もたざるものともつもののちがいとはなにか
そんなことをかんがえつつも少年はきょうも走り回る
自分の過去に絶望し、自分の現在に落胆し、自分の未来に希望し、彼は走り抜こうとするのだ。友人の背中に恥じない男となるために。

みたいな話にしたかったです^ ^

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踏み台で勘違いな男の子が頑張る話

ピピピピピ。

電子音が部屋に鳴り響く。

ピピピピピ、ピピピピ。

閑散としたこの部屋ではうるさすぎる音だ。

ピピピ……。

「なんだよ、もうぶっ壊れたのか」

僅か一ヶ月程で目覚ましの音すら満足に出来なくなった時計に悪態をつく。

「……ったく時間通りにいつも俺を起こそうとするからだクソ野郎」

機嫌が悪い時に起こされるのはとても不愉快だ。それが一週間続くとなるともうこの時計にはなんの愛着も持たなくなっていた。元々感情なんてない機械なんかに愛着がどうとかもクソも無い訳だが。

ただでさえ嫌なことがあったのだ。

今まで不満に思っていなかった少しの出来事にイライラするのは仕方ないことだろう。

「……学校、いきたくねーな」

ポツリと言ったその言葉は虚空に消えずに脳内に染み渡った。グルグル、グルグルと駆け回る。

本当にクソみたいだ。

背伸びをしつつベッドから起き上がる。嫌だ嫌だいっても学校へ行かなければ何もやることがないのが残念ながらいまの現状だ。

一週間ずっと引きこもっていたのだがやがてすることがなくなった。昨日なんて退屈すぎて死にそうだった程だ。

タンスから制服をだし、パジャマを脱いで着替える。この部屋には鏡がないため恐らくはだらしない着方なのだろう。だけど今はどうでもよかった。

階段を下りてあらかじめ買ってあった食パンをトースターで焼く。その焼いている数分の間に顔を洗う。そして出来たトーストに何も塗らずに食べる。

これがいつもの、といっても一週間ぶりなのだがとにかく身についた習慣だった。

ランドセルを担ぎ、靴を履き、ドアを開ける。

「いってきます」

人の気配がしない自宅に向かって呟く。

ああ、憂鬱な日の始まりだ。

そう思い俺は学校へと重い足取りで歩き始めていったのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

俺の名前は如月奏人。恐らく世界の主人公だった男だ。

まあ詳細は省くのだが色々あって俺は一回死んだ。そこからいわゆる転生というものをして今は二度目の生を受け、謳歌している。

そして何故かいつも自分が持っていた銃のようなものによって俺は魔法というものが使えることを知った。まあそこからまた色々あり俺はとある男と世界と女を賭けた戦いを繰り広げた。その死闘で俺は敗北。結果として女を寝取られて、しかも俺に魔法の存在を教えてくれた銃まで壊されてしまった。惨敗だった。失意の底に沈んでしまった俺に出来ることは引きこもることだけだった。敗者は惨めに過ごすしかなかったのだ。

「本当に世の中はクソみたいだな」

学校で授業を受けているのだかまあ結局は退屈だ。ここは進学校なのだが所詮は小学校。もう分かりきっていることを習うなんて暇で暇でしょうがない。

そうなると考えてしまうのだ。前の方の席にいる奴をみると思い出してしまうのだ。それがさっきの回想だ。あいつのせいで俺の小学生ライフがメチャクチャになったのだ。後ろ姿だけでも憎たらしい。なんとか復讐をしたいのだが俺にはもう力がない。力を得る術もない。どうしよもないのだ。だから、俺には舌打ちをする以外に何も出来やしない。そのことが凄く情けなかった。

憎しみで人が殺せたらと本当に思う。この一週間は何をしても奴の事だけを考えていた。これで奴が女だったら憎悪が恋愛に発展する可能性だってあるのだが男だ。ただただ殺意が膨らむだけで終わる筈だ。実際に前よりも強くなっている自覚はある。

