その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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祝!映画化!(とは言っても小説でですけど。)

二週空けて大変お待たせしました!期待に応えられるかどうか不安ですが、どうぞ!


劇場版 スターティングジェネレーション・1

 

 

 

それは、アナザーライダーとの激闘を繰り広げて一日経った時の事。

 

この時までは、まだあのような騒動が起こるとは思っても無い午前の一時であった。

 

 

「う~ん、どうやら相当固いロックが掛けられてるようだよコレェ。まぁ当然の措置と言えばそうなんだけど。」

 

「マジかぁ~。どうにか解けない?」

 

「時間掛かるよぉコレェ。しかも下手に解こうとすると自爆するトンでもプログラムも付いてるし…。

アベルのヤツ、ホント苛立たせることしかしないなぁ…!」

 

コーカサスから奪い取ったハイパーゼクター。先日の戦闘でガタックこと秋の呼び出しに一切応じず、その原因を神太郎に頼んで調べて貰った所、ハイパーゼクターにはアベルの手によって掛けられた強固なロックが掛けられていた事が判明した。

 

秋は神太郎にロックの解除を頼み込むも、ロックを無理矢理解こうとすると自爆する機能が付いてる為かなり慎重に時間を掛けなければいけないらしい。

秋はハイパーゼクター直ぐ使えない事が判明すると、思わず落胆した表情を浮かべた。

 

「はぁ、使ってみたかったんだけどなぁ、ハイパー…。」

 

「そうやってクヨクヨしててもどうにもならねえだろうが。出来ないものは出来ないんだから。」

 

「悠兄さ~ん。そうは言うけど、オレ悠兄さんと比べてなれるライダーの数少ないんだよ?

その位の楽しみ持ったっていいじゃん。」

 

「常に気持ちの切り替えを早くしろって言いたいんだよ。命取りになるぞ。」

 

「相変わらず秋君には厳しいね。」

 

「でしょ?もうちょっと優しくしてもいいと思うよね?ね?」

 

「コイツが何時までも悠兄さん悠兄さん言ってからやってんだよ。

そんなんで俺が居なくなった時不安でしょうがないわ。」

 

「ほぉほぉ。つまり、コレが秋君への愛情表現ってヤツだね。」

 

「悠兄さん…!アンタ、ちゃんとオレの事思って…!!」

 

「気持ち悪い事言ってんじゃねぇよボケ。

俺が死んで、空いた穴を埋めるまで腑抜けた状態じゃ困るから厳しくしてんだよ。」

 

「え……。」

 

たった一言でラボの空気がガラリと変わったのをいけないと思ったのか神太郎は悠を諭した。

 

「悠君、そう縁起でもない事は控えたまえよ。」

 

「事実だろ。俺達は何時そうなっても可笑しくない立場に居るんだから…。」

 

「ん?何処行くんだい?」

 

「散歩兼パトロール。」

 

「あ、オ、オレも行く!」

 

外へ出ていく悠の後を追いかける秋。

二人の後姿を見送った神太郎は、やれやれといった溜息を吐きながら自身の作業へ取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間の街道を歩く悠と秋。秋は前を歩く悠の後を着いて来ながら何か言いたそうにしているが、中々踏み出せない様子でいた。

 

背後から感じる雰囲気に悠は静観を貫いていたが、我慢出来なくなったのか悠は秋が抱えてる感情の確信を堂々と口にした。

 

「ハァ………さっき言った事がそんなに気になってるのかよ。」

 

「ッ!」

 

「何度も言うが、俺等は何時そうなっても可笑しく無い立場に居るんだよ。お前が言ってる相棒が、急に別の誰かに変わるなんて事が。」

 

「……。」

 

「お前もそろそろ独り立ちを考えろ。その方が今後のお前の為にもなる。」

 

「……急に、言われても……納得できねぇよ。そんな…オレが悠兄さん以外のヤツを相棒とか……。」

 

もしも起きてしまった場合の事態を考え、自分以外のイレイザーが来るまでと来た時の対応を覚悟しておけと悠は言う。

秋は着実に実力を身に着け始めの頃と比べて大分成長はしてるが、中身はまだ未熟と言っていい。

 

悠は面倒そうに頭を掻き、目の前でしょぼくれてる秋をどうするか頭を悩ませていた。

 

そんな二人の元に、声を掛けて来る長身の男が。

 

 

「…オイ。公道の真ん中で何通行の妨害をしているのだ貴様等は。」

 

「いきなり出て来て声掛けてんじゃねえよボケが。殺すぞ。」

 

「何だよロン毛、何か用かよ。」

 

二人に声を掛けて来た蓮司に、秋は何が目的で声を掛けたのか尋ねる。自分はまだしも、普段悠に対し敵意を抱いてる蓮司からしたら、意味も無く声を掛けるとは思えないからだ。

 

「昨日の戦闘で得た戦利品を一応返してやろうとな。オレが持っていても余り意味が無いのでな。」

 

「あ、それ…オレも持ってるよ。ホラ。」

 

蓮司と秋が取り出したのは、先日アナザー武神鎧武とアナザーダークカブトを撃破した際に現れたライドウォッチだった。

 

「お前等…そういうのはもっと早く出せよなぁ!」

 

「ゴメンゴメン。渡すタイミング見逃しちゃって…。」

 

「こうして返してやってるだけ有難く思え。」

 

「そんな態度のヤツにどう感謝しろってだよ、ったく───ッ!」

 

「ッ!──コレは…!」

 

「ッ!──何?このイヤなカンジ…。」

 

悠が二人からライドウォッチを受け取ろうと手を伸ばし掛けた所に、三人の背筋に悪寒が奔った。

 

何とも言えぬおぞましい威圧感を向けられてる事に気付く三人は、周囲を警戒しながら辺りを注意深く見渡す。

 

三人の脳裏に街中で白昼堂々仕掛けてきそうな人物の当てにアベルの顔が脳裏に浮かんでくるが、そうでないと気づくのは得体のしれない悪意を纏って着ているかの如く此方に歩み寄って来る男が目についたからだ。

 

不気味な笑みを浮かべているその男は、脹脛まで隠れる長さの黒味を帯びたワインレッドのコートの前を開けており、中に着ている同色のパンツと黒いタンクトップ、首に掛けたシルバーアクセサリーが目立つ。短く逆立った髪に鋭い目つき、これまた右耳に一回り大きいピアスを付けた二十代半ばに見える男に、悠達は何時でもドライバーを出せるよう懐に手を入れる。

