結局、買い出しのときはみんなで出て、それからできるだけ早く宿に戻ろうという話になった。みんなで出ていって、近場にあったNPC経営のパン屋に行った。カレーパンはなかったけれど、それぞれ五コルくらいの変な色の付いた薄い味つきパンと、三コルの、コラル水、という同じく薄めのレモン水みたいな飲み物を買って、宿で飲み食いした。僕は、なし
初日の晩は、食事を済ませてから彼らとひとまず別れて、自分の部屋を取って、
僕は部屋で、ディアベル戦を元にイメージトレーニングをしたり、狭い場所でも無駄なく動けるよう、ソードスキルを
【スタブ・フォール】活用三種。低い敵、
踏み込み、振り下ろし、踏み込み、振り下ろし。
仮想の
僕はなにをしている。
備えているのだ。
備える。なにに。
戦いに。
期待しているのか、戦うことを。
必要だからやるだけだ。
すぐに必要なことではなかっただろう。お前はフィールドに出ようとしたな、どうしてだ。
戦うためだ。
なにと戦う。
敵と。
敵とはなんだ。
茅場晶彦。
なぜ戦うんだ。
戦うためだ。
……取り
打って、刺す。打って、刺す。
受け、払い、引き込んで固めて刺す。回り込んで
僕は
「……」狭い。
僕が大の字になっていると、コンコン、と、控えめなノックが響いた。
続いて、遠慮がちな声。
「サチです。……入っても、いい?」
「はい、どうぞ」
と、反射で返事してしまう。待て、いいのかこれ。
長い
「あの、私、開けられないの……」
「あ、ああ、そっか」
部屋を借りた本人にしかシステム的に開けられないのだった。僕はナイフを革ベルトに戻し、自分でノブに手をかけ、
「どうぞ」
「お邪魔します……」
手で示して招き入れると、彼女はしずしずと部屋の真ん中あたりまで歩いて、それから所在なげに立ちつくしてしまった。
「……立ってないで、座ったら」
「……うん」
彼女はぎこちなくその場に、床に正座して、
「……いや、ベッド座っていいけど」
「あ! だ、だよね、そうだよねっ」
慌ててベッドに飛び乗るように腰かけて、さっきと全く同じようにスカートの裾を握って、顔を伏せてしまう。
様子がおかしい。それとも女の子というのはこういう生き物なのだろうか。小さい頃の妹と全然違うんだけど。僕の
……結局、家族にまた心配かけちゃうな。
考えながら、僕は彼女の隣には腰かけず、化粧台の丸椅子に座った。
彼女より僕が、ベッドより丸椅子が高くて、おまけに彼女は俯いているので、顔が全然見えない。頭のつむじや天使の輪を眺めても考えが読めるはずもない。いや、顔が見えても読めないんだけどね? って、誰にいいわけしてるんだ僕は。
……気まずい。
「もしかして、うるさかった? みんなの部屋にまで、音が響いちゃったのかな」
足運びは
けれど彼女は慌てたふうに首をふるふる振って、僕の心配を打ち消した。
「ううん、違うよ。扉が閉まってれば、確かほとんどの音は
彼女が僕の部屋に来た理由はさておき、気になる話だった。
とにかく話題が欲しかったこともあって、僕は食いついた。
「それ、覚えてたの?」
「え?」
「今の話。電子マニュアルって、向こうでダウンロードしないと読めないんじゃないの?」
「うん、だいたいのことは向こうで覚えてきたよ」
「……じゃあ、システムのこと、色々教えてもらっていい?」
「うんっ」
と、彼女は急に嬉しそうに笑ってから、すぐにまた俯いてしまった。
「あの、メニュー、一緒に見なくちゃだから、隣に……」
「ああ、じゃあ……、失礼します」
おっかなびっくり、左隣に腰を下ろす。隣はもうこれで三回目だっけ。
ぎし、と二人分の体重にベッドが
「ウィンドウ、開いて……」
「うん」
「可視モードに」
「ああ、そっか」