キーンコーンカーンコーン。

間抜けな鐘の音が授業の終わりを告げる。ただ退屈だっただけの時間から陰鬱な時間へと変わる。クソみたいな昼休みの始まりだ。

教壇に立つ教師が授業の終わりを宣言すると奴はすぐに行動を始めた。

「よしっ、屋上に飯食いにいこうぜ!」

「わわっはやいよ陽介君」

「なんでこんなに急いでるんだか……」

「……あはは」

いつもの四人だった。たまに俺がそこにいる彼女に話しかけたりしていたのだがともかくいつもの光景だった。

本来は俺がそこの位置にいるはずなのだが俺は負けた。奴と決闘をして負けたのだ。互いに全力を尽くし、そして互いが同じことを相手にいった。俺が勝ったら二度と彼女らに近づくなと。

確かに俺はこの現状に納得出来ない。しかし俺は男なのだ。いかに理不尽な約束を取り付けられたとしてもタイマンで負けたのならそれに従わなければならない。それが俺が生まれる何百年、何千年前から決まっている男の生き様だった。

やり場のないこの負の感情をどうすればいいかなんてまだ分からない。酒なんてこの体には無理だし、暴力なんて俺が返り討ちにされるだけだ。他にもカラオケやらゲーセンやらあるいは何かのギャンブルでもやるという選択肢もあるのだがいかんせんこの年齢ではいずれも出来やしない。それに誰かに悩みをいうことも出来ない。簡単な話で友人が存在しないのだ。体は小さくても心はそうではない。小学生と同じ精神ではないため彼らのいっている内容が理解できなかったのだ。最初は誰もが打ち解けようとした。俺だって一人は嫌だったので努力をした。結果はまああえていわない。先ほどいったわけだし。ちなみにそんな俺でも話す相手は一応いた。それが彼ら四人だ。何故だが彼らは他の小学生とは違い精神が熟成されていた。そのためコミュニケーションをとることができたのだ。だからこそ余計悲しかった。負けたせいで俺は正しく孤独になってしまったからだ。

話が戻ってしまった。俺はそういうことを考えたくないから色々と発散したかったんじゃないのか。現実を忘れるために何かをしないといけないんじゃないのか。

まあ結局こういう時に何をするかなんてだいたい決まっている。やることがないなら、考えたくないなら、逃げ出したいのなら、簡単なことだ。目を瞑ればいい。そうすれば勝手に意識が落ちて何もしなくても、何も考えなくても、現実を見ることもなく夢の世界に浸れる。いわゆる不貞寝というのがこの瞬間やるべきことなのだ。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「なあ、俺ってやっぱりまちがってるのかな」

「………………」

「ちょっと頭悪い考えしてたもんな、俺。自分以外の人のことを都合のいい人形だと思ってたんだ。俺だけが生きてるんだって思ってたんだ」

「………………」

「でもしょうがないじゃないか。どうしよもないだろ? こんな境遇に置かれたら」

「………………」

「だからさ、お前は異常だよ。現実と向き合ってちゃんと人として生きようとするお前はやっぱりおかしいよ。他人を人扱いして自分を保っているお前は変だよ。メンタルが強いとかそういうのじゃない」

「………………」

「なんかこうなることを予想してたみたいだ。自分がもう一度だけ人生を歩めるって。そうじゃないと納得出来るわけがない」

「………………」

「なんかいったらどうだよ。いつもみたいに感情豊かになれよ」

「………………」

「もういいよ、お前がこの世界で一番の人形だって事にする。お前だけが生きていないって事にする。だからさ、お前を倒して俺は現実を受け入れる。本当の人間になるんだ」

「………………」

「誓え。俺に負けたらもう二度この世界の人間と関わるな。どっちが正義か決めようぜ。世界を正すのがどちらなのかをな」

「………………」

「沈黙は肯定ってことでいいよな。さあやろうぜクソ野郎っ!」

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

学校が終わったところで特に何もすることがない。友人なんていないから遊ぶこともないし、金がないからショッピングだって出来ない。まっすぐ家に帰ったからといって何も楽しみなんてない。だからといって散歩をしてみてもこの見慣れた街をどう楽しめばいいかなんて分からない。新たな発見なんて何も望めやしない。ああ、本当にクソだ。