 

「…ハッ。オイオイ随分怖い顔じゃねえか。そう睨むなよ。」

 

 

「フン。その様な空気を纏わせて何を言う。」

 

「そうだそうだ!明らかに怪しさ満々じゃん!恰好からして滲み出てるし!」

 

「フゥ~~ン。このセンスが分からないとは可哀そうに…まぁ、お前等みたいなのはダッセエ恰好のがお似合いか。」

 

「あぁ!?何だとコラ!!こう見えて流行りのモン常にチェックしてんだよ!今着てんのも絶賛流行りのモンだぞ!」

 

「ファッションセンスはどうでもいいわ!…で、おたく誰な訳?」

 

「おぉっと悪い悪い。オレは、タイムジャッカーのウェイド。はぐれが付くがな。」

 

軽薄な態度で名乗り上げるはぐれタイムジャッカー、ウェイドに悠達はタイムジャッカーという聞き覚えの無い単語に首を傾げる。

 

「タイムジャッカー?…知っているか。」

 

「いんや初耳。一瞬ショッカーの聞き間違いかと思った…。

どこの事務所だよ!芸名にしてはちょっと安直というか捻りが無いというか。」

 

「…ッ、クッハッハッハッハ!!ホンット愉快な連中だなぁ。つーかその台詞そのまま返してやるよ。

お前等こそ何者だ?お前等みたいな仮面ライダーの歴史なんざ、オレは見た事も、聞いたこともねぇ。つーかこの世界っつう存在の歴史自体異常過ぎるぜ。」

 

「「「ッ!」」」

 

態度が変わり、此方を射止めるかのような鋭い視線を向けるウェイド。

一瞬心臓を掴まれたかと錯覚を覚える悠達の反応を見て、余程面白かったのか、堪えるような笑い声をあげた。

 

「ククククッ!、まぁ、どーでもいいんだがな。お前等が何処の誰で何なのかなんざ、オレには関係ない…ただ。

オレの野望を叶える為に、まずはこの世界の歴史を滅茶苦茶にしてやる。その為に……お前の力、貰うぞ!」

 

「ッ!──ヤロ…ッ!」

 

ウェイドの正体や目的が分からずじまいだが、今この瞬間、ウェイドよりも先に動かなければよからぬ事態が及ぶと本能で察した悠はドライバーを取り出そうとし、同じタイミングで蓮司と秋も動き出す。

 

だが、その動きは突如として停まる。悠はおろか、蓮司も、秋も、とても不自然な形で。

 

停まったのは悠達だけでない。空を飛んでいる鳥も、吹いている風も、ウェイド以外が手を翳したと同時に時間そのものが停まった為今この瞬間を動けるのは時間を停めたウェイドだけ。

 

ウェイドはゆっくりとブーツの踏む音を地面に打ちながら悠目掛けて近づき、顔の前にウォッチを翳す。

 

「本来ならどの歴史にも存在しない存在、イレギュラーなお前等が及ぼす歴史の影響力はかーなーり、デカい。その中でも特にお前が、幾多のライダーの力を持つお前の力が!オレの野望を果たす礎となるッ!」

 

翳された手から妖しい光が灯ると、悠の体からマゼンダ、白、黒、紫といった様々な光がウェイドの持つウォッチに吸い込まれていく。

 

時間を停められてる所為で体はおろか声すら上げる事が出来ない悠から光を完全に吸い取ったウェイドは、満足気な笑みを浮かべた後に三人の時間を動かしすと衝撃波のようなモノを放ち三人を吹き飛ばした。

 

どうして自分達がいきなり吹き飛ばされたのか、訳も分からずニヤニヤと不快な笑みを浮かべるウェイドを睨みつけるが、悠が懐の感触に違和感を感じ確かめると、最悪の事実に気付いてしまう。

 

「ッ!───クッソ!またかよ!!」

 

「え…またって?」

 

「おい、まさか貴様…。」

 

 

「ライダーの力……全部取られた!」

 

 

「フハハハハハ!想像以上の力を感じる…!まずはどれほどのモノか試させて貰うか!」

 

「「「ッ!!」」」

 

ウェイドがウォッチを起動させ自身の体内へ取り込ませると体が黒いモヤに包まれる。以前アナザーライダーとなって敵になった一誠と同じようにウェイドも姿を変えようとしていた。

 

 

<< DECADE >>

 

『フゥゥゥゥ……ハァ!』

 

 

「アナザーライダーになりやがった…!」

 

「しかもディケイドかよ!」

 

「ッ…。」

 

 

ウェイドが姿を変えたアナザーライダーは禍々しい角を備えた紫の複眼が目立つ真・激情態ディケイドのアナザーディケイド。

左右の両肩には”2019”と”DECADE”の文字。それと特に目を向けられるのが、強化形態のコンプリートフォームの様に胸部に不規則に散らばめられたライダーのクレストマークが、デザインが少し変わっているようだが、それらのマークが悠の奪われたライダーの力である事を示していた。

 

『フフフ。自分のライダーの力をこうして見る気分はどうだ?えぇ?』

 

 

「…昨日の今日で既に体験済みだよ。」

 

「全く持って情けないな。同じ失態を…。」

 

「じゃあ聞くが時間停められてどう対抗しろと?」

 

「それはともかく!向こうやる気満々だぜ…悠兄さん下がってな。ここはオレが…!」

 

「冗談。奪われた力は自分で取り戻す。」

 

「何を馬鹿な。戦おうにもライダーの力を奪われた貴様なぞ足手纏いだ。」

 

「そうでもない。さっきポケット弄ったらコレが出て来た。」

 

ポケットから取り出した手の中には、ライドウォッチ、リュウガの顔が描かれたリュウガウォッチが悠に残されていた。

 

「あ、それ!」

 

「どうやらウォッチになったライダーの力は奪われないみたい。調べようとして残しといてマジ正解だった。」

 

 

『ほぉ、既にライドウォッチを持っていたとは…だが、それでもお前の力の大半はオレの手の中!一つ二つ溢した程度でオレに敵うわけが無い!』

 

 

「あっそう。じゃあソレの持ち主としてちゃんと使えるか試してやる!」

 

<< リュウガ! >>

 

「ちょっと!オレも居るって事忘れないでよね!」

 

<< BAKUSOU BIKE >>

 

