SAO外伝 血の盟約の下に   作:佐藤 黎曜

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 にゃー 


穏やかな日々

 それから数日、単調で穏やかな日々が続いた。

 

 朝早くに出て猪を狩り、街に帰って訓練場で戦闘訓練。晩にはレストランで酒盛り。

 

 みんなで装備を見繕(みつくろ)ったりした。

 

 彼女の買い物に付き合った。

 

「これ、どうかな?」

 

 猪の毛皮を集めるクエストを受けられる、NPC経営の服屋。向こうで僕の勤めていた服飾店より、品も店内もだいぶ地味な配色だった。フロアもラックもハンガーも、全部木製。染料(せんりょう)の問題か、商品たる服の色もほとんど暗くくすんでいる。第一層、つまりは一面の最初の街だけに、あんまり()った品はないらしい。向こうで売ってた派手なアロハが懐かしかった。

 

 試着室のカーテンを開けて出てきた彼女は、ダークレッド、コットン生地(きじ)長袖(ながそで)に長ズボン。(がら)はないので、(さび)しい。

 

 僕は多少悩んで感想を口にする。

 

「やっぱり明るさが足りない、かな……。上から猪ベスト羽織(はお)ってみたら?」

 

「でもこれ、パジャマのつもりだから……。あれ、防具でしょ? 寝るときは外したくって」

 

「そっか。組み合わせを考えないなら、どうせおんなじ暗い色だったら、青がいいな」

 

「青?」

 

「見慣れてるからかもしれないけど、君には青が一番似合う」

 

 その日の彼女は、紺色の上下を一組だけ買った。

 

 

 

 

 

 

 

 訓練場で、模擬戦(もぎせん)というのをやってみた。

 

 街中ではHPが減らないことを利用して、実際に武器で打ち合うのだ。

 

 人と武器を向け合うことを嫌がった彼女は見学だ。男性メンバーで総当たり戦。紫色のシステム障壁が開いたら一本。

 

 ケイタ君が相手だと勝率は三割を下回ってしまった。長棍(ちょうこん)の打撃をかい(くぐ)って(ふところ)に入るのは想像よりずっと難しかった。ディアベルを相手に一矢(いっし)(むく)いたのは、戦いがHP制の長期戦で、攻防の流れから動きを見切れたからだ。それに今使っているダガーにナックルガードはない。

 

 長槍遣(ながやりつか)いのササマル君が相手でも同じ理由で勝率は四割弱。

 

 片手持ちの棍棒(こんぼう)遣いのテツオ君が相手だと六割。

 

 ……ただ、しつこく挑んでくるダッカー君を相手に二十連勝してしまった。

 

「なんでだー?!」と彼は叫ぶ。

 

 最初の十回くらいは勝ったり負けたりしていたのだけれど、そのうち僕が連勝し始めて、もう勝てる気しかしなくなった。ダッカー君は他のメンバーにもほとんど勝てていなかった。

 

「ほら、僕らまだステータスに開きがないから」

 

 と、ケイタ君は慰める。

 

「リーチのない短剣遣いはスピード命だろ? レベルを上げてAGIにポイントを振っていけば、また結果は違ってくるさ」

 

 AGI、というのはアジリティの略で、敏捷値(びんしょうち)のことだ。対して、筋力値(きんりょくち)をSTR、ストレングスと呼ぶ。このゲームでは、レベルが上がったときにもらえるポイントを、この二つの能力に任意で割り振る仕様だ。

 

 レベルが低いうちは、間合いの短さに対して充分なスピードが得られず、軽装な短剣遣いの優位を発揮(はっき)できないのだと、そういうことだろう。

 

 けれど、と僕は思う。

 

 本当にそうだろうか。

 

 身体(からだ)の性能や、武器の間合いで劣ればそれのみで敗北が決してしまうのか。

 

 かつて僕の求めた空手は、その程度のものだったろうか。

 

「お前らはまだいいけどさ」

 

 と、とりとめのない思考はダッカー君に(さえぎ)られた。

 

 彼は唇をとがらせて、力なく僕を指差す。

 

「同じ装備のコイツに勝てないのは納得いかねー……」

 

 いや、納得いかないといわれても。

 

「その、短剣の動きは僕も知ってるからさ、構えでどのソードスキルが来るかわかるんだよ。技を狙って撃つんじゃなくて、攻防の流れの中に初動を取り込まないと」

 

「通常攻撃も当たらねーんだけど……」

 

「ちょっと振りが大きい割に、キレがないかなって。突きは(わき)()めて、足裏(あしうら)から地面の力を吸い上げて、腰で(しぼ)って背中で撃たなきゃ。斬るのも、手先まで力が(とお)ってないから軽いし」

 

「なんでお前ソードスキル素手(すで)で弾くの……、絶対(ぜって)ぇおかしい……」

 

()に触れなきゃどうってことないし」

 

「いやだから、ソードスキルのスピードとパワーがなんでただのチョップに押し負けるわけ?」

 

「間合いと技の()りが読めれば、防御は相手の攻撃に間に合うよ。それに押し勝ってないよ、()らしてるだけだよ。力の向きに対して斜めに打つんだよ」

 

「なんでお前そんなパンチ強いの。コード越しなのに頭ガンガンすんだけど」

 

「……鍛錬(たんれん)?」

 

 ダッカー君はケイタ君にヨロヨロと歩み寄ってしがみついた。

 

「ケイタ、助けてくれ。こいつがなにいってるかちょっとわからない」

 

「しょうがないだろ、彼リアル格闘家なんだから。あと抱きつくな、ウザいぞ」

 

