SAO外伝 血の盟約の下に   作:佐藤 黎曜

12 / 33
 ゜д゜)鬱死・・・


女の子って よくわからない

 結局、買い出しのときはみんなで出て、それからできるだけ早く宿に戻ろうという話になった。みんなで出ていって、近場にあったNPC経営のパン屋に行った。カレーパンはなかったけれど、それぞれ五コルくらいの変な色の付いた薄い味つきパンと、三コルの、コラル水、という同じく薄めのレモン水みたいな飲み物を買って、宿で飲み食いした。僕は、なし(くず)しに、彼らと行動を共にするようになった。

 

 初日の晩は、食事を済ませてから彼らとひとまず別れて、自分の部屋を取って、()われて、彼らに部屋番号を教えておいた。部屋には空室がまだずいぶんあって、すぐいっぱいになる、という彼女にいって聞かせた心配は、どうやら杞憂(きゆう)だった。まだ多くのプレイヤーは、混乱から抜け切れておらず、宿を取るという考えに至っていないのか、それともみんなフィールドに出ていってしまったのだろうか。死んでしまうのだろうか。

 

 

 僕は部屋で、ディアベル戦を元にイメージトレーニングをしたり、狭い場所でも無駄なく動けるよう、ソードスキルを(から)()ちで練習したりしていた。ソードスキルの描く軌跡には、角度にして10から20度ほど、どうやら遊びがあるようで、相手との距離や、互いの姿勢から調整すれば、敵の防御をすり抜けたり、死角を突いたりできるかもしれない。気をつけなければならないのは、あまりにも本来の技の軌道を外れると、動きが途中で止まり、コンマ数秒、武器が宙に()()められたように動かなくなってしまうことだ。これはシステムに課せられた硬直時間のようだった。システムに頼らない()()と斬撃を合わせて、相手の(すき)を作ってより効果的にソードスキルを叩き込めるよう技を組み立ててゆく。()りは、自重(じちょう)した。まだ使いこなせない。蹴りを本格的に学び直すには、組手(くみて)の相手か、サンドバッグかなにか――とにかく蹴るべき対象が必要だった。

 

【スタブ・フォール】活用三種。低い敵、()せった敵への撃ち下ろし。振り被った敵の(ふところ)深くに入り込んで鎖骨(さこつ)()ち。または自分から小さく(かが)んで密着距離から心臓突き。

 

 踏み込み、振り下ろし、踏み込み、振り下ろし。

 

 仮想の身体(からだ)を動かしながら、自問自答する。

 

 僕はなにをしている。

 

 備えているのだ。

 

 備える。なにに。

 

 戦いに。

 

 期待しているのか、戦うことを。

 

 必要だからやるだけだ。

 

 すぐに必要なことではなかっただろう。お前はフィールドに出ようとしたな、どうしてだ。

 

 戦うためだ。

 

 なにと戦う。

 

 敵と。

 

 敵とはなんだ。

 

 茅場晶彦。

 

 なぜ戦うんだ。

 

 戦うためだ。

 

 ……取り()めのない考えは、やがて五体が内の蠢動(しゅんどう)へと()まれて消えてゆく。

 

 ()り足、(おく)り足、()んで、(ひね)って、振り下ろし。

 

 打って、刺す。打って、刺す。

 

 受け、払い、引き込んで固めて刺す。回り込んで(くず)して斬―――

 

 僕は足捌(あしさば)きを過ち、ベッドの(ふち)にスネの脇を打ちつけ、そのまますっ転んだ。

 

「……」狭い。

 

 僕が大の字になっていると、コンコン、と、控えめなノックが響いた。

 

 続いて、遠慮がちな声。

 

「サチです。……入っても、いい?」

 

「はい、どうぞ」

 

 と、反射で返事してしまう。待て、いいのかこれ。

 

 長い()があって、再び、ノックが響いた。

 

「あの、私、開けられないの……」

 

「あ、ああ、そっか」

 

 部屋を借りた本人にしかシステム的に開けられないのだった。僕はナイフを革ベルトに戻し、自分でノブに手をかけ、(うち)に扉を開いた。

 

「どうぞ」

 

「お邪魔します……」

 