「何を企んでるか知らないがみすみす放っておくわけにいかん。」

 

<< メロン! >>

 

 

「「「変身ッ!」」」

 

<< ──BAKUSOU BIKE! >>

 

<< メロンアームズ!── >>

 

秋がレーザターボ、蓮司が斬月へ変身し、悠もライドウォッチを起動させることでリュウガへ変身を果たす。

 

 

掛け声を出す事無く一斉に駆けだす三人。向かって来る三人に対し手を広げて余裕で待ち構えるアナザーディケイド。

 

先頭を走るレーザーの前蹴りを軽く受け流し、次いで殴り掛かるリュウガの拳を受け止め斬り掛かって来る斬月に投げ飛ばす。

 

「グッ!──オイ退け!」

 

「るっせ!言われんでも退くわ!」

 

「二人共ケンカしてる場合じゃねぇだ、ろッ!」

 

<< ガシャコンスパロー! >>

<< ズ・ドーン! >>

 

『フン!──ハァ!』

 

レーザーは二人の前に立つとギリギリチャンバラガシャットからガシャコンスパローを呼び出し、弓モードでアナザーディケイドへ矢を放つ。

 

向かって来る矢に対し一瞬鼻で笑うと、胸のEのマークが光り手を翳すと、緑の竜巻が発生し矢を別方向へと弾き飛ばした。

 

「えッ!?」

 

「今の…まさか、サイクロン?」

 

『他にこんなのも使えるぞ?──ッ!!』

 

今度はΩのマークが光る。すると大きく振り被った右手に金色の光で出来た剣が出て来た。どんどん大きくなり、傍に立っていたビルの屋上まで届く程の巨大なものとなった。

 

「今度はオーガか…!」

 

『流石にコイツはイヤでも知ってるだろう?…当たるとどれだけ痛いかをなァ!!」』

 

アナザーディケイドが右腕の大剣を振り下ろす。

 

「おおおぉぉッ!?ちょっとヤバいんじゃないコレ!?」

 

「同時攻撃で迎え撃つぞ!」

 

<< STRIKE VENT >>

 

<< ガッシャット!──キメワザ! >>

<< GIRIGIRI CRITICAL FNISH! >>

 

<< ソイヤ!──メロンオーレ! >>

 

「「「ウオォォォォッ!!!」」」

 

リュウガはドラグクローで黒炎を放ち、レーザーは鎌モードのスパローの斬撃を、斬月は無双セイバーの斬撃を放つが、押し寄せる津波のようなアナザーディケイドの攻撃は止められない。

 

離れていた距離が無かったかのように振り下ろされた一撃はコンクリート出来た地面を砂糖菓子みたいにグチャグチャにしていった。リュウガ、レーザーは咄嗟に前に出た斬月の盾に庇われるが、三人は大ダメージを負う。

 

声を上げる間も無く変身が解除されて地面を転がる悠、秋、蓮司。傷を負い地面に倒れる三人の姿を見て、アナザーディケイドは背を向けた。

 

『慣らしはこの位でいいだろう…さて、そろそろ本命に取り掛かるか…。』

 

<< ILLUSION… >>

 

アナザーディケイドはイリュージョンの能力で分身し、もう一人のアナザーディケイドが現れる。現れた分身体のアナザーディケイドは自身の目の前に灰色のオーロラを出現させた。

 

『では頼んだぞ。』

 

『あぁ、任せろ。』

 

分身のアナザーディケイドはオーロラの中へ入り込んだのを見送ったアナザーディケイドは、背後で倒れる三人に告げる。

 

『今の内に別れの挨拶をしておきな!もうすぐ、この歴史は書き換えられる…ハハッ、ハハハハハハハハ!!』

 

<< INVISIBLE… >>

 

高らかに笑い声を上げながらアナザーディケイドは姿を消してゆく。

 

「…何だったんだ、ヤツは…。」

 

「さぁ、な…とにかく、状況は結構ヤバイってカンジだな…。」

 

「ほんとソレ。昨日のアナザーライダーより超ツエーよ…てか、歴史云々とか言ってたけど、アレってどういう意味?」

 

「それも分かんねぇ…とにかく一旦体制立て直すぞ。戻って桜井とウラナ呼んで…。」

 

「ッ!…おい。お前、その手…。」

 

「ッ!?…ゆ、悠兄さん!悠兄さんソレ!!」

 

「あ?何……ッ!!」

 

慌てている二人の目に、手足の先が薄く透けている悠の姿が。

 

最早手首の先が消えてどんどん消えていく悠は、ウェイドの狙いに気付いた。残された時間はもう少ない事を知ると、現状に混乱する二人を少しでも正気に戻す為に大声で叫んだ。

 

「秋!剣バカ!よく聞け、ヤツは過去に行って歴史を───。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え…オイ…悠兄さん?…何処行ったんだよ!オイ!!」

 

「………。」

 

荒れた街道の真ん中で秋の叫びが虚しく響く。

 

蓮司は何も言葉を発さず、叫ぶ秋を見つめるだけ。

 

 

 

 

この瞬間、時計の歯車が壊れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやっさん!おやっさんいるか!?」

 

「落ち着け桜井弟!」

 

「落ち着いてられっかよコレが!もうマジで訳わかんな過ぎて頭パニックなんだよ…!」

 

ラボへと戻って来た秋と蓮司。

 

ココまで来る途中ガレージに置いてあった筈の悠のマシンや、ラボの中にあるネクストライドロンも無くなっていた。この調子だと悠の部屋へ行ってもただの空き部屋になってるだろう。

 

「だから落ち着けと言っているんだ…答えは消える間際にヤツが言っていただろう。」

 

「え?…歴史?」

 

「そう、事態は物凄く深刻だよ!」

 

「おやっさん!」

 

蓮司が秋を落ち着かせると、慌てた様子で現れた神太郎。その手に巨大な一冊の本を持ってデスクに置いた後広げてみせる。

 

「大変なんだよ!ウェイドとかいう変なヤツが来て!悠兄さんのライダーの力を奪って!メッチャ強いアナザーライダーになって!そしたら悠兄さんが消えて!」

 

「分かってる!分かってるから落ち着き給え!その真相を突き止めるために、コレを持って来たんだよ!」

 

「何だこの本は?…報告書?」

 

「そう。私がこの世界に来るまで付けていたこの世界での報告書だよ。向こう居る後輩に無理言って送って貰った……ッ!!」

 

