SAO外伝 血の盟約の下に   作:佐藤 黎曜

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 すみません、増改稿に手間取りました(汗)

 書き下ろしの量が増えてきています。皆様の声が頼りです。

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攻略を目指しているわけでもないのだろう

 そんなふうに日々は続いた。こんな日々がずっと続けばいい気がしていた。

 

 けれど、どんな日々も流れゆき、いつかは思い出の(ふち)へ、忘却(ぼうきゃく)彼岸(ひがん)へと辿(たど)り着く。

 

 いろんなことを置き去りに、時間はずっと進みゆく。

 

 未来はいつか、()けようのない終わりを(たずさ)えて目前に迫りくる。

 

 逃げ場はない。

 

「少し、遠慮(えんりょ)してもらえないか」

 

 この世界に来てから二週間が経とうとしていた、早朝、東の草原。

 

 いつものクエストを受けて(いのしし)を狩っていると、声をかけてくる者がいた。

 

 右手に抜身(ぬきみ)の剣を、左手に大きな盾を携えた大柄(おおがら)な男が、角刈(かくが)りの髪に(ふち)どられた(いか)めしい顔を(しぶ)めて、重い声音(こわね)で迫ってきていた。

 

 雰囲気(ふんいき)から、どうやら僕より年上だ。三十前後、だろうか。

 

 僕らが呆気(あっけ)に取られて答えに(きゅう)すると、彼はもう一度、遠慮してもらえないか、と、細めの(まゆ)をしかめ、小さく鋭い目で(にら)みをきかせながら、繰り返し口にした。

 

「えっと……」

 

 ケイタ君が一歩進み出ると、首を(かし)げてどうにか硬い声を(しぼ)り出した。

 

「遠慮、というのは、狩りのことですか? 猪を倒すなと……」

 

「倒すな、とはいわん。だがこの場は退()いてもらいたい」

 

「どうしてですか?」

 

「我々は、はじまりの街のプレイヤーを(やしな)う資金を欲している」

 

 重苦しい声で彼は告げる。

 

「多くのプレイヤーが(いま)だ死の恐怖に(おび)え、街の外へ一歩も踏み出すことままならん。強き者、戦える者がモンスターから(とみ)を勝ち取り、公平に分け与えねばならない。見たところ、君らは()えをしのぐのに必要充分な所得を得ている。適当なところで引き上げるか、狩場を先に移してもらいたい」

 

 ひと呼吸おいて、

 

「攻略を目指しているわけでもないのだろう」

 

 そして彼は、僕の後ろに隠れる彼女を見た。

 

 毛皮のベストの下、胸元の、街の防具屋で買える一番上等な革の胸当てを見た。僕とケイタ君で割り(かん)して、遠慮する彼女へ強引に買い与えたものだった。

 

 彼の視線に彼女は縮こまって、僕の背に身を寄せて、シャツの(すそ)を握り()めてきた。

 

 この男のいうことも、態度も気に入らない。そんなことできるわけないだろうが。何人養うつもりだバカじゃないのか。剣(おさ)めろよ彼女が怯えてんだろ。

 

 僕がいい返そうと口を開くと、男の後ろから駆け寄ってくるふたつの人影に機先(きせん)を制された。

 

「コーバッツ、どうしたの……っ?」

 

 そのうちの一人、背中まであるポニーテールを大きく揺らして走り寄ってきた、右腰に短剣を差した細身の女性が、彼に声をかける。

 

「……話の途中だ」

 

「なんの話をしていたかって訊いてるのっ! 剣を納めなさい!!」

 

「ん……」

 

 彼は自分の得物に目線を落とすと、ゆっくりと腰の(さや)に納めた。

 

「……失礼した」

 

 一応の礼節はあるのか、それとも身内(みうち)の女性の前だからか、彼は慇懃(いんぎん)に頭を下げた。

 

 それから、女性に向けていう。

 

「今、彼らに狩場を退いてもらうよう注意していた」

 

 素っ気ない弁明(べんめい)に、女性は細く整った(まゆ)を吊り上げて、(とが)った怒気(どき)を突き上げた。

 

「フィールドは私たちのものじゃないわよ……ッ」

 

「そうだ、特定のパーティが独占していいものではない。この場は彼らが退()くべきだろう」

 

「あなたね……っ!」

 

 いい争いが続く。僕らは置き去りだ。勘弁(かんべん)してくれ。

 

