「晃司! 悠大! 無事か!?」
クレイドルに帰るやいなや剛毅がすぐに迎えに出てきた。
魔力の波はここまで届いていただろうからおそらくそれについてだろう。
「悠大、誰と交戦した?」
「あのスーツのやつの影だよ。でもまた逃げられた。影は爆散したから別のやつに移ったんだろうね」
「そうか、これからそいつのことは便宜上、うちでは《スケープゴート》と呼ぶことにする。」
《スケープゴート》…望まれた犠牲か…。
「《スケープゴート》は本体の奪還を目的に行動すると思う」
悠大が言った。剛毅はそれを聞いて顔をしかめた。
「ああ、その通りだ。だが残念ながらすでに本体は奪還された。第四は戦闘に向いてないから仕方ないとはいえ…やられたな」
剛毅が舌打ちでもしそうな顔で言う。
「本体は奪還された…って、《スケープゴート》の影はおれらと交戦してたんだぞ!?」
「落ち着け、晃司。《スケープゴート》は文字通り犠牲だったんだよ。もっと具体的に言えば偽装、だな。影が魔力を放つと同時に本体も魔法を行使した。自分の影ならではの偽装だろう」
「でも、場所の差から多角レーダーみたいに本体が行動してることもバレた。だから、私たちはそっちへ向かった。」
後ろから声がして振り返ると千草が立っていた。
「千草、戦果は?」
「ゼロ」
「だろうな。だから行っても無駄だと言ったんだ」
剛毅が珍しく怒ったような目で千草を睨んだ。くっ…と千草は怯んで剛毅に謝った。それを手で制して剛毅はこちらに向き直った。
「晃司、友人達はどうだった、怪我はしてないか」
「学校に運ぶまでの間に軽く診たけど外傷はほとんど無かった。倒れる時についた擦り傷くらい。…でも、あいつらの記憶が飛ぶって聞いたけど、大丈夫なのかよ!?」
「だから落ち着けよ、晃司。悠大、ちゃんと説明したんだろうな」
「もちろん」
「なら、もう一度言うぞ、晃司。記憶が飛ぶのはほんの一部だけ、後遺症も残らない。魔力の根源的機関を揺さぶられた軽いショック症状だ。絶対に命に別状は無い」
「分かってるけどよ!」
噛み付くように剛毅に迫ると
ガッ!と剛毅が胸ぐらを掴んで自分の顔に引き寄せた。
「良いか、晃司。今は感情的になってる場合じゃねぇ。敵がこの街に害を及ぼそうとしてるんだ。まずはそれを防がなきゃなんねぇだろ」
分かったか、そう言って手を離す。その時の剛毅の顔はあの時の剛鬼とはまるで正反対の凄みがあった。
「敵は必ずこの街のどこかに潜んでる。まずは拠点を探せ。見つけてもすぐに手は出すな。以上だ」
そう言って剛毅は廊下の奥に行ってしまった。
「晃司くん、ほんとは剛毅が一番感情的になりたいんだ。でも今ここでそうなってもどうにもならないことを知ってる。だから晃司くんも一旦冷静になってくれないかな」
悠大にそう諭される。一旦深呼吸をし、目を閉じてから言った。
「拠点探すって…どうすれば良いんだ…」
「いつも通り、生活していれば良い。下手に動いて焦りを募らせるより相手が尻尾を出すのを待つ。向こうは必ず尻尾を出す。だから、いつもより少し警する程度の気持ちで生活するだけで良い。」
そうか、分かった。そう言うとみんな各々でバラけて行った。
外の雨はあれ以上強くならず、もう雨はまばらに、雲は薄雲になっていた。
「んっ……」
目が覚めると辺りの物がほとんど白色で統一されている部屋に居た。
「あ、目が覚めたかしら。大丈夫?頭痛くない?」
そう言われるとぼんやり痛い…ような気がする。
「ここは…?」
「保健室よ、華原 真衣さん、名前合ってる?」
「あ、はい。合ってます。あの私一体なんでここに…」
なぜかH・Rが終わってから今までの記憶が無い。ずっと寝ていたのだろうか。上体を起こすと、頭痛が少し強くなった。
「んーとね、連れて来てくれた古守くんが言うには『転んだ拍子に3人が頭を打った』らしいけど?」
そっか…晃司くんが…
冷えていた手足の先にすぅっ…と血が通ってじんわりと温まるのを感じた。
頭を打ったらしいけど貧血だったのかな…
横を見ると私と同じようなベッドの上で譲二くんと明希奈さんが寝ていた。
「そう…ですか。ありがとうございます」
無理に思い出そうとするとさらに頭痛が酷くなったので思い出すことは諦めた。
「歩けるようになったら帰って良いわよ、そこの2人にはちゃんと私が説明しとくから。また雨が降り出すと厄介だしね」
保健の先生は片目をぱちっと閉じておどけてみせた。
外を見ると雨は完全に上がって雲の隙間から赤い空が少し見えている。
明日は晴れかな、とまだ、ぼうっと痛む頭でそう思いながらカバンを取り先生に礼を言ってから保健室を出た。どこか、胸の奥も痛むようだ。
それから2日が経った。水曜日、行きと帰りは特に警戒しているが、まだ動きは無い。お互いに沈黙を保ったままだ。
「あ〜…早く動いてんくんねーかなー…。こっちが先に参っちゃうよ…」
クレイドルのリビングのテーブルに腕を投げ出しながら1人で愚痴っていると、後ろから応じる声があった。
「ま、動きが無いってことは口封じのために友達が襲われる心配もほとんど無いってことだろう。相手が影で幸いしたってことか。もう少し気を抜かないといざって時しんどいぞ?」
剛毅が自分で淹れたらしいコーヒーを片手に壁に寄りかかりながら新聞を読みながら言った。
「まあ…そうだよなぁ…」
「それに、不謹慎。」
隣に座って新聞の切り抜きをしていた千草が口を挟んだ。
「う…確かにそれもそうか…。…それなんで切り抜いてんの?」
千草は動物園の赤ちゃん情報を切り抜いていた。もちろん写真付き。
「可愛いから。」
そうですか…。幸せそうにしてるし好きにすれば良いや…と思ってまたテーブルの上に伸びる。
「うーあー……あ、どうせなら鍛錬しとくんだった」
「ん?今からするか?」
「良いよ、もう飯だろ?明日頼むよ」
だが、飯を食べることも鍛錬もすることも出来なかった。
……ッズン…!