「どうした?何が書かれてる?」

 

「………率直に言うと……彼は、悠君は……既に死んで居る。」

 

「「ッ!?」」

 

神太郎から告げられた言葉に声が出ない二人。神太郎は更に細かな内容について読み上げる。

 

「これによれば、彼はこの世界に来て早々不意を突かれて命を落としている…。

イレイザーの灰原 悠の死亡を確認し、その後続に蓮司君が次のイレイザーとなってこの世界での転生者を抹消している事になっている…。」

 

「オレが?」

 

「あぁ。でも、彼と全く同じ歴史を歩んではいない…艦娘達がその証拠だ。」

 

「え?…そういえば帰ってから誰もいなかったけど…。」

 

「まさか…。」

 

「お察しの通り。

艦娘達を特典としていた対象の転生者の抹消時期が彼より遅かった…その間に彼女等は心に傷を負い、我々の補助か存在を消滅するかの選択で…消滅を選んだんだ…。」

 

「ッ…。」

 

「ッ!…嘘、だろ……そんな…速吸ちゃん…。」

 

「桜井…という事は、他のも?」

 

「あぁ。ラ・フォリアちゃんなんかは有名人だから直ぐに分かったよ、歴史が変わりだしたって事に。」

 

そういって蓮司に渡したのは今日の新聞。広げるとその一面にはこの家で生活してる筈のラ・フォリアの写真がデカデカと載っていた。外交関係で世界各国に忙しく飛び回ってる記事が書かれている。

 

「ヤツに出会わなかったから彼女はココに居ないという事か。

ん?待てよ…奴が消えたという事で彼女達の歴史が変わっているというのなら、オレ達に変化が無いのはどういう事だ?」

 

「それについては簡単。キミ達が特異点だからだよ。」

 

「特異点?」

 

「そ、あらゆる時間の干渉を受けない極稀な特性だ。

我々がキミ達を特異体質者と決めつけるのは、ライダーに変身出来る者や精神干渉を受け付けないという特性だけでは無い。特異点である事も含んで特異体質者と決めるんだ。」

 

「そんな話今はどうでもいい。

ともあれ、この世界の歴史を狂わせた下手人は十中八九…。」

 

「キミ達の言っていた、ウェイド、とかいう男だね。悠君から奪ってったライダーの力なら彼を殺せると思ってキミ達の前に出て来た…。」

 

「アベルの新たな手先か、それとも、仲間か…。タイムジャッカーというのに心当たりは無いか?」

 

「それは無いだろうね、ゲムデウスの力を得たアイツに仲間も駒もこれ以上は必要無いだろうし…。タイムジャッカーというワードも、初めて聞いたよ。時間を停めたり過去に行けるなんて…一体どこの世界から来たんだ?」

 

神太郎が蓮司たちが歴史改変の影響を受け付けてない理由を説明してるが、秋の耳には何も入ってこなかった。

 

さっきまで賑やかだった家が最初から無くなっていたという衝撃は、すぐに受け入れろと言われて出来るものでは無かった。

 

秋を他所に神太郎と蓮司が話を進めていくなか、ラボ内に異変を知らせるアラームが鳴り響いた。

 

「ッ!敵か…。」

 

「そのようだね…秋君!しっかりしたまえ!!敵が来たぞ!!

ショックを受けるのは無理も無いが、そうして下を向いたって何を変わらない!!何より、悠君が今のキミを見たら何て言うと思う!?えぇ!?」

 

「ッ……ンァアアアアアアアッ!!チックショウッ!!やってやるよこの野郎ッ!!

さっさと終わらせてウェイドの野郎ぶっ潰してやる!!」

 

「その意気だ!」

 

「フン…あまり手間を掛けさせるなよ。」

 

 

「みんな大変!街が酷いことになってるわよ!!」

 

「姉ちゃん!!」

 

神太郎の発破をかける言葉に載せられた秋は、元凶であるウェイドを倒す決意を決める。

 

そんな時、ラボへと降りる階段を慌てた様子で下るハルナの姿を見て、秋は安堵の笑みを浮かべた。

 

「良かった!姉ちゃんはちゃんと居る!!消えてねぇ!!」

 

「え?何よ急に、消えるとか…。」

 

「あぁゴメン今詳しく説明しようにも内容がアレな上時間が…とにかく姉ちゃんも早く行こうぜ!街がヤバいんだろ!?」

 

「え?ちょ、ま!待って!!待ってってば!!」

 

「姉ちゃん?」

 

「ッ!…まさか。」

 

秋がハルナの手を掴み共に現場へと向かおうとするが、ハルナは秋の手を振り払った。それを見て、神太郎が悪い予感を感じ取る。

 

「私も行く?イヤイヤ冗談キツイわよ。私はあくまで回復役だし、行ったってみんなの足引っ張るだけだって。」

 

「は?…い、イヤイヤイヤイヤ、何言ってんだよ!確かに重要な回復役だけど!姉ちゃんだってライダーじゃん!」

 

「ライダー?…私が、仮面ライダー!?」

 

「そうだよ!エグゼイドじゃん!!」

 

「バッ…馬鹿言わないでよ!私が何時仮面ライダーになったの!?秋、アンタちょっと可笑しいわよ!どうしたの一体!?」

 

「ぇ………え?」

 

「あー…二人共ちょっと失礼。

秋君…キミが覚えてる中でどうして彼女がエグゼイドになったか、覚えているかい?」

 

「え?…えっと確か、家出した悠兄さんを連れ戻す為に……あ。」

 

「そうだよ。彼女がエグゼイドになった経緯は悠君が大いに絡んでいるんだ。

そして彼の消えたこの時間軸では、ハルナ君はエグゼイドでは無い…。」

 

「マジ、かよ……じゃあ、ウラナも消えちまったって事かよ…。」

 

「…正確には、最初から存在しなかった。そういう事になるね。」

 

「ね、ねぇ。さっきから何の話をしてるのよ。ユウ兄さん?とかウラナとか、一体誰の事言ってるの?」

 

「気にしなくていい。コッチの事情だ。とにかく桜井はここに居ろ。」

 

秋と神太郎の会話の内容を聞いて訳が分からないといった表情を浮かべるハルナを下がらせた蓮司は、意気消沈仕掛けてる秋達に声を掛ける。

 