 手で示して招き入れると、彼女はしずしずと部屋の真ん中あたりまで歩いて、それから所在なげに立ちつくしてしまった。

 

「……立ってないで、座ったら」

 

「……うん」

 

 彼女はぎこちなくその場に、床に正座して、(うつむ)いてスカートの(すそ)を両手で握った。

 

「……いや、ベッド座っていいけど」

 

「あ! だ、だよね、そうだよねっ」

 

 慌ててベッドに飛び乗るように腰かけて、さっきと全く同じようにスカートの裾を握って、顔を伏せてしまう。

 

 様子がおかしい。それとも女の子というのはこういう生き物なのだろうか。小さい頃の妹と全然違うんだけど。僕の身体(からだ)が病院に移ったら、見舞いにくらい来てくれるだろうか。

 

 ……結局、家族にまた心配かけちゃうな。

 

 考えながら、僕は彼女の隣には腰かけず、化粧台の丸椅子に座った。

 

 彼女より僕が、ベッドより丸椅子が高くて、おまけに彼女は俯いているので、顔が全然見えない。頭のつむじや天使の輪を眺めても考えが読めるはずもない。いや、顔が見えても読めないんだけどね? って、誰にいいわけしてるんだ僕は。

 

 ……気まずい。

 

「もしかして、うるさかった? みんなの部屋にまで、音が響いちゃったのかな」

 

 足運びは()り足が主だったのだけれど、音が届いてしまったのかもしれないと思った。だとしたらマズい。近所迷惑(はなはだ)だしいだろう。謝罪の上、稽古(けいこ)の仕方を考え直さなければならない。

 

 けれど彼女は慌てたふうに首をふるふる振って、僕の心配を打ち消した。

 

「ううん、違うよ。扉が閉まってれば、確かほとんどの音は遮断(しゃだん)されるはずだから。聞こえるのは、ノックと、ノックの後の何秒かの音と、戦闘の効果音に、叫び声だって」

 

 彼女が僕の部屋に来た理由はさておき、気になる話だった。

 

 とにかく話題が欲しかったこともあって、僕は食いついた。 

 

「それ、覚えてたの?」

 

「え?」

 

「今の話。電子マニュアルって、向こうでダウンロードしないと読めないんじゃないの?」

 

「うん、だいたいのことは向こうで覚えてきたよ」

 

「……じゃあ、システムのこと、色々教えてもらっていい?」

 

「うんっ」

 

 と、彼女は急に嬉しそうに笑ってから、すぐにまた俯いてしまった。

 

「あの、メニュー、一緒に見なくちゃだから、隣に……」

 

「ああ、じゃあ……、失礼します」

 

 おっかなびっくり、左隣に腰を下ろす。隣はもうこれで三回目だっけ。

 

 ぎし、と二人分の体重にベッドが(きし)んだ。こんなところまでリアルに作り込まないでほしい。

 

「ウィンドウ、開いて……」

 

「うん」

 

「可視モードに」

 

「ああ、そっか」

 

 彼女の指が、可視化された僕のトップメニューを上から順番に、一番下までなぞった。

 

 一瞬だけ彼女が小さく息を()いた。

 

「ないね。ログアウトボタン……」

 

「……うん」と、僕はあいまいに頷くしかできない。

 

「ヘルプメニュー」いわれて、ボタンを押す。

 

 トップ画面と同じく、ボタンは残っているものの機能しないGMコールが見えた。

 

 お互い、話題にはしない。

 

 それから僕は、マップの呼び出し方や、自分のHPバーの他に現在地や時刻表示を視界へ常に表示させておく方法、メニューウィンドウの背景表示の変更に、ディアベルのいっていた、()らったことのあるソードスキルの確認方法など、色々なことを彼女に確かめた。彼女は人にものを教えるのが得意なのか楽しいのか、少しずつ緊張が抜けてゆくのがわかった。マニュアルほど詳しくはないけれど、リファレンスヘルプというのもあって、見方を教わった。

 

「助かったよ、ほんとに。ありがとう」

 

 僕は一通りのことを教わってから、彼女に礼を述べた。

 

「ううん、全然。こんなことでよければ、いつでも聞いてくれていいよ。それで、その……、また聞きたいことがあったら、メッセージ、飛ばせたら便利でしょ? フレンド登録、お願いしていい、かな……?」

 

「いいの?」

 

 フレンドにはメッセージの他に、位置追跡の機能があったはずだ。

 

 メニューから居場所をたちどころに知られてしまう。この状況で、今日会ったばかりの男にそんなものを差し出してしまっていいものか、どうか。危機意識足りないんじゃないの?

