「なあ、阿古」
椅子を引き、座りながら向かいに座る阿古に話しかける。
「ん〜なぁに? コウちゃん」
みんなが寝静まりクレイドルの中は阿古がコーヒーを飲む音しかしなかった。
「結局、何が狙いだったんだ? 」
「え? コウちゃん全部分かった上で待ち伏せてたんじゃなかったの!? 」
阿古が驚いた顔でカップをソーサーに置く。普段のあどけない顔とあの時見せていた真剣な顔が見え隠れする。
結局、普段の調子で話すことにしたようだ。
「私達の狙いはね、コウちゃん。簡単に言うとコレ、だよ」
阿古はすっ……と手を前に出して手のひらを上に向ける。
「リギャザー・スティック」
ポッと空気の押し出される音を立てて細い棒が現れる。
「え? それが……なんだ? 」
「単純な形の物はボイスコマンドだけで」
クルリ、と棒を回して唱える。
「ベイグ」
すると棒が宙に溶けるように霧散する。
「『リギャザー』は再び集まる。『ベイグ』は曖昧にさせる、って意味の英単語。それくらいは知ってるよね? コウちゃん」
「あ、あー……もちろん知ってるぞ! うん! 」
じーっと見つめられて乾いた笑みを返すことしか出来ない。だ、だって意識したこと無かったし……!
「まあ意味を知らなくても結果は起こせるからね、別にそこは問題じゃないんだよ」
問題は、と区切って阿古が机の下から取り出したのは俗に言う『支柱』だ。形状はちょうど握りこぶしに収まるくらいの小さな棒だ。
「複雑な物を生成する時はこれを起点にする」
そう言って支柱を先ほど棒を出した時のように構える。
「リギャザー・フライパン」
ちなみにボイスコマンドは起語の『リギャザー』さえ認識されれば今のように後ろが日本語でも構わない。
先ほどと同様に空気の押し出される音を立て、支柱を中心にフライパンが形作られる。
「それの一体何が問題なんだ? 」
「ベイグ」
フライパンの形を成していたナノデバイスが霧散する。
「コウちゃん、<ピース・エイダー>最強の生徒が使ってたコマンド、知ってる? 」
「<ピース・エイダー>最強って、たしか去年は『アンセットコア』の使い手が優勝して最強認定されたんだったかな」
「リギャザー・アンセットコア」
「なっ!? 」
当然、阿古は<ピース・エイダー>最強では無い。どころか<ピース・エイダー>に所属すらしていない。
……はずなのに、ボイスコマンドを唱えるということは……!?
ビーッと軽やかな警告音と共に阿古の前にナノデバイスの集合体がスクリーンの形と成り、映像を映し出す。
『権限を逸脱しているため、ボイスコマンドを実行することが出来ません。』
「コレだよ、コウちゃん」
「え? 」
支柱を机の下に戻しながらゆっくりと話し出す。
「使用者権限。いくら支柱を使おうと、完璧にボイスコマンドをこなそうと、絶対に作り出せない物が規定されてる。一般市民なら日常で使う物だけ。<ピース・エイダー>に所属している人はそれに加えて自分の固有武器も。他にも色々と例外があって、それらは総括して使用者権限と呼ばれてる。何か危険物を作ろうとしても、ボイスコマンドから個人が特定されて権限を逸脱したと見なされた場合、今みたいに作り出せない」
「ああ、常識だな。誰だって気軽に危険物が作れちゃ街は混乱に陥る。だからこそのセキュリティだ」
「私達はそのセキュリティを外そうとしたの。理事区のどこかに在るはずの中心サーバーから」
阿古がカタッと冷え切ったコーヒーを再び口へ運ぶ。
「なるほど、それで理事区へ向かってたわけだ。でもなんでセキュリティを外そうと? 」
「単純に、セキュリティを自在に操ればこの街なんて簡単に制圧出来る。そこから先のことは聞かされてない。知る必要は無いって」
カップの中のコーヒーを通して底を睨みつけるように見据えながら、阿古は語り終えた。
「そっか、ありがとう。ごめんな、遅くまで」
ふっとカップから顔を上げた時、阿古はもう元の表情に戻っていた。
「ううん、良いよ。あ、でもお詫びに一緒の部屋で寝たいな〜♪ 」
「だーめだ、もう先寝るぞ」
「寝込み襲っちゃうよ〜? 」
たじろぐと人の悪い笑い声を上げながら自室に戻って行った。
「……まったく、自分で飲んだ物くらい自分で片付けろよな」
カップとソーサーを軽く水洗いし、水に浸けて自分も部屋に戻った。ベッドに寝転がりながら先ほどの話について暫し考えを巡らせる。
(この街を制圧することなんて手段でしか無かったんだろうな)
底知れぬ異質感を覚えその正体を探る前に晃司は眠ってしまった。
サブタイトルを導入してみましたけど…これなかなかセンスが問われますねw
「もっと良いのがありそう…ああ、でもこれしか思い浮かばない…!」
そんな感覚なのでどうか暖かい目で見守ってくださいw