「現状、戦えるのはこの三人。下手すれば戦力は半分以下にまで下がってしまったが、どの道オレ達は戦うしか道が無い。

覚悟が出来て無いというのならここに残れ。そんなザマで行っても無様に死んで行くだけだ。」

 

「…悠兄さんがいねぇからって…お前に説教されたくないんだよ!」

 

顔を俯かせてた秋が睨みを利かして蓮司の肩を強くどついた。

 

「完ッ全に決めた!ウェイドの野郎はオレがぶっ潰してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一人の人間が歴史の枠から消えた影響は秋達の想像を大きく上回っていた。

 

秋達の目の前にあるのはかつて苦戦を強いられながらも倒した筈のバグスターが混乱に満ちた街で互いに睨み合ってる怪人の軍勢を率いていた。

 

 

人間を超えた赤き魔王、ロードバロンが率いる死の森の住人達。

 

『今日こそ貴様との決着をつけてやる…この世界の真の強者を決める為のな!』

 

 

対するのは、友愛の王、ハートが率いる機械生命体達。

 

『臨むところだ。さぁ、オレの心を存分に熱くさせてくれ!』

 

 

『フン……かかれぇぇえええええええッ!!』

 

ーギシャァァァアアアアアアアッ!!ー

 

 

『行くぞォォォォォォォオオオォォッ!!』

 

ーオオオオオオォォォオオオッッ!!ー

 

 

 

「アレって…!ロードバロンにハート!

どういう事だよ!?ハートはオレと悠兄さんが必死こいて倒した筈なのに…!?」

 

「…ッ!まさか…ヤツか、あるいは倒すのに貢献した敵は倒したのではなく、完全体に?」

 

「恐らくソレだね。だとしたら存在しているのはロードバロンとハートの二体だけじゃない。もっと他にもバグスターが…ッ!!」

 

倒した筈のロードバロンとハートの覇権争いの抗争を前に驚く秋達だが、そんな余韻すら許さないと言った奇襲攻撃が三人を襲う。

 

「ぐゥ…ッ!!二人共大丈夫か!?」

 

「愚問!この程度でやられるか!」

 

「つか何処の誰だよ!いきなり撃ってきやがって!…ッ、居た!あそこだ!!」

 

「ッ!?ヤツは…。」

 

秋が奇襲してきた下手人を見つけ空を指さすと、その正体に蓮司が目を見開いた。

 

宙に浮いていたソレはゆっくりと地面へ降り立ち、無機質な殺意を三人へ向けた。

 

『抹殺対象、人間三体ヲ確認。速ヤカニ排除。』

 

 

「コイツって…。」

 

「桜井が倒した筈のバグスターだ、まさかコイツもとはな…!」

 

「…いや、どうやらソレだけは無いようだよ…。」

 

 

修学旅行でハルナが倒した筈のバグスター、ガンマイザーを前に顔を歪める蓮司。ガンマイザーの脅威を直に目の当たりにした張本人からしたら、目の前の敵は厄介極まりない存在だ。

 

だが悪い報せはまだ終わらない。神太郎が振り返った先には、薄汚れた灰色の体でありながらも神々しい光を放ちながら此方を見下ろす天使、否、同じくバグスターであるアークオルフェノクの存在を確認した神太郎の表情が深いと言わせる程に歪んだ。

 

「アーク…ッ!ちょっと待てよ、アークが完全体って事は、夏音ちゃんは!?」

 

「ッ…あぁ。そういう事だよッ。」

 

神太郎は自分でも驚く位感情的になっていた。悠が自身の前で文字通り命を懸けて救った筈の少女の命もこの時間では無かった事にされたというのが目の当たりにしてた神太郎にとって非常に不愉快だった。

 

倒した敵が再び現れた事により様々な感情が噴き出る三人の耳に入って来る笑い声が更に不愉快にさせた。

 

『フゥーーッ!!こりゃ想像以上のカオス!!ハハハハハッ、実にオレ好みだ!!』

 

「アイツッ…!」

 

「お前がウェイドか……一体何が目的だ!」

 

サーカスでも見てるかのようにはしゃぎながら姿を見せて来たアナザーディケイド。

目的を聞き出す神太郎に対し、アナザーディケイドは上機嫌に一部を語った。

 

『目的?あ~目的ね!あぁあるとも!オレの目的は……復讐ッ!リベンジだよ。』

 

「復讐だと?キミは悠君に会った事があるというのか!」

 

『いいや無い。アイツの事はこの世界の歴史から”視た”だけで使えると思っただけ。勿論お前等でも無い、というか、オレの復讐すべきヤツこの世界に居ない!!』

 

「何?」

 

「じゃあ…じゃあ何の為にこんな事やってんだよ!!

悠兄さんを!ウラナや夏音ちゃんを!!速吸をッ!!何の為に消しやがったんだよ!!」

 

『ハハハハッ!これはただの…遊びだ。苦労して作った砂の城を、こうやって踏みつけて崩すのがッ!、オレは昔から大好きなんだよォ!!』

 

 

「ッ!──ふ、っざけんなよテメェ!!」

 

「外道めッ──許さんッ!!」

 

「待て!迂闊に行くんじゃない!!」

 

秋と蓮司はドライバーを取り出してウェイドへ向かって駆けるのを神太郎は待ったを掛けるが、二人は完全に怒りで止まる事が出来なかった。

 

『ハハハハ!キレやすいヤツほど損だってなァ!!』

 

 

「「グァッ!!」」

 

アナザーディケイドは向かって来る二人に対し黒と紫の混じったエネルギー弾を二人に放つ。エネルギー弾は二人の眼前で着弾し爆発。二人は分断されると、アナザーディケイドはある考えを思いつかせる。

 

『そうだ、お仲間が消えて悲しいお前達には特別なサービスをくれてやる!──ッ!』

 

そういうとアナザーディケイドは、二人とガンマイザー、アークの前にオーロラカーテンを出現させた。秋と蓮司すぐ立ち上がろうとするが、爆発で負ったダメージの所為で直ぐに起き上がれなかった。

 

「グ…ッ!」

 

「ゥ…ァ…ッ。」

 

「秋君!蓮司君!ウェイド!彼等に何を!?」

 

『別世界に送ってやるんだよ。この世界はもうじき終わりを迎えるからなァ…其処に居るバグスター共も一緒になァ!!』

 

「ッ!止めろォ!!──変身ッ!」

 

<< MIGHTY ACTION X >>

<< DANGEROUS ZOMBIE >>

 

