僕と島田姉妹と逃走劇   作:玉虫子希

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第三問

「コーヒーカップもメリーゴーランドもとーってもたのしかったです!」

「そう、よかったね葉月ちゃん」

 コーヒーカップの後、すぐ近くにあったメリーゴーランドに乗った僕らは近くのベンチで一休みをしていた。

 ふとすぐ近くにある時計を見てみると針は一二時十五分をさしていた。

 まだ少し早いかもしれないけれどちょうどいいタイミングだしお昼ご飯にするの悪くないんじゃないかな?

「ねえ、美波。もう十二時だしお昼にしない?」

「え?もうそんな時間?」

「あっ、ホントです!」

 葉月ちゃんが美波の腕時計をのぞき込む。こういう遊園地とかに来ると時間がたつのが早く感じちゃうからね。

「というわけで美波、今日は弁当を」

「あ、あのね、アキ。今日は弁当を」

 とりあえずバッグの中を少し開いて今朝作ってきた弁当を取り出そうとした――――そのときだった。

 

「いたぞ!異端者吉井だ!」

「「「!?」」」

 

 少し遠くからそんな男子の声が聞こえた。

 この声、それに異端者という単語……まさか

「「FFF団!?」」

 声のしたほうをむくとそこには黒装束を身にまとった奴ら――FFF団が三人こちらを指さしていた。

 Fクラスでの日常に染まっている僕は弁当をしまうとすぐに美波とアイコンタクトをかわし、葉月ちゃんの手を握ってからはじけるように逃げ出した。

「え、バカなお兄ちゃんにお姉ちゃん?いったいどうしたのです?」

「逃げるわよ!葉月!」

「え、は、はいなのです!」

 あまりの突然のことなので葉月ちゃんも戸惑っている。まあ、いきなり逃げろって言われたらそうなるよね。

『こちらB班福村!本当に吉井が島田といたぞ!至急応援を……ってしまっ、逃げられた!今から追う!行くぞ、近藤!武藤!』

『『ラジャー!』』

 そのとき、黒装束の男の不穏な通信の内容がかすかに聞こえた。

 まずい。どうしてなのかはわからないけれど奴らはあの三人だけではなく、結構な数でやってきたみたいだ。

 日曜日の昼に、それもこの如月ハイランドという場所であるにもかかわらず。

 これはさすがにまずいぞ……。こちら側は僕と美波、それに葉月ちゃんの三人だけ。そして葉月ちゃんは本来Fクラスとは無関係。巻き込むわけにはいかない。

「ごめん葉月ちゃん。今は説明している暇はないんだ。とりあえずあの黒装束のFFF団から逃げないといけないんだ!」

「えふえふ……って、バカなお兄ちゃんのクラスのお兄ちゃんたちのことです?」

「そうよ。まずいのに見つかったわね……折角のチャンスだったのに……」

「とくかく一回振り切ったらそこらへんの茂みか建物の影に一回隠れるよ!

