ドラえもん のび太と宇宙友情物語 ぷらす・仮面ライダーメテオ   作:ルシエド

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強・敵・襲・来

 のび太は静香に謝るために走っていた。

 だが途中からは彼女の悲鳴を聞いたことで、謝るためではなく助けるために走っていた。

 急げ、急げと思いつつも、鈍足なのび太の足ですぐに辿り着くことなんてできやしない。

 

(いったいなにが!?)

 

 のび太がようやく目的に辿り着くと、そこにはのび太よりも早く駆けつけていたジャイアン、スネ夫、ドラえもんと、彼らに庇われている静香。そして、謎の人影がそこにあった。

 

「ドラえもん! しずちゃん!」

 

「のび太くん! よかった、無事だったんだね!」

 

「の、のび太さん! あ……」

 

 ドラえもんと静香の横に駆け寄るのび太。

 静香はのび太の顔を見て少し安心したような様子を見せるが、喧嘩中ということを思い出して、すぐにその表情は曇ってしまった。

 のび太が相対する人影を見てみれば、それはどれもが人には見えない。

 

「こ、怖いよジャイアン……」

 

「ばっきゃろ、どうせ人形とかだろ」

 

 黒い服に銀の仮面、長巻に忍者刀を組み合わせたような武器を持った、まるで忍者のような存在が数十人。皆が皆武器を構えて、子供達ににじり寄っていた。

 そしてその者達の中央に、光がそのまま人の形になったような、そんな存在が居る。

 目を凝らして見れば、それはホタルのような小さな光の粒が、幾千幾万と集まって作り上げている擬似的な人型であるのだということが分かった。

 まるで、人でないものが人に近い姿を無理やり取っているかのように。

 スネ夫が怯えるのも、ジャイアンが作り物か何かかと思うのもむべなるかな。

 

「ドラえもん、あれは何?」

 

「あれは星屑兵(ダスタード)。宇宙のエネルギーを固めて作った操り人形だよ」

 

「ひみつ道具でなんとかできないの?」

 

「……ううん、たぶんできないよ。

 あれはコズミックエナジーの塊だ。

 スモールライトやカチンコチンライトも弾いちゃう。

 他のもそうだよ。軍事用のものならともかく、ぼくの道具は基本民間用だもの」

 

「ええっ!?」

 

 のび太が問い、ドラえもんが答える。

 どうやらこの敵にはひみつ道具の多くが通用しないらしい。

 のび太は大声でそれに驚くが、その大きな驚愕のせいで、自分がドラえもんに違和感を感じたことにも気付かない。

 ドラえもんが、落ち着き過ぎなのだ。

 追い込まれるとポケットから狙った物を見つけられず、ポケットの中からポンポン色んな物を放り出してあわあわしてしまうドラえもんが、全く慌てていないこの現状はおかし過ぎる。

 その理由の最たるものは「朔田流星が居るから」となるのだろうが、何故そうなのか、何故それだけの信頼を向けるのか、その理由をドラえもん以外の誰もが知らなかった。

 

「あの光は……ごめんのび太くん、ぼくも分からないや」

 

「え、あっちは僕も知ってるよ?」

 

「え?」

 

「のび太さん、知ってるの?」

 

 ドラえもんは周りのダスタードのことは分かっても、その中央の光のことは分からないようだ。

 だが、それをのび太は知っているという。

 思わず問い返したドラえもん、疑問の声を上げた静香に、のび太は"見覚えのある"その光の名を呼んだ。

 

「種をまく者……だったよね?」

 

【そう。私は宇宙を旅する、種をまく者の一人】

 

「喋ったぁ!? ま、ママー!」

 

【もっとも、君達と私はこれがファーストコンタクトになるが】

 

 スネ夫が悲鳴を上げるかたわら、のび太はねじ巻き都市(シティ)で昔出会った、一人の神様のような少年を思い出していた。

 地球や火星を作り、星の上に生物の種をまき、その生命を守ろうとしていた光り輝く人でない生命。のび太が神様と呼ぶと、「ちょっと違うけどまあそんなものだよ」と笑っていた彼のことを。

 のび太が知る『種をまく者』より幾分重苦しい印象を受けたが、のび太はかつて見たそれと今見ているそれが同種であることを、なんとなく悟っていた。

 

「種をまく者……?」

 

【この宇宙に生命と知性の種を蒔き、悪しき命を排し善き命で宇宙を満たす。

 罪無き者、正しき者、善き者、自然と調和する者、思い遣る者を守る。

 我らはそのために、宇宙にあまねく広がる超越者(プレゼンター)であることを捨てた者】

 

 ドラえもんの問いかけに、光は自分の存在がどういうものであるかを語る。

 それは小学生の頭では理解し難いものであったが、ドラえもんの表情を驚愕で塗り潰すには十分なものであったようだ。

 

「そんな!?

 プレゼンターとの接触はまだ先で、城島ユウキ宇宙飛行士が15年後にするはずなのに……!?」

 

「おいドラえもん! どういうことかオレたちにも説明しろよ!」

 

「え、ええっと、つまり……」

 

 小学生たち置いてけぼり。

 歴史を知るドラえもんだからこそ、変わってしまった歴史と、この状況の危険性に気付けたのだが、それはイコールでドラえもん以外の全員がちんぷんかんぷんである、ということでもある。

 ジャイアンがしびれを切らしてドラえもんの首を引っ掴んで説明を求めたのも当然だ。

 だが、ドラえもんが説明しなくとも。

 

【我は地球人類をこの宇宙に有害な存在と認定し、消し去ることを決めた】

 

「えっ?」

「は!?」

「ちょっ」

「ええええ!」

「嘘っ!?」

 

 種をまく者は、その目的を隠す気など全くない。

 