『ハッ!──じゃあなァ。』

 

神太郎はウェイドの企みを阻止すべく、ゲンムへ変身してアナザーディケイドに特攻するが、既に遅かった。

 

オーロラは秋と蓮司、そしてガンマイザーとアークを潜らせ、別世界へと送り込んでしまった。

 

 

「あ……そんな。」

 

『ハハハハハハ!さて、適当な世界に送り込んだが、アイツ等は戦って死ぬか、それとも逃げて滅びる時を待つか…それが見れないのが残念だ。』

 

「ッ!──貴様ァ!!」

 

アナザーディケイドに跳びかかって行くゲンム。何の考えも無く只感情任せに向かって来るゲンムを見て、アナザーディケイドは嘲笑いながら両手を広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は一つではない。

 

並行世界。パラレルワールド。幾多にもある世界の中で二人の男がそれぞれ超えていった世界は、運命か、それとも何者かの悪戯か。

 

彼等との出会いが、崩壊を辿る世界の運命を大きく変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界。そこは、ある意味普通とは呼べない世界である。

 

とある地球外生命体の手によって消滅の危機に陥ったが、とある天才物理学者とその仲間達によって世界は創りかえられた世界。

 

 

そんな地球の一角にある倉庫。その中には二人の若い男達が居た。

 

 

 

「…なぁー万丈。」

 

「76!77!78!…あ?なんだよ。」

 

「お前なー。朝から筋トレしてる所為で倉庫の中汗臭いんだよ。そういうのは外でやりなさいよ。」

 

「んだよ別にいいだろ!今日はガラクタ売りに行かなくていいんだからオレの好きにしたって!」

 

「ガラクタぁ!?違うっつってんだろ!天ッ才のオレが創った画期的、発・明・品ッ!

ま、筋肉バカのお前にこの凄さが分かるわけ無いか。」

 

「なにィ!?」

 

腕立て伏せを中断し、端末に向かい合ってキーボードの男に突っかかる茶髪の男、万丈 龍我。

元格闘家、元脱獄犯、地球外生命体の遺伝子を持った男という様々な異名を持つが、今は…。

 

「だから言ってんだろ!オレはなぁ!──プロテインの貴公子!万丈 龍「そういえば今気づいたんだけど。」って!被せんなよ!!」

 

ビシッ!っとポーズまで決めて名乗ろうとした万丈の台詞を遮った黒髪の男は、桐生 戦兎。

とある地球外生命体の策略によって生み出された自称・天才物理学者を名乗る彼こそが今自分達が居る新世界を創った人物である。

 

「なんかお前さぁ、ここ最近の筋トレする時間増えてるというか、いや、普段からしてるけど、入れ込み具合が増してきてるっつうか…。」

 

「あ?んだそんな事かよ…。

ホラ、アレだよ…新世界創って、エボルトとの戦いから終わったっていうのに。アイツの兄貴とか、ここ最近じゃテロリストとか襲ってきてヤバかったろ?

だからまたいつ何が来てもいいように、体鍛えてんだよ!」

 

「驚いた…お前がそんな事考えて行動してたなんて…。」

 

「だろ!オレだってちゃんと成長してんだぜ!!」

 

「でも体ばっかじゃなくて、ココも鍛えた方が良いけどな、ココ。」

 

「はぁ?」

 

戦兎が万丈に関心するも、指で頭をトントンと付いて示唆してくるのに対し、万丈は反論した。

 

「分かってねぇなぁ、頭鍛えるよりも実際動かす体鍛えた方が何倍もいいだろ。バカだろお前?」

 

「はぁぁあッ!?脳筋の超ウルトラ筋肉バカに言われたく無いよ!オレにはこの、超~天ッ才的な頭脳が武器なんだよ!お分かり?」

 

「んだと!だから今のオレはプロテインの…ッ!」

 

 

 

 

 

ードガァァァァァァンッ!!ー

 

「「うおおおぉぉぉッ!?!?!?」」

 

もはや日常茶飯事である口喧嘩が始まろうとした時だった。

 

倉庫の天井をぶち破って、隅に置いてた棚に何かが落ちて来た。驚いた拍子につい抱き合って様子を見てた二人だが、お互いを見ると直ぐに離れ、落ちてきた謎の正体を確認しに恐る恐る近づく。

 

「ほ、ほら見ろ戦兎!また何か来やがったぞ!!ホラ!!」

 

「落ち着きなさいよ!其れなら直ぐに攻撃してくる筈…。」

 

棚が潰れた所為で埃が見えにくくしていたが、次第に見える様になると、倉庫に落ちて来た正体が二人の目に入った。

 

「あ?んだコイツ、女か?…。」

 

「え?イケメン?空からイケメン降ってきた?…。」

 

潰れた棚の上で寝ている負傷した若い男。ウェイドの手によって別世界に送られてしまった蓮司だった。

 

「コイツ…生きてんだよな?」

 

「ど、どうだろ。どこから落ちて来たか知らないけど、この高さから落ちたら普通は…。」

 

 

「……ゥ…ウゥ…。」

 

「「生きてるゥーーッ!?」」

 

 

倉庫の天井を破って落ちて来た蓮司の生死を確かめようとした矢先、呻き声が上がった為にすぐどうにかしようと近づいた二人だったが、蓮司の腹部に巻き付かれたあるモノを目にした途端、二人の目の色が変わった。

 

「ッ!お、オイ戦兎!コレ…。」

 

「ッ!…コレは、エグゼイドの…。」

 

二人は蓮司の腹部に装着されたゲーマドライバーに目が釘付けになる。

かつて旧世界である科学者の作った装置で別世界へ送られた際に出会った仮面ライダーのドライバー。それが上から降ってきた謎の少年が身に着けてたとなると、二人の警戒は増していった。

 

「う……此処は、一体…?」

 

 

「オイ!お前一体誰なんだよ!!なんでお前がそのベルト着けてんだよ!!」

 

「そんな一気に聞いても答えられないでしょうが!ちょっと退いてろ…。

大丈夫か?立てる?」

 

「…あぁ。」

 

出来るだけ優しく声を掛ける戦兎の手を掴んで起き上がる蓮司。天井から落ちて来たのに普通に立てる蓮司を見て唖然としていた二人だが、気を取り直して戦兎は詳しい事を聞き出そうと話し掛ける。

 

「さて、早速だけどキミは一体誰だ?どうして空から降ってきたんだ?」

 

