キョンの非日常   作:囲村すき

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五話目です!


Ⅴ ひねくれ者のおあとがよろしいようで

 

 

 

 

「なにデートしてんのよ!」「なにデートしてやがんだ!」

 

 大広場から我らSOS団は遠ざかり、俺とハルヒが同時に言った言葉だった。

 

「デートじゃねーよ調査だよ!」「デートじゃねーよ監視だよ!」

 

 キョン子とハルヒコが同時に言う。古泉がクックと忍び笑いをする。

 

 ハルヒがいらだつように前髪をかきあげ、俺をにらみつけた。

 

「あんた、膝枕してもらいたいからってわざと気絶したでしょ!」

 

「言いがかりにも程があるぞおい。どうやってわざと気絶するんだよ」

 

今度はハルヒコが唇を尖がらせてキョン子に言う。

 

「いつのまにキョンとそんなに仲良くなってんだよー」

 

「仲良くなってない!ハルヒコこそなんなんだよ一般ピーポーの振りしてデートに勤しむとは!」

 

「まあまあ落ち着いて。犬も食わないケンカは愛すべきものではありますがここは道のど真ん中ですよ」

 

 古泉の言うことに耳を貸すのもしゃくだったが、確かに一理あるので俺たち(俺とハルヒコ以外)は昼飯を食べるために近くのファーストフード店に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、せっかく優勝したのに・・・・なんか弾みであんなこと言っちゃわなければよかったわ」

 

 フライドポテトの袋片手に、嘆息するハルヒ。ホントだぜ。俺はてっきり不思議スポットを提供しろーなんて言うつもりだと思ってたんだが。

 

「そういうつもりだったんだよ!」

 

 ハルヒコが何故かハルヒの代わりに言う。

 

「でもなんか流れ的に・・・・もー。ダブルキョンのせいだわ・・・・・*ざまくらって・・・***のよ・・・・ってか・・・疲れたわ・・・・・」

 

 勝ったのに珍しくテンションが低いハルヒだ。小声だし。何故だ?

 

「俺・・・しばらくは和菓子は見たくねえ・・・ってか・・・夢に出てくる・・・」

 

 ハルヒコも机に突っ伏す。

 

 それは俺もちょっと同感だな。うっ!・・・は、吐きそうになった・・・・。

 

 確かに俺も疲れた。俺は一体全体なにをやっていたんだ?高校一年生の春休みはもう二度と戻ってこないと言うのに、こんな馬鹿げたことに時間を費やして・・・・結果俺はまんじゅうがただただ嫌いになっただけじゃねえか。

 

 

 珍しく、SOS団に長い沈黙が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、いつもあるべきものがそこになくて落ち着かないのとたぶん同じように、ハルヒがテンションが低いと落ち着かない。なんとなく気づまりのような感じがする。

 

 ハルヒはそのまま解散を告げたもんだから、俺達は気詰まりな雰囲気のまま散ることになった。

 

「これをどうぞ」

 

 去り際に古泉が俺にメモを手渡す。何か書いてやがるなと思ったらこれか。

 

「実はですね、神人が出かかっているのです」

 

 こんなテンションが低いんじゃ、ま、そうなんじゃないかとも思ってたがな。

 

「あなたが涼宮さんに言うべきことを書きました。恐らくこれをあなたが涼宮さんに言えば、大概うまくいくはずです。神人も引っ込むはずだと」

 

 俺が胡散臭げな目つきで古泉を見ると、古泉はハンサム笑顔を浮かべ、片手を挙げて去っていった。

 

 言うべきこと(・・・・・・)だって?

 

 俺はもらった紙切れををちらっと見て―――その内容のあまりの悪さにまた少し気持ち悪くなって―――くしゃっと丸めて、尻ポケットに押し込んだ。そして、一人で帰ろうとするハルヒの後ろ姿を追いかける。

 

 

 

                     ******

 

 

 

 

 一方わたしはハルヒコとぶらぶら商店街の南のほうに歩いて行った。特に用事があるわけでもないけど、なんとなくだ。

 

「キョン子」

 

「なにさ?」

 

「お前さ、楽しそーだな。この世界」

 

 そう見えるのか?うーん、確かにまあまあこの世界は、居心地がいい。鏡の裏側だとはちょっと信じられないぐらいに。

 

 ハルヒコは面白そうに笑った。

 

「鏡の裏側、かあ」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 ハルヒコはなにを考えているのか、珍しく黙っていた。

 

「・・・・・俺、かえろっかな」

 

「・・あ、そう?」

 

 意外だ。できるだけ長く居座るのかとてっきり思ってたけど。

 

「おう。なんとなくそれがいいような気がしてきた」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「じゃあさ―――」

 