 

「……うん。もう、聞いてるのは私なのに」

 

「わかった。どうすれば……」

 

「オプションから、アプライ。……フレンド。私のカーソルをタップして」

 

 彼女の頭の上の、緑のカーソルをつつくと、目の前にシステムメッセージが現れた。

 

【Sachi へフレンド登録を申し込みました。受諾(じゅだく)待ちです】

 

 彼女が、自分の前に現れた小窓の、YESボタンに触れた。

 

【Sachi へのフレンド登録が受諾されました】

 

 彼女は満足げに頷くと、これでいつでも連絡取れるよ、と、笑った。

 

 笑ったまま彼女は僕に、急にこんなことを訊いてきた。

 

「さっきの、テツオの話、嘘だよね」

 

「……どの話?」

 

 僕は面食(めんく)らいながらも問い返した。

 

 初対面ではあるけど、彼の話は誠実で、論理的に思えた。嘘? どこに?

 

「君が、街の外に出ようとしてたって話、嘘だよね」

 

 ……そのときの僕の心情を、いい表わすのは至難(しなん)を極める。だから、割愛(かつあい)して起こったことだけ記述する。僕と彼女が話したことだけを。

 

 僕はたっぷり三秒も彼女の、笑みに細まって垂れた目の奥を見つめた。彼女は笑んだまま、僕の答えを待っていた。

 

 僕は声が震えないように細心の注意を払いながら、目を()らさずに微笑(ほほえ)んで答えた。

 

「うん、嘘だよ。彼、なにか勘違いしてたみたい。そんな危ないことするわけないのにね」

 

 僕の答えを聞いて、彼女はなんだか泣きそうに笑った。

 

「よかった。……あ、もうこんな時間だね」

 

 と、彼女は多少、わざとらしくいってから、ベッドを立った。

 

 ひとり分の体重を失って、再びベッドが軽く軋む。

 

 僕は追って立ち上がることをせず、座ったままドアに向かってゆく彼女を見送った。

 

「おやすみなさい。……また明日」

 

 彼女はノブに手をかけたまま、背中越しに軽く振り向いてそう挨拶(あいさつ)してから、するりと部屋を出ていった。内側から開けるのは、宿の借り主でなくとも自由らしい。

 

 結局なにしに来たのだろう。訪ねてきたのと同じ唐突(とうとつ)さで去ってゆく彼女を見て、僕はなんとなく、近所の野良猫を連想した。僕の地元はとにかく猫が多いのだ。(さみ)しがりやで、けれど気まぐれな奴ら。

 

 僕はベッドに仰向けになって、天井を眺めながら、一言。

 

「……部屋の灯りって、どうやって消すのかな」

 

 天井の四隅(よすみ)に、小さくて四角い照明らしきものが光っていたけれど、スイッチの類いは部屋のどこにも見当たらなかった。

 

 そのまま、明るい部屋で眠った。

 

 教わったばかりのメッセージ機能で、訊いてみるのは、はばかられた。

 

 女の子って、よくわからない。

 

 僕自身のこともよくわからなくなっていた。嘘だという嘘が何度も脳裏(のうり)をよぎって、眠りは浅くなった。

 




ディアベル「よう。こんなトコまで読んでもらってあんがとな。実はな……、筆者の根性なしが鬱に入っちまってだな、うっとうしいことこの上ねえ。手間ぁかけさせてワリィんだが、誰か評価なり感想なりでメンタルをヘルスしてやってくんねえか。
 こんままだとオレがコボルトロードのLAかっさらうトコまで話が進まね……、あん? よせ? カタナスキル? なにいってんだお前ら、オレが一層なんざでやられるわきゃ【見えざる運命の力にコメントは削除されました】」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。