スタッフ専用と思われる地下通路を通って霧島さんに連れてこられた場所。それは雄二たちの結婚式で使われる予定だった場所。
『鳳凰の間』、別名『サバの味噌煮』だった。
本来ならパーティや式場などで使われるこの場所にいるのは今入ってきた僕らと、一足先にやってきて入り口付近の椅子に座っていた雄二の五人だけだった。
「……雄二。三人を連れてきた」
「よう、明久と島田姉妹」
「あっ!おっきいお兄ちゃんです!」
「久しぶりだな、チビッ子も」
「チビッ子じゃないです!葉月です!」
子煩悩の雄二と葉月ちゃんの会話に少しほっこりしてしまうけれど、今はそれよりも優先すべきことがある。
僕は早速雄二に疑問に思っていたことをきくことにした。
「雄二、どうして霧島さんとここに?それになんでFFF団がこんな場所に」
「それについては今から説明する」
そういうと雄二は手帳と園内の地図をを取り出した。手帳はさることながら地図にも何か書き込みされているのが見えた。
「まずどうして俺たちがここにいるかについてだが、今日俺は翔子に脅h……じゃない。誘われてここに来る羽目になっていたんだ」
脅迫、と言おうとしたところで霧島さんの黒いオーラを感じ取った雄二は訂正した。相変わらずのようで。
「そして二人で園内を色々回っている途中でここ、この時計台付近で奴らに遭遇したんだ」
そういって雄二は園内の地図の真ん中あたりを指さす。僕らが奴らに見つかったのはもう少し南のところだから別の場所だ。
「あいつらに見つかったあとは?」
「はじめは三人しかいなかったから少しまけば何とかなると思って西へ一度逃げたんだが、このジェットコースター付近で三人、お化け屋敷吹きでもう三人あらわれた」
雄二はペンで自分の経路をかきながら遭遇地点に丸を付け、棒人間をそれぞれ三人ずつ適当に書いた。
「どうやら連中は集団でここにきているらしい。このままでは流石に逃げきれないと判断した俺たちは隙を見計らってこの建物に飛び込んだってわけだ。幸いにもこの建物はこのチケットを持っている人間かスタッフじゃない限り入れないようになっているからな」
チケットをポケットから取り出す雄二。って、そのチケット……
「プレミアムチケットじゃないか。なんでまたそんなものを」
「……如月ハイランド側から送られてきてたんだよ。よりによって翔子の家に、な」
だいたいの事情は察した。つまり霧島さんのもとにプレミアムチケットが贈られ、霧島さんが雄二を誘ったんだな。そしてFFF団に追われて逃げ込んだ――って、え?
「ちょっと待った雄二。もしかして雄二もどうしてFFF団がここにやってきているのかわからないの?」
「ああ。まったく面倒なもんだ。何かしらの理由があるなら対策をとれるかもしれないんだが……」
むう。雄二もわからないのか。
まあ、この際どうして奴らがいるのかはおいておこう。それよりも目下の問題であるこの状況についてまず考えないと。
「雄二、これからどうする?」
「現状下手に動けないからな。俺たちが動ける範囲はこの建物とお前らと翔子が合流した会場程度。あとは外に出る必要があるからばれる危険がある。まあ、ここにいる限り奴らが入ってくる可能性は低いだろうが……」
「……葉月たちは今日はもうお外で遊べないのですか?」
そのとき、葉月ちゃんが悲しそうな表情で呟いた。
……そう、たしかによっぽどのことがない限りここに立てこもれば奴らに襲われる可能性は低いのだけれど、それはつまり如月ハイランドで遊ぶことを断念するのに等しい。
それは今日を楽しみにしていた葉月ちゃんにとってつらいものだろう。
「あっ、で、でも葉月はバカなお兄ちゃんやお姉ちゃんたちと遊べるだけでも楽しいですよ!」
「……葉月ちゃん。ごめんね、巻き込んじゃって」
「葉月……」
僕らを気遣ってかそんなことを言ってくれる葉月ちゃん。でも……やっぱりどこか、寂しそうだった。
「……雄二。今のうちにお昼にしたほうがいい。みんなで食べながらでも何か考えることができるから」
「ん?……ああ、そうだな。よし、それじゃあチビッ子ども。お前たちも一緒に食うか。人数は多いほうが楽しいだろ?」
「……はいです!おっきなお兄ちゃんも、きれいなお姉さんも一緒のお昼!楽しみです!」
「……いいの?雄二。それに霧島さんも。折角二人きりだったのに。僕たちをわざわざ助けなければ二人きりでいられたのに」
考えてみればもともと二人はここに逃げ込んでいてすでに(園内のほかの場所よりは)安全だった。にもかかわらずさっき僕らをここに呼ぶために電話をかけてこうしてまで連れてきてくれた。もしかしたらFFF団に見つかってしまうかもしれないというのに。
けれど雄二と霧島さんは笑みを浮かべて
「こいつが助けようって言ったんだ。俺ははじめは反対したけどな」
「霧島さんが?」
「……すこし窓の外を見ていたら、ちょうど吉井たちが追われているところだったから」
「翔子……ありがとう」
「……お礼はいい。美波や吉井たちにはいつもお世話になっているから助けて当然」
ああ、霧島さんは本当にやさしいなあ。本当に雄二のお嫁さんにはもったいなさすぎるくらいだ。
「……それに」
「それに?」
「……今は照れてて否定しているけれど、本当は雄二は」
「とっ!とりあえずスタッフに聞いてみたが席はお前たちも自由に使っていいようだ!だからとりあえず早めに済ませてしまおうっ!」
霧島さんの声を断ち切るように雄二が声を上げた。けど、ぶっちゃけ手遅れである。
「おっきなお兄ちゃんも優しいのですね!」
「坂本、いいとこあるじゃない」
「ありがとう雄二も」
「うるせええええええ!いいから飯だ!いいな!」
「はーいです!」
こうやって褒められたり感謝されたりすることに慣れていない雄二はやたらと恥ずかしそうにしている。ふっふっふ、照れても可愛くないぞ雄二。
そんなこんなで腹が減っては戦はできぬ、ということで僕らは一時休息を兼ねてお昼にした。
さっきの追いかけっこのせいでで食べられなかったけど、今度こそ落ち着いて食べることができそうだ。