僕は自分の部屋を取らずに、彼らの取った二人部屋にお邪魔することにした。
そぞろ歩いて部屋に入ってゆく。僕は一番後ろに続いた。
狭い。
全員、武器はアイテム
どうやら男性メンバー四人はここでまとまって寝るつもりらしい。彼女は自分だけ一人部屋を取ることを
部屋の両端に、木製の安っぽいベッドがあって、まず右手のベッドの奥にケイタ君(仮)が腰かけ、その向かいに、ダガーのダッカー君が座った。ダッカー君の
それから彼女、サッチが、おずおずとケイタ君(仮)の隣に腰かけ、僕は選択を迫られた。
座れそうな場所はあと二か所。
部屋の真ん中、奥、二つのベッドの
どっちも居心地が悪そうだった。
ケイタ君(仮)が、「せっかくなんで、
みんな驚いて、テツオ君を見ている。
「……じゃあ、こっちに失礼します」
僕はもう、ちょっと焼け
奇妙な緊張の中で、僕はどうにか彼の真意を問うてみようと、なんと言葉をかけるべきか、数瞬、惑った。
あの草原では、異世界にやってきた興奮から、そしてあの自称
「あのさっ」と、緊張に
空気が、わずかに緩んだ。
緩んだ空気に差し入れるように手を挙げて次に口を開いたのは、ケイタ君(仮)だ。
「じゃあ、改めまして……、ケイタです」
ケイタ君カッコカリは、どうやら間違いなくケイタ君だった。彼は続けてこんな風にいって、こざっぱりした短髪の頭を再び下げた。
「仲間を助けてくれて、どうもありがとう。あのまま人混みの中にいられたら、フレンドの位置追跡を使っても、見つけるのにだいぶ時間がかかっちゃったと思う」
「いえ、それはもう、いいですよ。本当に……」
彼女を挟んで、お互い前のめりに頭を下げる。彼女と、他のみんなの頭もばらばらと下がるので、僕は何度も続けて
「次、オレっ、ダッカーです。さっきはどうもスンマセンっした……」
僕と比べても
「ほんとだよぅ……」と、彼女が唇を
「ボク、ササマルです。えーと……えーと……」
「ササマル、無理に面白いこといわなくていいから」
と、ケイタ君がフォローに入れば、彼は、「と、とにかくよろしくお願いします」と、やはりぎこちなく
彼女が、さっきよりはずいぶん光を取り戻した瞳で僕を見た。
「あの、一応、私、サチです。顔は変わっちゃいましたけど……」
すげー美女だったもんなー、と、ダッカー君が茶化して、彼女に
「……ごめん、サッチじゃなかったね」
「い、いえっ、お気になさらず……、ほんとにありがとうございました」
彼女は再度、おかっぱ頭を翻して頭を下げる。これで最後にして欲しいな、と思いつつ、僕は、どういたしましてと軽く笑った。
それから僕は、いま一度、
「さっき聞いたかもしれないけどぉ、テツオです。よろしく。君の名前、聞いてもいーい?」
「ティジクンです。わざわざお
僕から最後に頭を下げると、みんなが恐縮するのがわかった。
場が引き
「それで、今フィールドに出ない方がいい理由について、改めてお
「ああ、その前にさぁ」
と、彼は手で僕を制して、
「ティジクン。みんなもだけどぉ、そろそろ敬語やめにしない? なんだかおれぇ、もう疲れちゃって」
僕はそれを聞いて、片手で頭をかきながら、
「わかった、テツオ君。みんなも、もういいよ、楽にしよう。なんか緊張させちゃったみたいで、ごめんね」
僕がいうと、みんなばらばらと首を振ったり手を振ったりして恐縮した。まとまりがあるのかないのか、よくわからない集団だ。
それからテツオ君はひとつ頷くと、両手を組んで、両
「あの茅場がいうことが本当なら、たぶん本当なんだけど、おれたちはもうじき、病院かどこかに移されるよね? 運ばれる間は、ネットから切断されるんだよね。一時間か、二時間か」
彼の話が状況のど真ん中に殴り込んで、みんなが緊張するのがわかった。視界の右端で彼女がうつむく。僕は僕で、彼の言葉に動揺していた。
……考えてなかった。
奴からその話を聞かされるときには、僕はもう完全にキレていたのだ。
「……切断されると、どうなるの」
僕が先を