それにしても俺はいつも何をしていたのだろうか。

直ぐに家に帰って修行だとかいってなんかやってた気がする。実践シミュレーションだとかいってよく分からない謎の空間で戦闘訓練とかしてたっけ。今となってはもう無駄なことだけど。強くなったてしょうがないしそもそもあの謎の空間に入れない。俺の相棒である銃がなんとかしてくれたのだ。壊されて光の粒子になって消えたあいつにはあれを作ることも出来ない。そもそも消えたので俺の手元にない。そろそろ何をいっているか分からなくなって来た。過去の事ばかり振り返るなんて年寄りみたいだ。これから明るい未来の事を考えればいい。ああ、その結果何も案が出てこないんだった。クソ過ぎる

そうこうしているとなんだかんだで家についてしまった。本当にどうしようか。まあ適当にゴロゴロしてたら一日なんて直ぐに終わる。怠惰な生活を満喫しようじゃないか。

「ただいま」

ドアを開けて習慣となっている挨拶をする。ガランとしているこの家に声が響き渡る。俺が帰ってきてモノクロの世界が色づいた、気がした。実際はそんなことなくただひたすら沈黙が続いている。こういうのを寂しいっていうのだろう。家に一人だなんて悲しい。俺じゃないやつがこの立場ならもう泣いているはずだ。俺の高い精神力を褒めてやりたい。結局は孤独感というものを拭えないのだが。

玄関からリビングへ向かう。冷蔵庫からペットボトルの麦茶を取り出しそのまま口に含む。飲んでから手を洗うのを忘れてた事に気づいた。こういうちょっとしたことから病気になってしまうので習慣付なければいけないのだが残念ながら未だに身についていない。思わず溜息を吐く。

 

----ツンと刺激的な匂いがした。

 

リビングからではなく、おそらくこの部屋の隣の書斎から。

空気というものは空間ごとに閉じ込められているため滅多に他の部屋に匂いが出て行かない。なのにも関わらずはっきりと匂った。はっきりと場所まで分かった。

退屈だった、暇だった。俺はそう思っていた。だからなんとなく軽い気持ちで俺は書斎へと足を運んだ。扉に手をかける。そこには鍵なんてかかっていない。両親が海外に出かけてからこの部屋を綺麗にしているのは俺だから当然のことなのだが。

とにかく俺はドアを開けた。

先ほどよりも強烈な匂い。それは鼻だけではなく、他の身体の部位まで傷つけるのではないかというほどのものだった。実際に目が焼けるのように痛い。この光景を脳裏に焼こうと無意識に思っているのか知らないが俺は身動きを取れなかった。目を逸らすことも閉じることも出来ない。唾を飲み込むなんて出来やしない。一歩進むなんていう発想を忘れてしまいそうなほど鮮烈な場所だった。

そこには人がいた。椅子に座っている人がいた。ただいいたいのはそういことではなく、その人は血で染まっていた。違う。それも気になるのだが本当にいいたいのは違う。

「……かあ…さん……?」

海外へと出掛けているはずの母親がこの場所にいることが、一番の問題なのだ。

「……え、どうしてっ……」

頭の中は空っぽで何も考えられないのに口が勝手に動き出す。声にならない呻き声をあげる。疑問の声も出てきた。酸素が足りないのか知らないが頭が痛い。そうだ、息をするのを忘れていた。この景色の醜さで時間が止まったようになったようだ。それじゃあ忘れるのも仕方が無い。あ、本当に苦しくなって来た。息を吸おう。

「…が、オゥえ、、……コホっ…」

血の匂いが身体中に染み渡った。そしてその結果、俺は紛れもなく現実に起こった事なのだと理解した。冷静になったのはいいのだが気持ちが悪い。生臭い匂いならそこまで嫌悪感はない。そんな事をいっていたら肉なんて食べれない。じゃあ何が嫌なのか。知り合いの、血の繋がりがある人が大量の血をぶちまけているからだ。それはひょっとしたら自分のものなのかも知れないという錯覚まで起こした。

