青学・新チームの挑戦 作:空念
顧問の竜崎の発言は、青学メンバーを阿鼻叫喚の渦に叩き込んだ。何せ、氷帝との練習試合にあたって、メンバーそれぞれが苦手な分野での試合を強いられる事になったのだから。
部長の海堂はもちろん、青学メンバー全員がいっそう練習に熱が入ったことは言うまでもないだろう。
いや、熱が入るというよりは、危機感で追い込まれていたというべきか。もう、不動峰戦のように、何もできず良い所無しで終わる訳にはいかない。その焦りもあってか、正規練習が終わった後も、メンバー全員がそれぞれ自主練に励んでいた。
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『ゲームウォンバイ、泉・布川』
ストリートテニス場に響く審判の声。
「……相変わらずダブルス下手だな」
呆れたように声をかけたのは、元玉林ダブルスの泉。それに対して、リョーマはむすっとした表情を崩そうとしない。
「やっぱ、自分のコートになんかチラチラいると、ペースが狂うんだよね」
「リョーマ君、それは無いでしょ!」
そう言っては、ペアを組むカチローに怒られるリョーマであった。
「お前、本当にダブルスの陣形覚える気あんのか?」
リョーマの発言に頭を抱える布川。彼ら元玉林コンビは、来る氷帝との練習試合に向けて特訓を重ねる越前・加藤ペアの練習相手になっていたのだ。
わざわざストリートテニス場に来なくても、青学ほどの学校であれば練習相手には事欠かない筈。実際、越前加藤には大石菊丸という旧チームの黄金ペアが練習相手になっていたのだ。だが、相手が悪すぎたというべきか、黄金ペア相手では全く手も足も出ず、1ゲームも取れずにいた。そもそも、海堂桃城ペアにすら勝てないのだから、大石菊丸に勝てる訳がない。
それでも、負けず嫌いのリョーマらしく、いつまでも練習したいところだが、さすがに大石菊丸も受験を控える身であり、いつまでも練習に付き合う訳にはいかない。中高一貫校とはいえ、全く受験がない訳ではないのだから。
そこで、練習での不完全燃焼を解消すべく、リョーマ達がストリートテニス場に足を踏み入れたところ、たまたま泉布川が受験勉強もそこそこに遊んでいた所に出くわし、こうして半ば強引に練習相手をさせたという訳。
その結果は、上記の通り。ちぐはぐなコンビネーションの隙を突かれ、陣形もガッタガタに崩され、いいように翻弄される始末。
原因は明らかにリョーマの協調性の無さであるのだが、カチローも強気にリョーマに言い返し、ボロが出まくる事出まくる事。その様子を見ていた周囲は、
(……全くダブルスになってねえじゃん。こいつら、本当に青学レギュラー?)
と疑い始めるのであった。
そして、来る氷帝戦に向けて、不安を振り払うように自主練に取り組む者が、もう一人。
『これ以上やったら、ケガしちゃうよ?』
「構わねえ! もう一丁、お願いします!」
そう言って、ラケットを構える男。今度の練習試合の大将に選ばれた荒井である。その練習相手を務めるのは、引退した旧レギュラー、河村である。
『それじゃあ……いくぜ! バーニング!』
「ぐはっ!!」
ラケットごと吹っ飛ばされ、地面に転がる荒井。それでも、彼は何度も立ち上がる。
「も、もう一丁……」
『無茶だ荒井。これ以上やったら、マジで壊れる』
相手は対戦校ではなく自校の後輩。さすがに後輩をKOする訳にもいかず、バーニング状態の河村も練習を中断しようとする。しかし、それでも荒井は辞めようとしない。
「まだだ……俺には、これしかねえんだよ!」
ボロボロになりながらも、ユラァっと立ち上がる荒井。その気迫は、思わず河村も息をのむほどであった。
『よし、分かった。もう一丁だ』
そして再び迫りくる、バーニングショット。それに対し、荒井の方はもはや反応するのがやっとであった。
(やはり、荒井はもう限界か。そろそろ止めないと……)
そう思い、これを最後の一球にしようと考える河村。そんな彼の脇を、とてつもなく早く力強い返球が通り過ぎる。
(い、今のは……)
さっきまでフラフラになっていた者とは思えない程の力強い打球。これまで返す事すら出来なかった荒井からの思わぬ反撃に、河村は反応が遅れたのだ。
「……さあ、先輩。もう一丁、お願いします」
今までとは別人かと思うような荒井の鋭い眼光を目の当たりにし、河村はしばし茫然としていた。