「「了解!(です!)」」

 力強くうなづく二人。チラ、と後方を確認してみるとFFF団の黒装束が二人追いかけてきていた。

 美波と僕の足なら振り切れるかもと思ったけれど今回は葉月ちゃんがいる。

 なにか時間稼ぎをと思ったのだけど今回はまさかこんなところにFFF団がいるとは思わなかったから何も持ってきていない。

 せめて罠としてムッツリーニから買った写真とかを用意しておくべきだったんだろうけど……持ってきたらもってきたで美波に処分される可能性もあったし。

「というかなんでこんなところにFFF団がいるんだよ!」

「そんなのウチが聞きたいわよ!」

 嘆いていても状況はよくならない。援軍が来る前に何とかしたいところだけどどうしたものか。

 と、頭を回転させていると

 ピリリリリリ

 突然僕の携帯が鳴りだした。

「誰だよこんな時に!」

 ポケットから携帯を取り出すとそこには僕の悪友、『坂本雄二』という名前が表示されていた。

 余裕はあまりないのだけれど、こんなタイミングで電話がかかってくるというのはいくらなんでも不自然だ。

 もしかしたら……こいつが諸悪の根源なのかもしれない。

「アキ?誰から?」

「雄二から」

 美波にそれだけ言ってから僕は通話ボタンを押した。

「雄二、何の用?今忙しいんだけど」

『よぅ、明久。島田やチビッ子と楽しそうにやってるじゃねえか』

 その言葉は雄二がここ、如月ハイランドにいるということを証明するのに十分すぎるものだった。

「……やっぱりこれは貴様のせいか雄二!貴様、今どこに」

『詳しい話はあとでする!明久!そこの角を左に曲がれ!』

「え?」

『いいから曲がれ!』

「わ、わかった!美波、葉月ちゃんこっち!」

 問いただそうと思ったらいつになく切羽詰まったような雄二の声に戸惑いを覚えた。なんだか様子がおかしい。

 けれどほかに案も何もないし、とりあえず言われたとおりに角を曲がった。

 そしてそのまままっすぐ走ること十数秒。

 僕らはちょうど以前雄二たちのウェディング体験で使った会場の裏口あたりにやってきていた。

 そしてその裏口のドア付近に、なぜか私服の霧島さんが立っていた。

「き、霧島さん!?いったいどうしてここに」

「……話はあと。とりあえず急いで中に入って」

 そうだった。こうしてもたもたしている暇はない。とりあえず霧島さんの言う通り、僕らは裏口から中に入った。

『行き止まりだと!?吉井たちはどこに行った!?』

『おかしい、たしかにあの角を曲がったのを見たんだが』

『だがここは一本道だぞ?』

『むう。どこかでやりすごされたのかもしれん。一度引き返すぞ!』

『『はっ!』』

 外からそんなFFF団の会話が聞こえた。どうやらなんとか助かったみたいだ。

 はあああ~~~~。よかった……。

「はぁ、はぁ。ありがとう霧島さん。おかげで助かったよ」

「ホント……助かったわ翔子……ハァ、ハァ。」

「はぅ~、葉月もう歩けないのです」

 奴らが引き返して安心した僕らは疲れでその場にへたり込んでしまった。

 まったく、ひどい目にあった。もし霧島さんたちに助けてもらわなかったらどうなっていたことか。美波と葉月ちゃんはなにもないだろうけど。

「……三人ともお疲れ。吉井、ケータイを貸して」

「え?ああ、そういえばまだ雄二と通話中だった。はい」

 霧島さんにまだ雄二につながったままのケータイを渡す。

 ありがとう、と小さくいうと霧島さんは雄二と何か話を始めた。

「バカなお兄ちゃん。さっきの黒いお兄ちゃんたちはいったい何なのです?本当にバカなお兄ちゃんたちのクラスの人なのです?」

「それは――まあ、うん。とにかく、うちのクラスの連中なんだよ。捕まるととたぶん僕が大変なことになる」

「ふぇ?どうしてです?」

「まあ、とにかくそういう連中なんだ」

 たまに色々とかかわっている僕の名誉のためにも、そして純粋無垢な葉月ちゃんのためにも言葉を濁すことしかできなかった。

 いつにも増して冷たい目で見てくる美波が怖い。

「それにしてもホント、なんで今日に限ってあいつらがいるのよ。今日は折角の……その……」

「折角の?」

「……せ、折角のお出掛けだったのに嫌になっちゃうわよね!アキ」

「う、うん。そうだね」

 そんな美波のほうの様子もなんだかいろいろおかしい。

 ま、まあ今回は葉月ちゃんもいるし美波があっち側(追いかける側)に行く可能性は低いだろうから安心していい……よね?

 そんなこんなのなか電話を続けていた霧島さんは最後に「……うん、わかった」というと電話を切って僕に渡してきた。

「……ありがとう。三人とも、歩けるようになったら私についてきて。雄二に同流する」

「いま雄二はどこにいるの?というかどうして二人とも如月ハイランドに」

「……それは雄二が説明するって言ってた」

「ふーん。坂本は何か知ってるのかしら……」

「……私はまだ何も聞いていない」

 かくして、僕らは霧島さんを加えた四人で移動を始めることになった。

「ところで霧島さん。集合場所ってどこなの?」

「……サバの味噌煮」

 

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