「な、なんでボクらが消し去られなくちゃいけないのさぁ!」

 

【公害、戦争、環境破壊、いくつか理由を挙げてもいいが……一番大きなものは、これだ】

 

 スネ夫の涙声の悲鳴を聞き、種をまく者は右手を胸の辺りまで上げる。

 その右手から放出された光が、空間に立体映像を作り上げた。

 映し出された映像は、真っ暗闇の宇宙空間とそこに浮かび上がる小さな点々。

 のび太とドラえもんは、その映像を見てハッとした。

 

【見覚えがあるはずだ】

 

「……まさか」

 

【君達が宇宙に捨てたゴミなのだから】

 

「ぼ、僕らがバイバインをかけたくりまんじゅう……!?」

 

 ちょっと昔の、のび太達が平凡な日常を送っていた時のこと。

 のび太はドラえもんに頼み、その液体を一滴かけるだけで五分毎に倍の数になるというひみつ道具・バイバインをくりまんじゅうにかけてもらったことがあった。

 が、くりまんじゅうはちょっと油断した隙に食い切れないほどの数にまで増えてしまい、地球がくりまんじゅうに埋め尽くされる危険性が生まれてしまったのだ。

 何しろ、一個のくりまんじゅうでも五分で倍なら、二時間と少しで一億個を超えるのだ。

 

 最終的にドラえもんのひみつ道具のロケットにより、くりまんじゅうは宇宙の果てへと捨てられることとなったが、一歩間違えれば大変なことになっていただろう。

 ドラえもんの計算では、くりまんじゅうを運ぶ超光速ロケットは宇宙の外縁に近い所で減速し、そこでブラックホール化した饅頭によって全ての饅頭は崩壊、人の胃に入った饅頭と同じように、増殖能力を失うという推測が立てられていた。

 だが、そうはならなかったらしい。

 

【『これ』は、我が手がけていた星の一つをあわや飲み込むところだった。

 太陽の光を遮り、星を飲み込みブラックホールと化すところだった。

 我が消さなければ、今頃いくつかの星と幾多の命が失われることとなっていただろう】

 

 天文学的、あるいは奇跡的な確率で、くりまんじゅうはこの広大な宇宙に数えられる数しかないであろう、生命体が過ごしている惑星にぶち当たってしまったらしい。

 そして危うく地球のような生命のある惑星を、種をまく者が手がけていた星を、大変なことにしてしまうところだったようだ。

 ここまで言われれば、小学生達にも種をまく者の怒りが理解できてくる。

 

「ま、待ってよ! 悪気はなかったんだ! ごめんなさい、僕らもうしません!」

「……本当にごめんなさい。でも、悪いのはぼくだ! ぼく以外を巻き込むんじゃない!」

 

「のび太とドラえもんが悪いんじゃないか!

 ボクらは悪くないのに、どうして消されなくちゃならないのさ!」

「そうだそうだ!」

 

「スネ夫さん! たけしさん! やめて!」

 

 謝るのび太、自分以外に責任を問わせないようにしようとするドラえもん。

 パニックになり責任を押し付けようとするスネ夫、ただ単純に種をまく者の主張に腹が立っているジャイアン。

 そしてそんな二人をたしなめる静香。

 五人はそれぞれがそれぞれの言葉を発するが、種をまく者はどこ吹く風だ。

 

【勘違いしないで欲しい。我は君達の行為に対する罰を与えるつもりはない。

 君達の悪意の有無を疑っているわけでもない。君達に悪意がなかったことは分かっている】

 

「え? じゃあ、許してくれるの?」

 

【許す許さないの話ではなく。君達に悪意がなかったからこそ、我は君達を滅ぼすのだ】

 

「……え?」

 

 その時ののび太の反応は、五人の総意の代弁だった。

 種をまく者は、悪意なくやったからこそ、人を滅ぼすのだという。

 

【この宇宙で最も生きていてはならないのは、悪意ある生物ではない。

 それ以上に悪意なく、自分達の力の大きさに自覚もない……

 自分達が善と正義を貫いていると信じながら、他の生命を踏み潰す者達だ】

 

「それって……」

 

【君達のことだ。

 悪意なく、『うっかり』『気付かなかった』で多くの命を奪いかけた者達よ】

 

 のび太達の間に、戦慄が走る。

 

【悪意はない、と言ったな。だが我は、それが一番恐ろしい。

 それは君達の文明で言えば……交通ルールを守らず走る、全速力の車のようなものだ】

 

 誰を跳ねても気付かない。

 誰を轢いても気付かない。

 車に轢かれる側の命からすれば、怖くて怖くて仕方がない。

 そして、言われなければ自分が危ないことにも気付けない。

 

「待ってくれ! ぼく達が大変なことをしてしまったのは分かった!

 でもこれから反省して、同じことは繰り返さないようにする、だから……」

 

【反省は求めていない。贖罪は求めていない。我は既に決めた。ただ、それだけのこと】

 

 種をまく者は、人間に成長や反省を求めているわけではない。

 人間を悪と断じてもいないし、人間に罪があるとも思っていない。

 ただ単純に、"この宇宙の他の生命に迷惑だから消しておこう"という、雑草を毟って他の植物を生かす感覚で『調整』しているだけだ。

 地球人類を、この宇宙に生きる価値もある命であると認識した上で、だ。

 

【幼年期も終わらせぬままに、地球人類は過剰な力を持ち過ぎた】

 

 種をまく者の意志に従い、ダスタード達が手に持った武器を構える。

 主が一声かければ、一斉に武器を投げつけられる構えだ。

 のび太達は黒服に銀の仮面の者達が武器を構えた威圧感に、思わず後ずさってしまう。

 

【消え去るがいい。宇宙の多くの命に、迷惑をかける前に】

 