「……オレは…ッ!」

 

「なんだ!?」

 

「この音、結構近い…ってちょっと!?」

 

戦兎からの問い掛けにどう答えるべきか悩む蓮司であったが、突如外から聞こえて来た爆発音。

 

いち早く反応した蓮司が倉庫の外に出て、爆発のするへ足を進めたのだった。

 

 

 

「速ッ!?アイツ倉庫に落ちて来たのに足速ぇ!?」

 

「も、もしかして…新しい地球外生命体?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮司が送られた世界とはまた別の世界。

 

閑静な住宅地の一角に建っている一軒の小さな時計屋、名をクジゴジ堂。

 

そこの居住スペース、置かれてるテーブルの席に二人の若い男が居た。

 

「……。」ジー

 

「……なんだジオウ。そんなにジロジロと見て…気色が悪いぞ…。」

 

「……ゲイツってさぁ、オレの事ソウゴって呼んだよね?」

 

「……は?」

 

口にしていたコーヒーのカップを思わず落としそうになるのを堪えた男は、明光院 ゲイツ。

彼は今いる2019年の人間では無く、2058年から来た未来人。ある使命の為に過去へとやって来たが、色々あってこの時代の人間として生きる事に決意したのである。

 

そしてそのゲイツをジッと見つめ予想外の質問を投げて来たのは、まだ少年と言える見た目の男、常磐 ソウゴ。

高校を卒業したばかりの彼の夢は、王様になるという常人ではかけ離れた夢を持ってはいるが、つい最近その夢を叶え、今では王として名の知れてる男である。

 

 

「いきなりなんだ、また妙な事を…。」

 

「妙じゃ無いよ!あの時!消えちゃう間際にちゃんと言ってたよね、ソウゴって!

なのにまたジオウ呼びに戻ってるし…。」

 

「どうでもいいだろそんな事…。」

 

「良くないよ!折角呼んでくれて嬉しかったのにまたジオウって、なんで?」

 

「なんで、って…それは…。」

 

 

「ハハハ!そんなの簡単な事さ、我が魔王!」

 

「ウォズ?」

 

突如二人の間に入ってきたフードとマフラーを身に着けてる男、ウォズ。

胡散臭さが目立つ彼は、本来ソウゴ達を利用して己の計画を進めるスパイ的な存在であったが、今ではソウゴ達の仲間兼家臣として共に過ごしている。

 

「不器用で素直じゃないゲイツ君からしたら、今更我が魔王を名前で呼ぶのが照れて恥ずかしいから面と向き合って呼べないのさ。そうだろ?」

 

「な…ッ!バ、バカを言うな!!誰が照れるか…!!」

 

「へぇ~。そうだったんだぁ…。」

 

「おい…なんだその顔は。違うからな!」

 

「ハハハ。まぁ私としてはそのままでいいと思うよ?

キミが我が魔王を名前で呼ぶと、家臣としての自覚が無くなりそうで不安だからね。」

 

「おい……誰が家臣だこのッ!!」

 

「あーッもうゲイツッ!ウォズもそう挑発しないでよもう!」

 

 

 

「止めなさいアンタ達ッ!!」

 

ウォズの挑発とも捉えられる事実に、ゲイツはウォズへ掴みかかろうとするのをソウゴは止めるが、それよりも先に居住スペースに来た一人の女性の怒号によって止められた。

 

黒い長髪で全身を白の衣服に身を包んだ彼女はツクヨミ。

彼女もゲイツと共に2058年から来た未来人であるが、アルピナという王族の血を受け継いでいる一面も持っている。

 

 

「ウォズ…そうやってゲイツをからかって遊ばないの!ゲイツも一々反応しない!!」

 

「うぉ…なんか、今日のツクヨミ、機嫌悪い?」

 

「あぁ…そういえば昨日、食べてみたいと言ってた期間限定のケーキが買えなかったってぼやいてたな。」

 

「ケーキ…あ、だからおじさん急に買い物に行ったのかな?」

 

「いやぁすまないねツクヨミ君。何せ平和になったものだから、ヒマを持て余してね。」

 

「だからってオレでヒマを潰すな!」

 

「もうゲイツー!抑えてよ!」

 

 

「ソウゴくーんッ!?ソウゴくーんッ!!」

 

「?…おじさん?」

 

「ああソウゴくん!みんなも居たのね!!」

 

「え、どうしたの?そんなに慌てて。」

 

買い物袋を手に慌てた様子で居住スペースに入ってきたのは、クジゴジ堂の主であるメガネを掛けた中年男性、常磐 順一郎に、視線が集まるなか、徐々に落ち着きながら語る。

 

「いやそれがね、さっき買い物から帰ったんだけど、店の前に若い男の子が倒れてて…ソウゴくん達のお友達じゃないよね?」

 

「え?…え!家の前で!?」

 

「行ってみましょう!」

 

順一郎に聞かされ四人はクジゴジ堂の外へ出ると、少し離れた先にはうつ伏せで倒れてる若い男、ウェイドによって別世界へ送られた秋が其処に居た。

 

「うわ!本当に倒れてるよ!!」

 

「見れば分かるだろ!」

 

「ちょっと!ちょっとキミ大丈夫!?」

 

「どうやらケガをしてるようだね…一先ず中に運んだ方が良さそうだ。」

 

「そうだね、ゲイツ、そっち持って!」

 

「あぁ!」

 

ソウゴとゲイツが秋の両腕を掴み、肩に担いで運ぼうとするなか、秋の腹部に巻かれたモノが露わになる。

 

「ッ!我が魔王、ゲイツ君。彼が身に着けているソレは…。」

 

「え?…ッ!コレって!」

 

「詩島 剛のドライバー!?何故コイツがコレを…ライドウォッチはコッチにあるというのに…!」

 

「もしかして彼も……ッ!危ない!!」

 

「「「ッ!!」」」

 

突如として四人と秋に放たれる攻撃。ツクヨミがギリギリ奇襲に気付いたお陰でなんとか躱す事が出来た。その際に秋の意識も目覚める。

 

「んッ…ッてぇ…!あ、アンタ達は…?」

 

「それはコッチが聞きたい事だが、まずはヤツの相手をしなければいけないようだ。」

 

 

『人間ノ存在ヲ複数確認。速ヤカ二排除…排除。』

 

 

「なにアイツ?ウォズ知ってる?」

 

