(筆者は情緒不安定)
最後に礼をひとついって、ケイタ君は引き上げていった。
なんだか
壁をタップして、消灯ボタンを押すと、フッと闇が降りた。
頭の上には、はめ殺しの小窓もあるけれど、表面にはのっぺりした薄闇が広がるばかりで、なんの光もない。岩の
闇の中、彼女のことを想う。
気にかけるとはいったものの、やっぱりどうすればいいのかわからない。なんて声かければいいんだ? がんばれ? みんないるからだいじょうぶ? 僕がついてる?
どれも、五百という死者の重みを、その恐怖を
ふと、メニューを開く。四角い画面がくっきりと闇をくり抜いて浮かび上がる。
昼間はできなかったけれど、やっぱりメッセージを送ってみるべきだろうか。顔を合わせなければ、直接いい
寝転んだままメッセージ画面を開いて、宙に浮かぶ半透明のキーボードの前で手を遊ばせ、結局なにも打ち込めないまま、まっさらな画面とにらめっこして、にらめっこして――
……無理。なんも浮かばない。
バックボタンで一つ前の画面にとって返し、そして僕はその文字を見つけた。
【Trace】。たぶん、位置追跡。これでフレンドの居場所がわかる。
それがひどく危なくていけないモノのような気がしてしまった。
これにそっと指で触れるだけで、彼女の居場所がたちどころに判明してしまう。
こんな機能、どうしてあるんだろう、と疑問に思う。トラブルの種じゃないの?
フレンド登録は一方的に解消することができるので、居場所を知られたくない、とか、メッセージがうっとうしい、とか思ったらさっさと名前を消してしまうこともできる。でも、それにしたって、こんなところまで作り込まなくてもいいんじゃない? せっかくファンタジーな世界なんだから、ボタンひとつで言葉が届いてしまう安っぽいリアルさがなんだかそぐわない気がしてしまう。ケータイ、メール、GPS、文明の
人付き合いは慎重に行おう、と気に留めつつも、なんだか僕はその追跡ボタンが気になって仕方がなくなってきた。いけない、と思いつつそっと指を伸ばしてみる。
「……いや、なにしてんのさ僕」
ひとり孤独に自らの行いにツッコミを入れて、バックボタンを押す。
もうやめだ。なにしろ明日は早い。設定メニューを開いてアラームをセットする。出発が五時半なら、五時ちょうどでいいだろう。いや、調子を戻すのにアップもするから、四時半にしよう。なにもかも明日だ。彼女のことも、そのときに考えればいい。狩りのときにパニックを起こすようなら守ってやればいいし、でなければ放っておこう。
現在時刻は、もうそろそろ深夜
今度こそメニュー画面を閉じると、僕は今度こそ混じり気のない闇の中に落ちる。けれども、視界の左上には
なんだか奇妙な気分だ。もう五時間もしたらこのメンバーではじめての狩りに出かけるのだ。
パーティメンバーのそれは、視界を
「……ん?」
いや待て、五本? 自分のも合わせて?
表示されたHPバーの名前を上から順に確かめる。
【Tigikun】【Keita】【Tetsuo】【Dacker】【Sasamaru】。
彼女の名前が、ない。
僕はガバリとベッドから飛び起きた。どういうことだ? 彼女がパーティを抜けた? 昼間にはきちんと六人分のHPバーが表示されていた……、気がする。確証はないけれど。
パーティを抜けたなら、彼女はどこに行った? ケイタ君たちはこれに気づいているのだろうか。どうすればいい? これ緊急事態じゃないの?
しばらくマゴついてから僕はこの状況を打開する方法に思い至った。いや、でもこれ、だいじょうぶ?
「……緊急だから、許してよ」
結局、僕は自分にそういいわけして、メニューを開き、フレンドリストから彼女の名前を呼び出すと、
【trace】ボタンにそっと触れた。
【Trace a Friends Location……】の文字が
初めて使うフレンドの位置追跡機能は
【第一層 はじまりの街 南端テラス】
意味がわからなかった。
「……は?」
そして一瞬の
「ふっ、ざ、け……ッ?!」
僕は装備欄をいじって靴を履くこともせずにメニューを速攻で
現在レベル1のこの
真夜中まで商売をやめない
やがて風と共に目の前が
走り込み、
ずしゃあ、どっ! と、柵に腹のあたりから激突した僕は、仮想の慣性と遠心力に従い
石畳に背中を打ちつける。
天地がひっくり返って、
視界の端から、ひょい、と
「なにしてるの! 危ないよっ?!」
「君を探しにきたんだよ……」
なんだかもうどっと疲れた。なんなんだよ。なんで僕、怒られてんの?
サチ、サチぃ……(T_T)
うええ……(泣)