 淡々と、種をまく者は感情の見えない声で言う。

 もうダメなのか、と子供達が思った、まさにその瞬間。

 その場の空気を切り裂いて、よく通る声が響き渡った。

 

「子供の失敗をあげつらって高尚な生命体気取りか。素晴らしい精神性をお持ちのようだな」

 

 種をまく者が、ダスタードが、子供達が、ドラえもんが声の聞こえた方を見る。

 そこに立っていたのは、戦意を漲らせた朔田流星その人だった。

 

「流星お兄さん!」

「流星さん!」

「助けに来てくれたんだ!」

 

 空気が変わった。

 種をまく者とダスタードの発する剣呑な空気に呑まれていた子供達だが、流星の登場で特に深い理由もなく、「助かった」と思えたようだ。

 先程までとは、この場の雰囲気がまるで違う。

 流星は庇うように子供達の前に立ち、のび太の前に立つ。

 

「あの、その、ごめんなさい! 僕達のせいで――」

 

 のび太はそこで流星に自分達がやってしまったこと、それが招いてしまったことを謝り、泣きそうになる。だが流星は、のび太の言葉を途中で遮るように、その頭を撫でた。

 

「ああ、いいぞ。謝ることは大切だ。

 自分が間違ったことをしてしまったと自分で分かっているなら、それでいい。

 後は任せろ。子供がやったことの責任を取るのは……大人(おれたち)がやることだ」

 

「え?」

 

 そしてのび太の肩に手をやり、少しだけ後ろに下がらせる。

 子供達に背を向け、一歩踏み出し、流星は武器を構える数十体のダスタードと向き合った。

 その向こうの種をまく者を、眼光鋭く睨みながら。

 

【君は責めないのか。この子らが人の滅びを招き寄せたというのに】

 

「なら言ってやろうか。子供のやったことにわざわざ目くじらを立てるほど、俺はガキじゃない」

 

 失敗を繰り返さないよう叱って終わりだ、と流星は言う。

 子供のやったことの責任を取るのは大人だ、とさっき彼は言っていた。

 もうすぐ父親になる。けれどまだ父親ではない一人の男は、子供達を守るために敵と向き合い、その牙を剥く。

 

【何故そこまで寛容になれる?】

 

人間(おれたち)は誰もが失敗する。

 だが、何度失敗しても、誰かが挫ければ誰かが支える。

 そうして人の思いが渦を巻き、変わらない円ではなく前に進む渦を成す」

 

 ダスタードが武器を振り上げ、投擲の姿勢に入った。

 

「それが『俺達の銀河』だと……大切な友に、教わったからだ!」

 

 そして流星の言葉が終わると同時に、星屑達はその武器を投げた。

 迫る剣。まるで雨のように降り注ぐそれらを見て、流星は服の下に仕込んでいた黒いベルト……メテオドライバーを起動し、構える。

 

《 Meteor Ready? 》

 

 メテオドライバーの音声に続いて、慌てず両の腕で円を描く流星。

 形作られる円は惑星軌道を描くものであり、太極を描く軌跡でもある。

 そして惑星軌道を貫く流星を、太極を割る境界線を描くように、腕の動きを曲線から直線へ。

 

「変身!」

 

 そうして彼は、『変身』した。

 流星の身体を青い球体が包み込み、まるで青色の隕石のようになったそれはダスタード達が投げた全ての武器を弾いてのび太達を守り、大きな衝撃と共に床にぶつかる。

 

「な、何っ!?」

 

 子供達の驚愕の声をよそに、青い球体は霧散し、その中から青い戦士が現れる。

 青色を基調とし、プラネタリウムのような綺羅びやかな輝きがキラキラと眩しく、左右非対称で流線型の装甲は彗星や流星を思わせる。

 "青い流星"。

 その戦士を一言で表すならば、それ以外の表現はありえない。

 

【お前は……】

 

「仮面ライダーメテオ」

 

 流星は親指で鼻をこする仕草を見せ、水をかき分けるような動きで構える。

 

「お前の運命(さだめ)は、俺が決める」

 

 そして星屑の超人達の中に躍り出て、その拳を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 Saturn Ready? OK! Saturn! 》

 

 まずメテオは、自分の右手に装着されたガントレットを操作した。

 するとガントレットから土星型のエネルギーが発射される。土星を囲む輪っかは高速回転する刃となって唸りを上げて、三つの土星が敵へと向かって飛んで行く。

 その土星の着弾を待たず、メテオは敵に向かって飛び出した。

 

「ホーゥ」

 

 流星は八年間使い込んできたメテオの能力を完全に把握し使いこなしており、今や土星型のエネルギーを三つ同時に制御・操作しつつの近接格闘などもお手のものだ。

 加え近接戦闘では、李氏八極拳の流れを汲む拳と棒術を主とした中国拳法を発展させた截拳道、『星心大輪拳』にて磨き上げられた技術が光る。

 三つの土星が敵を切り裂くと同時に、流星の口から怪鳥のような声が飛び出し、拳が刺さった。

 

「ホワチャア!」

 

 三つの土星に切り裂かれた三体のダスタード、拳に貫かれた一体のダスタードが霧散する。

 コズミックエナジーで出来た体が、破壊された後も残るわけがない。

 見慣れた光景に流星は足を止めることなく、ダスタードの集団の中に突っ込み、三つの土星を同時制御しながらの接近戦を敵に仕掛けた。

 

「アチャァ!」

 