 僕は二人の身内らしいもう一人、細長い身体(からだ)つきで(ちじ)れた短髪の男に目をやった。彼は落ち着かない様子で、垂れがちの気の弱そうな目から、(せわ)しなく二人の間で視線を往復させている。おい、なんとかしてくんないかな、という思いを込めて僕が見ると、彼は小さく縮こまって、申し訳なさそうにこちらへ会釈(えしゃく)した。僕は返礼した。その会釈は、この場を任せてくれるとの委任(いにん)の意に相違(そうい)ないね?(曲解) (うけたまわ)りました。じゃあ僕、キレます。

 

「あの」

 

 けれど(さいわ)いなことに、僕がキレてしまう前にケイタ君が口を挟んでくれた。

 

「クエストに必要なだけ素材を集めたら引き上げるつもりです。あと少しなんです。それまでここで、狩りを続けてもいいですか? どうしてもというのなら、よそに移りますけど……」

 

「はい、ええ、もちろん。どうぞこの場で。身内が失礼をしたようで申しわけありません」

 

 と、女性が、勢いよくポニーテールを揺らして、頭を下げた。

 

「……いえ。じゃあ、僕らはこれで」

 

 男の方はまだなにかいいたげだったけれど……、ダッカー君が強烈に(まゆ)をしかめて男を(にら)みつけていたけれど、ケイタ君はどちらも無視して、次の猪を見繕(みつくろ)うべく、僕らを目で(うなが)して、歩き出そうとした。

 

「あの、待って。ちょっと待ってくれますか」

 

 慌ただしい声がかかった。視線を戻すと、縮れ毛の男だった。

 

「申し遅れまして申し訳なく……」()んだ。

 

 一瞬、場が(しら)ける。女性が片手で自分の目を(おお)って天を(あお)いだ。

 

 彼はひとつ咳払(せきばら)いすると、(せわ)しなくも不安に揺れる声で、再び(しゃべ)り出す。

 

「すみません、私はシンカーといいます。厚かましいとは思いますが、お教えいただきたいことがあるのですが」

 

「……はい、なんですか」

 

 ケイタ君が硬い声で返すと、男は恐縮しながら続ける。

 

「今私たちは、ボアの毛皮と肉の収集系クエストを進行してるんですが、他に、素材収集系のクエストに心当たりはありませんか?」

 

 質問を受けて、ケイタ君は少しだけ迷う素振(そぶ)りをして、

 

「……どうしてそんなこと訊くんです」

 

 慎重に、質問で返した。

 

 シンカーさんは必死さの(にじ)声音(こわね)で答えた。

 

「今、街を出ることを決めた初心者たちの間で、狩場を巡ったトラブルが増えてるんです」

 

 さっきのがまさにそれだったわけだけど。

 

 僕は意図してコーバッツというらしい大男を(にら)んだが、どうも(つら)の皮が厚いようで、超然としていた。気に入らない。

 

 シンカーさんが話を続ける。

 

「システムが供給するリソースは……、一度にフィールドに出現するモンスターの数は限られています。大勢が大量に狩れば、Popが枯渇(こかつ)します。ですが、素材収集のクエストを受ければ、より効率よく稼げますから、余計な数を狩らずに済みますし、ボーナス経験値でレベルアップできたプレイヤーは狩場を先に移すので、街の周辺に(とど)まらずに済みます。プレイヤーの密集を防いで、争いを()けたいんです。お願いします」

 

 シンカーさんが頭を下げ、次いで、名の知れない女性と、コーバッツが遅れて続いた。

 

 ケイタ君はこちらを振り返って不安げに僕の方を(うかが)った。

 

 ここで、僕を見るのか。僕が決めるのか?

 

「……ケイタ君に任せるよ」

 

 僕が応じると、後ろで残りのメンバーもバラバラと(うなず)いた。

 

「……じゃあ」

 

 それからしばらくケイタ君とシンカーさんは、店の位置をマップを可視化して確かめたり、クエストの内容や報酬について話し合ったりしていた。

 

 その間に、女性が走り寄ってきて、話しかけてきた。

 

「すみません、連れが失礼したようで。ご協力、どうもありがとうございます」

 

 彼女は勢いよく腰を折ってポニーテールを揺らした。

 

