これで大きな文字で執筆できるよ。
今までの苦労はなんだったのか(呆然)
忘れもしない。
僕がそのゲームのことを知ったのは、僕の空手が終わろうとしていたころだ。
2022年、10月の半ば。
地元の体育系大学を卒業し、いくつかの空手の大会でそこそこの成績を収めていた僕は、結局空手とはなんの関係もない、大手ショッピングモールに出店している
僕は空手を
僕もそろそろいい歳だった。24歳。
肉体的には最も恵まれた時期を通り過ぎて、これから緩やかな
そんなとき、
アーガスといえば、俗世に
ゲーム業界は、ひとりの天才の手によって、僕が子供のころからはまったく想像もつかないような
僕はこのフルダイブ体験というやつが非常に気になってはいたのだけれど、脳に多重
それに体を実際に動かせるといっても、当然のことながら動くのはバーチャル世界の架空の
だが手紙によれば、僕の友人はこの、夢のフルダイブ型ゲーム機、ナーヴギア最新作の開発に
タイトルの名を、ソードアート・オンライン。
略称は、SAO。
これはバーチャルリアルゲームでは初のMMORPG、つまり大規模オンラインのロールプレイングゲームだ。日本中の、ゆくゆくは世界中のプレイヤーが同時にアクセスし、時に争い、時に協力しながら、広大なフィールドを駆け巡り暴れ回るのだ。
舞台は、全百層からなる空飛ぶ鉄の城、アインクラッド。
草原があり、森があり、湖があり、山があり、町があり村がある。
プレイヤーたちは、各層を上下に
そう、剣だ。
このゲームに魔法はない。
代わりにあるのは、多種多様な無数の
どうしてこんな設定にしたかというと、五体を存分に暴れさせてフルダイブ環境を最大限に体感させるためで、このコンセプトを発案したのもやはり茅場晶彦で、ひとつひとつのソードスキルを
自分は開発者としてのコネで一か月の
待ってろ。せいぜい腕を
手紙にはなんと、ナーヴギア本体と、SAOのソフトの優先購入権プロダクトコードが
そしてもう一つ、奇妙なものが同封されていた。B5版の紙が一枚。ほとんど白紙だ。中身が真っ白いスカスカの円形が、用紙いっぱいにそっけなく描かれているだけ。
いっぱいに描かれた円形にはしかし、
上部に一文だけ記された
【Second Floor】
第二層の、ここに来い、ということだろうか。
もう僕は、ここまでされたらこの世界に行かないわけにはいかなかった。これは彼からの、極めて明確な挑戦状だ。どうだ、やってみろ、という無言の挑発。
別れ際の
上等。
受けて立とう。
そしてついに、その時。運命の瞬間、という表現はちっとも大げさではない。
SAO正式サービスが開始される、2022年11月6日、日曜日。13時ジャスト。
電源コードを部屋の
ナーヴギアは、フルコン空手の試合で
「……ケンジ
我ながら兄としてどうなんだと思うけれど、振り返ってこの目で見るまで、本気で誰だかわからなかった。
淡い茶髪をふわふわと
しばらく
僕の記憶が確かなら、今、19歳。大学生。
別に仲が悪いわけではないのだけれど、部屋も歳も生活リズムも離れているし、いつもは話す用もない。
もう半年くらい、まともに口をきいていない気がする。
今日に限って、どうして。
「あー……」と、僕は
彼女は
「ごめん、ここ座る? ……テレビ見る?」
ひとまずそう
そして僕の正面に回り込むと、足元に
感情の読み取りにくい、ボリュームのあるマスカラ
「それ、ナーヴギア?」
「う、うん……」
「高いんでしょ……、どうしたの?」
か細く、
僕はやや
「えっと、友達に貰ったんだ。コネで。開発スタッフなんだって」
「そう……、いまから入るの? ゲームの中」
「うん、そのつもり……」
僕が
「剣で戦うヤツでしょ」
「……よく知ってるね」
「友達がいってた。それにケンジ兄ィニィ、戦うの好きでしょ……」
彼女は首を傾げて、ふわりと髪を揺らめかす。
そんな風に改めて
「ん……」と、僕は
彼女もさしたる答えを期待した
「しょうがないね、ケンジ兄ィニィは。……でもよかった」
「……うん? なにが?」
「ゲームなら、
「うん、まあ……」
「もう心配しなくていいんだよね、ウチら。昔は兄ィニィ、いつか死んじゃうんじゃないかってずっとみんなで心配してたから」
「
「大げさじゃないモン」
僕の妹はこんな顔をする子だったかな、と思う。
「……ごめん」謝る。
申し訳ないとは、思っていた。僕が今、空手を休んでいる一因でもある。
もう僕はこれから、家族に心配をかけず、穏やかに老いてゆくべきなのかもしれなかった。
「……まあ、もういいや。じゃあ、気の済むまで暴れてくるといいよ。ログインするとこ、見てていい?」
「……なんか恥ずかしいな」
「いいでしょ。あのセリフ
「……しょうがないな。いってきます」
こんなに妹と話し込んだのは本当に久しぶりだった。
これからは、もっと家族を大事にしようかな、と思う。今度なにか贈ろうか。そういえば年末が近い。
クリスマスに、プレゼントでもしてみようか。
そんなふうに心に決めて、けれどもそれは結局、口には出さずに、僕は異世界へ飛び込むための魔法の言葉、そして自らを電子の
「リンク、スタート!」
瞬間、あらゆる音と色と匂いが消える。背にもたれた椅子が遠ざかる。
海の底を
暗い、と思ったのはしかし一瞬、前方からいくつもの光が突っ込んでくる。
目の前に
【どちらのアカウントでログインしますか?】という質問に、僕はテストプレイ時の友人のアカウントではなく、事前に自分で作成したそれを選択した。これから異世界を戦い抜くための、僕の分身。身長体格は現実そのままで、顔は……、眼光鋭い、戦士然としたイケメンにした。
再び、ワープ。
世界が開けた。
聞こえてきた深く重い
光。あやふやな色と
一面
人、人、人が多い。
髪と瞳の色をとりどりにカスタマイズし、古代の戦士めいた簡素な服装に身を包んだ
目の前にシステムメッセージが開いた。
【Welcome to Sword Art Online!!】
手を上にかざして、眺めてみる。デフォルメされたそれには、毛穴も
拳を、突き上げた。
「このゲームでーじすっごいよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
―――さて。
恥ずかしげもなく地元の
場所は同じく、はじまりの町、中央広場。
五メートルほどの距離を挟んで、ひとりの男性と向かい合っている。
深い青の衣服に身を包み、
ペロリ、と舌なめずり。舌なめずりしたよこの人! でーじ怖いんですけど!!
なにを思ってあんなアバターを使っているのだろう。せっかく好きにデザインできるのだからもっと実直な美形にすればいいのに。かくいう僕も、体格は現実そのままに、現実の僕よりもちょっとだけ眼光鋭くて鼻が高いイケメンアバターを使用している。あれはもしかすると、オリジナリティを追求した結果なのか。それとも対戦相手を
目の前にはシステムメッセージ。内容はこうだ。
【Diavel から 1vs1 デュエルを申し込まれました。
いや、でも……、逃げるわけにはいかない、よね。
妹との会話の部分だけ、投稿前に書き足しました。
筆が鈍って文体が変わってないか心配です(汗)