 左の掌で優しく敵の防御をこじ開け、右の拳で頭蓋を粉砕。左の柔拳、右の剛拳の合わせ技だ。

 背後から迫るダスタードの存在に気付きつつも、振り向くことすらせずに気配を感知し、背を向けたまま裏拳を叩き込む。

 剣を振ってかかってくる別のダスタードの剣閃をさらりとかわし、その腕を取って一瞬で折り、肘で胸のど真ん中を文字通りに打ち抜く。

 また別の敵に対し掌で攻撃を捌くのと防御に隙を作るのを同時にこなし、防御の隙間に手の平をするりと差し込んで、掌底で衝撃を浸透させる浸透勁。一撃にて、敵の体内をズタボロにする。

 

 流星の動きは円と直線、剛と柔、虚と実が綺麗に織り交ぜられていて、戦況に合わせて適宜最適な技が飛び出してくる。

 特殊な技など使わずとも、おそらくダスタード程度では指一本触れることすら叶うまい。

 ダスタードも拳法の達人を圧倒できるくらいの身体能力は持っているのだが、メテオの性能・流星の技量・豊富な戦闘経験の相乗効果が強すぎるのだ。

 

「ァチャーッ!」

 

 前、右、左からダスタードの同時攻撃を受けた流星。

 ピンチにどう対応するのかと思えば、なんと三方向へと同時に、かつ均等に拳のラッシュを浴びせ始めたではないか。

 普通ならばそんなことをすれば敵全員に攻撃がまばらになってしまい、手数の差でやられてしまうものだが、彼はそんな愚を犯さない。

 むしろ拳撃のスピードを引き上げ、三体を同時に相手にしつつ、三体全員に攻撃のチャンスを与えないほどの速度で拳を叩き込み続けていた。

 顔と腹をしこたま殴られた三体のダスタードはよろめき、そこで飛んで来た三つの土星にトドメを刺される。

 

「こんなものか! どうした、本気で来い!」

 

 これほどまでに凄まじい近接戦の技量を見せつけつつ、流星は近接戦と平行して三つの土星を巧みに操り、ダスタードを片っ端から仕留めていた。

 とても土星の制御に集中力を割かれているとは思えない戦いぶりは、彼がメテオを使ってどれほどの数の戦いをくぐり抜けてきたのか、それを如実に証明している。

 メテオが強いのではない。

 メテオを使う朔田流星が強いのだ。

 今の仮面ライダーメテオの強さは、使い手の戦闘経験と技量の高さに由来している。

 

「流星さんすげえ!」

 

「あの声、あの強さ、まるでブルース・リーみたいだよ!」

 

 その強さに純粋に感嘆の声を上げるジャイアンに、恵まれた家庭でたくさんの映画を見てきたがゆえの感想を口にするスネ夫が続く。

 子供達が興奮するのも仕方がないくらいに流星は強く、格好良く、そして圧倒的だった。

 

「ドラちゃん、ひみつ道具で助けてあげないの?」

 

「邪魔になっちゃうかもしれないんだ。

 22世紀のものでも、デパートで売ってるひみつ道具じゃ……

 この時代の『仮面ライダー』みたいに、戦いのために作られたものじゃないから」

 

「仮面ライダー?」

 

「そう、仮面ライダー。流星さんは、だから負けないんだよ」

 

 静香の問いに、ドラえもんは答えになっていない答えを返す。

 

「流星お兄さん……」

 

 そしてのび太はハラハラしながら、メテオの戦いを見守っていた。

 

 

 

 

 

 メテオはガントレットのキーを元の位置に戻し、土星を消す。

 そこからは先ほどまでとは比べ物にならない、地を這う流星の如き動きを見せた。

 流星の脚力と歩行技術とメテオのパワーアシストの相乗効果により、メテオは恐るべき速度で地を駆ける。

 そしてダスタードを一体、二体と蹴り上げ、最初に蹴り上げた一体が落ちて来る前に、全てのダスタードを蹴り上げる。

 そうやって低重力設定の宇宙ステーションという環境を利用して、空中で残りのダスタード全てをひと塊にした。

 

《 Jupiter Ready? OK! Jupiter! 》

 

 間を置かず、流星は右手のガントレットを操作して跳び上がる。

 先ほどは刃の輪を持つ土星が三つ射出されていた。

 だが今度は、メテオの拳を包み込むように木星型のエネルギーが構成されている。

 土星型の攻撃が対集団用の手数重視の一撃ならば、この木星型の攻撃は、全てのエネルギーを圧縮・一点集中・炸裂させる対個人用の一撃必殺。

 

「吹き飛べ! 屑星ども!」

 

 流星が振り上げた拳はこんがらがったダスタード達に命中し、木星は込められたエネルギーを炸裂させ、ダスタード達は一体残らず粉砕される。

 粉々になったダスタードの欠片が、まるで黒い雪のように降り注ぐ広場の中央、メテオは低重力に沿ってゆっくりと着地した。

 

「やったぁ!」

 

 メテオの背を見ながら、子供達が歓声を上げる。

 

「これで終わりか? 種をまく者」

 

【やはり強い力を持っているな。それはプレゼンターの力の一端を解析したものか】

 

「答える義理はない」

 

 今や戦いの場には、向き合うメテオと種をまく者しか居ない。

 種をまく者を守護する取り巻きは、もう一体も残っていなかった。

 なのに種をまく者は微塵も動揺しておらず、相も変わらず感情の見えない声、雰囲気、存在感でそこに佇んでいる。

 

【なら、趣向を変えよう】

 

 種をまく者が一歩を踏み出す。

 するとハ長調ラ音に近い音が鳴り、種をまく者の姿がかき消えた。

 いや、違う。消えたのではない。人間には知覚できない姿へと『変身』したのだ。

 今の種をまく者は、人の目には映らない"無の揺らぎ"。

 やがて無の揺らぎは収束し、形を成し、流星のよく知る姿を紡ぎ上げる。

 

【君の記憶の中の最も強かった敵を、もっと強く、もっと強靭に、もっと強化して】

 

