青学・新チームの挑戦   作:空念

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第二話 因縁の対決

「全く、ズルイよなぁ……自分らだけ目立っちゃってさ」

 シングルス3の試合が終わった瞬間、伊武深司はぼやき始める。既に試合前から戦闘モードに入っているようだ。

(うわ、始まったよ)

 その声を聞いた他の不動峰メンバーは、げんなりした様子を見せていた。

「二人とも終盤に新技を披露するなんてさ……出し惜しみせずに、最初から使えばいいのに。観客の気を惹こうと、狙ってやってるよねアレ」

 ぼやき続ける伊武。しかし、裏を返せば彼自身もシングルス3の試合に惹かれたという事でもある。彼自身、桃城と石田の試合を見て闘争心が高まっていたのである。

「俺なんて最近目立ってないっていうのにさ。全国大会では、変な『スペシャルなんとか山嵐』喰らってたった一球で棄権負けしちゃったし……こうなったらさ、俺もアレを出すしかないよね」

 コートに出て行く越前リョーマを見据えながら、伊武は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

*****

 

 

「久しぶりだね、越前君。君との対戦、楽しみにしてたよ」

「ふーん、またやられに来たんだ?」

 試合前の挨拶で、ネット越しに話しかけてくる伊武に対し、挑発で返す越前。相変わらず好戦的な奴である。

「全く、君は相変わらずだね君は……早いとこ潰さないと」

 そして、その挑発に伊武が乗るのも相変わらずである。この辺り、両者とも成長していないというべきか。

 

 だが、試合になれば両者とも真剣である。特に伊武は最初から飛ばしており、ペース配分も何もあったものではない。

 伊武はトップスピンの掛かった球を打ち込んでくる。その球を打ち返した瞬間、越前はその打球の重さに戸惑った。球の威力も回転数も、これまでとは比べ物にならない程に上がっており、腕に伝わる衝撃が半端ではない。

(――お、重っ!)

 それでも、その重い球を打ち返すあたりは、さすがに越前である。だが、次に打ち込まれるのは、強烈なバックスピンの球。伊武の得意技、スポットである。

「またこの技? もう見飽きたんだけど」

 伊武のスポットは、春の地区大会で既に攻略済みである。越前は伊武の足元に速い打球を返す。その瞬間、自分の腕が麻痺したような感覚を感じた。

(――何で?)

 まだトップスピンとバックスピンの球を一球ずつしか受けていない。それなのに、もう麻痺したようになってしまった。スポットは、逆回転の球を交互に“何度も”受ける事で衝撃のダメージが腕に蓄積して生じる現象。腕が麻痺するには、まだ早すぎる。

「い、今のは……」

 予想外の事態に戸惑う越前。それに対して伊武は、不敵な笑みを浮かべて越前を挑発する。

「いつまでも、同じ俺だと思わないで欲しいな。今度は確実に両腕を麻痺させてやるから」

「にゃろぉ……」

 一瞬麻痺した腕をサッと振り、ラケットを握りなおす越前。

「リョーマよ、熱くなり過ぎるな! 相手の思うつぼじゃ!」

 ラケットを握り締める越前に、竜崎が半ば怒鳴りつけるような調子で声を掛けた。

 

 

 竜崎が思っていた以上に、越前は冷静であった。彼は最初から伊武の足元に球を返す事で、スライス回転の球しか打たせないようにしていた。春の地区大会では、これによって伊武のスポットを封じたのだ。

 だが、今回は伊武の方が一枚上手であった。一体どういう原理なのか、スライス回転の球が途中でトップスピンに変わる打球を打ってきたのだ。

「あれは――ミラージュ! 何で伊武が!?」

 青学サイドは、伊武がミラージュを使った事に驚く。ミラージュといえば、関東大会で城成湘南の神城が使った技である。

 伊武がミラージュを使うというのは一見ありえないようであるが、実はありえない話ではない。実は不動峰、全国大会直前に城成湘南と練習試合をしており、その時に伊武はミラージュを知ったのだ。それ以降、伊武は神城に根掘り葉掘り聞きまくり、独自に研究を重ねた。全国大会では四天宝寺戦で思わぬアクシデントによって棄権し、披露する暇が無かったが、この新人戦で伊武は一段と成長した姿を見せたのである。

 そしてそれ以上に伊武が見に付けたのが、打球の威力である。これまでは小手先だけの技術で何とかなったが、上の大会に進むにつれ、パワー負けする事が多かった。だから伊武は自身の非力さを補う事で弱点を克服してきたのだ。

 だから越前がラケットを持ち替えて対応しようとも、短時間では腕のダメージが抜け切らず、両腕ともスポットによって一瞬麻痺させられてしまう。しかも、伊武が両手打ちでは届かないギリギリのコースばかり狙うので、両手打ちもする余裕が無い。どちらの腕で打たせるのかさえもコントロールしているようである。

 気がつけばもう『4-0』である。まだ1ゲームも取れないまま、越前は伊武にリードを許していた。

 

 

「やけに早くから飛ばしてくるな」

 今までに見た伊武のプレースタイルとは全く異なった戦い方に、青学サイドは戸惑う。これまでの伊武の戦い方は、スポットでじわじわ相手を追い詰める等の、どちらかと言えば海堂のような試合運びをする選手であった。それが、今日は最初から攻めまくっている。

 互いに手の内をよく知っている同志だから探りも遠慮もいらないという事だろうか。それにしては飛ばしすぎである。

 そして、不動峰サイドでも、伊武の試合運びに違和感を感じている者が一人居た。

「深司が最初から飛ばすなんて、珍しいな」

 試合を観戦していた神尾が、率直な感想を漏らす。彼に言わせれば、いつもの数倍のリズムで試合を進めている。普段に比べて、あまりにも早すぎた。

「よっしゃ! このまま行けっ!」

 神尾の横では、チームメートが興奮して試合を見ている。これまで無敗の越前を追い詰めているのだから、当然である。

 だが、神尾は楽観視する気にはなれなかった。あまりにもペースが速すぎる事が気になったのである。

 見れば、伊武は表情こそ変えていないが、既に滝のような汗を流している。そこまでして攻めまくる理由は何なのか。

(――あいつ、まさか!)

 ずっと考え込んでいた神尾は、とある事に気付いて表情を変える。もし神尾の想像が当たっていたとしたら、大変な事態である。

「深司っ、お前――」

 神尾は声をあげかける。その神尾の様子に気付いたのか、伊武は目配せした。その視線は『黙っていろ』とでも言いたげであった。明らかに伊武に異変が起こっており、彼はそれを隠そうとしていたのだ。

 だが、その視線によって、神尾は何も言えなくなってしまう。伊武の強い決意を感じたのだ。神尾に出来るのは、早く試合が終わる事を願うのみであった。

 

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