SAO外伝 血の盟約の下に   作:佐藤 黎曜

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 ユイちゃん大好きですユイちゃんユイちゃんユイちゃんユイちゃん(ry

 俺のメンタルもヘルスしてくれぇえええええええええッ!!(必死)


生と死への哀悼

 生温(なまぬる)い風。

 

 木々のざわめき。

 

 草と土の(にお)いがする。

 

 誰が管理しているか、詳しいことはわからないけれど、この鬱蒼(うっそう)とした山道はほとんど野ざらしだ。木材を打ちつけただけの階段らしき足場をしぶとく登ると、ふと、空が開ける。

 

 階段が石灰(せっかい)質の石造りに変化する。

 

 上る。石畳(いしだたみ)の、平らな地面に出た。

 

 高台の(ひら)けた樹木の隙間(すきま)から、街が一望できた。

 

 僕の地元はとにかく台風が多いところなので、自然と、建物は重厚な石造りになる。背の低い無骨(ぶこつ)な直方体が、広く長い道路に沿って整然と立ち並ぶ(さま)は、見ようによってはなにかの墓標のようでもある。

 

 振り返ると、山に斜めに寝そべるようにして、高さにして5メートル、幅は3メートルほどの重厚な、真っ黒い鉄塊(てっかい)がある。扉だ。僕はこれが開いているところを見たことがない。

 

 本物の墓だ。

 

 中には過去何代にも渡る、遠縁(とおえん)近縁(きんえん)の一族の死が、一緒くたになって押し込められている。

 

 寺の裏手の平たい土地で、碁盤(ごばん)の目みたいに整然と墓石が居並ぶ、いわゆる日本の普通の墓というやつを、僕は漫画やテレビでしか見たことがない。でもきっとああいう墓だと、どこの誰を祭っているのか、わかりやすいのだろうとは思う。対して、目の前のコレは、いったい誰のためのモノなのか、いまいちわからない。親族であっても、中に押し込められた全員をとてもとても把握(はあく)できない。こんなにも大きい。こんなにもたくさんの死だ。僕の地元の墓は、小高(こだか)い山の上にあって、誰の死であろうとも等しく受け入れる。

 

 どんなに理不尽な死に方をしても、最期(さいご)に訪れる安らぎだけは平等だとでもいうように。

 

 だから、これはいつの記憶だろう。

 

 僕は、誰の死を(いた)んでここに登ったのだろう。思い出せない。

 

 あるいは、いつかここに収まる自分自身だったかも知れないけれど。

 

「悲しいの?」

 

 いつの間にか、僕の(となり)に立った少女がそんなことをいう。

 

 無地の白、素っ気ないワンピースを着た、小さな少女だ。背中まで流れる黒髪、子供らしくまんまるくふくらんだ(ほほ)、くりくりとした瞳を上目(うわめ)(つか)い、桃色の小さな唇から、再度、問いをかけてくる。「ねえ、悲しいの?」と。

 

「……悲しくないよ」

 

「そうなの?」と、可愛(かわい)らしく小首(こくび)(かし)げた。

 

「うん、そうだよ。……君は誰?」

 

「自己紹介、遅れちゃったね? わたしはアイ。ホントは試作(ゼロ)号っていうんだけど、優しい人に、ちゃんと名前をもらったの。ねえ、あなたの名前も教えてよ?」

 

「僕は……、ええと」

 

 なんだか頭がぼうっとする。僕の、名前は。

 

()那覇(なは)拳児(けんじ)

 

「ううん。違う」と、彼女は背伸びして、人差し指で僕の唇を(ふさ)いだ。

 

 僕が(ほう)けていると、彼女はこんなことを続けていった。

 

「あなたがこれから、この世界で生きていくための名前だよ」

 

「この世界……?」

 

「ソードアート・オンライン」

 

「ああ……」

 

 プレイヤーネームを名乗れということらしい。あれ? なんだっけ。僕が答えに詰まると、彼女は()れたように、「もう、しっかりして? ティー、アイ、ジー、アイ、ケー、ユー、エヌ。これなんて読むの?」

 

 ああ、そうか。確かに僕はそんな風に自分を名づけた。

 

「ティジクン」

 

「ティジクン。それどんな意味?」

 

「地元の方言で、鉄拳」

 

(かた)そうだね? 硬いものって、意外と(もろ)いんだよ?」

 

「うう、ん……?」

 

 急に難しいことをいわないで欲しい。なんだか夢見心地(ゆめみごこち)で、頭がはっきりしないのだ。

 