 獅子の(たてがみ)、獅子の牙、そして一際目立つ獅子の爪。

 高い身長とそれを覆う筋肉の鎧が作り上げる屈強な体。

 人型の獅子、という表現がこれ以上なく似合う星の怪人(ゾディアーツ)

 流星はその姿を目にし、仮面の下で瞠目しながら声を上げる。

 

「『レオ・ゾディアーツ』だと……!?」

 

 その姿は、できれば二度と見たくはないものだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダーメテオは、かつて共闘した仮面ライダーフォーゼと比べても、その性能が戦闘……厳密には星の怪人(ゾディアーツ)との戦闘に特化している。

 素の状態で幹部級(ホロスコープ)のゾディアーツをも倒すことができ、そこに朔田流星の技量や強化形態の伸び代を上乗せすることで、最上位クラスのゾディアーツをも倒すことができる。

 ゾディアーツの奥の手である超新星形態へ有効な攻撃手段さえ持ち合わせており、設計思想の段階からゾディアーツを倒すために作られたものなのだということが伺える。

 

 そんなメテオが、状況のせいで負けた相手や、防御特化などの相性の悪い相手以外に、唯一完膚なきまでに敗北した存在が居る。それがレオ・ゾディアーツだ。

 この獅子座の怪人は、かつての戦いにおいて射手座の怪人と並ぶ最強の双璧であった。

 具体的に言えば、メテオの最強形態とフォーゼの最強形態を同時に相手にしてもたった一人で一蹴してしまったことがあるほどに、次元違いの強さを有している。

 

 そんなレオが、流星の目の前に居る。

 

【レオ・ゾディアーツ。立神吼。これが君の思い出の中で最も強かった敵か】

 

 声から判断するに、種をまく者が変化した姿でもあるらしい。

 だが、流星は地獄から蘇った獅子を見て、実力を量るためにとりあえずで当たってみるなんてことを選びはしなかった。

 

「様子見に回れる相手じゃないな」

 

《 Meteor Storm! 》

 

「最初から全力で行く!」

 

《 Meteor on Ready? 》

 

 レオは姿だけ真似た雑魚かもしれない、などという慢心を抱ける相手ではない。

 流星がそう考えるほどに、彼の中でレオ・ゾディアーツという敵は強大であり、その姿をしているというだけで警戒に値する。そんな恐るべき強敵だった。

 流星が腰のベルト、メテオドライバーのスイッチを入れ替える。

 そして新たに挿したスイッチの金色の風車のような部分を回せば、メテオは新たな姿へ変わる。

 いや、変化ではない。

 これは進化だ。

 

 風車のような部分が回転すれば、そこから吹き荒れるのは青と金の二色の嵐。

 嵐はメテオの全身を包み、その体を変えていく。

 青い流星を思わせた体は、流星が大地に激突した瞬間を象った形状へ。

 黒の上に青を乗せたようなカラーリングは、青の上に金を乗せたようなカラーリングへ。

 そして暗色の紫だった瞳の色が、輝ける赤へと変わる。

 

【仮面ライダーメテオストーム】

 

 種をまく者がその名をポツリと呟くと、レオ・ゾディアーツは咆哮し、異常な跳躍力をいかんなく発揮してメテオへと襲いかかった。

 

「なんでもお見通しか。だが一度は倒した相手!」

 

 対するメテオはメテオストーム専用の棒術武器、メテオストームシャフトを物質化(マテリアライズ)

 神槍李書文の例にあるように、中国拳法と棒術等の長柄の武器は相性が良い。

 メテオは嵐の風速以上の速度で棒を突き出し、レオの鳩尾を打つ。

 そしてインパクトの瞬間、棒の先端から青と金のエナジーを放出し、破壊力を高めた。

 ゆえにシャフトをぶつけた音も"ガン"ではなく"ドガン"であり、ロケットランチャーじみた破壊力が音だけで分かる、そういう一撃であった。

 ……にも、かかわらず。

 

(耐久力はオリジナルと同等か、それ以上か!)

 

 レオは痛みすら感じていないようで、平然とその腕に付いた巨大な爪を振り上げ、目の前に居るメテオに向かって振り下ろした。

 メテオはシャフトを頭上に構えて受け止めるが、あまりのパワーにメテオストーム化で強化されているはずの膝がぐっと曲がり、足が床にめり込んでしまう。

 

(何だこのパワーは!? まさか、全能力がオリジナル以上に……!?)

 

 ただ腕と爪を振り下ろしただけでメテオを驚愕させたレオは、振り下ろした腕を離して、足を振り上げメテオを蹴り上げる。

 オリジナルのレオ・ゾディアーツ、立神吼と違って何の技巧もないが、ただ単純に"速すぎる"という特性をもって、そのキックはメテオを上方へと跳ね上げた。

 

「が、はっ! っ!?」

 

 この宇宙ステーションは低重力設定だ。

 だがそれを加味しても、メテオが一瞬で天井まで蹴り上げられ、天井で跳ね返ってバウンドし、一瞬で床にまで戻って来て、再度レオに横に蹴り飛ばされる光景など異常に過ぎる。

 人間一人の重さを高層ビルの上まで蹴り上げられるような脚力がなければ、こんなことはできないだろう。

 流星は蹴り上げられた衝撃、天井にぶつかった衝撃、跳ね返って床にぶつかった衝撃、横に蹴っ飛ばされた衝撃で頭の中をシェイクされるが、吹っ飛ばされながら空中で体勢を立て直す。

 

「舐めるな!」

 