「……そこ、に…いる…だ、…れ、?」

聞き覚えのある声。おそらく今まで生きてきた中で一番聞いた声。

「か、母さん! 俺だよ! 奏人だよ!」

必死に声をかける。近寄って、彼女が自分を見れるような位置まで、手の届く所まで。どんどん強烈な匂いになっていく。これ以上この部屋を穢してはいけない。そう思い吐き気を堪えた。

「…あ、奏人……なの、ね…、」

母さんは震ている片手を俺の顔に伸ばした。顔に到達する前にその手を両の手で掴む。なぜだかそうしなければいけないと思った。俺の顔にその手が触れたら、そのまま死んでしまいそうだと、どうしてか思ったのだ。

「色々、と……いい…ぁい、とはあるけ…ど」

掠れた声。しかし意思が篭った力強い声。

 

----幸せに、なりなさい

 

多分、そういっていた。そう言い残して母さんはもう喋ることはなかった。不思議と涙はでない。胸の奥が目に見えない圧力で締め付けられているのほど痛いのに、落ち着いていた。いや、落ち着かないといけなかった。現実逃避を、現実直視をする暇なんてなかった。

血生臭さがこの空間から消えていた。鼻が慣れたというわけではない。別の強大な香りによって侵食されたのだ。花の匂いを無機質な物で再現しようとしたどこか違和感のある甘い芳香。気持ちが悪かった。

「ああ、死んじゃったのか。ホントになんで人間ってこんなに脆いんだろうね」

後ろから声が聞こえた。青年のようで少年のような声。声だけで分かる。こいつは人を馬鹿にするのが好きなのだろう。無感情に、そして嘲るような声音で続けた。

「肉体も、精神も、知能も劣る唯の人間がよくここまで粘ったよね。僕、少し見直しちゃったよ。君もそう思わない?」

ゆっくりと振り返る。すっかり頭は冷えていた。それなのにも関わらず俺は何かをしでかしそうで堪らなかった。

「お前が何をいってるのかなんて全然分かんねーよ。でも聞きたい事がある。母さんを殺したのはお前か?」

聞くまでもないただの確認だった。しかしそれでも確証がないために聞いた。それと示しておきたかったのだ。俺が怒っているということを。肉親を殺されて何も感じない人間なんていない。俺だって例に漏れず感情がグチャグチャになってコントロール出来なくなっていた。

ああ、分かったよ。泣けない理由が。俺は憎いのだ。この目の前に飄々と立っているクソ野郎が。殺してやらなければ気なんて晴れるわけがない。そんな想いを込めて目一杯、殺意をぶつけた。

「釣れないじゃないか。僕たちは同類だろ? なんでそんなに敵意をむき出しなんだい? むしろ感謝して欲しいくらいだよ。君の才能を潰していた人間を殺してあげたんだから」