「うん。そうするとぉ、たぶん一時的にオフラインの待機エリアに移されるんだろうけど……、突然マップから消えて、もう一度オンラインになったら突然戻されるから、そのときフィールドに出てると危ないよ。いきなりモンスターの目の前に放り出されるかも。いや、もう待機エリアだなんて、あの犯罪者にそんな
殺されるよ? というところで、みんな息を呑んで、彼女がスカートの裾を握り締めるのが、気配でわかった。
「……忠告、ありがとう。だったらその、回線が戻るまではおとなしくしてるよ」
「ん。それがいいねえ。でも、こういう状況判断ができないと、どの道、死ぬよ? どうかな、君はこの先、ずっと一人で、冷静な選択を積み重ねていけるかな。君、落ち着いて見えるけど、実はキレてるんじゃない?」
「……キレてはないよ」
「ほんとにぃ?」と、彼は
彼はともすれば無邪気に、まるで
彼の隣でササマル君が、視線を忙しく僕らの間で行ったり来たりさせているのは、その、
僕はぎしぎしと
「……うん。おかげで落ち着いた」
「よかった。君がサチをおれたちに任せて迷宮区に特攻する気なんじゃないかって、すぅごく心配したよ」
「まさか」と、僕は周りのみんなが彼の発言に反応する前に、その語尾を
「そう?」
「うん」
「じゃあー、さっきの話を踏まえて、君ぃ、これからどぉするの?」
「街を、見回ってみようかと思う。状況を把握したくて」
「うん、ダウトォー」
彼は相変わらずにこにこと、僕の予定を否定する。
「あんまり外には出ない方がいいねぇ。いま、ほら、パニックでしょ? 回線が切れて、中身空っぽのアバターが取り残されたら、フィールドでなくても危ない」
「でもさ」
と、口を挟んだのはケイタ君だ。
「アンチクリミナルコードがあれば、なにかされることは……、ないんじゃないかな」
いっている途中で、言葉から自信が失われていくのがわかった。
僕は、今日何度も見てきた紫色のシステム障壁を思い出す。
街中で、プレイヤーを保護する光の壁。あの紫色の閃光が機能していれば、ダメージを負うことも、勝手に
案の
「システムには抜け穴が付き物だしぃ、そもそもコードがずっと残ってくれる保証もないよね。茅場の気が変わったら
「……じゃあ、少なくとも、回線が繋ぎ直されるまでは、部屋に閉じこもってた方がいいってこと?」
僕は
「そうそう。その
少しだけ空気が緩むのがわかった。
ああ、そうか、そうだよな、と僕はそれをなんだか遠い世界の話のように聞いていた。アーガスとか、政府。現実では今頃えらい騒ぎだろう。家族はどうしているだろうか。
もしも現実の誰かの手によって、この状況が打破されたなら、電子の
「そ、そうだよね。きっと帰れるよね……」
彼女が隣で、吐息にわずかな
けれども、誰も、彼女の言葉を否定も肯定もできないようだった。
彼女はみんなを見回してから、ゆっくりとまた、顔を
「な、なあっ、あのさ」
急に
「こんなときにスゲェあれなんだけど、腹減らね?」
一瞬、
「あー……」と、みんなして
空腹なんて忘れていた。そして今、思い出したのだ。
それから、腹減った、減ったね、お腹空いた……との声がぽつぽつと上がった。僕もそう聞いてみると、なんだか
「ここじゃ食べなくても死なないと思うけどぉ、絶食は厳しいかなあ……」
と、テツオ君。
ここで彼は初めて、意見を
ケイタ君は1、2、3秒と
「よし、ダッカー、お前を買い出し隊長に任命する」
「アイアイサ!」
と、気合いを入れるダッカー君に、なおも指示が続く。
「僕の希望は焼きそばパンだ」
「あ、ボク、チョココロネ」
「おれぇ、カツサンド食べたいなあ」
「じゃあ私、メロンパン」
「えーと、カレーパンをお願い」流れで注文してしまった。え、でもそんなのあるの?
ダッカー君は、よぉし任された! と一声上げて立ち上がり、みんなの
「うぉい!? 無茶いうなよ?!」
ノリツッコミを決めて、みんなを笑わせた。
なんだ、冗談か。
食べたかったな、カレーパン。