「でもお前は」

 

 ハルヒコは、ためらいがちに言ったわたしの言葉を遮って言った。

 

「でもお前はここに残れ」

 

「え?なんで?」

 

「なんとなくそれがいいような気がするからだ」

 

 なぜかドヤ顔で話す、わたしの世界の団長。

 

「・・・・・その程度の言葉でドヤ顔すんなよ」

 

「そして定期報告をよこせ。面白いことがあったらすぐに知らせろよな」

 

 びしっと人差し指をわたしに突き付け、笑顔で言う、ハルヒの逆さま。

 

「・・・・・そう。じゃあ、また」

 

 そいつに、わたしは結局何にも言わないまま。

 

「おう!じゃあなキョン子!こっちの世界は任せろよ!」

 

 そして、そいつもわたしに何も言わないまま、商店街のカフェテラスの窓に飛び込んだ。

 

 ―――――もし、わたしがもう少し臆病じゃなかったら。あるいはあいつがもう少し勇気が出たのなら。

 

 わたしはわざとおどけなかっただろうし。あいつはわたしの言葉を遮らなかっただろうな。

 

「・・・まあ、別にいっか」

 

 別に鏡の裏にはいつだって行ける。

 

 今のわたしたちには、「定期報告」ぐらいの言葉で十分だ。

 

 

 

 

                      ******

 

 

 

 

 

 足音が近づくのを聞いたのか、ハルヒはちょっと振り返って俺を見、唇を尖がらせてそっぽを向いた。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 俺は黙ってハルヒの左側を歩く。

 

 ハルヒも黙って俺の右側を歩く。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 こいつ、意地でも自分から話しかけないつもりだ。まったく頑固で素直じゃない―――そりゃ俺もか。

 

「ウツドヌキ星の怪鳥ソンバイナーの卵で作ったクリームクレープは、美味かったか?」

 

 仕方なしに、俺が話を振った。

 

「・・・・・・それが、まあそれなりにおいしかったのよ」

 

「・・・・・・!そりゃ・・そうだったのか」

 

 俺もチャレンジすればよかった。まああの緑色のクレープを目の前にしてチャレンジできるかできないかが、きっと凡人と非凡人の差なんだろうな。

 

 そう―――俺は正真正銘の一般人だ。それを何故か忘れていたぜ。一般人の俺は、胃袋も結局一般的な大きさだったってわけだ。だから非凡人のハルヒコに負けた。

 

 まあいいさ―――と俺は肩をすくめる。そんなもんだ、現実。一般ピーポーたる俺にはふさわしい結末だ。

 

 そんな俺を、横目で眺めるハルヒ。俺が視線に気づくと、ハルヒはまたついっとそっぽを向く。

 

 なんとなく―――――本当になんとなく、俺はハルヒに言う。

 

「ハルヒ」

 

「なによ」

 

「俺は宇宙人、未来人、超能力者は絶対にどこかにいると確信してるぜ」

 

 ハルヒはちょっと意外そうに目を見開くと――――

 

 先程までの弱気な顔はどこにいったのか、途端に不敵そうな笑みを浮かべた。

 

「あったりまえじゃない!そもそも「宇宙人」とか、そういう言葉が存在するってことはそれが存在するってことなのよ!」

 

 その変わりように、俺は苦笑する。それに気づいたハルヒはまた目をそらし、怒ったような顔をして

 

「キョン、だからね―――」

 

「ハルヒ」

 

「な、なによ!?」

 

「午後から、二人でもう一度街中、探索しようぜ」

 

「!?」

 

 ハルヒがつまずくなんてのび太が百点取るようなもんだと思っていたが、今たしかにハルヒはつまずいた。カメラを持ってくるんだったぜ。

 

「な、なんでよっ!?」

 

「なんでもなにも、知らないのか?探し物を見つけるコツは、諦めないことなんだぜ」

 

「なにその程度の言葉でドヤ顔してんのよ・・・!?」

 

 ハルヒは訝しげな目つきを俺に送り、ふん、と笑った。

 

「いいわ、あたしもそう思ってたところだし・・そうと決まれば駅前の例の喫茶店に行くわよ!今度はちゃんと作戦を練ってから動くんだから!」

 

 やれやれ。ちょっと静かになってるなーと思ってたら、結局いつものハルヒに戻っちまった。まあそれで然るべきなんだが。いつも笑ってる奴はいつも笑ってるに限るからな。

 

 

 

 

 俺はふんぞり返って大股で歩くハルヒを追いかける。

 

 

 

「デートじゃないんだから」とは、あいつは言わなかった。

 

 

 俺もそれには触れなかった。だが――――

 

 

 ちょっと勇気を出した二人とも、そのことにはもちろん、気づいている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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