。

 

 コンビニから飛び出した俺は、記憶を頼りに公園へと急いだ。そこのベンチでは初めての時間旅行を体験した「俺」と朝比奈さんが座って話をしているはずだったからだ。

 

 茂みに隠れて様子をうかがっていると、唐突に朝比奈さんが眠ってしまい、そして物陰から朝比奈さん(大)がご登場なさった。

 

 しばらく二人は会話をしていたが、やがて「俺」は俺の記憶通りに朝比奈さんをおぶって公園から出て行った。

 

 なんとなく「俺」に見つかってはいけない気がして俺はずっと隠れていたが、それで合ってるよな?俺が「俺」の立場だったときはもう一人の俺なんて全く見なかったからな。辻褄は合わせておいた方がいいだろう。

 

 朝比奈さん(大)は「俺」を見送っていたが、やがてくるりと後ろを振り返ると歩き出した。

 

 「朝比奈さん!」

 

 朝比奈さんに呼びかける頻度が最近高まっているのは気のせいだろうか。

 

 朝比奈さん(大)は振り向くと、俺の姿を確認してふっと笑みをこぼした。

 

 「こんばんはキョンくん。あなたとは久しぶりですね」

 

 流石朝比奈さんだ。事情を理解しておられるようだ。

 

 餅は餅屋に。未来のことは未来人に頼るのが一番だ。

 

「・・あなたが俺を見ても動じないってことは、俺が巻き込まれたこの騒動を解決してくれるってことですか」

 

「ええ。でもわたしだけの力ではどうしようもないの。それにはあなたと・・・・・・あの人が必要なんです」

 

 

 数分後、俺と朝比奈さんは長門のマンションの入り口に立っていた。

 

 ぴんぽーん。

 

 『・・・・・・』

 

 「あー、長門か?俺だ。朝比奈さん大人バージョンもいる」

 

 『・・・・・・』

 

 「えーと、三年後からやってきたんだが・・・すまん、また助けを借りる必要があるみたいだ」

 

 『・・そう』

 

 がちゃ、とロックの外れる音がして、マンションの扉があいた。

 

 エレベーターで七階へ向かい、708号室に直進する。インターホンを再び押すと、無言で長門は俺たちを部屋に入れた。

 

 ・・・相変わらず殺風景な部屋だ。

 

 「えーとだな・・・何回もすまないが、とりあえず話を聞いてくれるか?」

 

 それから俺はこれまでのいきさつをかいつまんで長門に話した。「俺」は七夕のことまでこの長門に話したはずだから、俺はそこから先のことを話せばいい。

 

 「それで一昨日、目を覚ましたら俺の世界が急変しちまっててだな。そこから脱出できたのはお前と・・その、もうひとりのお前(・・・・・・・・)のお蔭なんだ」

 

 ずっとしまってあった例のしおりを長門に差し出す。長門はそれを受け取ってじっくり見つめた。

 

 朝比奈さん(大)はびくびくしながら話し出した。

 

「長門さん、それができるのはあなただけなんです。どうか力を貸してください」

 

 頼むって長門。お前がいつも最終兵器なんだ。

 

 長門は黒い瞳をゆっくりと閉じ、「確認する」とぽつり。

 

 やがて目を開けると、つぶやくように話し出した。

 

 「同期不能。その時代にアクセスできない。わたしのリクエスト・・・・なんたらかんたら(俺が聞き取れなかっただけ)・・・・・・」

 

 何を言っているのかさっぱりだが、まさか「できない」なんて言うつもりじゃ

 

 「再修正は、可能」

 

 よかった。

 

 「その時空改変者は、涼宮ハルヒの能力を利用し、世界を部分的に変化させた」

 

 ふむ?その変化された部分というのが変わっちまったSOS団のことか?

 

 その時空改変者(アホ)のせいで世界はど偉いことになったんだな。

 

 「どうやって元の世界に戻せるんだ?」

 

 いつのものことながらよく分からない説明だったが、ようはその時空改変者が時空を改変する一歩手前にその時間帯に行き、その改変を正せばいいんだと。大事なのは、一度そいつに時空を改変させるって言うことらしい。そうじゃないと過去未来の辻褄が合わない・・・ってわけか?お前もついてきてくれるんだよな?

 

 「わたしは行けない」

 

 長門は無表情にふすまの部屋を指さす。

 

 「あなたたちの異時間同位体を放置できない」

 

 そうか、すっかり忘れていた。あの部屋には、三年間眠りっぱなしになる運命の俺と朝比奈さん(小)がいるんだった。部屋ごと時間を止めるようなトンデモ技を披露しているぐらいだから、やっぱり長門が目を離せないのも無理はないのかも。

 

 「だが、でもよ、それなら」

 

 「心配ない」

 

 長門は掛けていた眼鏡をはずすと、両手で眼鏡を支えた。

 

 眼鏡が浮き上がってぐにゃぐにゃと折れ曲がり始めると、なんと拳銃に変形した。

 

 「時空改変者に再修正プログラムを注入する」

 

 「こんな物騒なもんでか」

 

唖然とする俺と朝比奈さん(大)を交互に見つめながら、長門はつぶやいた。

 

 「手を。目標の座標を伝える」

 

 「あ、はい」

 

 朝比奈さん(大)がおずおずと差し出した手に長門はちょんと手を触れると、すぐに引っ込めた。

 

 「わかりました。ここに行けば時空改変者に会えるのね」

 

 え?もう伝え終わったのか?

 

 それから長門は俺と朝比奈さん(大)に「対抗処置を施す」と言って俺たちの手を噛んだ。ナントヤラフィールドやらを展開させたらしい。

 

 実のところ、もう俺の頭は長門の口から飛び出すわけのわからないワードではちきれそうになっていてな。もうこれ以上は何も入らないかもな。

 

 「じゃあ、な。ありがとよ、長門。ほんとに助かったぜ」

 

 「・・・・」

 

 「ありがとうございました、長門さん。キョンくん、行きましょう」

 

 朝比奈さん(大)は手を差しだし、俺はそれを恭しく握った。

 

 ちょっと待てよ。

 

 「それで誰なんだよ、その時空改変者ってのは。ハルヒじゃないのか?」

 

 長門はすぐには答えなかった。宇宙の闇のような色の目をまっすぐに俺に向け、重々しく口を開き、

 

 そして犯人(そいつ)の名前を語った。

 

 

 

 

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