「柔らかいと、なにも(くだ)けないんじゃないかな」

 

「なにか砕かないといけないの? 自分が壊れちゃうかも」

 

「なにもしなくても、いつか壊れるよ」

 

「長生きしたくない?」

 

「……そんなには」

 

「人生、つまんない? 楽しいこと、ずっと続けたいこと、ないの?」

 

「ずっと続けたら、()きちゃうんじゃないかな」

 

(つら)い? 死んじゃいたい?」

 

「そんなふうには思ってないよ……。でも、死ぬときは、死ぬよ」

 

「どんなとき?」

 

「……負けたとき」

 

 そういえばさっき死んだんだっけ。

 

 ここは天国だったりするのだろうか。天使みたいな子もいるし。

 

 天使が問いを続けてくる。

 

「なにと勝負するの?」

 

「人生、とか?」

 

「勝負することが、あなたの人生?」

 

「誰だって、なにかと戦ってるんじゃないかな」

 

「逃げてもいいんだよ?」

 

「……それは、自殺してもいいってこと?」

 

「ううん。ちょっと立ち止まってみたり、振り返ってみたり、他の道はないかなって考えたりしてみることだよ。そうしたら、戦いはもう少し楽になるかもしれない。もしかしたら、全然戦う必要なんてないのかもしれないよ?」

 

「でも、僕は戦わなきゃ」

 

「どうして?」

 

「……僕が、僕じゃなくなる」

 

「逃げるのが怖い? 逃げ出したあと、どうしていいのかわからないの?」

 

「逃げたら大事なものを失くしそうなんだ」

 

「あなたの大事なモノって、なぁに?」

 

「僕の、大事な、もの……?」

 

 とても大切なことを忘れている気がする。胸が苦しい。急に(なみだ)(あふ)れ出してしまって、僕は言葉に詰まる。この気持ちはなんだろう。

 

「やっぱり悲しいんだね……」

 

 彼女が背伸びして、僕の首と(わき)の下から手を回して抱き()めてくる。(ひざ)から力が抜けてしまい、僕はその場に(ひざまず)いて、彼女の胸元に顔を(うず)めた。彼女は僕の頭をゆっくりと()でながら、もう片手の指先で、とん、とん、と、優しいリズムで背中を叩いてくれた。

 

「僕の戦いは、終わったの……?」女の子みたいな涙声が出てしまった。

 

「ううん。あなたの命は、まだ終わってない。あなたはこれから生きていくことができるの。……死ぬことも、できる。でも、ここでわたしと話したことを、どうか忘れないで……」

 

「僕は、どうしたらいいの……」

 

「ごめんなさい。それは、落ち着いたときに、自分の心に聞いてみて。わたしに与えられるのは、ほんのきっかけと気づきだけ。少しの優しい時間だけ。ずっと一緒にいてあげたいけど、わたしも、わたしの戦いに戻らなくちゃいけないの。今ならまだ、一人か二人、妹たちを助けられるかもしれない。また、あなたみたいに、少しだけでもお話できる人が来てくれるかもしれない」

 

「そっか。大事な人が、いるんだ。じゃあ、仕方ないね……」

 

 僕にもいつか、そんな人がいた気がする。

 

 それはとても大切なことだ。だから仕方ない。

 

「あなたはやっぱり優しい人ね。弱いのに、強くあろうとしてる」

 

 ぎゅう、と彼女の腕に力がこもった。

 

 本当に優しいっていうのは、こういう人のことをいうんだろう。

 

 終わりが近い。この優しい幻はきっと長くは続かない。

 

 最後に彼女は、聞いて、と、優しく耳元で(ささや)いてから、腕を(ほど)いた。

 

 僕の(ほお)に両手を()えて、僕の目を真っ()ぐに見つめてくる。

 

「これからこの世界で、すごく大変なことが起きるの。(つら)いこと、悲しいことが、たくさん、いっぱい、あるかもしれない。でもきっと、()き立つような楽しいときも、優しく安らげる穏やかなときも、あなたは創っていけるから」

 

「君にこうしてもらってるより、穏やかなときも……?」

 

「あなたの頑張り次第(しだい)で、きっと。負けちゃいそうになったら、わたしのことを思い出して。ほら、目を閉じて。もうすぐ目が覚めるから……」

 

 いわれたままに目を閉じると、僕の額になにか柔らかくて温かいものが触れて離れた。

 

「愛してる」

 

 餞別(せんべつ)のキスだった。

 




 
 アスラとミツルギのキャラデザイン変更しました。【第三話 その名はアスラ】
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