島は屍
古くから死者を海に埋葬する母神島で私は産まれ育った。
島民は200人程の小さな島。
島の外周は絶壁に囲まれ、唯一の海岸は小さな市役所の前にある。
夏の昼間はそこで私は波に身を任せて過ごしていた。
遠くで汽笛の音がした。
父が帰ってきた。
母神島の生活は漁業で成り立っている。
年に二回、島の男達の大半を船に乗せて鰹を釣りに遠洋する。
その足で本土で鰹を売り、島で手に入らない物を買ってくるのだ。
私は急いで陸に上がり、港の方へ駆けた。
港は既に沢山の女子供で溢れ、旦那や恋人、友人の帰りを今か今かと待ちわびている。
船が到着し、次から次へと男達は目的の人を探しては声を上げて走る。
私は身長が低いから何時も離れた場所にある消波ブロックの上で父を探す。
父は私を見つけ、私は父を見つけた。
歩み寄る父の後ろを付いて歩く小さな影に気が付いた。
髪は銀色に輝き風に揺れる。
近づくにつれてその姿ははっきりとわかる。
瞳は蒼く、肌は限りなく白い。
身長は父の胸程で細い手と足だけが純白の着物から覗かせている。
年は私と同じか、少し下か。
遂に私の前まで来た。
「ただいま。巴は元気だったかな?」
私は小さく頷いた。
思い出したかの様に父は手を打った。
「彼女は父神村の村長さんの娘さんで、長門登紀子さんだ。この夏の間、我が家で預かるから仲良くしてあげてくれ」
父神村は確か、母神島の元領主様が島民の一部と本土に渡り作った村だった。
理由は本土との繋がりを良くする為だとか。
領主様の子孫の娘。
丁重に持て成す必要がある様だ。
「詳しい話は後だ、ほら、巴に頼まれてた荷物だ」
父は私に紙袋を手渡した。
中身は分厚い本。
私は父が遠洋に出る度にお土産として本を頼んでいる。
島は閉鎖的で本土から来る人は皆無だった。テレビもない、電話も役所に一台の島の中では外の世界を知る術は遠洋に出る男達からだけ。
そんな男達も本土に長く滞在はしないのと、本土の事情に興味がない人間が殆どで大した話も聞けない。
私は世界に興味があった。
小さく息苦しい島の外に広がる世界に夢を抱く、そしていつか島を、、長門家とは無縁の地へ旅をしたいと思った。
しかし、今はまだ14歳と幼く独り立ちは出来ないから本を読んで外の世界を知る事で満たしていた。
「じゃあ俺はまだ荷下ろしをしなければならないから、登紀子さんを連れて島を案内しておいで。本は後で部屋に置いておくから、ほら」
父に本の入った袋を手渡し、躊躇いつつも登紀子の手を取り港を出た。
私は無言で港から近い岬に歩いた。登紀子もまた無言で私に手を引かれ歩く。
その繋いだ手の指は細く、そして白く冷んやりと心地良い。