「魔力波!」
「3方向感知、理事区周辺、東西南方位!…なにが狙いだ…?」
「理事区は実験区3つに北側が廃区1つに囲まれてる!実験区で何かやらかすつもりだと思う!」
ドタドタと自室から悠大が出てきて叫ぶ。
「実験区か…めんどいな…!どれが本命か全部本命なのか分からない。全部に散らばるぞ!」
全員がそれぞれの区へと走り出す。
(実験区3区全部をまとめて襲撃…?なんだ…?何か違和感がある…!)
「おい晃司どこへ行く!そっちは廃区だ!」
「人員は足りているだろう!?おれは廃区へ行く!」
「チッ、お前一人では何も出来ないだろう!?…嬢ちゃん!晃司と廃区へ行ってくれ!」
キュッと路上で靴を鳴らしながら方向転換し晃司に並ぶ。
「今までは拠点防衛だったが今回は嬢ちゃんも実戦投入だ!2人でしっかり頼むぜ!」
その言葉を後ろに聞きながら北へと全力で駆け出す。
「晃司、なんで廃区に?」
「敵の狙いが読めない。実験区は確かに最新のテクノロジーを試すための区だ。この街はこの日本の中で最も科学技術が発展している。この街にしか無い技術だってある。でもわざわざ全部まとめて襲撃する必要を感じない。…まあ、なんだ、結局はおれの勘!」
「…そう。分かった、信じる」
ザザザ…と路面が割れコンクリートの奥に土が見えているほど荒廃してしまった廃区に着いた。本来立ち入り禁止だが千草が平然とフェンスを乗り越えて行ってしまったので同じようにしてついていった。
「ここが廃区か…ずいぶんと荒れてるな…」
だが
「誰も居ない…?…おれの思い過ごしだったか…!」
「魔力波はこの辺りから出ていたはずだが…!?」
実験区はあらゆる状況を想定するために多種多様な環境になっている。剛毅が向かった南は森林環境下、つまり辺りには多くの木々が生い茂っている。その木の陰、目に入るだけで20〜30もの人影があった。
ザッ…と南方特有の森林を再現した茂みから1人の男が現れた。
「ハハッ、大当たり。かな?」
「水着のほうが良かったかしら?」
静佳の向かった東実験区は太平洋やインド洋などの大海での使用を前提とした機械の試運転地区だ。目の前には大抵の湖には負けることが無さそうなほどの大きさの湖が広がっている。深さもそれなりに深いだろう。
そして本来水中で運用されているはずの流線形のボディを持つ潜行型の機械が軒並み水面に浮かんでいた。
さらにその上には報告に上がっていたあの男の姿があった。
「当たりを引いちゃったかしら?」
「この辺は石が多いね…っと」
悠大が西アジアの砂漠を再現した地帯に踏み入ってしばらくすると辺りにある大きな岩の陰から何人もあの男が出てきた。辺りには砂漠での連続駆動時間を計測するための開発中の機械らしき物もあったがどれも動いている気配は無い。
「うーん、これは…大当たりなのか大ハズレなのか」
「んんん…良いよー…。三方位それぞれから反応があった。『ヴォルヴァ』。君の見た通りかな?」
「ええ、私の見た通りよ。お決まりの、予定調和の未来。最悪の結末だわ」
「まあまあ、良いじゃないか!さあ、これで全員がバラけた。始めようか、これが転換の第一歩だ」
薄暗い部屋から1人の男と1人の少女が表舞台へと上がる。
やっとこさ動きが出てきましたよー…。さて…ケイオス・クワイエットの面々はどうなるのか!?(こういうとこで名前出しとかないと本編で出た時に困惑されてしまう…w)
最近のアニメとかだとこういうとこで大抵1人死んでしまいますよねw