気になるあの子は魔導書が読める!?   作:久遠/kuon

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すいません!いつもギリギリで!しかも今回は待たせたわりに短いという……。まったく申し訳ないです……。なんとか方針が定まりつつあるので少しずつペースを上げていけたらなー、と思ってますのでどうかよろしくお願いします!


第二十三話 波紋

時間を巻き戻すことが出来たらなぁ、とか。

あの時こうしてたらなぁ、とか。

玄関の開く音を聞いて部屋から飛び出した千草を見て思わず脳裏に浮かんだ。

「どこ、行ってたの?」

「ちょっと……そこまで」

ぷー……と膨れた頬を見て単純に怒鳴られるより大きな罪悪感に襲われる。

たった一日だと思ってたけど結構心配かけてたんだなぁ。

そして、千草がサッと手を肩の高さくらいにまで挙げた。

まるで射撃許可を下す司令官のよう……?

「射撃許可を確認! 目標を狙撃します!」

「は? 狙撃?」

すると、廊下の奥から白い物が飛来して、見事におれの顔面に直撃する。

「……おっ……も……っ!!」

どさっ、と落ちた塊を見るとそれは透明な袋に包まれたうどん麺だった。

「って首の骨がイカれるわ!!」

「ヘッドショットっ! バッチリだね!コウちゃんはそこで我々の作ったうどんを正座した上に乗せて反省していると良いのさ!」

「何時代の拷問をする気だ!?」

本気で怒らせるとアイアンメイデンでも持ち出しそうだな、おい!

しかも我々の作ったうどんってどういうことだ!?

「心配かけた……罰。」

「ごめ……」

言いかけた言葉が体にかかった重さで詰まる。

一気に空気が澄んだように静まりかえった。

抱きつかれた。

そんなにも心配をかけてしまったのかと改めて理解する。

思わず大きく息を吸い込んでしまう。この一ヶ月ほど感じ続けてきた屋敷の懐かしい香り。そこにほんの少し嗅ぎ慣れない甘い香りが混じっていた。

そして。

酸欠に陥るように一瞬気が遠のく。

何かが抜けていく感覚。

 

 

 

一瞬だけ気が遠のいた後、一つだけ疑問があった。

「あのさ、阿古」

見慣れた屋敷の玄関。

見慣れない袋に詰まったうどん麺。

「どったの? コウちゃん」

聞き慣れた幼馴染の声。

聞き慣れない……誰かの呼吸音。

 

「この……女の子誰?」

 

キシッ。

聞こえないはずの空気の軋む音が聞こえた。

阿古が笑顔のまま凍りついた。

「ごめん、コウちゃん。冗談にしては面白くないよ?」

「いや……冗談じゃなくて。そりゃ悪い気はしないけど、知らない女の子に抱きつかれてるっていうのは気恥ずかしいかなーって」

キシッキシッと空気が軋む音が連鎖する。

いつしかその音が自分の頭の奥底から響いていたのだと気付いた。

頭にもやがかかったように上手く回らない。

「…………。」

抱きついていた女の子が当惑の表情を浮かべる。

こっちも当惑してるはずなのに……なぜかそんな顔をして欲しくないと直感的に思った。

「……晃司……?」

「ごめん、どっかで会った?」

傷つけた。

その子の表情の些細な変化の一つ一つがひどく心を揺さぶる。

そした、するっと腕の中からその子はすり抜けて玄関を飛び出した。

「止めなくて良かったのか?」

静まり返った玄関で英玲奈が呟く。

「知り合いでは無かったのか?」

「……晃司、あとで話がある。千草ッ!」

剛毅の慌てた声と玄関を飛び出す音。

「さすがに、あんまりだね。コウちゃん。アレは相当傷ついちゃったよ? 千草ちゃん」

阿古の軽蔑した声。

「ちさ……チサ……ち、さ……?」

ただ『千草』というワードだけは空虚に頭の中を転がった。

「……ち……さ……千草ッッッ!!」

その言葉が意味するところを理解したと同時に頭の中のもやが全て晴れ渡った。

「なん、で、なんで忘れたんだっ!」

それは名前だった。タイミングを逃してしまってまだ告白出来ていない、ある女の子を指す、名前。

絡みつくような、ねっとりとしたその場の空気を全部断ち切るように外へと駆け出す。

もう間に合わないかもしれない。

まだ間に合うかもしれない。

とにかく今は千草を探さなくては。

まだ少し陽の残る夕暮れの中、思いっきり走り出した。

 

 

ある屋敷の見えるビルの屋上。

夕陽に背を向けて男が携帯を片手に話していた。

「とりあえず第一フェーズ、完遂。見ていただけましたかな?」

『まったく趣味が悪いな』

電話の相手の音声は驚くほどクリアだった。まるで耳元で声を出されているかのような錯覚を覚える。

これが老いた男の声ともくれば気持ち悪いことこの上無い。

「あなたに言われたくありません。部屋の外へ何年出ていないんですか」

『ここで生活出来る以上出る必要は無い。そんなことより順調なのか』

「見ての通り」

『……魔法か。どうせなら少年の頃に見たかったよ』

「想像出来ませんね」

『科学者である私が魔法に興味を持つことが、か』

「いえ、あなたの少年時代が」

『……』

「では報告は以上です」

プツッと一方的に通話を切る。

「兄貴ー、切って良かったの?」

屋上の端から落ちそうになるくらい身を乗り出して真下の道路を見つめる男が声を出す。

「聞いていたのか。弟よ。あんなケミカル臭い連中の話なんて長々と聞きたいものではないさ。それより今は目の前に集中したい」

「目の前のこと、ねー。なんだっけ?」

「……また忘れたのか。とりあえず場所を移動しよう。ここは寒い」

まだ五月とはいえ吹きさらしでは風がキツかった。

共に黒パーカーを着た二人の男達は忘却の街に背を向け、屋上の唯一のドアへと向かった。

次は第二フェーズ。

トリガーに指はかけられた。あとは引くだけ。




年内にもう一話投稿の予定です〜
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