俺よりも四つか五つか上の肉体年齢の男に怒鳴る。

「それ以上汚ない口を開くなよクソ野郎めがっ! お前の口が動くために吐きそうでしょうがないんだよ! とっとと死にやがれ!」

手に力を入れて握り、体格差があるこの男に俺は拳を顎に突き上げた。

特に何も考えてなんかいなかった。ムカついたから、殺すよりもまず先にとりあえず殴りたかった。

奴は避ける素振りもしない。そのまま拳が直撃。予想以上に奴が吹き飛ぶ。頭から床に落ちて行った。ざまあみやがれ。

とりあえずこれが一発だ。何が出来るかなんて知らないが、徹底的に俺はこいつを殺し尽くしてやる。

そう、思ったのだった。

「ははは」

感情のない笑いが室内へと響き渡る。奴が仰向けのまま笑ったのだ。ひどく不気味だ。先ほどまでの熱意が凍りついてしまうほどに。

「あー、面白い。やっぱり面白いよ君は」

ゆっくりと立ち上がり、ニンマリと顔を歪めながら此方を眺めていた。俺は声も発することも指を動かすことも出来なかった。

「僕たちと君は同じ個体のはずなのにどうしてこうも違うんだろう。他の個体たちは僕と全く同じ考えで全く同じ能力をもっているのに」

静かな空間に奴だけの独白が続く。

「なんでそんなに君は出来損ないなんだろう。世の中に絶対はないっていうけどそれは本当なんだね。君は非力すぎるよ」

手を広げて、自分に酔いしれる演説はまだ続いていく。

「ああ、だからこそ愛おしい。僕には、いや僕たちには感情なんてないはずだけどはっきりと分かるよ。この胸の昂まりは星がこの身に降りかかって来たって留まることはないだろうね。人間でもなく、そして僕たちでもない中途半端な君は、とても美しいよ。天地創造の神よりも神々しい。いや、僕は神に感謝するべきなのかもしれない。君が生まれたのは偶然じゃくて運命なんだから。絶対の必然の出逢いなんだ」

身体がゾクゾクしている。ストーカーの被害者の気持ちがよく分かった。気持ち悪いというより悍ましい

。奴の一挙一動が、奴の舐めまわすような瞳が、愛玩動物を愛でるかのような情熱をもっている。怖い。憎い。恐い。逃げたい。殺したい。

俺の思考はしかしやはり変わらなかった。この程度でびびっていたんじゃ何も出来るわけがない。それに昔から人間は天敵を殺して来た。それは恐れというものを無くして安心を得る為に行われた。安堵ために殺戮をしていたのだ。

俺にはだから二つ理由がある。母さんを殺された恨みを晴らすため殺すことと、見下される恐怖から解放されるために奴を殺すこと。

だからあいつを殺していいだ。殺さなきゃいけないんだ。

「その目もいいね。僕たちには到底出せない色だよ。僕を殺したいかい? それは絶対に無理だよ。君のさっきの全力で僕は傷一つついてなんかいないんだから。それにそもそも君はそこから動けないだろう?」

その通りだった。金縛りにあったかのように身体は固定されている。

「僕が君を束縛してあげてるんだよ。全然うごけないでしょ? 僕たちってデバイスなんかなくても使えるんだよ、魔法をね」

デバイス? 何をいっているんだこいつは。一流の魔法使いはそんなものなんていらないんじゃないのか? そうじゃないと陽介に負けた理由に説明がつかない。

「……何が目的なんだ?」

「うん、そう思うよね。でも怪しまないで欲しいんだ僕はただ君を保護しにきただけなんだから」

「保護? 捕獲の間違いじゃないのか? 母さんを殺してそれに俺を拘束しているじゃないか。次は俺を解剖して実験のためにホルマリン漬けにでもするのか?」

「ふふ、中々鋭いね。そんな野蛮なことは全くしないけど君は実験のために来てもらうよ。誤解を解きたいんだけど僕は拘束なんてするつもりはなかったんだ。君が冷静じゃなかったから落ち着かせるためにやっただけのことさ。それで、来てもらえるかい?」

「嫌といったら、殺すのか?」

「殺すわけがないよ。君は重要な存在なんだからね。ただ、この状況の中で断るっていうありもしない選択をするのなら僕は君を殺しちゃうかもね。そこまで愚かなら僕は君に興味を失っちゃうよ。それだけはやめて欲しいな」

先ほどまでの狂気の愛情に満ち溢れた声がすっかり元通り無機質なものになってしまった。言葉の真偽を確かめる事は出来ない。しかし、それでも俺は頷くしかなかった。

生態系というのは常に強者に従わなければならない。人間も一緒だ。明確な差を示されたなら俺はひれ伏す他はない。

だが、反抗心を持ってはいけないわけではない。人は、生き物は強者と戦い勝利することが出来るのだ。本能で危機を察知し、そして知性で相手を制す。ジャイアントキリングはいつだって起こりゆる。

だから、今だけは大人しく、そして従順に振舞ってやろう。媚びへつらい、自分を守ろう。そしてもし隙を見せるような真似をしたのなら、その時は瞬時に喉元を食い千切ってやる。

「それじゃあいこうか」

呪文を唱えるわけでもなく転移魔法を発動したのか奴の姿は消えた。そしてその一瞬後に、俺の姿もこの家から姿を消した。

 

 




つ づ か な い

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