大変長らくお待たせしました、二章「キョンの不機嫌」です。
今章は五話限りの短編となっております。どうぞご覧ください。
Ⅰ 天邪鬼の不機嫌が
天邪鬼。とはなにか御存じだろうか。「アマノジャキ」なんて読んだ暁には古泉が爆笑するぜ。「アマノジャク」だ。天ノ弱なんて間違っても書かない。
その天邪鬼の意味だが、どうやら素直でなく、ひねくれた性格の人のことを指すらしい。人を鬼呼ばわりなんてまったくひどい話だ。
いや、別にこの話を持ち出したのはなにも、中学時代の友人に偶然出会って立ち話をしていたところアハハやっぱり相変わらずの天邪鬼だねなんて言われたわけでは勿論、ない。
俺の周りの天邪鬼と言えばやはりアイツだろうか。俺の後ろの席の例のアイツだ。アイツは全くもってひねくれた性格をしているし、一筋縄ではいかないって点では天邪鬼と言うより天の邪悪ぐらいのレベルである。いいや言い過ぎなんかじゃない。
アイツの話をしよう。
いやまったく俺を取り巻く非日常は終わりそうにない。いや、俺が望んだことでもあるのだが。ちょっとスローダウンしてくれてもいいんだぜと神様に拝みたいとこだがそもそもその神様ってのがその非日常の原因なんだから世界ってのは残酷だ。美しいなんて思ったことはないがな。
「なんだか今日は饒舌ですね。なにかいいことでもありましたか」
ねーよ。
しかしあれだ、どうにも今日はいつものテンションに戻せないようだ。自分のテンションが計り知れないなんて恐ろしいぜ。何を言っているか分からないだと?安心しろ俺も分からない。
…いや、ホントに。
Ⅰ 天邪鬼の不機嫌が
「「不機嫌じゃねーよ」」
俺とキョン子の声が重なった。
ようやく少しは春の兆しが見え始めたような、そんな気候の日の午前中だった。冬はもう終わったと言っていいだろう。俺たちは駅前で駄弁っていた。
太陽光に顔の半分を照らされた古泉が、爽やかなにやけ顔を浮かべる。
「そうでしょうか?僕の目には、とてもではありませんが上機嫌には見えないのですが。もしあなた方が自分は上機嫌だと言い張られるのでしたら、僕の目はほぼ間違いなくただの節穴ということになります」
「安心しろ、お前の目は節穴だ。もとからな」
古泉が、やれやれと言ったように肩をすくめた。
不機嫌じゃねーが、別に俺の表情の認識の仕方なんざ百人いれば百通りあるはずだから、
「考え方がひねくれすぎだって」
俺の隣でベンチに座り込んでいたキョン子が俺に突っ込む。こんなのひねくれのうちに入らない。いや、たとえひねくれていたとしてもひねくれと天邪鬼の差ってのは目に見えて歴然としてるからな、俺は天邪鬼なんかじゃないぞ。小学校で教わらなかったのか?
「教わってない」
「僕もですね」
古泉が少し不安げに言った。安心しろ、お前には聞いてない。もとからな。
「あの~お茶です、どうぞ」
見た目麗しゅう可憐な上級生、朝比奈さんが湯呑を俺たちに手渡してくれる。
「えっと、なにかあったんですかぁ?」
いつも部室ではメイド服が様になっている朝比奈さんは、可愛らしいワンピースを着ている。
いや、ってか外出先にまで湯呑とポット持ってくるあなたの方がどうかしたんですか?
「・・・
キョン子がベンチの上で体育座りをしたまま呆れたように言う。いや、あのだな、本日やつはスカートじゃなくショートパンツをはいてきていたから
「・・・・?ああ、そうでした・・っけ・?・・・」
朝比奈さんは一応そんなことを言うものの、分かってなさそうな口ぶりでさらにきょろきょろする。隅っこで分厚い海外SFもののハードカバーを立ちながら読む長門に焦点を合わせるものの、長門は全くこちらに興味を示さなかった。
ハルヒが起こす超常現象にこの一年間悩まされ続けた俺は、もう超常現象の原因は考えないことにしている。何故なら、それは原因なんて大層な言葉じゃ表されない。
いいか、俺は今不機嫌じゃないが、同じことを二回も三回も繰り返す気分じゃないんだ、だから何が起こったのか一度しか言わない。良いな、言うぞ?準備は良いか?
「しつこい」というキョン子のツッコミはスルーして―――
――――と、その前に、満面の笑みを浮かべて俺達のもとに走ってきたのは、我らが団長、涼宮ハルヒ。奴が遅れてくるなんて誰が想像した?