 ダッカー君はズルズルと彼女に()い寄って助けを()うた。

 

「サチ、(なぐさ)めてくれ。オレは深く傷ついている……」

 

「ごめん、ちょっとウザいかなって……」

 

 ダッカー君は小さくなった。ダッカー君はさめざめと泣いた。ササマル君が歩み寄って、彼の背をポンポンと叩いて(はげ)ました。

 

 ふと、ケイタ君がいう。

 

「サチ。へなちょこダッカーは見ての通り、コテンパンのケチョンケチョンにのされて再起不能だ。これからしばらくはウジムシのようにのたくるばかりで動かないだろうから、代わりにティジクン先生の稽古を受けてみたらどうだ?」

 

「いいすぎだろッ?!」

 

 あ、元気になった。

 

「うーん……、ちょっと怖いよ」

 

「え、僕、怖い……?」

 

 リアクションを見事に流されたダッカー君ほどではないにしても、ちょっと傷つく。

 

「まあ、そういうな。なにも打ち合えってわけじゃないから。動いてる(まと)に当てられるようになったら、ちょっとは自信、つくだろ。ひとりでも猪くらい倒せるようになってもらわなきゃ。どう? ティジクン」

 

「そういうことなら、やってみる?」

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基礎から見直した方がいいかな。

 

 はいまず準備体操ね。(ひざ)の力、抜いて腰を落として。足裏(あしうら)をべったり地面につけて、膝()れて、骨盤(こつばん)、背骨、胸って順番に左右に(ひへ)って。下から順番ね。体幹(たいかん)(ひね)りだけで両腕を振って。肩から先は、骨が入ってないと思って全部脱力して。いち。に。いち。に。いち。に。

 

 じゃあ槍、構えて。

 

 ほら脇()めて。両手は(てのひら)を上にして槍を乗っけて。固く握っちゃダメだよ、力抜いて。よし、(ひね)って。下から順番。まだ腕に力入れないで。勢いで自然に出る感じで。伸ばし切らなくていいから、撃ち始めの動きだけ。左掌は滑走路(かっそうろ)だから、その場に置いて、(つか)(すべ)らせて。柄頭(つかがしら)の右手を捻りながら前に出して。(わき)()めて、脇。大きくゆっくり動いて。けど無駄は省いて。力の流れがわからないうちは小さく鋭く撃てないから、無理しない。猪相手ならこれで充分。よし力が乗ってきた。軌道が安定したら左手を脇に引きつけて、右腕を伸ばし切って。ほら、ブレないブレない。まっすぐ。よしゆっくり、いち、に。いち、に。はいスキル起こして!

 

 ―――キュイ、ボン!

 

 はい、いい調子。クーリングタイムが終わるまで反復練習。いち、に。いち、に。いち、に。いち、に。いち、に。いち、に。腕に力を込めるのは伸ばし切る瞬間だけ。上半身が前に(かたむ)かないように、背筋(せすじ)はまっすぐ。力抜いて、抜いて、抜いて、いち、に、いち、に、いち、に、はいスキル起こして!

 

 ――――キュ、ボヒュ!

 

 反復続けて。今度は引き手を意識して、腕が伸び切る直前に腰を返して逆に(ひね)って。右腕は(むち)だと思って。伸ばし切って打ち抜く瞬間だけ固めて鉄になる。ちょっとずつ速くして。いちっに、いちっに、いちっに、いちっに、スキル起こして!!

 

 ―――――キュボッ!!

 

 続けて。いい感じいい感じ。いちにッいちにッいちにッいちにッいちにッいちにッいちにッ ラスト十本! いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、く、じゅ、スキル起こして!!

 

 ――――――キュパァンッ!!

 

 

「はいオッケー、これなら猪は一撃。これで君も立派な猪キラーだ。やったね!」

 

「や、やった……?」

 

「じゃあいよいよ動いてる(まと)に当ててみよう。ほら、構えて構えて」

 

「ほえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ササマルそっちいったぞ!」「囲い込め囲い込め囲い込め!」「無理! 速すぎる?!」「抜けられた!」「うわぁ!?」「ケイタ?! ケイタぁ!!」「あとは頼む……、奴を、倒してくれ……」「くっそーッ!!」「よせダッカーっ! 突っ込むな!!」「ぐはぁ!!」「スキルが弾かれた?!」

 

 ぶもぉ! ぶもっぶもっ、ぶももお!!

 

「く……、おれが機を作る! サチ! 撃つんだ!!」「テツオ、無茶しないで! あんなの絶対無理だよぉ!!」「ボクもいく!」「ササマルまで、そんな?!」

 

 ぶももぉ……!!

 

「「うおぉおおおおおおおおおおお!!」」

 

 ぶもっふ!! ぶんもっふ!!

 

「「うぁあああああああああああっ?!」」

 

「テツオ! ササマルっ?!」

 

 ぶもぉ……、ぶふもぉ……。

 

「サチ……、撃つんだ……、サチ……」

 

「そんな……、無理……、こんなの無理だよ……」

 

 ぶも……、ぶもも……。

 

「無理……、ぶふっ……、無理だって……、クスクス……」

 

 ぶんもぉーーーーーーッ!!

 

「もう、いつまでやってるのっ?!」

 

 ぶもぶもいいながら()つん()いで彼女に跳びかかった僕は、カウンターのソードスキル、見事な突きを喉笛(のどぶえ)にもらって、後方に大きく吹き飛ばされた。

 




 
 にゃーにゃにゃん(>­_<)/☆
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