ソウゴが奇襲を放った怪人、秋と共にウェイドによってこの世界に送られたガンマイザーの姿を見て、ソウゴに聞かれたウォズは主であるソウゴの問いに答える。

 

「アレは…確かガンマイザーと呼ばれる存在。ゴーストと戦って倒された筈だよ。」

 

「ゴーストの?…どうしてそんなのが…。」

 

「アイツ!…アンタ等逃げろ!アイツの狙いは、オレだ…!だから早く!…グッ!!」

 

「動かないで!その傷で戦うのは無理よ!」

 

「でも…!」

 

「大丈夫!何が起きてるか知らないけど、ここはオレ達に任せて!ツクヨミ、彼を頼んだ!!」

 

「えぇ。」

 

「アンタ等…一体…。」

 

 

「ゲイツ。ウォズ。行くよ──。」

 

「あぁ──」

 

「承知した。我が魔王──。」

 

 

「だから…ッ!アレって…。」

 

三人がガンマイザーと対面し、懐から取り出したモノを自身の腹部に装着する姿に秋の言葉が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の蓮司の居る世界でも、ウェイドによって送られて来たアークオルフェノクが街で破壊活動を繰り広げていた。

 

街を破壊するアークを見付けた蓮司は、アークを止めるべくガシャットを取り出す。

 

「まさかヤツも来てたとは…ッ、グ…ッ!」

 

だがウェイドにやられたダメージと、落下の際に受けたダメージが響いてガシャットを落としてしまう。

 

そんな蓮司の存在を見付けたアークは蓮司に狙いをつけジリジリと近寄っていく。

 

蓮司は近寄って来るアークを前にガシャットを拾い起動させようとするが、その手を後ろから伸びた手に掴まれる。

 

「ッ!…お前達は…。」

 

 

「その傷じゃ戦うのは無理だ。何が起きたか分からないままだけど、街を壊すアイツを放っておく訳にはいかない。」

 

「ココは、オレ達に任せろ!その後でちゃんと話聞かせて貰うからな!逃げんなよ!」

 

 

蓮司の前に出て来たのは倉庫から追いかけて来た戦兎と龍我。

 

蓮司はアークの前に立つ二人を止めようとしたが、戦兎と龍我が腰に装着した姿を見て目を見開いた。

 

 

 

 

<< RABBIT!/TANK! >>

<< BEST MACH! >>

 

<< WAKE UP! >>

<< CROSS-Z DRAGON! >>

 

戦兎は懐から取り出したボトル、赤いウサギが描かれたラビットボトルと青い戦車が描かれたタンクボトルを振って中の成分を活性化させた後、装着したドライバー、ビルドドライバーにセット。

 

龍我はドラゴンが描かれたドラゴンボトルに自立型ユニットのドラゴン、クローズドラゴンに挿し、変形させてビルドドライバーへ。

 

そしてドライバーに備え付けられたレバーを回すと、二人の前後にランナーが現れる。

 

 

 

 

 

 

<< ジオウ! >>

 

<< ゲイツ! >>

 

<< ウォズ! >>

<< ACTION! >>

 

秋の前に立つソウゴ達三人も、時計型デバイスのライドウォッチを起動させると、ソウゴとゲイツは装着したジクウドライバーに、ウォズはビヨンドライバーにセットすると、時計を思わせるエフェクトが三人の背後に現れる。

 

 

違う世界に居る二人は、まさかと考える。そして、その考えが正解だと格付けられる確かな証拠を目の前の男達が口にする。

 

自身が戦う前に、必ず言葉にして出すあの言葉を…。

 

 

 

 

<< Are you Ready? >>

 

「「変身ッ!──」」

 

 

 

「「「変身!──」」」

 

<< RIDER TIME! >>

 

<< 投影!──FUTURE TIME! >>

 

 

 

 

<< 鋼のムーンサルト! ラビットタンク!──YEAH! >>

 

<< WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON!──YEAH! >>

 

戦兎と龍我を挟む様にランナーが動き出すと、白い蒸気を排熱しながら二人の姿が変わる。

 

有機物と無機物を組み合わせた赤と青、ウサギと戦車の力を有した仮面ライダー──ビルド

 

隣に立つのは、ビルドと違いドラゴンの力を最大限に引き出す事に特化された仮面ライダー──クローズ

 

 

 

 

<< KAMEN RIDER!──Zi-O!>>

 

<< ──KAMEN RIDER GEIZ! >>

 

<< スゴイ!ジダイ!ミライ! >>

<< カメンライダーウォズ!──ウォズ! >>

 

 

「へ?…ら、ライダー…?へ、文字?ていうか二人、名前まんまじゃね?」

 

秋は目の前に立つ存在のその姿に、呆然としてしまった。

 

ソウゴが変身した仮面ライダー──ジオウ

 

ゲイツが変身した仮面ライダー──ゲイツ

 

ウォズが変身した仮面ライダー──ウォズ

 

 

三人が仮面ライダーという事に驚きを隠せなかった秋だが、それよりも驚いたのがその素顔を隠す仮面のデザイン。

”ライダー”という文字がゲイツに至っては平仮名で”らいだー”とそのまま目の部分に当てがわれてる奇抜すぎる姿に目が点となって眺める羽目になった。

 

 

『対象ノ変化ヲ確認。直チニ排除。』

 

 

「よーし!二人共行くよ!」

 

<< ジカンギレード! >>

<< ケン! >>

 

 

「ウォズ、貴様が余計な事を口にするからだぞ…。」

 

<< ジカンザックス! >>

<< Oh No! >>

 

 

「私の所為かい?う~む…違うね。」

 

<< ジカンデスピア! >>

<< ヤリスギ! >>

 

 

 

 

 

「さて──行くぞ万丈!」

 

「おう!負ける気がしねぇ!!」

 

 

 

アークへ向かって勢いよく駆けるビルドとクローズ。

 

 

ガンマイザーに向かって各々の武器を手に向かって行くジオウ、ゲイツ、ウォズ。

 

 

 

 

 

 

二人が迷い込んでしまったのは、偶然か、運命か、それとも何者かの悪戯か。

 

蓮司が送り込まれた世界はビルドの世界。秋が送り込まれた世界はジオウの世界。

 

 

そう、正史の歴史を歩み、戦って来た、本当の仮面ライダーのいる世界だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






時系列では、ビルドはVシネグリス終了後。ジオウは夏の映画後です。

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