 僕は、いえ、と、多少曖昧(あいまい)に一応謝意を受け取る。「お礼なら、うちのリーダーに」と。残りのメンバーも似たような様子だ。ダッカー君が向こうの後ろに控えているコーバッツに鋭い視線を向けているのが気になったけれど、それだって表だって争いを起こすには足らない。代表同士の示談で、ひとまず(いさか)いは決着だ。

 

 コーバッツも続いて、「協力、感謝する」とのたまったけれど、僕はそっちには返事しなかった。

 

「んーとぉ」と、前に出て声を上げたのはテツオ君だ。「訊きたいことがあるんですけど」

 

「ええ、なにかしら」と、どちらかといえば怜悧(れいり)な顔つきをけれど柔らかく歪めて愛想よく女性は微笑んだ。

 

「組織だって動いてるんですか? あなたたちは」

 

「はい。まだ人数は少ないんですが……」微笑みを崩さず女性は答えた。

 

 そして、頼んでもいないのにあとを継いだのがコーバッツだ。

 

「我々は、はじまりの街の黒鉄宮に常駐している」

 

 ……僕は否応(いやおう)なく打ち消し線の刻まれた名前たちを思い出した。何度も訪ねたいところじゃない。

 

困窮(こんきゅう)したプレイヤー向けの相談窓口を開き、援助を行っている。また、クエストや狩場(かりば)の情報も積極的に集めている。多くの者のため、情報の共有を図りたい」

 

 へえ、とテツオ君は感心したような声を上げた。

 

「それは大変でしょう。あの街で切羽(せっぱ)詰まってるプレイヤーは、すごい数になるでしょうから」

 

 テツオ君はそういった。それは、不可能だろう、という遠回しな進言なのかもしれなかった。

 

「そうだ。人手が要る。随時(ずいじ)メンバーも募集中だ。君らも、戦えるというなら来てもらいたい。これは全プレイヤーのためなのだ」

 

 女性の方がコーバッツを横目で睨んでから、かしこまった様子で、すみません、と付け加えた。「無論、強制はできませんが……」と。

 

 お断りだった。

 

「そうですね、リーダーも含めて、相談しておきますよ」

 

 テツオ君もその気はたぶん、ないのだろう。

 

 けれど言葉を額面(がくめん)通りに受け取ったらしい大男は、大げさに頷いてから、半歩下がった。

 

 やがてケイタ君とシンカーさんが戻ってくると、ふたつのパーティで簡単な挨拶(あいさつ)を済ませて、僕らは別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれで、よかったのかな」

 

 その日の狩りの帰り道で、ケイタ君が小さく呟いた。

 

「どうしてさ。訊かれたことに答えただけだろ」

 

 僕が問うと、彼は悩ましく目を()せた。

 

「クエスト報酬(ほうしゅう)目当てで、余計に沢山のプレイヤーが集まるかもしれない。かえってトラブルが増えないか……」

 

「気にしすぎだよ。もしそうなっても、君のせいじゃない」

 

 僕はそういいつつも、漠然(ばくぜん)とした不安がパーティを包むのを感じていた。

 

 話題を逸らしたくて、言葉を継いだ。

 

「シンカーさんだっけ。ずいぶん長く話し込んでたけど、なにかあった?」

 

「困ったことがあったら遠慮なく相談してくれって。あと、直接戦わなくてもお金と経験値が入るお使い系のクエを教わった。かなり効率が悪いんで、もう僕らの役には立ちそうにないけど……」

 

 そっか。と、僕は頷いた。

 

「……あいつら、気に入らねー」

 

 ぼそり、とダッカー君が反対側の(となり)で小さく(つぶや)いた。

 

 聞きとがめたのは、たぶん僕だけだ。言葉を返すべきか惑っていると、彼はもう一度、気に入らねぇ、と繰り返して、僕の返事を待たずに早足で進んで、パーティの先頭を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 いけないことなのか。

 

 みんなで狩りに出て、買い物して、晩には酒盛(さかも)りして、そんな日々が続いたらいけないのだろうか。仲間のことだけ考えていたらダメなのか。

 

 

 ――攻略を目指しているわけでもないのだろう。

 

 

 重たい声が、僕の腹の底に沈んでわだかまっている。

 




【予告】【サービス回!!】

 意外なあの子がティジクンに迫ってドッキドキ?! 脳裏をよぎるサチの面影。けれども誘いを断り切れない彼は、組んず(ほぐ)れつのランデブーに大突入!!

 ああ、それでいいのか主人公?!

 この修羅場をどうやって乗り切るのか?!

 乞う、ご期待!!
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