 メテオは壁に叩き付けられる寸前に身を翻し、壁に両の足で着地。

 そして100mを5.4秒、20m以上の距離を一跳びできる脚力を全開にし、壁からレオへと向かって一直線に跳躍した。

 横一直線に飛ぶ流星、足を止めて迎え撃つ獅子が相対する。

 レオは左の豪腕とそこに付随する大きな爪を振り上げ、メテオが自分の目の前に来るタイミングを見計らい、その爪を振り下ろした。

 

「―――!?」

 

 だが、強靭なだけの地を這う獣では、天翔ける流星には届かない。

 メテオは跳躍にて横一直線に飛んでいたが、その途中でシャフトを床に突き立てる。

 眼前で停止したメテオの動きにレオは対応できず、メテオ迎撃のために振るった爪は、ギリギリメテオに届かず空振ってしまった。

 そんな隙を、朔田流星は見逃さない。

 彼は一歩で距離を詰め、格闘技界では"キドニーブロー"と呼ばれ、絶対に殴ってはいけないとされる場所に指先を揃えて添え、ガントレットを操作する。

 

《 Mars Ready? 》

 

「くたばれ」

 

《 OK! Mars! 》

 

 そしてガントレットがコマンドを実行すると同時に、揃えて添えた指は瞬時に拳へと変えられ、急所に拳が叩き込まれた。

 加え、インパクトの瞬間にガントレットが火星型の炎の拳を形成。

 見るも鮮やかな炎の拳。炎の赤と、流星の青、嵐の金の三重奏の炎の拳だ。

 熱と衝撃がレオの急所に叩き込まれ、たまらず獅子は苦悶の声を上げつつ吹き飛ぶ。

 床をゴロゴロと転がっていったレオは、怒りの声を上げながらよろよろと立ち上がってきたが、どちらが強いかなど、この時点で既に明白だった。

 

 メテオを手にしてから八年間のたゆまぬ研鑽、絶えぬ激闘。

 それが朔田流星を強くした。

 今の彼には、生半可な悪党では歯が立つまい。

 流星は流麗で流動的な構えを取り、目の前のレオ、そこに重なる種をまく者に語りかける。

 

「技巧も工夫もないただ強いだけの獣に、俺が負けるか」

 

【ならば、もうひと押し】

 

 種をまく者の声に動揺はない。

 10の強さの怪物を出してダメなら100の強さの怪物を。それでダメなら1000の強さの怪物を。

 そんな思考で、淡々とメテオを超える強さの怪物を出そうとする。

 ふと、メテオは頭上を見上げる。

 そこには一つの光球があった。

 浮かんでいたその光球はレオの手の平の上に収まると、その手の中に吸われていく。

 

【超 新 星】

 

「なっ……!」

 

 レオの体が変化していく。

 獅子の怪人、といった形状から、本物の獣に近い四足歩行へ。

 体の大きさも2m前後の人体に近い大きさだったものが、10m近いサイズへと変わる。

 幻想の魔獣。神話の世界の神獣。お伽噺の中にしか居ない怪物。

 それをそのまま形にしたような、あまりにも巨大で強剛な獅子。

 

「レオの……『超新星』……!?」

 

 超新星形態。

 最上位のゾディアーツの一部のみが持つ、最強最大の切り札が今、切られた。

 

 

 

 

 

 強化変身である超新星形態は、ゾディアーツによっていくつかのタイプに分かれる。

 体のデザインが多少変化し、特殊能力を中心に自分を強化するタイプ。

 特異な単一の能力を発現するタイプ。

 そして巨大化し、とことん自分の肉体を強化するタイプだ。

 レオは最後のタイプに属する、己の肉体を極限まで高めるタイプである。

 

「く、っ!」

 

 巨大な獣となったレオがメテオに跳びかかり、メテオは転がるようにその一撃を回避した。

 体が大きくなったというのに、スピードも機動性も減るどころか増している。

 パワーは当然数倍から数十倍にまで高まっているだろう。その力のほどを確かめるため、わざわざ一撃を受けてみようと思う愚かさが、流星の中にあるはずがない。

 

「だが、超新星なら!」

 

 しかし、敵が膨大なコズミックエナジーを内包し、肉体に収まりきらないコズミックエナジーが肉体から溢れ出る巨大化タイプの超新星形態ならば、やりようはある。

 メテオには『超新星を殺すための武器』が備わっているのだ。

 

《 Limit Break! OK! 》

 

「メテオストームパニッシャー!」

 

 流星がメテオストームシャフトにメテオストームスイッチを装填。

 必殺技(リミットブレイク)を起動すると、先程まで嵐を吹き出す風車のように見えていた部分が、なんと嵐を纏う独楽(コマ)となって放たれたではないか。

 独楽は巨大化したレオへと向かう最中にレオの肉体からコズミックエナジーを吸い上げ、その威力を加速度的に引き上げて、纏う嵐の力強さと切れ味を増していく。

 

 これぞメテオストームの超新星殺し、メテオストームパニッシャーだ。

 メテオがリミットブレイクで放つ独楽は敵のエネルギーを吸い上げ、何度も敵にぶつかる度にその回転力・切れ味・速度を増すという、恐るべき特性を持つ。

 敵が強ければ強いほど、敵が大きければ大きいほど、吸い上げるエネルギーは増えるために効果的になる。

 

 本来通常形態のレオのように無駄なエネルギーを放出せず、シンプルに硬く、メテオストームパニッシャーにエネルギーを吸わせないまま弾いてしまう敵には相性が悪いのだが、それもレオが超新星を使ったことで弾かれる心配がなくなった。

 相手が超新星ならば、吸えるエネルギーの量も莫大であり、身体が大きいために弾かれずに大きな的に何度も当てることができ、メテオストームパニッシャーが最終的に得られる破壊力にも期待できる。

 

 流星はそう考えた。

 そう期待して、撃ったのだ。

 

「なんだと!?」

 