彼女の指が、可視化された僕のトップメニューを上から順番に、一番下までなぞった。
一瞬だけ彼女が小さく息を
「ないね。ログアウトボタン……」
「……うん」と、僕はあいまいに頷くしかできない。
「ヘルプメニュー」いわれて、ボタンを押す。
トップ画面と同じく、ボタンは残っているものの機能しないGMコールが見えた。
お互い、話題にはしない。
それから僕は、マップの呼び出し方や、自分のHPバーの他に現在地や時刻表示を視界へ常に表示させておく方法、メニューウィンドウの背景表示の変更に、ディアベルのいっていた、
「助かったよ、ほんとに。ありがとう」
僕は一通りのことを教わってから、彼女に礼を述べた。
「ううん、全然。こんなことでよければ、いつでも聞いてくれていいよ。それで、その……、また聞きたいことがあったら、メッセージ、飛ばせたら便利でしょ? フレンド登録、お願いしていい、かな……?」
「いいの?」
フレンドにはメッセージの他に、位置追跡の機能があったはずだ。
メニューから居場所をたちどころに知られてしまう。この状況で、今日会ったばかりの男にそんなものを差し出してしまっていいものか、どうか。危機意識足りないんじゃないの?
「……うん。もう、聞いてるのは私なのに」
「わかった。どうすれば……」
「オプションから、アプライ。……フレンド。私のカーソルをタップして」
彼女の頭の上の、緑のカーソルをつつくと、目の前にシステムメッセージが現れた。
【Sachi へフレンド登録を申し込みました。
彼女が、自分の前に現れた小窓の、YESボタンに触れた。
【Sachi へのフレンド登録が受諾されました】
彼女は満足げに頷くと、これでいつでも連絡取れるよ、と、笑った。
笑ったまま彼女は僕に、急にこんなことを訊いてきた。
「さっきの、テツオの話、嘘だよね」
「……どの話?」
僕は
初対面ではあるけど、彼の話は誠実で、論理的に思えた。嘘? どこに?
「君が、街の外に出ようとしてたって話、嘘だよね」
……そのときの僕の心情を、いい表わすのは
僕はたっぷり三秒も彼女の、笑みに細まって垂れた目の奥を見つめた。彼女は笑んだまま、僕の答えを待っていた。
僕は声が震えないように細心の注意を払いながら、目を
「うん、嘘だよ。彼、なにか勘違いしてたみたい。そんな危ないことするわけないのにね」
僕の答えを聞いて、彼女はなんだか泣きそうに笑った。
「よかった。……あ、もうこんな時間だね」
と、彼女は多少、わざとらしくいってから、ベッドを立った。
ひとり分の体重を失って、再びベッドが軽く軋む。
僕は追って立ち上がることをせず、座ったままドアに向かってゆく彼女を見送った。
「おやすみなさい。……また明日」
彼女はノブに手をかけたまま、背中越しに軽く振り向いてそう
結局なにしに来たのだろう。訪ねてきたのと同じ
僕はベッドに仰向けになって、天井を眺めながら、一言。
「……部屋の灯りって、どうやって消すのかな」
天井の
そのまま、明るい部屋で眠った。
教わったばかりのメッセージ機能で、訊いてみるのは、はばかられた。
女の子って、よくわからない。
僕自身のこともよくわからなくなっていた。嘘だという嘘が何度も
ディアベル「よう。こんなトコまで読んでもらってあんがとな。実はな……、筆者の根性なしが鬱に入っちまってだな、うっとうしいことこの上ねえ。手間ぁかけさせてワリィんだが、誰か評価なり感想なりでメンタルをヘルスしてやってくんねえか。
こんままだとオレがコボルトロードのLAかっさらうトコまで話が進まね……、あん? よせ? カタナスキル? なにいってんだお前ら、オレが一層なんざでやられるわきゃ【見えざる運命の力にコメントは削除されました】」