・・・・・・・・と、もう一人だ。
涼宮ハルヒの横に立っている男――もうひとりの団長―――涼宮ハルヒの分身―――つまりは・・・
つまりは・・・・そいつが、俺の世界にやってきた。
おい、拍手はいらねーんだ。
話は二日前に戻る。
春休みのとあるのどかな昼下がり、俺やキョン子、朝比奈さん、古泉、長門は突然ハルヒに部室に呼び出された。
春休みといっても我らが団長さんは、我が団に休みは不要だ宣言を撃ち出しやがったので俺たちは毎日この部室に来てたんだがな。時間指定は初めてだったもんで驚いた。いや、驚いちゃいないな、俺がしたことと言えば溜息をつきキョン子と目を合わせて首を振り、そしてこれから俺達にふりかかるであろう現象についてある程度覚悟を決めてきたことぐらいである。
「わりとすることがあったのですね」
爽やかスマイルを振りまき古泉がそう返すものだから、俺はこいつに鶴屋さんから習った絞め技を披露してやった。
「苦しいですよ」
顔をほんの少し強張らせながらも笑みを絶やさず、古泉は言う。
「ならちったあ苦しそうな表情つくってみやがれ」
「分かりました、少々お待ちを・・・・」
「うん、分かった。もういい」
やがて集合時間を三十分程遅れてハルヒがやってきた。妙な笑顔を見せている。・・・あいにくと俺はこの一年間でこの笑顔の正体を確かに知っている。
「なんだその笑いは。なにを企んでるんだ」
つまりそう言うこった。F・ベーコンの経験論とはちょっと違うのか分からんが。
ただ、俺はこの時とても嫌な予感がしていた。今から思えば、あれは予感じゃなく前兆だったんだな。
ツバメが低く飛ぶと雨が降り、蜘蛛が逃げ出すとバジリスクがやってきて、涼宮ハルヒがこんな笑顔を浮かべると決まって俺たちが振り回される。
「んっふふ~。なんにも企んでないわよ?けど・・・びっくりはするでしょうね・・・入ってきていいわよ!」
ハルヒが扉の向こう側にいる誰かを手招きする。
「よぉ!はじめましてだな!俺は――」
意気揚々とその人物が顔を見せようとした瞬間。
その瞬間、部室に爆発音が響いたと思うと、煙幕があっという間に視界を覆い、俺達は何も見えなくなってしまった。
「あわわわーーー!?」
「え?なに!?襲撃?」
「ほう?これは・・・」
「うおっ・・なんだ?」
唖然とする俺だったが、シャツの裾を引っ張られ思わず飛び上がった。しかもものすごい力だ。ぐいぐい引っ張られた俺は、いつしか部室から外に出ていた。た、助けてくれ誰か!テロだ!ナチだ!連行だ!
「・・・ちょ・・・なに!?」
キョン子の声がする。
「誰だ!?離せよっ!!」
俺はこれ以上引っ張られるのをなんとしてでも防ごうとし―――そこで当人の顔を目撃する。
俺を引っ張っていたのは長門だった。
「こっち」
それだけ言うと、曇りなき真っ直ぐな眼差しで俺を見据える。いや、だからな長門。俺たちはお前と違ってそれだけで理解できないんだ。馬鹿で愚鈍な俺にも何が何だか説明してくれるか?
俺がそんなような趣旨のことを目の前の小柄な少女に話そうとしたところ、新たに視界が真っ白に染まり――――
気づくと、長門の家だった。
・・・・要領を得ない説明で悪かったな。しかし事実なんだから仕方がない。事実に勝る妄言はないとも言うがね。いや、とにかく、俺にこれ以上の説明の
しょうがないだろう?俺は俺だけなんだから、つまり俺からの視点でしか物事を捉えることができないんだ。何を今更、と言うか?・・・何を今更、だな。笑っていいぞ。
長門の家には、俺と、キョン子と、あと部室に入ってきた男子生徒と、あと長門がいた。長門以外、皆咳き込んだり頭を振ったりしている。
「な、なにがどうなってんだよ・・・・って!・・・ハ、ハルヒコ・・・っ!?」
男子生徒の姿を認めたキョン子の眠そうなまぶたが持ち上がる。・・・ハルヒコ?どっかで聞いたことのある・・・・
「おおっ!キョン子っ!」
ハルヒコ、と呼ばれたその男子生徒が嬉しそうに言う。が、その後ですぐに顔をしかめ、つぶやいた。
「・・・なんでここにいるんだ?」
キョン子の返答は単純明快。
「わたしのセリフだ」
キョンのキャラが壊れているようにも思いますが仕様です(笑)。