 だが、その期待は裏切られる。

 メテオストームパニッシャーは放たれ、独楽は何度も何度もレオへとぶつかり、レオのエネルギーを吸い上げて威力を増しながらぶつかり続ける。

 なのに、なのにだ。

 超新星の獅子、レオ・ノヴァの体表にはかすり傷一つ付いてはいなかった。

 

【"そういう風"に作った】

 

 おそらくは種をまく者の仕業だろう。

 ただでさえ強化されていたレオの身体スペックが、超新星の力を得て指数関数的に増大し、メテオストームパニッシャーがどれほど威力を上げようとも傷付けられないほどに硬くなってしまっているのだ。

 メテオストームパニッシャーの威力は既に、通常の三~四倍以上の破壊力を宿している。

 だが、おそらくは今のレオ・ノヴァを傷付けるには、通常の二十倍の威力は必要だ。

 

 そして現状メテオの装備では、メテオストームパニッシャーを最大限に活用する必殺技以上に、破壊力のある攻撃法は存在しない。

 

「バカ、な……!」

 

 流れ星よりもはるか高みを往く黄道十二星座は、模造であっても伊達ではない、ということか。

 レオ・ノヴァは口を開き、無造作に噛み付く。

 そのただ一動作で、メテオストームが放った黄金の独楽は噛み砕かれてしまった。

 流星は驚愕に声を上げかけるが、もはやそれどころではない。

 レオ・ノヴァが独楽を噛み砕いた後の口を開くと、そこには膨大なコズミックエナジーが凝縮されており、すぐにでも放たれるであろうことは明白だった。

 流星は驚愕で硬直しかけた身体を精神力で無理矢理動かし、シャフトにセットしてあったメテオストームスイッチを、腰のメテオドライバーにセットし起動。

 

《 Meteor Limit Break! 》

 

 そして本来敵を倒すために使う必殺技(リミットブレイク)を防御のために、この一撃をしのぐために、ただ生き残るためだけに使う。

 

「やらせるかっ!」

 

 このレオの一撃を止めなければ、この部屋に居るのび太達の命はおろか、この宇宙ステーションそのものが崩壊してしまう。

 それを理解したメテオによる、青と金の二色の嵐を纏ったシャフトによる一撃。

 迎撃のために振るわれたそれが、レオの口内より放たれた橙色の衝撃波の嵐を正面から受け止める。嵐と嵐がぶつかり、混ざり、青と金と橙がゆったりと融合していき。

 レオの衝撃波に押し込まれた三色の嵐が、メテオに直撃した。

 

「ぎ、ぃ、がっ……!!」

 

 のび太達と宇宙ステーションを守った代償に、メテオは宇宙ステーションを破壊してしまうほどの威力を持った一撃を、多少減衰させたとはいえモロに喰らってしまう。

 流星、ベルト、スイッチは衝撃で吹っ飛び、それぞれが別々の場所へと飛んでいってしまった。

 メテオドライバーはのび太の足元に、流星は一度打ち上げられてからレオと子供達の中間辺りに落下し、スイッチはレオ・ノヴァの足元に落ちる。

 そして獅子は足を上げ、メテオスイッチ・メテオストームスイッチの両方を、踏み潰した。

 

「ああ、スイッチが!」

 

「流星お兄さん!」

 

 スイッチは仮面ライダーの力の源であり、制御装置でもある。

 それを失えば、メテオはもう戦えない。

 満身創痍で倒れた流星も、子供達を狼狽えさせるには十分だ。

 のび太は足元に落ちたメテオドライバーを拾い、流星を助けるために駆け寄ろうとし――

 

「来るな!」

 

 ――その流星本人の叫びに、足を止められた。

 

「ドラえもん! 俺はいい、そいつらを連れて逃げろ!」

 

「! う、うん!」

 

 流星の声に従い、けれど流星の意志を半分だけ意図して無視して、ドラえもんは流星も含めた全員を逃がすために、どこでもドアなどの道具を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。

 

【逃しはしない】

 

 だが、それを見逃す種をまく者ではない。

 レオ・ノヴァの目から細いビームが発射され、ドラえもんの腹に命中してしまう。

 

「あちゃちゃちゃちゃちゃ!?」

 

「ドラえもん!?」

 

「わ、わわわ、ポケットが焼けちゃった! ひみつ道具が使えない!」

 

「そんなぁ!」

 

「ドラちゃん、嘘でしょ!?」

 

 そしてビームは綺麗にポケットを焼き尽くし、ひみつ道具を封じてしまう。

 のび太も、静香も、ジャイアンも、スネ夫も、その表情は真っ青だ。

 

「……う、し、しかも、今のビーム、ただのビームじゃ……な……」

 

「ど、ドラえもん?」

 

「……ね……む……い……」

 

「ドラえも~ん!」

 

 その上、このビームがポケットを焼いたのはただの余剰エネルギーの熱によるものでしかなかったようで、ビームの本来の効果でドラえもんが眠り、コテンと倒れてしまう。

 流星が倒れ、ドラえもんが眠り、子供達は完璧にパニックに陥ってしまっていた。

 そんな子供達にかかる声。

 

「もたもたするな! こっちだ!」

 

「! 流星お兄さん、でも、ドラえもんが!」

 

「あっちは俺がなんとかする! 今は逃げろ!」

 

 流星はのび太達を説得しつつ、走って子供達を逃げ道へと導いた。

 のび太達は後ろ髪引かれつつも、流星に言われるままに走り、逃げ道へと向かう。

 

「こっちだ! 早く走り抜けろ!」

 

「うん、お兄さんも一緒に……」

 

 流星に促されるまま、子供達は広間から通路に入る。

 体力のあるジャイアン達は戦闘を走り、真っ直ぐに避難用の宇宙船がある格納庫に向かって行き、静香がその後に続いた。

 最後尾を走るのび太は後ろにいるであろう、流星の顔を見ようと振り返る。

 だがそこに、流星の背中はあっても、顔はなかった。

 流星は逃げる子供達に背を向け、追って来ているレオ・ノヴァへと向き合い、壁にあったスイッチを拳で壊すように叩く。

 すると、流星とレオが居る広間と、のび太達が居る通路の境界に、分厚いシャッターが降りて来る。広間と通路は、それで遮断されてしまった。

 

「え?」

 

 のび太は降りたシャッターをドンドンと叩きながら、その向こうの流星へと呼びかける。

 

「流星お兄さん? お兄さん!」

 

「行け、のび太! まだ、何も終わっていない……俺は、お前に後を託す」

 

「お兄さんやドラえもんを置いて行けるわけないじゃないか!」

 

 のび太は優しい。どこまでも優しい。

 それは時に長所であり、時に短所だ。

 子供らしい思慮の浅さゆえに、それはどちらにも転びうる。

 彼がここに居てもできることは何も無いというのに、それでも流星達を見捨てていけない。

 見捨てられない。見捨てたくない。そんな我儘を言ってしまう。

 

「わっ!? さ、さっきの黒い服!」

 

 だがそこで、シャッターの此方側にダスタードが現れる。

 目の前に突然現れた怪人に、のび太は思わず後ずさってしまう。

 まだたったの一体だが、これからドンドン増えていくだろう。

 そうなれば、のび太は容易に捕まってしまうはずだ。流星の命がけの覚悟すら、踏み躙った上で。

 

 壁の向こうから、状況を察した流星が叫ぶ。

 

「行けぇぇぇぇぇっ! のび太ぁ!」

 

「う、う……うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 見捨てられない。見捨てたくない。

 それでもここで捕まってしまったら、何もかもを無価値なまま終わらせてしまう気がして。

 のび太は涙を流しながら、友に心の中で謝りながら、その場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

「……手のかかる子だ」

 

 床の振動からようやくのび太が逃げてくれたことを理解し、流星はほっと一息つく。

 流星が前を睨めば、そこには唸るレオ・ノヴァと、それに重なるように存在感を発している種をまく者が居る。いや、種をまく者は居るというより、在るという表現が近いか。

 体中が傷だらけでも、血まみれでも、流星の目に宿る戦意は微塵も弱ってはいない。

 眼光は揺らがず、眼前の敵を射抜くように見据えている。

 

【死の運命を受け入れたか】

 

「死んでたまるか。俺には帰る場所がある。帰らなければならない理由がある」

 

 愛する妻を、妻の膨らんだ腹を、その中の子を想い。

 朔田流星は親指で鼻をこする仕草を取った後、星の軌道と大輪の花を象った構えを取る。

 

「俺の運命(さだめ)は、俺が決める」

 

 彼はそうして、全ての力を失おうとも、敵が絶対的に勝てない相手であろうとも、立ち向かうことを止めはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宇宙ステーションには、一機だけ脱出用の宇宙船がある。

 ドラえもんが用意したものであり、本当に万が一の事態のために用意されたものでしかないために、操作できるのはボタン一つのみ。

 そのボタンを押せば地球に帰るという、非常にシンプルな宇宙船だった。

 

「急げ~、のび太!」

 

「のび太のうすのろ! 早くしないと置いてくぞ!」

 

 先に乗っていたジャイアンとスネ夫が、心配半分苛立ち半分でのび太を急かす。

 しかし急かされている当人のび太は、走りすぎでバテていた。

 

「ひー、ひー、も、もうだめ、ひ-」

 

 それでもなんとか宇宙船まで辿り着くと、ちょうど静香が宇宙船に乗ったところであり、既に出発準備に入っていた宇宙船が昇降機を上げているところだった。

 

「ま、待って~!」

 

「のび太さん!」

 

 昇降機に置いて行かれそうになったのび太が、先に上がっていた静香に手を伸ばされ、引っ張り上げられる。

 もしここで静香が引き上げてくれていなければ、のび太は置き去りになっていたかもしれない。

 そう想像して、のび太はゾッとし、切れる息を整えながら、静香に感謝した。

 

「し、しずちゃん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 にこりと笑う静香。好意を持っている少女の笑顔に、のび太は照れから少し顔を赤くする。

 そこでのび太は、彼女と喧嘩の途中であることと、流星に言われて謝ろうと思っていたことを思い出した。

 静香は短時間の間にあんまりにも色んなことが起こりすぎていたからか、一時的に喧嘩していることを忘れてしまっている様子。

 だからといってなあなあにする気はなく、のび太は静香に謝ろうとして――

 

「あの、しずちゃん、さっきはごめ……」

 

 ――宇宙船の外からダスタードが投げた投げ縄に、捕まり引きずり落とされる静香を、宇宙船の外に連れ出される静香を、見た。

 

「……え?」

 

「きゃあああっ!」

 

「しずちゃあん!」

 

「のび太さーん!」

 

 のび太が静香に、静香がのび太に手を伸ばす。

 けれど互いの手は届かずに、発進シーケンスの過程で閉じられる宇宙船の扉に遮られ、静香は宇宙ステーションに取り残され、ダスタードに捕らえられる。

 この宇宙ステーションに来た時は六人だった。

 なのに逃げ出す宇宙船には、三人しか乗っていない。

 へたり込むのび太は、厳しい現実を前にして打ちのめされていた。

 

「こんなのうそだ……ど、どうしよう……」

 

 のび太の心中に浮かぶ感情を、何と呼ぶべきか。

 相応しい名は一つだけ。

 

「ドラえもんも、しずちゃんも、流星お兄さんも、みんな、みんな……!」

 

 『絶望』だ。

 

 

 

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